以下の文章は、2025年10月20日付のコリイ・ドクトロウの「The mad king’s digital killswitch」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

あらゆる告発は自白である。

Huaweiが我々の通信インフラに盗聴装置やキルスイッチを仕込んでいるのではないかと、誰もが不安に駆られていた頃のことを覚えているだろうか。残忍な独裁者に従属する企業が、ある国の存続に不可欠な構造的基盤を握るようになったら、さぞかし危険なことだろう。

さて、それとはまったく無関係な話だが、今月初め、トランプ司法省がAppleとGoogleに対し、あるアプリの削除を命じた。そのアプリは、ICE(移民・関税執行局)の覆面をした暴漢どもの徘徊をユーザが通報できるものだった。彼らはすでに何千人もの隣人を拉致し、秘密収容施設へ送り込んでいる。

https://pluralistic.net/2025/10/06/rogue-capitalism/#orphaned-syrian-refugees-need-not-apply

AppleもGoogleも屈服した。Appleはさらに、ICEの暴力行為を撮影し、手作業で検証・二重確認された動画を収集するアプリも削除することで、トランプにかしづいた。AppleはICEの暴漢どもを、自社の顧客向けアプリ内で非難してはならない「保護対象クラス」1訳注:”protected class”。連邦法や州法の差別禁止法で、雇用や住居などの差別やハラスメントから法的に守られている特定の属性(人種、性別、年齢、宗教、障害など)を持つグループであり、当然ICE職員は含まれないが、マイノリティをいたぶり、拉致・誘拐する連中をAppleやGoogleを「保護対象クラス」に指定したという本末転倒を揶揄している。なお、公共空間で職務中の公務員(警察官やICE職員)を撮影することは、「国民が政府の活動を監視し、権力の濫用を防ぐ」ためであり、修正第1条によって保護された権利として(特段の合理的理由がない限り)正当化される。であると宣言したのである。

https://www.wnycstudios.org/podcasts/otm/articles/big-tech-is-silencing-the-ice-watchers-plus-why-a-scholar-of-antifa-fled-the-country

もちろん、iPhoneでは(技術的には)Appleが認めないアプリを動かすことも可能だ。「ジェイルブレイク」して独立系アプリストアをインストールすればいい。ただし問題が1つある。米国通商代表部が世界中の国々を恫喝し、ジェイルブレイクを違法化させたことだ。つまり、トランプ(どれほどくだらない恨みでも報復せずにはいられない男)がティム・クック(舐めない靴など存在しない男)にあなたの国のアプリストアからアプリを削除するよう命じれば、他のどこからもそのアプリを入手できなくなるということである。

https://pluralistic.net/2025/10/15/freedom-of-movement/#data-dieselgate

もちろん、自国の政府にAppleのプラットフォームをサードパーティのアプリストアに開放するよう命じさせることは可能だが、Appleはそれに従わない。代わりに、根拠薄弱な法的脅迫であなたの国を溺れさせるだろう。

https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:62025TN0354

そして、お前の国から完全撤退してやるぞと脅しをかけてくる。

https://pluralistic.net/2025/09/26/empty-threats/#500-million-affluent-consumers

もちろん、Googleも同じ穴のムジナだ。トランプのあらゆる要求に屈服するだけでなく、Androidのロックダウンも進めており、Googleが承認しないアプリはインストールできなくなりつつある(つまり、トランプがAndroidアプリに対して事実上の拒否権を握ることになる)。

https://pluralistic.net/2025/09/01/fulu/#i-am-altering-the-deal

何十年もの間、中国タカ派は、中国のテック大企業が中国政府の操り人形で、中国の国家権力を世界中に投射するための道具だと非難してきた。ところが実際には、中国政府は自国のテック企業への締め付けを強化しており、忠実な手駒どころか、自らの権力を脅かす競合として自国企業を牽制し続けている2訳注:さすがに中国政府による自国企業の統制を甘く見ているとは思えないので、少なくとも現在のトランプは習近平以上に自国のテック企業を掌握している、ということを指摘しているのだろう。

https://pluralistic.net/2021/04/03/ambulatory-wallets/#sectoral-balances

米国の外交政策に関して言えば、あらゆる告発は自白である。スノーデンが暴露したのは、米国の巨大テック企業が米国政府のために、地球上のほぼすべての人間を盗聴する道具として使われていたという事実だった。それから10年以上が経った今もなお、Microsoftは、トランプの手先が欧州人のデータを収奪することを今後も許容すると認めざるを得ない。そのデータがEU域内のサーバに保存されている場合であっても

https://www.forbes.com/sites/emmawoollacott/2025/07/22/microsoft-cant-keep-eu-data-safe-from-us-authorities

