以下の文章は、電子フロンティア財団の「Thermal Imaging Cameras are Still Dangerous Dragnet Surveillance Cameras」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

世界中の政府がCOVID-19の感染拡大の抑止策を模索するなか、企業はウィルスを倒す銀の弾丸として自社テクノロジーの売り込みに躍起になっている。これまでにも、位置情報追跡顔識別というプライバシー侵害を伴う提案がなされてきた。いまや、監視機器ベンダからも、熱のある人やウィルス感染が疑われる人を検知する熱感知カメラを使用するよう売り込まれている。だがこうしたカメラは、公共空間や歩道が常時ビデオ監視される危機的な未来を生み出すことになっても、発熱や感染を検知する有効かつ正確な技術ではない。

熱感知カメラであろうと、監視カメラであることに変わりはない。いわゆる「発熱感知」カメラのようなインフラを構築・設置するために予算を組めば、現在の公衆衛生の危機が過ぎ去ったのちも使用され続ける可能性が高まる。公共空間に設置された監視カメラは、表現、移動、集会の自由を脅かし、弱い立場の人々を標的にした嫌がらせや過剰な摘発を助長し、一部の都市や州が禁止しようとしている顔識別への扉を開くことにもなりかねない。

パンデミックの時期には、特定の状況下で体温をモニターすることが有効な場合もある。たとえば病院では、発熱した人がそれに気づかずに施設内の人をウィルスにさらしてしまわないように、入り口で患者やスタッフの体温をチェックしている。サンフランシスコ・ベイエリアでは、COVID-19の治療に携わる医師・看護師の体温をスマートリングで監視し、症状が出た時点で即時警告を出すようになっている。こうしたテクノロジーは、リングの製造会社のプライバシーポリシー、病院のプライバシーポリシー、収集するデータ、データへのアクセス権限の保持者によっては、プライバシーリスクをもたらす可能性がある。だが、こうした集中的なプログラムは、市民の常時監視を目的とした大規模監視カメラ網とはまったく異なる。

専門家の間では、遠距離の赤外線イメージング(発熱を感知すると謳うカメラシステムに搭載されているものであっても)は有効ではないとの結論が出ている。カメラの精度は通常、せいぜい+/- 2 ℃(およそ+/- 4°F)程度でしかない。これは大きな懸念材料だ。このばらつきの大きさは、たとえば体温が36.9℃の人を、39 ℃という高熱だと読み取ってしまう可能性がある。さらに、人体の体温は1 ℃程度の変動を伴うことが多い。こうしたテクノロジーはプライバシーの問題だけでなく、誤検出の問題も無視できない。誤検出は、強制的な検疫や嫌がらせに遭うリスクをもたらす。

赤外線イメージングがたとえ完璧な精度で作動したとしても、「発熱検知」カメラでは検出できない軽症・無症状者が知らず知らずのうちにウィルスを拡散させていることを考えると、COVID-19パンデミックを抑止する可能性は低いと思われる。

政府が感染症の拡大を阻止しようと取り組んでいるなか、テクノロジー企業は自社製品こそが社会の求めるソリューションであるという売り込みに躍起になっている。なかには役立つツールを提供する企業もあるだろうが、怪しげな熱感知機能を持った監視カメラネットワークは私たちが導入すべきツールではない。

Thermal Imaging Cameras are Still Dangerous Dragnet Surveillance Cameras | Electronic Frontier Foundation

Author: Matthew Guariglia and Cooper Quintin (EFF) / CC BY 3.0 US
Publication Date: April 07, 2020
Translation: heatwave_p2p
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