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無料の書籍、映像、ソフトウェア、音楽の非営利ライブラリ Internet Archiveは、著作権法に強い関心をもっている。Internet Archiveは米著作権局に提出した意見書のなかで、大手映画スタジオから送られてくる申し立てには無効なものも多く、紛争が解決するまでの間、コンテンツを維持できるよう法律を改正するよう提案している。

YouTubeからGoogle、KickassTorrentsに至るまで、オンラインサービスには日々数百万の削除申し立てが著作権者から送りつけられている。その目的は、著作権侵害コンテンツを、即座に、削除させることにある。

インターネットの利用が一般的になるにつれ、申し立ての数は爆発的に増えた。その結果、DMCA手続きをめぐる議論がホットトピックとなり、米当局はふたたびこの問題に取り組まざるを得なくなった。

著作権者からの高まるプレッシャーのなか、米国著作権局は2015年、現在の削除申し立て手続きが著作権者、オンライン・サービス・プロバイダ、そして一般市民にかけるコストや負担を評価するため、公開協議を立ち上げた。

Internet Archiveはさまざまなメディア(全体で26ペタバイト)の自由かつパブリックな保管庫として、米国著作権法がどのような形をとるかに強い関心を示している。Internet Archiveが著作権局に提出したばかりの意見書は、非常に明確だ。DMCAのセーフ・ハーバー条項なくしては、今日の価値ある仕事は不可能になる、という。

セーフ・ハーバーの確実性

「人類の知識がデジタルに保管される世界を目指してわれわれは前進しているが、もっと多くのライブラリが、ユーザの投稿するコンテンツのホストやキュレーターとしての役割を担うことを望んでいる。そのためには、ライブラリの利害がDMCAセーフハーバーとどのように交差するのかを理解し、ライブラリが将来にわたってこのセーフハーバーの保護を享受しつづけられるようにしなくてはならない」とInternet Archiveは記している。

Internet Archiveは、一部条件つきで、DMCAとそのシステムは「うまく機能している」とし、大幅な改定の必要はないとしている。長編映画や古いラジオ番組、シリンダーレコードから、1964年以前の建築目録、間取り本、技術建築ガイドまで、あらゆるコンテンツのキュレーターとして、Internet Archiveはおそらく史上空前の範囲のものを取り扱っている。そしてそれは、DMCAが提供する「重要な確実性」によってのみ可能となっているという。

「DMCAセーフハーバーの保護なくしては、われわれはこれらのコレクションをホストすることはできないだろう――たとえ、ほぼ大半のコンテンツに申し立てが行われないという事実があるとしても」

「ノーティス・アンド・ステイダウン」は表現の自由、フェアユースを萎縮させる

コンテンツの削除を強く求める著作権者、即座に削除することを求められる第三者機関の双方に負担があることは認めつつも、Internet Archiveは、一旦削除したコンテンツを二度と掲載してはならないとする「ノーティス・アンド・ステイダウン」システムの提案に懸念を表している。

「サービス・プロバイダは積極的に著作権侵害を監視する明確な義務はないとするDMCAの明文規定は、表現の自由と、デジタル時代における伝統的な蔵書活動の継続の双方にきわめて重要なセーフガードとしてあり続ける」

さらにInternet Archiveは、商業的な海賊行為に関わる人びとと、文化的遺産の保存と共有に努める人びととの違いを強調する。ユーザがコンテンツをオンラインに投稿する行為が、著作権侵害に該当するかどうかを判断する前に、その行為がどのような文脈で行われたのかを考慮する必要があるという。これは、著作権者が熱望する「ステイダウン」の要求が問題を引き起こすことになる。

「これが、『ノーティス・アンド・ステイダウン』に物申さなくてはならない理由である。ある種のコンテンツを――文脈にかかわらず――インターネットに二度と投稿させないための自動的なプロセスを使うようプラットフォームに要求するものであることは明らかである。これは適法な表現やフェアユースを萎縮させることになる」とInternet Archiveは警告する。

Internet Archiveは図書館の権利章典から、図書館は「情報を提供し、啓蒙する責任を果たすため、検閲に対抗する」ことが求められると引用している。そして、『ノーティス・アンド・ステイダウン』体制は、これらの基本的な原則を侵すことになるという。

間違い・ずさん・悪意ある削除を減らすために

Internet Archiveは、非営利サービス提供者の著作権侵害コンテンツへの責任を増大させる法改正に反対する一方で、不適当な削除通知に対するDMCAの保護についても述べている。

