以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「The Brave Little Toaster」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

AIバブルは次のクリプトバブルである。その背後にいる連中は同じで、AIでもクリプトのときと同じように動いている。つまり、ユーザの無関心、あるいは露骨な敵意を向けられているにもかかわらず、必死になってAIを詰め込めるユースケースを探している。

https://pluralistic.net/2023/03/09/autocomplete-worshippers/#the-real-ai-was-the-corporations-that-we-fought-along-the-way

今週、秀逸なポッドキャスト「Trashfuture」では、レギュラーメンバーに404 Mediaのジェイソン・ケブラーを迎え、今年のCESについて抱腹絶倒のトークを繰り広げている(本当に笑いすぎて引きつってしまったくらいだ!)。CESで家電各社がLLM家電のデモを自慢げに披露していたのだという。

https://www.podbean.com/media/share/pb-hgi6c-179b908

どうして食洗機にチャットボットが必要なのか?Forbesの記事では、その(とてつもなく馬鹿げた)アイデアについて(同じくらい馬鹿げた)主張を大真面目に伝えている――まさにポーの法則1訳注:「パロディをするときは、顔文字とか『ネタ』だとはっきり解る部分を入れておかないと、本気で書かれた記事だと『誰かさん』が誤解しちゃうのは完全に不可避だよ。」を地で行く話だ。

https://www.forbes.com/sites/bernardmarr/2024/03/29/generative-ai-is-coming-to-your-home-appliances

TrashfutureのメンバーたちがAIハイプサイクルのピークを描き出すのを聞きながら、私は15年前に書いた短編小説のことを思い出した。当時、行き詰まりを迎えていたIoTバブルを風刺した「いさましいちびのトースター」という作品で、MIT Tech ReviewのTRSFアンソロジーに2011年に掲載された。

http://bestsf.net/trsf-the-best-new-science-fiction-technology-review-2011/

この物語は、当時の途方もないIoTバブルを揶揄することを意図していた。話す家電の世界を作り出すなど、フィリップ・K・ディック的な不条理さの極みだ。チャットボットをキッチン家電に無理やり詰め込もうとするAIポンプ・アンド・ダンプ業者たちのおかげで、15年後にこの物語がより一層関連性を持つことになるとは夢にも思わなかった。

そこで「いさましいちびのトースター」を再公開することにした。この作品はその後あちこちで再掲載され(高校の英語教科書にも楽しい練習問題とともに掲載された)、当時私はポッドキャストでも配信した。

https://ia803103.us.archive.org/35/items/Cory_Doctorow_Podcast_212/Cory_Doctorow_Podcast_212_Brave_Little_Toaster.mp3

この物語のタイトルについて一言。おそらく聞き覚えがあるだろう――トム・ディッシュの傑作から拝借したもので、その作品は後に奇妙なアニメーション作品となった。

https://www.youtube.com/watch?v=I8C_JaT8Lvg

この作品は、他の作品のタイトルを借用してアレンジした私の短編小説のひとつだ。こうした作品は非常に成功を収め、いくつかの賞を受賞し、広く翻訳され、再版されている。

https://locusmag.com/2012/05/cory-doctorow-a-prose-by-any-other-name/

では、物語を始めよう!

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ある日、トゥーサン氏が帰宅すると、玄関先に300ユーロ分もの食料品が置かれていた。そこで彼は食料品店のルソー夫人に電話をかけ、こう言った。「どうしてこんなに食べ物を送ってきたんです? 冷蔵庫には美味しい食べ物がたくさん詰まってます。だから要らないし、支払うお金もありません」

しかしルソー夫人は、彼が注文したのだと言う。彼の冷蔵庫からリストが送られてきて、署名入りの注文書もちゃんとありますよ、と。

トゥーサン氏は怒り心頭で冷蔵庫と対峙した。朝には食べ物でいっぱいだったはずなのに、不思議なことに空っぽになっていた。正確に言えば、ほとんど空っぽで、奥の棚にエナジードリンクのパウチが1つだけ置かれていた。前日、地下鉄のホームで笑顔を振りまいていた若い女性からもらったものだった。彼女は誰彼構わず配っていた。

「どうして食べ物を全部捨てたんだ?」と彼は問い詰めた。冷蔵庫は得意げに唸った。

「腐っていたからです」。

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しかし食べ物は腐っていなかった。トゥーサン氏は冷蔵庫の診断ログを丹念に調べ、やがて答えにたどり着いた。もちろん、エナジードリンクが原因だった。

「漕げや漕げ漕げ、ボート漕げ」とそれは歌った。「スーッと小川をくだりましょう。楽しく陽気にメリーメリー、私はエチレン放出中」トゥーサン氏はいぶかしげにパウチの臭いを嗅いだ。

「そんなはずはない」と彼は言った。ラベルを見る限り、このドリンクはLOONY GOONYというらしく、「エスプレッソの1兆倍パワフル!!!!!イチ11!」と謳っていた。トゥーサン氏は、このパウチが何かばかげたイタズラIoTではないかと疑い始めた。彼はそういうのが大嫌いだった。

彼はパウチをゴミ箱に投げ捨て、届いた食料品をしまった。

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翌日、トゥーサン氏が帰宅すると、溢れんばかりのゴミが流し台の下の小さな袋に溜まったままになっていた。ゴミ箱はダストシュートを通じて104階下の大きな集積所へとゴミを送り出しているはずだった。