Microsoftが米国の権力を世界に投射するための道具であることは疑いようがない。トランプが国際刑事裁判所のカリム・カーン主席検察官を非難したのは、カーンがネタニヤフをジェノサイドの罪で起訴したためだが、その後Microsoftはカーンのメール、文書、カレンダー、連絡先をすべて消し去ることで、忠実にトランプの意に応じた。

https://apnews.com/article/icc-trump-sanctions-karim-khan-court-a4b4c02751ab84c09718b1b95cbd5db3

これはまさに、Huaweiを自国に入れたらこうなると、トランプの太鼓持ちが警告していた事態そのものだ。あらゆる告発は自白である。

しかし、事態はそれよりもさらに悪い。「Huawei=中国のトロイの木馬」として想定された最悪のシナリオですら、米国が実際に世界中のデバイスに仕掛けたキルスイッチや盗聴装置と比べれば、はるかにマシだ。こちらは憶測ではなく、現実である。

CALEA[法執行のための通信援助法]を見てみよう。クリントン時代に制定されたこの法律は、すべてのネットワークスイッチに法執行機関向けのバックドアを搭載することを義務づけている。適切な認証情報を持つ者なら誰でも、スイッチを乗っ取り、データを傍受したり、遮断したり、偽装したりできる。事実上、製造されるネットワークスイッチのほぼすべてがCALEAに準拠しており、これこそNSAがギリシャ首相の電話を盗聴し、ソルトレイクシティ・オリンピック招致で競合相手に対する優位を得ることを可能にした手段である。

https://en.wikipedia.org/wiki/Greek_wiretapping_case_2004%E2%80%9305

訳注:ギリシャ首相ら100名あまりの盗聴に、通信機器に組み込まれた傍受用バックドアが悪用されたことは事実であり、NSAの関与が強く疑われている。なお、悪用されたのは厳密にはCALEA準拠ではなく、CALEA要件をモデルとした欧州ETSI準拠の合法的傍受規格である(だからこそ「事実上」と表現されている)。ただし、招致合戦で優位に立つために盗聴が行われたという点については事実も疑惑も確認できない。この記述は、ソルトレイクシティ招致にまつわるIOC委員買収スキャンダル、ソルトレイクシティ開催期間中の同地域における大規模通信傍受疑惑、そして2004年のギリシャ盗聴事件(アテネ夏季オリンピックに際してNSAがギリシャの電話ネットワークに設置した通信監視システムが、大会後も撤去されず政府高官らの盗聴に転用された事件)の混同と思われる。]

CALEAバックドアは、世界のネットワークシステムにおける単一障害点だ。名目上、CALEAのバックドアは米国の管理下にあるが、実際には多くのハッカーがCALEAを悪用し、米国内外の政府や企業を攻撃してきた。米国の政府機関や大企業への史上最悪のハッキング攻撃、Salt Typhoonを覚えているだろうか。Salt Typhoonのハッカーたちがそれらのネットワークに侵入する入り口として利用したのが、まさにCALEAだったのだ。

https://pluralistic.net/2024/10/07/foreseeable-outcomes/#calea邦訳

トランプの強制力が及ぶ範囲にある米国の独占企業は、世界の重要システムの多くを掌握している。ジョンディアを例に挙げよう。世界のトラクターの大半を供給する独占農業テック企業だ。そのトラクターは設計上、所有者である農家がソフトウェアを改変することを許さない。これはジョンディアが修理をジョンディア専属の技術者を独占させるためであり、また農家のトラクターから土壌データを吸い上げ、グローバル先物市場に売りさばくためでもある。

トラクターとは、回転する刃が詰まった高価で精巧な筐体に収められた、ネットワーク接続されたコンピュータだ。ジョンディアはいつでも任意のトラクターに手を伸ばし、恒久的に動作不能にできる。ロシア軍の略奪者がウクライナのトラクターを盗んでチェチェンに持ち去ったところ、ジョンディアが遠隔でこの盗品を文鎮化し、数トンの鉄の塊に変えてしまった話を覚えているだろうか。このハイテクな報復に多くの人が喝采を送ったが、ドナルド・トランプが気まぐれ一つでジョンディアにすべてのトラクターに同じことをしろと命じる可能性を考えれば、話はずっと不気味になる。

https://pluralistic.net/2022/05/08/about-those-kill-switched-ukrainian-tractors/

トランプの狂王ファシズム時代における地政学の未来を考える政府であれば、あのトラクターを――そしてスマートフォンも、ゲーム機も、医療用インプラントも、人工呼吸器も――所有者にコントロール可能な、自由でオープンなソフトウェアに書き換える方法を模索すべきだろう。ただ問題は、世界中のあらゆる国が米国のジェイルブレイク禁止に同意してしまっていることだ。

