以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「The largest campaign finance violation in US history」という2024年7月31日公開の記事を翻訳したものである。

Pluralistic

今月初め、シリコンバレーの超裕福層の一部が、マーク・アンドリーセンとベン・ホロウィッツ(Andreesen-Horowitzを立ち上げた億万長者VC)に率いられ、トランプを支持し、数百万ドルを投じると表明した。

https://www.forbes.com/sites/dereksaul/2024/07/16/trump-lands-more-big-tech-backers-billionaire-venture-capitalist-andreessen-joins-wave-supporting-former-president

案の定、この行動は多くの人々の怒りを買った。アンドリーセンは「みんなが気にしている大きな問題とは何の関係もない」と弁解し、怒りを和らげようとした。

https://www.theverge.com/2024/7/24/24204706/marc-andreessen-ben-horowitz-a16z-trump-donations

つまり、トランプを支持する億万長者たちは、人種差別や全国的な中絶禁止、基本的人権への攻撃などを支持しているわけではなく、トランプの政策を部分的に支持しているがゆえに、他の政策もトレードオフとして喜んで引き受けている。彼らが真に望むのは、超富裕層へのさらなる減税と、もちろん、暗号通貨のポンジ・スキームで一般人を欺く自由だ。

暗号通貨は「お金」ではない。価値の貯蔵、会計単位、交換手段として使うには変動が激しすぎる。イーロン・マスクが絵文字を2つツイートしただけで月々の住宅ローン返済額が倍になるリスクがあるのに、暗号通貨で住宅ローンを組もうなんて正気の沙汰じゃない。

あるものが貨幣としての性質を持つのは、それで支払うことを求められる、あるいは強く望まれるためだ。米ドルの貨幣的性質は、数億人が連邦税や州税を支払うためにドルを必要とし、そのために労働や商品をドルと交換するという事実に立脚している。米国の税金を払わない人々でさえドルを受け取るのは、ドル以外での支払いを認めない人々からモノを買うのに使えるからだ。

ドルが価値を持つもう一つの理由は、世界の石油供給の大部分など、重要な商品の多くが唯一ドルでしか、あるいは主にドルでしか購入できないからだ。石油を買うのにドルを必要とするという事実が、ドルに価値を与えている。彼らはドルが必要なのではなく、石油が必要だからこそ、ドルを得るために労働や商品を売る。

暗号通貨でしか購入できないものはほとんど存在しない。その用途は、取引が永続的に匿名だと勘違いした連中が違法な商品やサービスを調達するためだったり、個人や企業のデータを人質に取ったランサムウェアの身代金を支払うためくらいしかない。

https://locusmag.com/2022/09/cory-doctorow-moneylike/

Web3はウェブを「分散化」するものとして売り込まれたが、実際には、マウスをクリックするたびに暗号通貨を支払わなければウェブを使用できないようにする陰謀と理解したほうが正確だろう。インターネットの使用に暗号通貨が必須になることで、暗号通貨の大量保有者はついに、彼らが蓄えたトークンの持続可能な流動性を手にできるのだから。

https://pluralistic.net/2022/09/16/nondiscretionary-liabilities/#quatloos

Web3バブルは、ほぼ完全に、Andreesen-Horowitzに動員された巨大な誇大宣伝装置ハイプマシンによって引き起こされた。同社は数十億ドルを賭け、ほぼ単独で暗号通貨の需要という幻想を作り出した。例えば、彼らはKickstarterの株主に1億ドルの賄賂を送り、このクラウドファンディング・プラットフォームに「ブロックチェーン」を統合するフリをするよう取り計らった。

https://finance.yahoo.com/news/untold-story-kickstarter-crypto-hail-120000205.html

結局、Kickstarterがブロックチェーン技術を採用することはなかった。そりゃ、役に立たないんだから採用するはずがない。株主たちは1億ドルをポケットに入れ、Web3バブルは詐欺だと理解する賢明なテクノロジーユーザからの軽蔑を乗り切った。

