序文

“Le livre, comme livre, appartient à l’auteur, mais comme pensée, il appartient—le mot n’est pas trop vaste—au genre humain. Toutes les intelligences y ont droit. Si l’un des deux droits, le droit de l’écrivain et le droit de l’esprit humain, devait être sacrifié, ce serait, certes, le droit de l’écrivain, car l’intérêt public est notre préoccupation unique, et tous, je le déclare, doivent passer avant nous.”

(Victor Hugo, Discours d’ouverture du Congrès littéraire international de 1878, 1878)

「われわれの市場、われわれの民主主義、われわれの科学、われわれの言論の自由の伝統、そしてわれわれの芸術、それらはすべて、財産権の対象となる情報コンテンツ以上に、自由に利用できるパブリックドメインに大きく依存している。パブリックドメインは、知財法の対象となる優れたモノから見捨てられた、出がらしのような残り物ではない。パブリックドメインは、われわれの文化の基礎が生み出される場所である。それは事実、われわれの文化の大部分を占めている。」

(ジェームズ・ボイル『パブリックドメイン』p.40f, 2008)

一般に理解されているように、パブリックドメインは著作権の保護から解放されたことで、あるいは権利者が使用への障壁を取り除いたことで、通常は著作権の保護によって妨げられている豊かな情報へのアクセスや再利用を自由にするものである。それは、われわれが共有する知識や文化によって表現される、われわれの自己認識の基礎である。それは、新しい知識の起源となり、新しい文化的作品を生み出す原材料である。パブリックドメインは、原材料が再製原価ほぼゼロで利用でき、社会のすべての成員がそれをもとに創造できる保護的なメカニズムとして機能する。活気に満ち、盛況なパブリックドメインは、われわれの社会が社会的、経済的に反映するために必要不可欠な存在である。パブリックドメインは、教育、科学、文化遺産、公共情報の領域において中心的な役割を果たす。活気に満ち、盛況なパブリックドメインは、世界中の誰しもが享受できる世界人権宣言第27条(1)の原則(すべて人は、自由に社会の文化生活に参加し、芸術を鑑賞し、及び科学の進歩とその恩恵とにあずかる権利を有する)を実現するための前提条件である。

デジタルネットワークで繋がった情報社会は、パブリックドメインの問題を著作権議論の最前線に押し出している。パブリックドメインを保護し、発展させるためには、この不可欠な資源のあり方、役割を強靭かつ現代的に理解しなければならない。このパブリックドメイン・マニフェストはパブリックドメインを定義し、その不可欠な原則を概説し、21世紀初頭における活気あるパブリックドメインを導くものである。ここでは、著作権法とのかかわりにおいてパブリックドメインを考察し、特許や商標などのほかの知的財産権については除外する。著作権法は、著作権や関連する権利(隣接権やデータベース権など)における経済的・人格的権利を含むため、幅広い感覚において理解されるべきである。したがって、この文書の後半では、著作権はそうした権利全般を指す包括的な語(句)として用いている。また『作品』という用語は、著作権で保護されるあらゆる素材――たとえばデータベース、実演、録音――を含む。同様に『著者』という用語は、写真家、製作者、放送者、画家、実演家を含む。

21世紀のパブリックドメイン

本マニフェストが目指すパブリックドメインは、制限なく使用でき、著作権保護の及ばない文化的素材として定義される。正式にパブリックドメインにある作品に加えて、パブリックドメインのような多様な機能を持ち、個人間で構築されたコモンズを生み出す寛容な条件で、個人が自発的に共有している価値ある作品もたくさんある。さらに、著作権の例外や制限、フェアユースやフェアディーリングを通じて、保護されたたくさんの作品を使用することもできる。われわれの文化や伝統へのアクセスをより潤沢にするこれらのソースはすべて、社会がわれわれの共有する知識や文化の恩恵をすべて享受するために重要であり、積極的に維持していかねばならない。

パブリックドメイン

構造的パブリックドメインは、パブリックドメインの概念の中核にあり、現行法における著作権の制限を受けずに使用できる共有知識、文化、リソースを構成する。具体的には、構造的パブリックドメインは、2つの異なる種類の素材から成る。

  1. 著者の著作権保護期間が切れた作品。著作権は著者に与えられた一時的な権利である。この一時的な権利が終わりを迎えると、一部の国では永続的な人格権が与えられるが、すべての法的制限はなくなる。

  2. 著作権の対象とならない基本的情報のコモンズ。独創性の基準から外れた作品、あるいは保護の対象に含まれていない作品(たとえば、法律および司法、行政判断と同様に、データ、事実、アイデア、手順、手続き、システム、操作方法、概念、原則、あるいは発見。作品においてどのように記述、説明、描画、具体化されたかには問わない)。この基本的なコモンズは、限定された期間とはいえ、あらゆる様態に法的制限という重荷を課せられたわれわれの社会を機能させるために極めて重要なものである。

