以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「The future of Amazon coders is the present of Amazon warehouse workers」という記事を翻訳したものである。

私が提唱する「クソテクノロジー採用曲線」理論にもとづけば、虐待的テクノロジーが将来あなた自身に及ぼす影響は、社会的弱者に対する現在の用いられ方を観察することで予測できる。
https://pluralistic.net/2023/06/11/the-shitty-tech-adoption-curve-has-a-business-model/
新たな虐待的テクノロジーは、はじめから権力者や富裕層へ向けて導入することはできない。彼らには不満を訴える力があり、やめさせることができるからだ。そのため、こうしたテクノロジーを効果的に展開するには、特権の勾配に沿って段階的に進められる。まずは囚人、難民、精神疾患患者といった社会的発言力を持たない人々を標的として、このテクノロジーの正常化プロセスが開始される。彼らの柔らかな身体が傷つくことによって、テクノロジーの荒削りな部分が徐々に洗練されていく。次に移民、ブルーカラー労働者、学童といった、もう少しだけ社会的影響力のある層へと移行する。こうして段階を踏むごとに虐待的テクノロジーは正常化され、最終的には富裕層や権力者を含むすべての人々に適用される。防犯カメラ、顔認識技術、位置追跡、ウェブ監視の普及過程を思い出してみればいい。
このことは、ブルーカラー労働者が、いずれホワイトカラーの同僚たちを苦しめることになるボス(監視)ウェアの「パイオニア的アーリーアダプター」であることを意味する。ウィリアム・ギブソンが予言したように「未来はすでにここにある、ただ均等に分配されていないだけだ」(そしてその未来は、ブルーカラー労働者、難民、精神疾患患者の足元に濃密で有毒な水たまりとして溜まっている)。
この法則がもっとも顕著に現れているのがビッグテック企業だ。テック企業は労働者を徹底的に隔離している。配達ドライバー、カスタマーサービス担当者、データラベリング担当者、倉庫作業員などの「グリーンバッジ」労働者たちは、雇用主であるAmazonの懲罰的テクノロジーの実験場と化している。キーストローク、眼球運動、トイレ休憩に至るまで監視の目が光る。一方、「ブルーバッジ」のエリートコーダーたちはストックオプション、贅沢な社食、無料マッサージ、社内保育所、出産を先延ばしするための無料卵子凍結サービスを享受している。あるいはGoogleであれば、階級の異なる労働者ごとに別の入口を用意するだけでなく、エリート社員が下級労働者と顔を合わせることすらないよう、勤務シフトをずらしている。
注目すべきは、これらの労働者たちが地位の高低を問わず、ほとんど組合に加入していないという事実だ。テック業界の組合組織率はゼロに近い。エリートテックワーカーが組合に関心を示さない理由は容易に想像できる。破格の高給と手厚い特典があるのに、なぜ組合活動の退屈さに耐える必要があるのか。しかし残りの労働者たちはどうだろう。ボスウェアによる「電気ムチ打ち」に日々さらされ、テック部門の報酬と比べれば小銭同然の賃金しか得られない彼らには、組合を結成する十分すぎる理由があるはずだ。彼らはすでに労働のディストピア的未来を生きているのだから。
Amazon倉庫では、労働者の負傷率が競合他社の3倍に達する。「タスクから離れた時間」(トイレ休憩すら含む)にはペナルティが課される。勤務の開始時と終了時には長く屈辱的なボディチェックの列に並ばされ、毎週何時間も無償で拘束される。同様の状況はAmazon配達ドライバーやWhole Food店舗スタッフなど、企業帝国の他のブルーカラー部門でも繰り広げられている。
こうした労働者たちには組合結成の正当な理由があり、実際に懸命に試みてきたが、Amazonは労働者の組合化の動きを次々と打ち砕いてきた。なぜAmazonはこの戦いに勝ち続けるのか?答えは単純だ。彼らは不正に組合を潰してきた。まず、組合オーガナイザーを違法に解雇する。
https://pluralistic.net/2020/03/31/reality-endorses-sanders/#instacart-wholefoods-amazon
メディアと自社労働者に対して組合を中傷する嘘を広める(この嘘は後にリークされた)。
https://pluralistic.net/2020/04/03/socially-useless-parasite/#christian-smalls
彼らは反組合テクノロジーに巨額を投じ、労働者を監視し、反組合活動を特定の店舗や施設に効率的に展開するための「ヒートマップ」を作成している。
https://pluralistic.net/2020/04/21/all-in-it-together/#guard-labor-v-redistribution
さらには、労働者に公式チャットアプリの使用を義務づけ、「公正」「苦情」「多様性」といった禁止語を含むメッセージを自動ブロックしている。
https://pluralistic.net/2022/04/05/doubleplusrelentless/#quackspeak
これは氷山の一角に過ぎない。ノースウェスタン大学のテケ・ウィギンは、労働者へのインタビューとNLRBへの情報公開請求を通じて、Amazonの労働規律化・組合潰し戦術を初めて包括的にカタログ化した調査結果を公表した。