暗号通貨の「成功例」をよくよく見てみると、結局のところ同じカラクリの詐欺だということがわかる。NFTを覚えているだろうか。あたかも「誰もが」そのヒドイJPEG画像に投資しようとしているという雰囲気が作り出され、実際に法外な金額が投じられた。市場全体が「ウォッシュトレーディング」で溢れていた。ウォッシュトレーディングとは、自分の資産を自分自身に売却し、第三者に購入されたように装うことだ。価値のないものが本当は非常に価値があると騙すための、安上がりで、違法な手口だ。

https://mailchi.mp/brianlivingston.com/034-2#free1

暗号通貨を激推しする書籍も詐欺だった。暗号通貨の力について書かれたクリス・ディクソンの「ベストセラー」『Read Write Own』は、出版業界版のウォッシュトレーディングによってベストセラーに押し上げられたのだ。暗号通貨に多額の投資をしているVCが何千部も買い上げ、興味のない従業員に押し付けたり、倉庫に山積みにした。

https://pluralistic.net/2024/02/15/your-new-first-name/#that-dagger-tho

実際、暗号通貨取引のほとんどは詐欺師集団が互いにクソコインを買い合っているだけで、スーパーボウルの広告、Kickstarter株主への賄賂、陳腐なビジネス書の大量購入に大金を投じていたという事実は、いずれ明るみに出ることはわかっていた。だが、それがバレるまでの間は、このシステムはうまく機能する。そうして一般人に全財産を暗号通貨に賭けさせ、すぐさま失わせることができたのだ(テーブルにカモが見当たらないと気づいたなら、カモはお前だ)。

これには名前がある。「ベズル(bezzle)」だ。ジョン・ケネス・ガルブレイスは「ベズル」を「詐欺師が自分の金を持っていることは知っているが、被害者がまだそれを失ったことに気づいていない魔法の時間」と定義した。すべてのベズルは最終的に崩壊するが、崩壊するまでは誰もがうまくいっていると感じる。マット・デイモンの「幸運は勇敢な者に味方する」という言葉は、クソコインを買ったばかりのヤツには自分は金持ちになれるんだと感じさせる。デイモンは詐欺CMに出演して大金を手に入れたので自分は金持ちだと感じる。Crypto.comは、何の役にも立たないクソコインを何でも買える完璧な「法定通貨」と交換してもらったので金持ちだと感じる。

https://theintercept.com/2022/10/26/matt-damon-crypto-commercial/

Andreesen-Horowitzはベズルの達人だった。彼らにとって、クソコインを買わないとインターネットが使えなくなるWeb3は、常に賭けのプランBでしかなかった。ではプランAは何だったのか。単純明快だ。暗号通貨企業を支援して、その株式の一部を大量のクソコインで取得し、「プロの投資家」ではない「一般人」に「イニシャル・コイン・オファリング(ICO)」で売却することだ。通常、このようなやり方は違法だ。企業は、SEC(米国証券取引委員会)の審査プロセスを経て「上場」するまで、一般大衆に株式を提供できない。しかし、Andreesen-Horowitzは、こうした「ICO」は規制されていないグレーゾーンに存在し、そこでは母親や一般の投資家の人生の貯金と取引できるのだという。Kickstarterが採用したと聞いたから、ベストセラー本があるから、あるいはラリー・デイビッドやマット・デイモン、スパイク・リーがネクスト・ビッグ・シングだと言ったから、暗号通貨はホンモノだと信じたママパパ投資家たちに、その全財産を投じさせてよい場なのだ、と。

暗号通貨は金融イノベーションどころか、金融の難読化にすぎない。「フィンテック」も「規制のない銀行」の皮肉な言い換えにすぎない。暗号通貨は「ビザンチン・プレミアム」を享受している。つまり、理解不能な技術的ナンセンスが詰め込まれているため誰も仕組みを理解できず、そして、理解できないものはおそらく信じられないほど洗練された素晴らしいものであるはずだと考えてしまう(「これほどのクソの山なのだから、どこかにポニーが隠れているに違いない」)ことに漬け込んでいるのだ。

https://pluralistic.net/2022/03/13/the-byzantine-premium/

暗号通貨ベズルは常に2つの脅威を抱えている。1つ目は一般人が詐欺に気づくこと、2つ目は政府に規制されることだ。これらは相関関係にあるリスクだ。政府が暗号通貨を証券(最悪の場合、詐欺)として扱えば、クソコインの宣伝に厳しい制限がかけられ、ホンモノのお金の流入が止まる。そうなると、唯一の流動性はランサムウェアの支払いと、ブロックチェーンが匿名だと信じ込んだ哀れな殺し屋やドラッグディーラーの取引からしか得られなくなる。

