以下の文章は、電子フロンティア財団の「The UK’s Demands for Apple to Break Encryption Is an Emergency for Us All」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

The Washington Postの報道によると、英国政府はAppleに対し、iCloudのデバイス間暗号化データに政府がアクセスできるようにするためのバックドアの作成を要求した。暗号化は、サイバー攻撃やセキュリティ侵害が蔓延するデジタル世界において、プライバシーとセキュリティを取り戻すための最良の手段の1つである。しかし、「善意の者」だけがアクセスできるように暗号化を弱めるなどということはできない。我々は、プライベートな空間とコミュニケーションの権利を損なおうとするこの企てに抵抗するよう、Appleに要請する。

報道によると、英国政府は先月、非公開の命令を発し、iCloud内のすべての暗号化データを閲覧できる機能の実装を要求した。その標的は、iCloudに保存されたバックアップやその他のデータにデバイス間暗号化を適用するオプション機能であるAdvanced Data Protectionだ。この機能により、暗号化されたデータはAppleでさえアクセスできない。長年、捜査機関にとって、iCloudバックアップは、デバイスの暗号化が有効なiPhoneではアクセスできないデータにアクセスするための抜け穴と認識されてきた。ユーザがAdvanced Data Protectionを有効にしていなければ、この抜け穴はまだ有効だ。Appleが要求に応じた場合、ユーザはiCloudバックアップを完全に無効化することを検討すべきである。最も懸念されるのは、英国が居住地や国籍にかかわらず、すべてのユーザのデータへのバックドアを求めていることだ。

データを保護する強力な暗号化と、政府に特別なアクセスを許可する仕組みとの間に、技術的な妥協点は存在しない。政府のために作られた「バックドア」は、すべての人々をハッキング、なりすまし、詐欺の危険にさらすことになる。一度作られたバックドアが、開かれた民主的な政府によってのみ使用される世界など存在しない。これらのシステムは、世界中のより抑圧的な政府によって、抗議者や反体制者の通信を読み取るために使用される可能性があり、それも時間の問題だ。我々は長年にわたり、このような措置目にし反対してきた。これ以前と何ら変わりない。

もちろん、デバイス間暗号化を実装しているのはAppleだけではない。Googleのバックアップオプションの一部も同様の保護を採用しており、多くのチャットアプリ、クラウドバックアップサービスなども同様である。英国政府がバックドアを通じてAppleユーザの暗号化データへのアクセスを確保した場合、他のすべてのセキュアなファイル共有、通信、バックアップツールも危険にさらされることになる。

一方、米国では昨年、サイバーセキュリティの最高責任者が「暗号化はあなたの味方である」と宣言し、EFFが長年見てきたメッセージからの歓迎すべき転換を示した。捜査機関によるデータへのアクセスを容易にすることを頻繁に求めてきたFBIでさえ、同様の推奨を発表している。

米国政府がAppleに同様のルールを強制できる法的手段は存在せず、Appleが過去そうしてきたように、これに抵抗し続けることを期待したい。しかし、英国で起きることは世界中のユーザに影響を及ぼすことになる。特に、英国の命令では、Advanced Data Protectionの機能が当初の設計通りに機能しなくなったことをユーザに警告することを禁じているため、なおさらである。

暗号化を弱めることは基本的人権を侵害し、プライベートな空間への権利を無効にする。Appleは、ユーザの端末からバックドアを排除し続けるため、この命令に対する戦いを継続しなければならない。

The UK’s Demands for Apple to Break Encryption Is an Emergency for Us All | Electronic Frontier Foundation

Author: Thorin Klosowski / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: February 7, 2025
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: fibreman / Chris Lawton, modified.