以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Business school professors trained an AI to judge workers’ personalities based on their faces」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

理論なき推論はドラッグのようなものだ。ビッグテータ擁護論者たち(現在のAI狂人たちの幼生)は長らく、十分なデータさえあれば、XがYをどのように引き起こすかを理解することなく、複雑な現象間の因果関係を推論できると主張してきた。「相関は因果を意味しない」という厄介な考えなど、絶対に克服できるのだ、と。

この考え方は、ミルトン・フリードマンの有名な経済学カテキズムに通じるものがある。

真に重要で意義深い仮説には、現実の不正確な記述的表現である「仮定」が含まれる。そして一般的に、理論が重要であればあるほど、(この意味において)その前提は非現実的である。

https://en.wikipedia.org/wiki/Essays_in_Positive_Economics

AIは、実在しない現象に対してさえ、もっともらしい統計的相関を生み出す優れたツールであることがわかっている。ゲイの人々と異性愛者の顔を分析・比較することで「機械学習ゲイダー1訳注:相手がゲイであるかどうかを見抜く能力。「ゲイ」と「レーダー」からなるカバン語。」を発明したと主張した人物のことを覚えているだろうか。その同じ人物は後に、顔を見るだけで共和党員か民主党員かを判定できるAIを発明したとも主張している。

https://pluralistic.net/2021/01/15/hoover-calling/#phrenology

これは骨相学のAI版にすぎない。植民地主義、奴隷制、大量虐殺、優生学を正当化するために生み出された「科学的人種主義」運動の延長線上にある考え方だ。優れた経営者になれる能力、浮気する可能性、金持ちになる運命にあるかどうかといったことが、目に見えない遺伝的特徴によって決定されると想定している。これは擬似科学的な占星術のようなもので、支配者となる運命を持って生まれた「優れた血筋」を自称することを許す。

驚くべきことに、この「科学的」哲学は、計算ゲノム科学[computational genomics]の発展後も生き延びている。計算ゲノム科学は、集団規模の遺伝子調査を分析し、「人種」(および「人間の多様性」運動が重視する他の区別)という概念に遺伝的根拠があるかどうかを明らかにする学問である。そしてこの科学は、これらの区別が遺伝学的に明確な根拠を持たないことを示してきた。

優れたサイエンスコミュニケーターであり計算ゲノム科学者でもあるアダム・ラザフォードは、2020年の著書『How To Argue With a Racist(レイシストと議論するには)』で興味深い指摘をしている。アフリカを除く地球上のほぼすべての人々は、いくつかの深刻な遺伝的ボトルネックを生き延びた同じ小グループの子孫なのだという。一方アフリカには、世界の他の地域よりもはるかに豊かな遺伝的多様性が存在する。

https://pluralistic.net/2020/08/16/combat-wheelchairs/#race-realism

スウェーデン人とオーストラリアのアボリジニは、サン人[訳注:南部アフリカの狩猟民族。最古の人類とも呼ばれる]の異なる集団に属する2人よりも近い血縁関係にある。もし遺伝子が人間の性格や成功を決定づける要因であるなら、イヌイットとイタリア人の間に見られる差異よりも、アフリカの人々の間でより大きな差異が見られるはずである。しかし実際には、同じ社会構造の中で生きるアフリカの人々は、遺伝的な多様性にもかかわらず、驚くほど似通った人生を歩んでいる。彼らは皆、ポストコロニアリズムの影響や、国際的な搾取、自前の医薬品製造や機器修理の能力さえ否定するグローバルIP体制といった、同じ構造的な困難に直面しているからだ。ある人の人生がどうなるかは、[訳注:遺伝子などよりも]その人が属する社会がグローバル階層のどこに位置するかによって、驚くほど容易に予測されるのである。

