TorrentFreak

フロリダで野宿をするホームレスの人びとが、違法ダウンロードを行ったとしてインターネット接続を奪われることになった。彼らを受け入れているDignity Villageの運営者は、ISPから海賊行為に関して複数回の警告があったため、ホームレスの人びとに提供しているフリーWifiを停止せざるを得なくなったという。

フロリダ州のDignity Villageは、ホームレスの人びとにシェルターや衛生施設を提供し、施設の居住者向けにフリーWifiの提供も行っている。これは、ホームレスの人びとが外界に触れ、職を探したり職業訓練に参加するための貴重なリソースとなっていた。

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Side Street in Dignity Village” by David Hull

しかし、フロリダ州中西部でホームレスの人たちにコーディネート・サービスを提供する非営利団体Grace Marketplaceの事業運営担当役員Jonathan DeCarmineによると、居住者や訪問者はもうインターネットにアクセスできないのだという。

「インターネット・サービス・プロバイダから、誰かが違法ダウンロードを行っており、それを止めることができなければ施設全体をインターネットから切断すると警告がありました。そうなっては、私たちのビジネスもサービスの提供もできなくなってしまいます」とDeCarmineは言う

しかし、この警告があった後も、違法ダウンロードは再び行われてしまったようだ。その結果、施設はインターネット接続を守るために決断を迫られた。

「私たちは複数回にわたってプロバイダからこのような警告を受けたので、施設利用者に『違法ダウンロードは止めましょう。さもなくば、インターネットを使えなくなってしまいます』と伝えました。しかし、繰り返されてしまいました。私たちは法的なリスクを回避するためにも、Wi-Fiを停止にすることにしました」と、North Central Florida Coalition for the Homeless and Hungryのエグゼクティブ・ディレクターTheresa LoweはWUFTに語った。

TorrentFreakは、この件の詳細を知るべくDignity Villageにコンタクトを取ったが、いまのところ返信はない。しかし、インターネット・サービス・プロバイダが著作権者から、この施設で行われたピア・ツー・ピアファイル共有に関して申し立てを受けたことは間違いないだろう。

通常、この手の警告は、もしファイル共有が続けば150,000ドルの法定損害賠償を請求されることになる、というような恐ろしい文言が含まれている。この恐るべき未来は、ホームレス・シェルターの運営を脅かすものとなるだろう。そう考えれば、彼らがWi-Fiの提供を中止した決断も理解できなくはない。

とはいえ、ごく一部の人の行為が、Dignity Villageのすべての人のためのリソースを台無しにしてしまったことになる。そして、著作権者から寄せられた強い言葉による恐怖も、停止という決断に一役買ったことだろう。

確かに、著作権法は万人に適用される。その点でISPは遵法的であるとも言えるのだが、しかし、もっと施設の事情を理解しても良いのではないだろうか。ISP自身がそうであるように、Dignity Villageも利用者の行為すべてを取り締まることはできないのだから。

TFでは、Dignity Villageに、どのコンテンツ・プロバイダが侵害通知を送ったのかを訪ねている。返信があれば、この記事でアップデートする。ところで、この件はけっして他人事ではない。米国においてこうした通知をインターネット・サービス・プロバイダに送付しているのは、大きく3つの企業グループに分けられる。

1つ目のグループは、いわゆる「シックス・ストライク」スキームに参加する大手映画スタジオやレコードレーベルだ。これらの企業は、侵害を行ったとみなした居住者宛てに大量の通知を送付している。しかし、Dignity VillageとISPとの契約が法人契約なのか、居住者契約なのかは不明だ。

2つ目のグループは、「シックス・ストライク」スキームに参加していない権利者たちである。彼らのターゲットになるのは、居住者・法人の両方だが、彼らは和解金を要求したり、インターネットの遮断を強く求めることはない。しかし、これらのグループは。侵害を行ったアカウントに対してISPが何かしらの対処を行うよう圧力をかけていることで知られている。

3つ目のグループは、Rightscorpに代表される著作権トロールだ。彼らは金銭を要求し、さらにはインターネット・アカウントの停止を強く要求する。彼らがISPに送付する電子メールは、受け手に恐怖を喚起する文言が並んでいる。先日、Coxとの裁判で大勝利を収めたことで、彼らの手口はますます大胆になってきている。

いずれにしても、これら3つのグループは、無料のオープンWi-Fiの提供に萎縮効果をもたらしている。実際、Dignity VillageはオープンWi-Fiの提供を止めざるを得なくなってしまった。そして忘れてはならないのは、現時点では著作権侵害の疑いをかけられたにすぎないということだ。誰かが有罪判決を受けたという事実があるわけではないのである。

最後に、Dignity Villageが自らを守らなくてはならないということは理解できる。しかし、著作権侵害の疑いでサービスを切断するというインターネット・サービス・プロバイダは、もっと勇敢さをもってもよいのではないか。さらに言えば、Dignity VillageのISPに著作権侵害クレームを送りつけているエンターテイメント企業は、自らが商業的自殺をおこなっていることを理解すべきだ。

そうなった暁には、安全にWi-Fiを戻すことができるだろう。もちろん、Dignity Villageの決断次第であるが。

Author: Andy / TorrentFreak / CC BY-NC 3.0
Publication Date: February 1, 2016
Translation: heatwave_p2p
Header Image:Jim Fischer / CC BY 3.0