Internet Archiveは、毎週のように不備のある、あるいは間違いにもとづく申し立てを受け取っており、その大半が大手映画スタジオと出版社のエージェントからのものであるという。長年に渡り、『ジェーン・エア』『分別と多感』ブラム・ストーカーの『ドラキュラ』『モービー・ディック』などパブリックドメイン作品の削除を求める申し立てが行われ、『頭の悪い』キーワード・マッチングが何ら問題のない作品にクレームを続けている。

「たとえば、われわれが受け取った古いセーラム煙草のコマーシャルへの削除申し立ては、『セーラム』という単語に基づいてなされたものだったが、これは人気のテレビシリーズとタイトルが同じであったためだった。同じキーワードによる誤認は、音楽、コンサート、自作映画、パブリックドメインの書籍などに『マッチ』することでしばしば起こっている」とInternet Archiveは説明する。

「合理的かつ適法、法的に保護された方法で使用されている多くのコンテンツが、自動フィルタリングによって削除されてしまうのではないかと懸念している。とくに、著作権侵害を防ぐためではなく、批判的な言論を沈黙させるために申し立てが行われうることが危惧される」

このため、Internet Archiveは、受け取った削除申し立てが誤りであるという誠実な信念があるかぎり、プロバイダーはコンテンツをそのまま維持できる、というようなDMCAの微調整が必要であるという。

「DMCAに基づく申し立てのあったコンテンツが非侵害的であるという合理的かつ誠実な信念をもっている場合に、サービス提供者にその削除を拒否できる裁量を与える条項を作ることは意味のあることだろう」

「たとえば作品が明らかにパブリックドメインである場合、あるいは作品の利用が明らかにフェアユースであった場合、サービス提供者は、法定損害賠償のリスクを被ることなく、コンテンツの削除を拒否することができるようにすべきだろう」

Internet Archiveの意見書(全文はこちら)は、DMCAの改正に関わる脅威を示すすばらしいサンプルといえるだろう。著作権者とコアな海賊ユーザが戦いを繰り広げているが、その戦いはほかの領域を壊滅させる可能性もある。Internet Archiveや同様のグループは、その十字砲火に巻き込まれまいと必死に回避しようとしている。
“Internet Archive Seeks to Defend Against Wrongful Copyright Takedowns – TorrentFreak”

Author: Andy / TorrentFreak / CC BY-NC 3.0
Publication Date: March 23, 2016
Translation: heatwave_p2p

現在のDMCAでは、サービス提供者が著作権者から削除申し立てを受けた場合、即座にそのコンテンツを削除しなければならない。しかし、そうした申し立てのなかには不当なものも多い。たとえば、キーワード・マッチングで引っかかったものに片っ端から削除申し立てを送りつけることで、まったく関係のないものを誤爆してしまったり、あきらかにフェアユースである使用に削除申し立てを起こしたり、ということが頻発している。

日本でも、誤爆によって正規コンテンツがGoogle検索上から除外されたり、悪評を消すためにDMCAの削除申し立てが悪用されているという事例が報告されている。

こうした不当な削除申し立てが多発する一方で、こうした不当な申し立てを抑止するための仕組みはいまだ不十分である。簡単に言ってしまえば、不当な申し立てに対するペナルティがない。もちろん、削除申し立てがあまりにもコストフルになりすぎてしまえば、著作権を侵害されている権利者の負担がさらに増すことになり、著作権の保護、権利者の救済という面がおろそかになってしまう。とはいえ、ペナルティが行き過ぎだとしても、不当な削除を抑止するためには何かしらの措置が必要だということには変わりはない。

その点で、正当な利用であるという合理的な信念、確信がある場合に、サービス提供者側の判断で削除を拒否できるようにするというInternet Archiveの提案は非常に興味深い。ただし、サービス提供者が防波堤となることで、権利者が十分な精査をせず、とにかく引っかかったものはすべて削除申し立てすればよい、というような、ある種のモラル・ハザードを引き起こす可能性もある(し、既にその傾向も見られている)。

個人的には削除申し立ての濫用に対しては何かしらのペナルティがあってしかるべきだとは思うが、いずれにしても、不当な削除要請から、インターネット上のコンテンツをどう守っていくかは、今後ますます大きな論点になっていくのだろう。