EUでは著作権指令第6条。メキシコではUSMCAのIP条項。中米ではCAFTAを通じて。オーストラリアでは米豪自由貿易協定3日本では著作権法120条の2 第1項・第2項および不正競争防止法2条第1項11~13号。カナダでは2012年のBill C-11であり、カナダの農家が自分のトラクターを修理すること、カナダのドライバーが自分の選んだ整備工場に車を持ち込むこと、カナダのiPhoneやゲーム機の所有者がカナダのストアからソフトウェアを購入することを、ことごとく禁じている。

https://pluralistic.net/2025/01/15/beauty-eh/#its-the-only-war-the-yankees-lost-except-for-vietnam-and-also-the-alamo-and-the-bay-of-ham

これらのジェイルブレイク禁止法は、経済的搾取の道具として設計されている。米国テック企業の法外な手数料と野放図なプライバシー侵害を保護するため、メーカーの許可なくデバイスの動作を改変することを、あらゆる場所で、あらゆる人に対して違法にしたのだ。

しかし今日、これらの法律は、我々のあらゆるデジタルデバイスとサービスの深部にまで根を張る構造的脆弱性を生み出してしまった。その中には、穀物を収穫し、肺に酸素を送り、トランプの覆面をした衝撃部隊が近隣で人を狩っているときに知らせてくれるデジタルデバイスも含まれる。

「ポスト・アメリカのインターネット」の実現は、もうとうに着手していなければならない課題だ。あらゆるデバイス、あらゆるサービスは、それを使う人々が動作の最終的な決定権を持つように設計されねばならない。メーカーのバックドアや、我々が自分のデバイスに自分で選んだソフトウェアを入れることを妨げるデジタルロックは、はじめから良いアイデアではなかった。今日、それは破局的な災厄となってしまった。

世界各国がこれらの法律に従ったのは、従わなければ関税をかけると米国に脅されたからだ。さて皆さん、「解放の日」おめでとう。米国は世界に向かって、米国のテック法規を導入するか、さもなければ米国の関税を受け入れるかと迫った。

言うことを聞かなければ家を燃やすと脅した人間が、結局家を燃やしてしまったなら、もうその人間の言うことに従い続ける必要はない。

プーチンがウクライナに侵攻したとき、意図せずしてEUの太陽光発電への移行を加速させることになった。ロシアのガスへの依存から脱却するためであり、今や欧州はゼロエミッション目標の達成において予定より10年先を行っている。

https://electrek.co/2025/09/30/solar-leads-eu-electricity-generation-as-renewables-hit-54-percent/

今日、もう1人の狂った独裁者が世界のインフラを脅かしている。独裁者の要求から逃れるために、世界の残りの国々は、ロシアのガスだけでなく、米国のテクノロジーからの独立も加速させなければならない。ポスト・アメリカのインターネットは、米国企業に――ひいてはトランプに――あなたのテクノロジーの動作に対する拒否権を与えている法律を廃棄することから始まる。

Pluralistic: The mad king’s digital killswitch (20 Oct 2025) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: October 20, 2025
Translation: heatwave_p2p

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    訳注:”protected class”。連邦法や州法の差別禁止法で、雇用や住居などの差別やハラスメントから法的に守られている特定の属性(人種、性別、年齢、宗教、障害など)を持つグループであり、当然ICE職員は含まれないが、マイノリティをいたぶり、拉致・誘拐する連中をAppleやGoogleを「保護対象クラス」に指定したという本末転倒を揶揄している。なお、公共空間で職務中の公務員(警察官やICE職員)を撮影することは、「国民が政府の活動を監視し、権力の濫用を防ぐ」ためであり、修正第1条によって保護された権利として(特段の合理的理由がない限り)正当化される。
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    訳注:さすがに中国政府による自国企業の統制を甘く見ているとは思えないので、少なくとも現在のトランプは習近平以上に自国のテック企業を掌握している、ということを指摘しているのだろう。
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    日本では著作権法120条の2 第1項・第2項および不正競争防止法2条第1項11~13号