以下の文章は、Access Nowの「Big Tech and the risk of genocide in Gaza: what are companies doing?」という記事を翻訳したものである。

Access Now

ガザの戦争は近年最も破壊的な紛争であり、まさに「地獄絵図」と呼ぶべき状況を生み出している。わずか1年余りで、過去20年間のどの紛争よりも多くの女性と子どもが命を落とし毎日平均10人の子どもが片足または両足を失っている902の家族が丸ごと消え少なくとも17,000人の子どもが孤児となり人口の90%が避難を余儀なくされ中には10回も避難所を変えた人もいる建物の80%が破壊されたガザにはもはや安全な場所はなく、境界を越えて逃げることもできない。2024年1月、国際司法裁判所(ICJ)は、ガザのパレスチナ人にはジェノサイドから保護される権利があり、その権利が取り返しのつかない危機にさらされていると判断した

この容赦ない殺戮と破壊を可能にしているのが、テクノロジーだ殺戮爆撃を自動化するディストピア的AIシステムの提供から、国家による偽情報や戦争犯罪の扇動の拡散に至るまで、ビッグテックはこの残虐な戦争に深く関与してきた。しかし、イスラエル当局がこの戦争への責任を免れていることが、テクノロジー企業に精査の目を向けることを遠ざけてきた。ビッグテック企業は戦時の人権尊重の約束を守っていないだけでなく、社内の反対意見市民社会、そして戦争への加担を指摘する一般市民の声を無視し、時には処罰までしてきた。国連のパレスチナ問題の独立専門家は、この状況を進行中のジェノサイドと表現している。

本稿では、テック企業が国際法の重大な違反を助長している可能性について検証する。ここにはジェノサイドの罪、人道に対する罪、戦争犯罪が含まれ、現在ICJ国際刑事裁判所(ICC)によっても調査が進められている。また、企業がこのような違反への加担を避けるための提言も行う。

戦争犯罪、集団的処罰、無差別暴力から利益を得ているのは誰か

以下では、イスラエル軍にクラウドコンピューティングサービスやAI機能などを提供し、ガザでの残虐行為に使用された可能性のあるテクノロジー企業に焦点を当てる。ここには、プラットフォーム上での暴力やジェノサイドの扇動、およびその拡散を防げなかった企業や、戦争に抗議する声を検閲した企業も含まれる。AlphabetのGoogle、Amazon Web Services(AWS)、Microsoft、Metaを中心に取り上げるが、このリストがすべてではない。他の主要テック企業もガザでの重大な国際犯罪に関与している可能性があり、人権尊重のために緊急の行動を取るべきだ。

Meta

モデレーションの失敗

Metaは差別的なコンテンツモデレーションシステムの抜本的な見直しに失敗し、同社のプラットフォーム全体でパレスチナ関連のコンテンツの検閲が続いている。X、YouTube、Telegramなどの他のソーシャルメディアプラットフォームと同様に、ヘイトスピーチ、ジェノサイドの扇動、国家支援の偽情報など、違法で有害なコンテンツへの対策に失敗している。例えば、イスラエルの当局者、メディア、政治家、軍のソーシャルメディアアカウントは、特にヘブライ語でパレスチナ人のジェノサイドを扇動する内容を含んでいるにもかかわらず、活動を続けている。

Metaはまた、イスラエル軍によるLavender AIターゲティングシステムの使用にも関与しているとされる。このシステムは、WhatsAppグループメンバーに関する情報など、Whatsappのメタデータを使用してハマスの戦闘員を特定すると報告されている。

説明責任

ガザ戦争に関するMetaの情報更新は、10月7日の2ヶ月後から止まったままだ。それ以来、同社は市民の安全、そして表現の自由を守るために講じた措置や計画について明らかにはしていない。市民社会と何度も協議し、戦争が継続しているにも関わらず、同社の事業が人権に及ぼす悪影響を評価し、緩和・是正するために人権デューデリジェンスを強化したことを明言してもいない。

WhatAppのデータがLavender AIシステムに使用されているとの疑惑について、Metaはイスラエル政府へのデータ提供を否定した。それは事実なのかもしれないが、ユーザのプライバシーを保護し、メタデータがディストピア的AIシステムの訓練や実行に悪用されないよう具体的な措置をとったことを意味するものではない。