歴史的に、構造的パブリックドメインは著作権で保護された著者の権利とのバランスのなかで成長し、われわれの社会の文化的記憶や知識基盤に必要不可欠なものである。20世紀後半、ここで確認した2つの要素は、著作権保護期間の延長や、より著作権的な法的保護制度の導入により、損なわれ続けている。

自発的コモンズとユーザ特権

このパブリックドメインの構造的中核に加えて、著作権で保護された作品と自由に相互作用することを可能にする本質的なソースがほかにもある。これらは、われわれの現在の文化と知識の「息継ぎの場」とも言えるもので、著作権保護が特定の社会的要件や著者の自発的選択に干渉しないことを担保している。こうしたソースが保護された作品へのアクセスを増やしているが、そのうちの一部は、アクセスを条件つきの特定の使用形式としたり、特定のクラスのユーザに制限している。

  1. 権利者により自発的に共有された作品。クリエイターは、自由なライセンスにするか、他の人が制限なく作品を使用できるようにする別の法的なツールを用いるか、作品をパブリックドメインとして捧げるかして、自らの作品から使用制限を取り去ることができる。フリーなライセンスの定義については、フリーソフトウェアの定義(http://www.gnu.org/philosophy/free-sw.html)、Free Cultural Worksの定義(http://freedomdefined.org/Definition)、Open Knowledgeの定義(http://opendefinition.org/1.0)を参考に。

  2. ユーザの特権は、著作権の例外や制限、フェアユース、フェアディーリングによって形成される。これらの特権は、パブリックドメインの不可欠な要素である。これらは、われわれの共有された文化、知識への十分なアクセスをもたらし、本質的な社会制度を機能させ、特別支援とともに個人の社会参加を可能にする。

これらを総合すると、パブリックドメイン――作品の自発的共有と、著作権の例外と制限、フェアユース、フェアディーリング――は、誰しもがイノベーションや文化に参加するために、われわれの共有された文化や知識へのアクセスを確実にし、社会全体の利益に大いに貢献する。それゆえ、急激な技術的、社会的変革の時代にあっても、この重要な役割を果たし続けられるように、双方のパブリックドメインの実現を積極的に維持していくことが求められる。

一般原則

急激な技術的、社会的変革の時代にあって、パブリックドメインは文化への参加やデジタル・イノベーションに本質的な役割を担っており、それゆえ積極的な維持が必要とされる。パブリックドメインの積極的なメンテナンスは、幾つかの一般原理を鑑みる必要がある。以下の原理は、パブリックドメインの有意義な理解を保ち、ネットワーク化された情報社会の技術環境において、パブリックドメインが機能し続けることを確固たるものとする。構造的パブリックドメインに関しては、以下のとおりである。

  1. パブリックドメインは原則であり、著作権は例外である。著作権保護は表現の原型に関してのみ認められているため、いついかなる時であれ、世界中で生み出されているデータや情報、アイデアのほぼ大半はパブリックドメインに含まれる。保護が認められていない情報以外にも、著作権の保護期間が切れた作品によって、パブリックドメインは毎年拡大している。保護の要件と著作権保護の限定的な存続期間は、われわれの共有された文化と知識へのアクセスを確実にするパブリックドメインの豊富さに貢献する。

  2. 著作権保護は、著者の知的労力に対する著者の保護・報奨と、文化や知識の拡散における公共利益のセーフガードとの間に、合理的な妥協が成立する場合においてのみ存続すべきである。著者、公衆、いずれの視点であっても、甚だしく長期間に及ぶ著作権保護期間を肯定する合理的な理由は(歴史学、経済学、社会学、その他いずれの領域においても)存在しない。著者は自身の知的労力からより多くの実りを得ることができるかもしれないが、一般大衆はそれらの作品を自由に使う利益を極めて長期間にわたって奪われることになってしまう。

  3. パブリックドメインにあるものは、パブリックドメインであり続けなければならない。パブリックドメイン作品の独占的なコントロールは、その作品の技術的複製に対する独占的権利の主張や、あるいはその作品の技術的複製へのアクセスを制限する技術的保護手段の使用により復活してはならない。

  4. パブリックドメイン作品のデジタルコピーを適法に使用する者は、その作品の(再)利用、コピー、改変について自由であるべきである。作品がパブリックドメインにあるからといって、公衆にアクセス可能にしなければならないというわけではない。パブリックドメインにある物理的な作品の所有者は、それら作品へのアクセスを制限する自由がある。しかし、ひとたび作品へのアクセスが認められれば、それらの作品の再利用、改変、複製を制限する法は存在しない。

  5. パブリックドメイン作品へのアクセス・再利用を制限する契約または技術的保護手段は強制されてはならない。パブリックドメインにある作品は、再利用、改変、複製する権利が保証されている。これはまた、例外と制限、フェアユース、フェアディーリングに由来する、契約的、技術的手段によって制限することはできないユーザの特権を含む。

加えて、以下の原理が、上述した自発的コモンズとユーザの特権の中核にある。

  1. 自発的な著作権の破棄と、保護されている作品の共有は、著作権の独占性の適法な行使である。作品に著作権保護を受ける多くの著者が、それらの権利をすべて行使することは望んでいないか、すべての権利を放棄したいと考えている。そうした行為は、自発的になされたものであれば著作権の独占性の適法な行使であり、法律、法令、その他人格権を含むメカニズムによって妨害されてはならない。