確かに、遺伝子は我々の人生に影響を与えている。我々は、ゲノムと物理的・社会的環境との相互作用によって形作られているからだ。しかし、あらゆる証拠が、社会的・物理的要因が遺伝子の影響をはるかに凌駕していることを示している。占星術の例で考えてみよう。遠い天体は、間違いなく我々の誕生時から生涯を通じて影響を及ぼしている。他の惑星による地球への無限小の潮汐力が存在し、遥か彼方の死んだ星々からの光子が我々に降り注いでいる。しかし、分娩時のあなたの体に及ぼす土星の重力は、助産師が分娩室で履く使い捨ての靴カバーが及ぼす力よりも小さい。確かに、靴カバーは土星よりもはるかに軽いが、力は距離の二乗に反比例するため、近くにある靴カバーの方が重要な影響を持つのである。

遺伝子は、脳やホルモン、神経信号といった調節システムの発達に重要な役割を果たしている。しかし、その影響力は成長過程における物理的・社会的環境の影響力に明らかに及ばない。「良い血筋」や「悪い血筋」などというものは存在しないのだ。

だが、社会的階層制を信じ、それから利益を得ている人々は、自分たちが富を独占し、他者が貧しい状態にある理由として、独立した客観的な根拠を切望してきた。これこそが「効率的市場仮説」(「私が裕福なのは、市場が私を優れた『資本配分者』と評価しているからだ」)であり、「メリトクラシー」(「私が裕福なのは、私に能力があったからだ」)であり、「進化心理学」(「ハニー、私が大学院生とヤッちゃったのは私のせいじゃない――ボノボのせいだ!」)の起源である。

https://pluralistic.net/2020/08/30/arabian-babblers/#evopsych

そして今週、新たな頭蓋計測AIが登場した。「Photo Big 5」AIは、顔を見るだけでMBAに向いているかどうかを予測できるという代物である。

https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=5089827

これはエリート教育機関に属する4人の学者による創造物だ。ただし、彼らの専門は遺伝学ではない。ビジネススクールの教授たちである。彼らは、マイヤーズ・ブリッグス[MBTI]よりもわずかに厳密な程度の占星術的な演習である「ビッグ5性格タイプ」のアンケートを実施し、MBA取得者たちの自己評価結果を収集した。そして、これらの結果に加えて被験者のLinkedinプロフィール写真、自己申告の給与、肩書きを機械学習に投入して――できた!顔を見るだけで優秀な管理職になれるかどうかを判定するマシンの爆誕だ!

これは中間管理職向けのAIゲイダーと言っても過言ではない。客観的に見て、滑稽極まりない取り組みである。それゆえ、彼らはこのような愉快な難読化に頼らざるを得ない。

Photo Big 5は、GPAや標準テストスコアのような認知的指標とはわずかな相関しか示さないが、労働結果に対して同程度の増分予測力を提供する。

つまり、我々は人生のチャンスを予測する新たな乱数発生器を作り出したということだ。SATやGPAのような、まともに人生のチャンスを予測できない代物を新たに生み出したのである。もっとも、大金をはたいてエリート試験対策コンサルタントを雇えば、SATやGPAの数字自体は膨らませることはできる。個人の外見が富と何の相関もなく、エリートに見せかけるために金を注ぎ込めないことは、悪いことではないはずだ。彼らはそうは考えない。だからこそ、「頭蓋顔面の特徴と行動」の関係を支える遺伝子あるはずだという考えに固執するのである。

複雑な社会問題から定性的要因を完全に取り除き、アルゴリズムが計算可能な疑わしい定量的残滓に変換したい人々にとって、なぜAIがそれほど魅力的なのかは想像に難くない。

https://locusmag.com/2021/05/cory-doctorow-qualia/

これは、ビジネスモデルを纏った特大スケールのニセ科学にすぎない。この自動化された優生学の目的は、人類史における階層制の「合理的」説明と同じである。それは勝者を事後的に正当化し、ゲームが始まる前から敗者に烙印を押すことなのだ。

(Image: Cryteria, CC BY 3.0, modified)

Pluralistic: Business school professors trained an AI to judge workers’ personalities based on their faces (17 Feb 2025) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: February 17, 2025
Translation: heatwave_p2p

カテゴリー: AI