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/23780231251318389
労働規律化と組合潰しは表裏一体だ。単純な方程式である――労働者が組合を結成するハードルが高ければ高いほど、労働側からの報復を恐れることなく劣悪に扱い続けられる。労働者個人の選択肢は「辞める」か「耐える」かの二択だが、組織化された労働者なら苦情申し立て、訴訟、ストライキという手段を持てるからだ。
Amazonの労働規律テクノロジーの中核にあるのが「アルゴリズム管理」である。これはまさに文字通りの意味で、中間管理職をソフトウェアに置き換える。キーストロークを数え、視線の動きを追跡し、様々な指標に仮想のノギスを当てて、あなたが優秀な労働者か「腐ったリンゴ」かを判定する。
https://pluralistic.net/2024/11/26/hawtch-hawtch/#you-treasure-what-you-measure(邦訳記事)
自動化理論では、職場の自動化は「ケンタウロス型」(人間がテクノロジーに支援される)と「逆ケンタウロス型」(人間がテクノロジーを支援する)という二つの極があるとされる。
https://pluralistic.net/2021/03/19/the-shakedown/#weird-flex
Amazonは「逆ケンタウロス型」のパイオニアだ。配達ドライバーを例に挙げれば、彼らの一挙手一投足、目の動き、ウインカーの使用までもが分析され、必然的に、トイレ休憩を削ってペットボトルに排尿してさえ達成できない不可能なノルマを満たそうと、労働者はもがき続けることになる。
https://pluralistic.net/2023/10/20/release-energy/#the-bitterest-lemon
倉庫労働者もまた、トイレに行く時間すら許されない過酷なノルマに苦しんでいる。一部の労働者は触覚リストバンドを装着させられ、アイテムの取り扱いが遅いと振動で警告される。これが関節を破壊するほどのペースを強いているため、Amazonは全国で最も労働者を負傷させる倉庫雇用主としての不名誉な地位を保ち続けている。
https://pluralistic.net/2021/02/05/la-bookseller-royalty/#megacycle
ウィギンの論文は、これらの「電気ムチ」と、労働者が反組合教育を強制的に受ける「とらわれの聴衆」ミーティングのような伝統的な組合潰し戦術との関連性を解明する重要な研究だ。彼によれば、ボスウェアは労働者を叩く「ムチ」としてだけでなく、重要な組合投票の前に労働者の怒りを和らげる「アメ」としても機能する。
アルゴリズム管理は単に労働者から最大限の労働を搾り取るためのソフトウェアではない――それは管理者そのものを置き換えるものだ。職場だけでなく、労働者が集まるソーシャルメディア(Redditなど)も監視することで、Amazonは「電気ムチ」を微調整し、組合投票前にノルマを一時的に緩和する。こうして労働者に仕事への満足度を高めさせ、反組合プロパガンダへの受容性を増す狙いがある。
これは「いじり回し[twiddling]」の一例だ――デジタルシステムの柔軟性を利用して、価格から賃金、検索ランキングから推奨まで、あらゆるビジネスロジックを司る「ツマミ」をリアルタイムで操作することだ。
https://pluralistic.net/2023/02/19/twiddler/
いじり回しは監視データと柔軟なビジネスロジックを組み合わせて、強力な「ハウスアドバンテージ」を生み出す。Amazonで買い物をすれば、検索に最適な結果の代わりに有料の広告結果が表示される。最初に表示された商品を購入すると、本来最適だった商品より平均29%も高い金額を支払うことになる。
https://pluralistic.net/2023/11/06/attention-rents/#consumer-welfare-queens
労働者側のいじり回しはさらにディストピア的だ。「看護師向けUber」アプリでシフトを割り当てられる看護師は、クレジットカードの支払いが遅れていると賃金が下げられる。債務を抱えた労働者には選択肢がないと踏んでいるからだ。
https://pluralistic.net/2024/12/18/loose-flapping-ends/#luigi-has-a-point(邦訳記事)
組合潰しにおいて、Amazonはいじり回しの新たな用途を発見した。ウィギンが「アルゴリズム的緩和[algorithmic slack-cutting]」と呼ぶ作業ペースの一時的な緩和だ。ここで重要なのは、この「緩和」が一時的なものに過ぎないということである。組合投票前に作業負担を減らしたアルゴリズムは、投票後には人間の感覚では気づかないほど微小な増分で徐々に作業ペースを元に戻していく。カエルを茹で上げるというより、じわじわと蒸し上げていくように。
同時に、Amazonはシフト割当アプリへの強制メッセージを含め、あらゆる場所で反組合メッセージを浴びせる――ポケットの中の「とらわれの聴衆」ミーティングだ。
ソーシャルメディア監視と職場監視を組み合わせ、Amazonは職場民主主義を破壊するアルゴリズムを訓練する強力なデータセットを構築している。これがAmazonの倉庫作業員、配達ドライバー、Whole Foods店員の現実だ。
ところがAmazonのテック系社員にとっては状況がまったく異なる。彼らは業界標準の高給と贅沢な特典を享受している。