  2. 著作権の例外と制限、フェアユース、フェアディーリングは、著作権と公共の利益との根源的なバランスの有効性を確かなものにするために、常に維持しなければならない。これらのメカニズムは、現行の著作権システムにおける息継ぎの場を構成することで、ユーザの特権を生み出す。急速に変化を続ける技術と社会を鑑みれば、基本的な社会制度の機能や障害者の社会参加を確固たるものとしておかねばならない。それゆえ、著作権の例外と制限、フェアユースとフェアディーリングは、本来的に進化的であり、絶えず公共の利益からの求めに応じて適応していく性質をもったものと解釈されなければならない。

これらの一般原理に加えて、パブリックドメインに関連した種々の事柄は、直接に扱われなければならない。以下の提言は、パブリックドメインを守り、意義ある方法で機能させ続けることを目的としている。これらの提言は著作権のさまざまな領域に適用可能であるが、特に関連するのは教育、文化遺産、科学研究である。

一般提言

  1. 著作権保護の期間は短縮されるべきである。正当な手続きを経ずに過度に長く設定された著作権保護は、われわれの共有された知識と文化へのアクセシビリティを著しく損なう。さらに、過度に長期に渡る著作権保護期間は、著者の管理下にもなく、パブリックドメインでもないために使用できない孤児作品を大量に生み出すことになる。したがって、新たな作品のためにも、著作権保護期間はより合理的な期間に短縮されるべきである。

  2. 著作権保護の範囲を変更する場合には(保護の対象となる素材の新たな定義や独占権の拡大を含め)、パブリックドメインへの影響を考慮しなくてはならない。著作権保護の範囲のいかなる変更も、遡及的に適応してはならない。著作権は、本来的にはパブリックドメイン状態にあるわれわれの共有された文化と知識の時限的な例外である。20世紀、その範囲は、一握りの権利者の利益をはかるために、公共の利益を犠牲にして著しく拡大した。その結果、われわれの文化と知識の大半は、著作権と技術的制限のなかに閉じ込められてしまった。われわれは、少なくともこの状態を悪化させることなく、可能であれば将来的に前向きな改善を加えていかなければならない。

  3. 素材はそれが生み出された国において構造的パブリックドメインにあるとみなされる場合、世界中の他のすべての国における構造的パブリックドメインの一部として認められるべきである。著作権の例外として認められたため、あるいは独創性の基準に合致しなかったため、またはその保護期間が終了したため、ある国で著作権で保護されない素材があった場合、その素材を構造的パブリックドメインでなくするために、その同じ素材について他の国で著作権保護を主張することは(著者を含め)誰にも可能にしてはならない。

  4. パブリックドメインの素材を濫用するための嘘の、あるいは誤解を誘うような試みは、法的に罰せられるべきである。パブリックドメインの信頼性を保ち、不正確で詐欺的な主張からパブリックドメインのユーザを守るために、パブリックドメインの素材に独占権を主張する嘘の、あるいは誤解を誘うようなあらゆる試みは、違法とされなければならない。

  5. 他のいかなる知的財産権も、パブリックドメイン素材の独占を再構成するために用いられてはならない。パブリックドメインは、著作権システムの内部平衡に欠くべからざるものである。著作権の領域外の規則によって独占的コントロールを再構成、あるいは獲得する試みによって、この内部平衡が操作されてはならない。

  6. 『孤児作品』や長らく商業流通していない出版物(いわゆる絶版書籍)を社会によって再利用することを可能にする、現実的かつ効果的な施策を講じなければならない。著作権の範囲や期間の拡大、外国作品の手続き上の禁止は、著者のコントロール下になく、パブリックドメインでもない孤児作品の山を築く。現行法におけるそのような作品は、著者にも社会にも利益をもたらすものではないため、社会全体に実りある再利用が可能となるようにしなければならない。

  7. 文化遺産機関は、パブリックドメイン作品を効果的に整理し保存する特別な役割を引き受けるべきである。非営利の文化遺産組織は、数世紀に渡る共有された知識や文化の保存を託されている。この役割の一環として、彼らはパブリックドメインにある作品を、社会の誰もが利用できるように、整理・保存し、誰にでも自由にアクセスできるようにしなければならない。

  8. 自発的な作品の共有や作品の権利の放棄を妨げる法的な障害はあってはならない。いずれも、著作権によって認められた独占権の正当な行使であり、本質的な文化財や知識へのアクセスを確かなものにし、著者の望みを尊重するために重要な意味を持つ。

  9. 保護された作品の非営利目的の個人的な使用は、原則として可能にするべきである。同時に、著者への代替的な対価還元について模索しなければならない。作品を個人が非営利使用できるようにすることは、個々人の自己啓発に不可欠なものである。また、著作権に新たな制限や例外を設けたり、法律を改正する際は、著者の地位を考慮しなくてはならない。

“The Public Domain Manifesto”