以下の文章は、Center for Democracy & Technologyの「De-Weaponizing and Standardizing the Post-Election Audit」という記事を翻訳したものである。

本稿では「選挙後監査(post-election audits)」と「偽りのレビュー(sham reviews)」という区別しにくい用語が用いられているが、前者は選挙の正当性を担保するための一般的な選挙監査であり、後者は選挙結果を覆すことだけを目的とした監査およびその請求を指している。後者の事例としては、アリゾナ州上院が実施させたマリコパ郡の選挙監査があり(毎日新聞記事Wikipedia)、監査実績のないサイバーセキュリティコンサル会社「サイバー・ニンジャ」に監査が委託され、「中国から偽造投票用紙が送り込まれている」という陰謀論を受けて用紙に竹繊維が含まれていないかを調べたりしている。“不正の証拠”は見つけることはできなかったが、思わせぶりな書き方をすることで、トランプ前大統領の「不正の証拠を明らかにした!」という声明を引き出し、選挙の正当性を歪めることに成功している。

Center for Democracy & Technology

2022年中間選挙が迫るなか、2020年大統領選挙の結果を否定・疑問視する約300名が連邦政府や州政府の公職に立候補している。必然的に幾人かは落選することになるだろう。だがそうした候補者の中には、敗北を認めず、選挙の正当性を否定し、偽りの選挙レビューを要求する者も出てくるだろう。選挙結果の信頼性を担保するために重要な本当の選挙後監査と、こうした選挙レビューをどうすれば区別できるのか。本報告書は、2022年の選挙後監査の状況を知るためのガイドであり、2024年以降の選挙後監査を改善する道筋を示すものである。

選挙を成功させるために重要なことは、法の支配に従い、投票が正確かつ公正に実施・集計されることである。そしてもう1つ重要なのは、あらゆる関係者、とくに敗北した側に選挙結果が尊重されることである。

選挙後監査は、正しく行われれば、こうした目標の達成を保証する極めて強力な手段となる。選挙に大きな問題がなければ、選挙後監査は、選挙が適切に実施され、結果が正しかったことを証明することができる(同様に、選挙後監査によって手続き上の問題が明らかになれば、それ以降の選挙で修正することもできる)。その結果、選挙結果への納得感が高まり、民主主義の基盤である選挙制度への国民の信頼も高まる。

だが2020年の大統領選挙以降、正しく実施された選挙結果への信頼を損ねることを意図した「偽のレビュー」が散見されている。偽のレビューは正当な選挙後監査を装っていることもあるが、「正当な選挙結果を損ない、国民を欺き、最終的に選挙と民主主義のセキュリティを損ねるよう設計されている」。通常の選挙後監査に似せることで、偽のレビューは選挙後監査が担う信頼された役割を武器化しているのである。選挙が適切に実施されたことを証明するどころか、選挙に関する偽情報を生み出し、信頼を損ねるために悪用されるおそれがある。

選挙後監査と偽のレビューの違いを見分けるのは容易ではないかもしれない。Verified VotingBrennan Center for JusticeBipartisan Policy Center Task Force on ElectionsNational Association of Secretaries of Stateなど複数の団体が監査のベストプラクティスを公表している。だが現時点では、選挙監査手続には広く合意された強制的基準もなければ、監査人の認証制度もない。

監査に外部組織が採用されることが多いのは、特別な専門知識を持ってたり、選挙を実施した役人から独立した評価を保証するためである。だが、免許を持つ医者と無免許のヤブ医者を区別するように、資格を持った選挙監査人を無資格の自称選挙レビュワーと区別する確実な方法は、現在のところ存在していない。

本報告書では、偽の選挙レビューが有権者や納税者、そして選挙全体への信頼にどのような悪影響を及ぼすのかを明らかにする。また、オブザーバーが正当な選挙後監査と偽のレビューを見分けるための方法も紹介する。

最後に、選挙後監査のスタンダードや選挙後監査人の資格認定制度など、監査とレビューを正しく区別するためのオプションをいつくか提案する。監査手順や監査人に関する基準を設けることで、オブザーバーやジャーナリストが偽のレビューを識別しやすくなり、偽のレビューの実施を抑制できるかもしれない。また、連邦政府の自主的なガイドラインが米国の投票システムの改善を可能にしたように、スタンダードを設けることは、選挙後監査の質と一貫性を向上させることにもつながるだろう。

長期的には、本報告書で検討された政策オプションのいずれかを慎重に実施していけば、選挙後監査の改善、偽のレビューの抑制により、強靭な米国民主主義の構築に資するはずである。

【報告書全文を読む】

De-Weaponizing and Standardizing the Post-Election Audit – Center for Democracy and Technology

Author: William T. Adler / Center for Democracy & Technology (CC BY 4.0)
Publication Date: October 31, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Joe Piette (CC BY-NC-SA 2.0)

カテゴリー: Security