今のところは。
テック業界は3年間にわたる大規模レイオフの最中にある。2023年に26万人、2024年に15万人、今年もすでに数万人が解雇された。何も利益が足りないからではない。Googleは1万2000人の従業員を解雇した直後に、彼らの27年分の給与に相当する金額を自社株買いに投じた。Metaは全社的な5%人員削減と幹部ボーナスの倍増を同時に発表したばかりだ。
つまりテック企業は必要に迫られてではなく、単に「できるから」人員を削減している。労働者が組合ではなく「希少性」に力の源泉を求めるとき、彼らは自らの墓穴を掘ることになる。希少性に基づく高給コーダーにとって、新たなコンピュータサイエンス卒業生は全て脅威だ。彼らの存在があなたの賃金の拠り所である希少価値を侵食する。
Amazonのコーダーたちはピンクのモヒカン、ピアスだらけの顔、上司が理解できないスローガンが書かれた黒いTシャツを着て出社できる。好きなときにトイレに行ける。これはジェフ・ベゾスがテクニカルスタッフに感傷的な愛着を持ち、倉庫労働者に個人的な敵意を抱いているからではない。ベゾスはできるだけ低コストで労働力を確保したいだけだ。彼がテックワーカーを敬意をもって扱うのは、彼らを恐れているからだ。彼らが辞めれば代わりが見つからず、彼らなしでは利益を生み出せないからだ。
しかし一度、あなたの仕事を引き受ける失業中のコーダーが大挙して押し寄せれば、ベゾスはもうあなたを恐れることはなくなる。あなたを解雇したって翌日には代わりが見つかるのだから。
ベゾスがこの状況にコーフンしていることは明らかだ。多くのテック企業のトップと同様、彼は「生意気な」ハッカーたちがボスを馬鹿にしたり、命令に従わなかったりする世界からの脱却を夢見ている。だからAmazonの広報部門は、AIでコーダーを置き換える取り組みをこれほど大々的に宣伝するのだ。
彼らがコーダーを解雇してコスト削減することに興奮しているだけでなく、「Amazonコーダー」という仕事の本質を、複雑な技術問題を解決する創造的な役割から、AIが生成した退屈なコードのレビュアーへと変質させることにさらに熱狂している。
https://pluralistic.net/2024/04/01/human-in-the-loop/#monkey-in-the-middle(邦訳記事)
「コードレビュアー」は「プログラマー」よりもはるかに充実感の少ない仕事だ。プログラマーに比べれば、コードレビュアーのほうが簡単に見つかる。コードレビュアーは「逆ケンタウロス」、つまり機械の下僕だ。「AIに支援されたプログラマー」という言葉を耳にしたなら、その都度「プログラマーに支援されたAI」と読み替えるべきだろう。
皮肉なことに、プログラミングは倉庫作業よりもさらにボスウェアに適している。コーダーが使用するマシンは、倉庫の床よりも監視技術の導入が容易だ。キーストロークの記録から反体制的な会話の監視まで、あらゆる監視が可能になる。ジェフ・ベゾスがプログラマーを倉庫労働者のように扱わない唯一の理由は、彼らの希少性だけだ。そしてその希少性が今、急速に失われている。
これはAmazonのユーザにとっても悪いニュースだ。テックワーカーはしばしばユーザに対する責任感、一種の「職業的畏敬」を持ち、それが優れたプロダクトを作り出すための原動力となってきた。テックワーカーの労働力は、製品のメタクソ化[enshittification]への衝動に対する重要な抑止力だった。
https://pluralistic.net/2023/11/25/moral-injury/#enshittification
テックワーカーの力が衰えるにつれ、彼らは経営者の貪欲でサディスティックな衝動から自分自身を守る能力だけでなく、我々ユーザを守る力も失っていく。賢明なテックワーカーはこの事実を理解している。だからこそAmazonのテックワーカーたちはAmazon倉庫労働者に連帯して職場放棄を行ったのだ。
https://pluralistic.net/2021/01/19/deastroturfing/#real-power
そして速やかに解雇された。
https://pluralistic.net/2020/04/14/abolish-silicon-valley/#hang-together-hang-separately
テックワーカーとギグワーカーの連帯こそが、テック企業のボスに勝ち、クソテクノロジー採用曲線を打ち破る唯一の道だ。
https://pluralistic.net/2024/01/13/solidarity-forever/#tech-unions
ウィギンのレポートはAmazon倉庫労働者のディストピア的現在を描き出すだけでなく、Amazonテックワーカーの未来を予告するものでもある。その未来はすでにAmazon倉庫に存在し、日夜Amazonのテックオフィスへと近づいている。
(Image: Cryteria, CC BY 3.0, modified)
Pluralistic: The future of Amazon coders is the present of Amazon warehouse workers (13 Mar 2025) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow
Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: April 12, 2025
Translation: heatwave_p2p