Google

PROJECT NIMBUS

2021年、GoogleとAmazon Web Services(AWS)は、イスラエル政府(軍を含む)にクラウドコンピューティングサービス、AI、機械学習機能を提供する12億ドルの契約を結んだ。翌年、Googleはイスラエルにクラウドセンターを設立。Project Nimbusの下、Googleはイスラエルに顔検出、自動画像分類、物体追跡、画像・音声・テキストの感情分析などの高度なAI機能を提供している。

Googleはイスラエル国防省に対し、同社クラウドインフラ内の特別な「ランディングゾーン」を提供し、データを安全に保存・処理し、GoogleのAIサービスを使用できるようにしている。イスラエルの対ガザAI戦争に使用されていたことが発覚したにもかかわらず、2024年3月に国防省と新たな契約を締結し、「複数のユニット」がGoogleの自動化技術にアクセスできるようにした。

Googleは、イスラエル政府との契約が「高度にセンシティブな、機密の、または兵器や情報サービスに関連する軍事的作業を対象としていない」と主張している。しかし、+972 Magazineの調査によると、イスラエル軍は現在の戦争中にGoogleのサービスを使用して、大規模監視を通じてパレスチナ人について収集した大量のデータを処理していると報告されている。

バイオメトリック監視

イスラエルは長年、顔認識技術を含むバイトメトリック監視を用いて、西岸地区と東エルサレムでパレスチナ人を管理し、アパルトヘイト体制を強化してきた。昨年の地上侵攻後、イスラエル軍はガザでの顔認識技術監視の使用を拡大した。New York Timesの記事は、イスラエルの兵士と情報将校がGoogle Photosを使用してガザのパレスチナ人のバイトメトリック監視を行っていることを明らかにした。既知の人物のデータベースをGoogle Photosにアップロードすることで、イスラエルの将校はサービスの写真検索機能を使用して特定の人物を識別できたという。あるイスラエルの将校は、顔の一部しか見えない場合でも人物を識別する優れた能力があるため、軍がGoogleのサービスを使用していると述べている。

2023年11月19日、パレスチナの詩人モサブ・アブ・トハは家族と共に北ガザから避難中、イスラエル軍の検問所で誤って特定され、恣意的に拘束された。この際、Googleによって部分的に支えられているこのシステムが使用されたと報告されている彼の証言によると、目隠しされてイスラエルの拘置所に連れて行かれ、尋問され、殴打された後、説明もなくガザに戻され解放されたという。

ターゲット広告

2023年10月7日のハマスによるイスラエル攻撃直後、イスラエル外務省が米国、英国、フランス、ドイツなどの西側諸国の視聴者の戦争に関する世論を形成するために、YouTubeで75以上の広告を掲載したことをPoliticoが報じている。

イスラエル政府はまた、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)に関する偽情報(「UNRWAはハマスと切っても切れない関係にある」、「UNRWAはテロリストを雇い続けている」というデマ)を広めるために、Googleの検索エンジンとYouTubeに多数の広告を出稿していた

説明責任

Googleは人権尊重と、国連ビジネスと人権に関する指導原則(「UN指導原則」)で定められた責任を果たすと公約している。これには、紛争地域でのビジネスや、クラウド・リージョンの拡大の際の人権デューデリジェンスの実施が含まれる。さらに、Googleの自称AI原則では、全体的な危害を引き起こす可能性がある、国際法に違反する、または人々を傷つけたり大規模監視するなどの、武器化されうるAI技術を設計または展開しないと主張している。

この約束にもかかわらず、Googleは透明性と説明責任を求める声をかわし続けている。2024年5月にはAccess Nowが送付した書簡を含む市民社会からの要請を無視し、同社のサービスがイスラエル軍にどの程度使用されているか、また人権リスクを特定・軽減するためにどのような措置を講じたかについての情報提供を拒んでいる。

これまでのところ、GoogleはUN指導原則の約束を果たせていない。それどころか、重大な人権侵害を容易にするテクノロジーの使用を軽視し、さらにはイスラエル政府とのクラウドコンピューティング契約に抗議した自社の従業員50人を解雇するまでに至っている。

Amazon Web Services(AWS)