ベズルを続けるため、暗号通貨の詐欺師たちは過去2回の選挙期間中、両党に多額の現金をばらまいた。2022年の中間選挙では、例えば、「効果的利他主義者(effective altruist)」のキャリック・フリンのような絶対的狂信者が民主党予備選に挑戦するのを資金面で支援した(「効果的利他主義」は悪名高い詐欺師サム・バンクマン-フリード(SBF)と密接な関係にある暗号通貨カルト)。サム・バンクマン-フリードのスーパーPAC「Protect Our Future」は、フリンの予備選の対立候補で現職のアンドレア・サリナスへのネガティブキャンペーンに1000万ドルを費やした。サリナスはフリンを大差で破ったが、そもそもフリンは本選挙で勝つ見込みのまったくないポンコツ候補者でしかなかった。しかし、サリナスは草の根の少額寄付者から集めた資金のほとんどを予備選で使わざるを得なくなった。

SBFのジョーク候補と戦った結果、サリナスはほとんど資金のない状態で本選挙に臨むことになり、共和党の悪夢のような候補者マイク・エリクソン(オキシ密売人、飲酒運転常習者、女たらしで、偽の中絶クリニックに彼女を連れて行き、本物だと言って彼女をだました億万長者)にかろうじて勝利した。

https://pluralistic.net/2022/10/14/competitors-critics-customers/#billionaire-dilletantes

SBFは刑務所にいるが、今回の選挙で暗号通貨マネーが枯渇することはない。モリー・ホワイトの「Follow the Crypto」トラッカーによると、暗号通貨関連のPACは2024年の選挙に影響を与えるために1億8500万ドルを調達している。これはエネルギー部門全体の総額を上回る額だ。

https://www.followthecrypto.org

「暗号通貨」に関わるあらゆるものがべズルである。ということで、政治資金も例外ではない。「Stand With Crypto PAC」は130万人の「暗号通貨支持者」がいると豪語し、ロイターの報道でも44万人の支持者がいるという。しかし、Stand With Cryptoが集めたと主張する資金の99%は、「Fairshake」という別のPACに流れており、そのFairshakeの資金の90%は数社の企業から集められたものだった。

https://www.citationneeded.news/issue-62

Fairshakeの資金を除けば、Stand With Crypto は4月以降13,690ドルしか集めていない。その寄付者もわずか7人で、そのうち4人はCoinbaseの従業員だった。つまり、Stand With CryptoはCoinbaseの隠れ蓑でしかないのだ。Stand With Cryptoには同名の関連団体(これまた「Stand With Crypto」という名称で活動している非営利団体。何とまぁ誠実な運営だこと!)があり、こちらは149万ドルを調達している。その149万ドルの90%は、わずか4者、暗号通貨企業3社とCoinbaseのCEOの寄付だ。

政治家たちは暗号通貨業界のドルに群がっているが、有権者の大部分は暗号通貨を支持してはいない。米国人の69~75%は「暗号通貨に否定的」か「信頼していない」のだ。

https://www.pewresearch.org/short-reads/2023/04/10/majority-of-americans-arent-confident-in-the-safety-and-reliability-of-cryptocurrency

トランプがBitcoin 2024カンファレンスで基調講演し、公的資金で10億ドル分の暗号通貨コインを購入すると約束したのも、票ではなくドルが欲しいからだ。

https://www.wired.com/story/donald-trump-strategic-bitcoin-stockpile-bitcoin-2024

政治家が求めているのはドルであって、暗号通貨などではない。暗号通貨で選挙資金を調達することなんてできやしないし、広告費も選挙スタッフの人件費もクソコインなんかじゃ支払えない。覚えておいてほしい。Andreesen-Horowitzがインターネット全体にWeb3の暗号通貨料金所を設置することに成功するまでは、暗号通貨が必要な業界はランサムウェアと、技術を勘違いした殺し屋やドラッグディーラーだけだ。選挙に必要なのはドルだ。そして、暗号通貨の詐欺師たちが政治家にドルを贈るのは、クソコインと引き換えに一般人からホンモノのお金を騙し取りやすくしてほしいからだ。

