以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Harpercollins wants authors to sign away AI training rights」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

権利が力をもたらすのではない。力を持つ者だけが権利を主張できるのだ。無力な者に「権利」を与えても、その権利は彼らより強い者に引き渡される。この構図が最も露骨に表れているのが著作権をめぐる闘いだ。クリエイティブワーカーに新しい権利が与えられても、それはすぐさま上位存在に召し上げられてしまう。

自分の作品をAIモデルのトレーニングに使わせるかどうかをコントロールする権利を、著作権が誰かに与えているのかどうかは定かではない。人々はしばしば(エンターテインメント企業の重役たちや知財を専門としない弁護士も含め)、著作権全般、とりわけフェアユースに関する理解を過大評価している。

参考までに言えば、「Xは絶対にフェアユースにはならない」と言う人は、間違いなく著作権を理解していない(「Xは必ずフェアユースである」という主張も同様だ)。また、「フェアユースは『4つの要素』を考慮することによってのみ評価される」などと言う人がいたら、その時点でフェアユースを理解していないことが丸わかりである。

https://pluralistic.net/2024/06/27/nuke-first/#ask-questions-never

ただ、議論のために1つ仮定してみることにしよう。モデルのトレーニングに他人の作品を使用することは著作権侵害であり、トレーニングにはライセンスが必要で、AI企業は著作物を使う前に権利者から許可を得なければならないとしてみる。

これは現行の著作権法の仕組みではないかもしれないが、将来的にはそうなる可能性はある。著作権法(17 USC)は、山の頂から2枚の石板に極小の文字で刻まれて下りてきたわけではない。1976年と1998年に大規模な改正が行われ、その後も何度か細かな修正が加えられている。

AIトレーニングにライセンスを要求する法改正は十分にありうる。クリエイティブワーカーたち(AIの営業マンが彼らの生計を破壊すると公言していることに危機感を抱いている)とエンターテインメント企業(多くのAI企業を訴えている)の利害が一致している現状を見れば、その可能性は決して低くない。

この連合においてクリエイティブワーカーの存在は不可欠だ。彼らが道義的な旗手として存在しなければ、この大義が広く支持を集めることは難しい。ワーナーのデイビッド・ザスラフCEOのようなエンターテインメント業界の重役が創作活動に真摯な関心を持っているなどと言ったところで、誰も信じやしない。彼は素晴らしい評価を得た未公開の大作映画を、芸術作品としての価値よりも税控除としてのわずかばかりの価値のために、喜んですべてお蔵入りしてしまうヤツだ。

https://collider.com/coyote-vs-acme-david-zaslav-never-seen

この連合に参加する活動家たちは、しばしばその活動を「反AI」と呼ぶ。しかし、本当にそうなのだろうか。ザスラフをはじめ、AI企業を訴えているエンターテインメント業界の重役たちは、本当に自社製品の制作に生成AIを使わせたくないのだろうか。まさか。彼らはAIに夢中なのだ。ザスラフらスタジオの重役たちは、脚本家がライターズルームでのAIのコントロールを要求した際に148日間も抵抗し、俳優を置き換えるAIをめぐっては更に118日間のロックアウトを続けた。彼らは労働者に対してAIを使用する権利を守るために、少なくとも50億ドルもの損失を覚悟したのである。

https://sites.lsa.umich.edu/mje/2023/12/06/a-deep-dive-into-the-economic-ripples-of-the-hollywood-strike/

エンターテインメント企業は労働者をAIで置き換えるというアイデアに目がない。ただし、AIが本当に労働者の代わりを務められるかどうかは別問題だ。ボスがAIを買ってきてあなたの仕事を任せようとしても、そのAIが実際にその仕事をこなせるとは限らない。

https://pluralistic.net/2024/07/25/accountability-sinks/#work-harder-not-smarter邦訳記事

仮に自分の作品をAIのトレーニングに使わせない権利を我々が手に入れたとしても、「反AI」連合は分裂するだろう。労働者は概してその権利を行使してAIモデルのトレーニングを阻止しようとするだろうが、ボスたちはAIトレーニングの対価を確実に得ようとし、さらには完成したモデルを使って可能な限り多くの労働者を解雇しようとするに違いない。

理論的には、クリエイティブワーカーたちはボスに向かって「議会が与えてくれたAIトレーニングの許可・拒否権を売り渡すつもりはない」とは言える。しかしボスは「結構。君は解雇だ。映画の仕事はなし、アルバムも録音させない、本も出版しない」と言うだろう。

大手出版社が5社、メジャースタジオが4社、メジャーレーベルが3社、アドテク企業が2社、そして電子書籍とオーディオブック市場を独占する企業が1社という状況では、この一握りの企業に取引を拒否されれば、事実上、無名の存在に追いやられてしまう。

レベッカ・ギブリンと私が2022年の著書『Chokepoint Capitalism』で指摘したように、交渉力を持たないクリエイティブワーカーに新たな権利を与えることは、いじめっ子に狙われている子供の昼食代を増やしてやるようなものだ。いくら昼食代を増やしても、いじめっ子に取られてしまえば子供は空腹のままだ。子供に昼食を食べさせるには、門からいじめっ子を追い払う必要がある。つまり、構造改革が不可欠なのだ。

https://chokepointcapitalism.com/

さらに言い換えれば、「あなたが彼らの味方でも、彼らがあなたの味方とは限らない」のである(テレサ・ニールセン・ヘイデンの言葉を借りれば)。

先月、人類史上最大の出版社であるペンギン・ランダムハウスは、自社の本の内容をAIトレーニングに使用することを禁じる著作権表示を掲載し始めた。

https://pluralistic.net/2024/10/19/gander-sauce/#just-because-youre-on-their-side-it-doesnt-mean-theyre-on-your-side邦訳記事