PROJECT NIMBUS

Project Nimbusの一環として、AmazonのAWSは2023年8月にイスラエルにクラウド・リージョンを立ち上げ政府が「重要なワークロードをクラウドに移行できる」ようにした。このクラウドの主要クライアントの一つが、イスラエル最大手銀行のレウミ銀行だ。同行は戦争犯罪への資金提供不法な入植地への資金提供と土地収奪で非難されている。AWSはPalantirとも提携しイスラエル軍などの顧客が「戦闘の文脈で勝利する」のを支援するサービスを提供している。

+972 Magazine調査によると、イスラエル軍はAmazonのクラウドサービスにガザの人々の監視情報を保存し、GoogleやMicrosoftからAIツールを調達して軍事作戦に使用しているという。具体的には、AWSはイスラエルの軍事情報局に「ガザの『全員』に関する」大規模監視データの「無限の保存」を可能にするサーバーファームを提供していると報じられている。イスラエル軍の情報筋は、同誌に対し、AWSのサービスが空爆目標の確認に役立ったケースもあると語っている。

説明責任

親会社のAmazonは「人権への長年の献身と約束」を掲げている。同社のグローバル人権原則には、事業全体に人権保護措置を組み込むこと、そして危害を特定し軽減するための人権デューデリジェンスの実施が含まれている。さらに、AWS特有の主張として、「責任あるAI」を打ち出し、「適切なデータの取得、使用、保護」や「有害なシステム出力と悪用の防止」を行うとしている。

しかし、その公約にもかかわらず、Amazonはイスラエル軍が同社のサービスを使用して行っている重大な人権侵害と戦争犯罪の可能性をどのように軽減しているかを示せていない。例えば、同社の2023年のサステナビリティレポートでは、ガザでの戦争の文脈における強化された人権デューデリジェンスの実施の取り組みについて一切言及していない。

Microsoft

クラウドコンピューティング

Microsoftは何十年にもわたってイスラエルの軍事・治安機関と密接なビジネス関係を維持してきた。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が、その関係を「天国で結ばれた結婚だが、地上で認められている」と呼ぶほどだ。同社の主力クラウドコンピューティングプラットフォームであるMicrosoft Azureは長年イスラエルの主要クラウドプロバイダーとみなされ、軍事目的にも使用されてきた。2023年11月、戦争開始直後にMicrosoftはイスラエルに新たなクラウド・リージョンを立ち上げ軍事目的でAIおよびクラウドサービスを提供していると報じられている。

加えて、Microsoftはイスラエル政府にさまざまな取り組みを通じて、違法な入植活動、イスラエル軍、警察、イスラエル刑務所局(IPS)を支援するために使用されたとされるサービスを提供している。2024年10月現在、IPSは10,000人以上のパレスチナ人を拘留し、その半数は起訴されることなく、裁判日も設定されずに投獄されている。国連人権高等弁務官事務所によると、パレスチナ人の囚人(少なくとも310人の医療専門家、国連職員、女性、子どもを含む)は現在、長期の秘密拘留と通信遮断状態に置かれており、拷問、虐待、性的暴力や虐待を受けているという。

検閲

BBCニュースによると、戦争開始以来、海外在住の複数のパレスチナ人がMicrosoftの電子メールアカウントとSkypeへのアクセスを恣意的に停止された。これにより、彼らは銀行口座にアクセスできなくなり、仕事に支障をきたし、すでに複数回のインターネット遮断を経験するガザの家族との連絡を一層困難にした。

#NoTechForGenocide:ガザの窮状に対する企業の共犯性

企業には、事業を展開するあらゆる場所で人権を尊重する責任がある。上記の全企業が公に支持している前述のUN指導原則は、企業に対し、武力紛争状況下では国際人道法も尊重することを要求している。これは、軍や戦争当事者などの他の主体が犯す重大な人権侵害や国際犯罪に、意図せずまたは意図的に加担するリスクが高まるためである。

企業は、軍事、兵站、情報、または財政への支援を含む直接的な支援を加害者に提供することによって、武力紛争中の犯罪の実行に直接関与しかねない。場合によっては、企業がその犯罪そのものには関わっていなかったり、それを支援する意図がなかったりしても、企業とそのリーダー、管理者が責任を問われうる。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が指摘するように、企業は「法的責任を問われるかどうかが明確でない場合でも、このリスクを重大犯罪に関与するリスクと同様に扱うべきである」。