政治的な問題として、「暗号通貨」は「詐欺師が労働者から盗むことを許可する」の婉曲表現にすぎない。これは極めて共和党的な問題だ。ジャーナリストのハミルトン・ノーランが指摘するように、「共和党が自分たちを暗号通貨の党として位置づけたいなら、そうさせればいい。これは彼らが自分たちを人種差別の党、宗教狂信者の党、選挙詐欺の嘘つきの党として位置づけるのと同じで、共和党に不利に働くだけだ」。

https://www.hamiltonnolan.com/p/crypto-as-a-political-characteristic

しかし、カマラ・ハリスが今秋の候補者になるというニュースに沸く民主党も、その暗号通貨マネーに手を伸ばしている。暗号通貨に懐疑的な民主党議員――例えばジャマール・ボウマン、コリ・ブッシュ、シェロッド・ブラウン、ジョン・テスターたちは、予備選の挑戦者や共和党の対立候補に暗号通貨PACから何百万ドルもの資金が流れ込むのを目の当たりにしている。その一方で、民主党の一部の政治家は、暗号通貨業界の要求を何でも飲むと約束している。彼らが民主党候補者にも賄賂を贈るならば、という条件つきで。

https://subscriber.politicopro.com/f/?id=00000190-f475-d94b-a79f-fc77c9400000

カマラ・ハリスは、数百万の米国人を代表する少額寄付者から記録的な選挙資金を集めた人気の候補者でありながら、暗号通貨業界と民主党の関係の「リセット」を呼びかけた。

https://archive.is/iYd1C

ルーク・ゴールドスタインが『アメリカン・プロスペクト』誌で指摘したように、民主党が暗号通貨の詐欺師に媚びることで、対立候補による何百万ドル規模のネガティブキャンペーンを止めさせるという戦略はうまくいくはずがない。それは永遠に詐欺師に妥協し続けることを意味し、おねだりを断ればネガティブキャンペーンが再開する、それだけだ。

https://prospect.org/politics/2024-07-31-crypto-cash-affecting-democratic-races

米国政府を買収しようとする企ての背後には、暗号通貨の億万長者たちが潜んでいる。もちろんアンドリーセンとホロウィッツ、そしてウィンクルボスの双子、さらに「内戦」の最中にあると言い、「トランプに反対するヤツはみんな焼け死ねばいい」と言うこの男も。

https://twitter.com/molly0xFFF/status/1813952816840597712/photo/1

だが、暗号通貨の選挙資金支出を支える真の大物はCoinbaseだ。その中心にあるのが暗号通貨PACのFairshakeで、CoinbaseはFairshakeに4550万ドルもの巨額の寄付している。

https://www.coinbase.com/blog/how-to-get-regulatory-clarity-for-crypto

ここで問題になるのは、この4550万ドルのうちの2500万ドルが、連邦契約者による史上最大の違法献金になる可能性が「間違いなく」高いということだ。この事実はモリー・ホワイトによって突き止められた。

https://www.citationneeded.news/coinbase-campaign-finance-violation

問題の核心は、Coinbaseが米国の連邦契約者になろうとしていることだ。具体的には、米国の連邦警察が犯罪組織から押収し続けている暗号通貨ウォレットの管理を望んでいる。Coinbaseが連邦契約の輪に加わったとたん、政治家に寄付し、PACに資金を提供する資格を失う。

選挙資金法は、連邦政府の契約者がFairshakeのようなスーパーPACを含む政治団体に寄付したり、寄付を約束することを禁じている。

https://www.fec.gov/help-candidates-and-committees/federal-government-contractors

以前の連邦契約者による最大の違法献金は、マラソン・ペトロリアムが2022年に共和党下院・上院のスーパーPACに贈った100万ドルの賄賂だった。これはCoinbaseの賄賂のたった4%にすぎない。

この問題については、ノーランに同意せざるを得ない。共和党に、みんなが嫌う億万長者たちの何百万ドルを追いかけさせ、誰も信用していない詐欺を推進させればいい。民主党はついに人々が熱狂する候補者を見つけ、一般の米国人からの少額寄付のおかげで潤沢な資金が得られている。AOC(アレクサンドリア・オカシオ=コルテス)の言葉を借りれば:

彼らにはお金があるかもしれない。でも、私たちには人がいる。ドル紙幣は投票しない。人が投票するのだ。

https://www.popsugar.com/news/alexandria-ocasio-cortez-dnc-headquarters-climate-speech-47986992

Pluralistic: The largest campaign finance violation in US history (31 Jul 2024) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: July 31, 2024
Translation: heatwave_p2p

カテゴリー: Crypto