AIに反感を持つ人々は当時、この動きに大いに沸き立った。しかしこれは――好意的に見ても――単なるパフォーマンスに過ぎない。AIトレーニングがフェアユースに該当しないのなら、それを著作権侵害とするために表示など必要ないはずだ。逆にAIトレーニングがフェアユースなら、著作権表示に文言を追加したところでフェアユースである事実は変わらない。

しかしさらに重要なのは、ペンギン・ランダムハウスが著者への支払いを抑えれば抑えるほど、株主と重役への支払いを増やせるという点だ。ランダムハウスはAI企業へのモデルトレーニング権の販売を否定してはいない――AI企業が書籍をモデルトレーニングに使いたいなら、まずランダムハウスに金を払えと言っているだけなのだ。つまり、あなたが彼らの味方でも、彼らがあなたの味方とは限らない。

ランダムハウスとそのAI警告について書いた際、私は大手5社のうちの1社が、あるクリエイティブワーカーが契約書に作品をAIのトレーニングに使用しない旨の条項を要求したために、本の出版を保留にしている現場を実際に目撃したと述べた。

このような条項を契約に盛り込みたい理由は痛いほどわかる。標準的な契約書には「現在知られている、および今後考案されるすべてのメディアにおける、宇宙全体での権利」を要求するという、常軌を逸した文言が含まれているからだ。

https://pluralistic.net/2022/06/19/reasonable-agreement/

しかし出版社は頑として受け入れず、クリエイティブワーカーは粘り強く交渉を続けたものの、最終的にはこれが譲歩の余地のない問題だということが明らかになった。出版社は契約への「AIトレーニング禁止」条項の追加を断固として拒否したのである。

大手5社の1つにルパート・マードックのハーパーコリンズがある。マードックと言えば、自社が出版する作品のインデックス作成やアーカイブには必ずライセンスが必要だと主張することで有名だ。検索エンジンによる自社の新聞のインデックス化にさえ、対価を要求したほどである。

https://www.inquisitr.com/46786/epic-win-news-corp-likely-to-remove-content-from-google

当然の流れとして、マードックはニューズ・コープのコンテンツのトレーニングについてAI企業を訴えた。

https://www.theguardian.com/technology/2024/oct/25/unjust-threat-murdoch-and-artists-align-in-fight-over-ai-content-scraping

しかしルパート・マードックは、自社が出版する素材のAIトレーニングへの使用に反対しているわけではない。モデルの作成や使用にも反対していない。そのマードックのハーパーコリンズは今、作家たちに作品のAIモデルトレーニングへの使用権を譲渡するよう圧力をかけている。

https://bsky.app/profile/kibblesmith.com/post/3laz4ryav3k2w

この取引に交渉の余地はない。作家たちにオプトインを迫るメールには、AIによって作家が時代遅れになる可能性があるという警告まで付け加えられている(AIが本当にあなたの仕事をこなせるかどうかは別として、AIのセールスマンは――作家に金を払いたくない欲望を抑えられない――ルパート・マードックに、AIがあなたの仕事を代替できると信じ込ませることができる)。

https://www.avclub.com/harpercollins-selling-books-to-ai-language-training

AI企業がこれを望む理由は明白だ。ハーパーコリンズのバックカタログを使ったモデルトレーニングの独占契約を結べば、そのコーパスから得られる優位性をすべて独占できるからである。

わずか1ヶ月で、「出版社は作品のAIトレーニング不使用を約束しない」という状況から、「出版社はAI企業に作品のトレーニングを許可する代わりに、作家に交渉の余地のないわずかな報酬を支払う」という状況に変わった。次は「出版社が作品のモデルトレーニング権の譲渡を契約の条件とする」という段階に進むだろう。

作品をAIモデルのトレーニングに使わせるかどうかを決める権利は、その権利を行使するがなければ、何の意味も持たない。

我々がキャンペーンを張るべきは、自分の作品のAIトレーニングの可否を決める権利ではなく、契約条件を自分で決められる力を手に入れることだ。作家組合(Writers Guild)は148日間のピケを張り、驚異の団結力を見せた。

しかし組合の真の功績は、そもそも組合を結成する権利――つまり、すべてのスタジオで働くすべての作家を代表する産業別交渉単位を作る権利――を勝ち取ったことにある。我々の先達は、容赦ない暴力に直面しながら、組合の合法化と制度化を実現した。今日当たり前のように存在する組合も、かつては犯罪組織とされていたのだ。組合が存在している唯一の理由は、組織化が犯罪とされていた時代に、人々が投獄や暴力、殺人の危険を冒してまで組織化に挑んだからである。

https://pluralistic.net/2024/11/11/rip-jane-mcalevey/#organize邦訳記事

その闘いには確かな価値があった。脚本家たちはライターズルームでのAI使用をコントロールする権利を完全に勝ち取った。なぜなら、彼らにはがあったからだ。

https://pluralistic.net/2023/10/01/how-the-writers-guild-sunk-ais-ship/

(Image: Cryteria, CC BY 3.0; Eva Rinaldi, CC BY-SA 2.0; modified)

Pluralistic: Harpercollins wants authors to sign away AI training rights (18 Nov 2024) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: November 18, 2024
Translation: heatwave_p2p

カテゴリー: AI