これらのリスクは、ガザにおけるジェノサイドの蓋然的リスクを考えると、とりわけ深刻だ。Al-HaqSOMOが委託した専門家の法的意見は、ICJの命令が国家と企業に及ぼす法的影響を検討し、テック企業が提供するサービスがイスラエル軍の作戦に不可欠であることを考えると、これら企業がガザのパレスチナ人に対する国際人道法違反とジェノサイドの実行に直接寄与している可能性があることを示唆している。

法的分析は、「国際刑事法は、直接的な共犯には意図的な参加を要求するが、必ずしも危害を加える意図は必要ではなく、予見可能な有害な影響についての認識のみを要求する」指摘している。ICJの命令やICCの検察官がイスラエルの首相と国防大臣に逮捕状を請求したことの意味を、テック企業は理解しなければならない。この逮捕状には、絶滅と迫害の人道に対する罪、および飢餓、故意の殺人、身体または健康への重大な苦痛や深刻な危害を引き起こす戦争犯罪の容疑が含まれている。

イスラエル政府と提携するテック企業およびソーシャルメディア企業は、ジェノサイドの罪に加えて、それを支援または助長するリスクを負ってもいる。ジェノサイドを直接的かつ公然と扇動することも国際法上の犯罪であり、イスラエルの当局者、メディアらにジェノサイドを扇動するプラットフォームを提供しながら、そのようなコンテンツの削除に失敗することは、ソーシャルメディアプラットフォームを共犯にする可能性がある。イスラエルがガザでの戦争を正当化するために使用したターゲット広告についても、集団全体を非人間化することを目的としたプロパガンダである場合には、同様の議論が成り立つ。

企業は今何をすべきか?

ジェノサイドの禁止は絶対的強行規範(jus cogensであり、いかなる国家も、一部法域ではいかなる企業も、これを逸脱することはできない。重大なリスクを考慮すれば、企業、その投資家、および企業が所在する国は、以下の行動を緊急に取らねばならない。

  • 完全な武器禁輸への国連の呼びかけに従い、監視技術および二重用途品の販売と移転を中止する。 2024年4月、国連人権理事会は「国際犯罪の実行に寄与する可能性のある軍事的意思決定を支援するため」のAIの使用を非難する決議を採択した。この決議は武器禁輸を呼びかけ、すべての国に対し「国際規範と基準に従い、そのような製品、技術、または武器が人権侵害または虐待のために使用される可能性があると評価する合理的な根拠がある場合、『二重用途』品目を含む監視製品、技術および非致死性武器の輸出、販売、または移転を差し控える」よう求めている。同様に、国連人権専門家は、国家と投資家に対し完全な武器禁輸繰り返し呼びかけている
  • パレスチナにおけるイスラエルの不法な占領とアパルトヘイト体制に加担する可能性のあるイスラエルとのビジネス関係、経済関係、貿易協定を撤回または停止する。イスラエルによるパレスチナ自治区の占領を違法とする国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見を踏まえ、国家や企業は、占領の維持につながるような援助や支援の提供も避けるべきである。その後の国連総会決議では、占領地におけるイスラエルの不法な存在を定着させるような経済、投資、貿易取引を行わないよう、各国に命じている。
  • 企業のポリシー、事業、サプライチェーンに関して、この紛争を踏まえて強化された人権デューデリジェンスを実施する。 テック企業は、自社の製品やビジネス上のつながりがガザでの紛争をどのように悪化させ、国際法違反に寄与または直接関連しているかを早急に評価し、明確な緩和計画を策定しなければならない。UN指導原則が明確にしているように、企業は紛争地域での重大な人権侵害に寄与するリスクを「法的コンプライアンスの問題」として扱わなければならない。
  • 責任ある撤退戦略を評価し、進行中の犯罪に直接的または間接的に寄与する可能性のある活動を中止する。 企業がビジネス上のつながりを通じて人権状況に影響を与えることができない場合、またはガザで進行中の犯罪への寄与を軽減できない場合、責任をもって市場から離脱または撤退を検討すべきだ。イスラエル当局または国営企業と直接的なビジネス関係を持つテック企業は、現在調査中のジェノサイドの罪やその他の残虐行為を可能にし、教唆し、または支援する可能性があるという重大なリスクに直面することになる。
Big Tech and the risk of genocide in Gaza

Author: Marwa Fatafta / Access Now (CC BY 4.0)
Publication Date: October 11, 2024
Translation: heatwave_p2p