「どうして空にしないんだ?」と彼は問いただした。ゴミ箱は有害物質は手動で分別する必要があると答えた。「有害物質だって?」

そこで彼はゴミ箱の中身を1つ残らず取り出した。原因はお察しの通り。

「おしゃべりだったらごめんなさい、だけどこれだけ言わせてください。私は水銀バッテリー!」LOONY GOONYの歌声はトゥーサン氏の神経を逆なでした。

「そんなはずはない」とトゥーサン氏は言った。

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トゥーサン氏は電子レンジを試してみた。どんな賢いスクイーズパウチでも、カンカンに加熱してやれば耐えられないはずだ。しかし電子レンジのスイッチは入らなかった。「飲み物でも無ければ食べ物でもない」とLOONY GOONYは歌った。「鉄の塊なのですから!」

食洗機も洗おうとしなかった(「困らせたくはないんだよう、でも食洗機には非対応!」)。トイレも流そうとしなかった(「便器なんてつまんない、ぜったい 詰まらせちゃうんだもん!」)。窓も安全スクリーンを解除して落とすことを拒否したが、もう驚きはなかった。

「お前なんか嫌いだ」トゥーサン氏はLOONY GOONYに吐き捨て、コートのポケットにしまい込んだ。通勤途中のゴミ箱に捨ててしまおう。

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678番街の駅でトゥーサン氏は逮捕された。ホームで待ち構えていた彼らは、彼が電車を降りるや否や手錠をかけた。駅は全員退去、警察官は完全な生物災害対策装備に身を包んでいた。機関銃までシュリンクラップされていた。

「呼吸器つけて、帽子かぶって見物を。私は致死性危険物」とLOONY GOONYは歌った。

翌日トゥーサン氏は釈放されたが、彼はLOONY GOONYを持ち帰らされた。対応すべきLOONY GOONYを持つ人々がまだまだたくさんいたからだ。

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トゥーサン氏は貸し倉庫に特急料金を支払って、自分のコンテナを送ってもらった。コンテナは砂漠の地下の巨大な倉庫からフォークリフトで運び出され、トゥーサン氏のビルの貨物室まで直送された。彼は古く、愚かな服を着て、メガネにライトを取り付けて、仕分けを始めた。

コンテナの中身のほとんどは愚かなものだった。彼は人生のほとんどを愚かなものを捨てることに費やしてきた。賢いものの方がずっと便利だったからだ。しかし祖父が亡くなり、老人ホームの小さな部屋を片付けたとき、彼はそのすべてをコンテナに詰め込んで砂漠に送ってしまった。

ときどき、彼は相続した8立方メートルの愚かさを思い出しては、あきれたようにため息をついた。祖父を愛してはいたが、老人が人生の最期に十分に与えられた時間を使って、自分のガラクタをもっと優雅な、もっと調和したものに取り替えてくれたら良かったのに。

なんて浅はかなんだ!

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トースターのプラグを差し込むと、家はトースターに熱心におしゃべりを始めたが、トースターは何も言い返さなかった。言い返せなかったのだ。愚かだったから。パンを入れるスロットは炭素の残留物で覆われ、その下のズレたトレイからパン屑がこぼれ落ちていた。それはネットワーク環境の利点を考えたこともない原始人が設計し、製造したものだった。

それは愚かだったが、いさましかった。トゥーサン氏が言うことは何でもしてくれた。

「熱い熱い、ベトベトしてきた。もうイヤもうダメ、炎に包まれる前に出して出して!」とLOONY GOONYは大声で歌ったが、トースターはそれを無視した。

「あなたの住まいお大事に、出してくれなきゃ木っ端微塵!」スマート家電たちは不安げにささやきあったが、いさましいちびのトースターは、トゥーサン氏がレバーを再び押し下げても何も言わなかった。

「早く逃げて!命守って!毒ガスを漏らし始める前に!」LOONY GOONYの声はパニック状態だった。トゥーサン氏は笑みを浮かべながらレバーを押し下げた。

そのとき、彼は部屋の診断システムに目をやった。ちょうどいいタイミングだった! 家電たちの動揺を聞いて、定数センサーが警告灯を光らせていた。トゥーサン氏は冷蔵庫と電子レンジと食洗機のプラグを引っこ抜いた。

コンロとゴミ箱は配線が固定されていたが、定数には達しなかった。

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消防署は溶けたトースターを運び出し、斧でトゥーサン氏の壁に執念深く大きな穴を開けた。「火種を探しているだけです」と彼らは言った。しかしトゥーサン氏は、彼らが怒っていることを知っていた。というのも、独立電源とセンサーと送信機を搭載した計算機のパウチを骨董品のトースターに突っ込んで、油っぽい有毒な煙が104階全体に充満するまでレバーを押し続けたまともな理由なんてないんだから。

トゥーサン氏の隣人たちも怒っていた。

しかしトゥーサン氏は気にしなかった。LOONY GOONYの端が丸まり黒くなっていくなか、命乞いをして泣き叫ぶのを聞けただけで、彼は満足だった。

彼は強く抗議したが、消防士たちはトースターを返してはくれなかった。

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Pluralistic: The Brave Little Toaster (08 Jan 2025) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: Posted on January 8, 2025
Translation: heatwave_p2p

カテゴリー: AI