以下の文章は、電子フロンティア財団の「COVID-19 and Technology: Commonly Used Terms」という記事を翻訳したものである。 翻訳に際し、「tracing」は「トレーシング」、「tracking」は「追跡」の訳語を当てた。いずれも「追跡」を意味するが、前者は経路の追跡、後者は個人の行動/位置の追跡の意味合いで用いられているため、本稿では区別した。

Electronic Frontier Foundation

COVID-19の追跡、封じ込め、対策のために、新たな技術的提案が連日のように公表されるなか、公衆衛生戦略、技術的アプローチ、その他の用語の差異がわかりづらくなっている。この本稿では、頻繁に用いられる用語のいくつかを定義し、曖昧さを解消することを試みたい。ぜひこの用語集をブックマークに追加してもらいたい。

COVID-19とあなたの権利の保護、技術、監視、パンデミックに関する一般的な情報については、我々のCOVID-19特集を参照していただきたい。

接触トレーシング〈Contact tracing〉

これは感染者が接触した可能性のある人物を特定するために、長年に渡って行われてきた公衆衛生上のプロセスである。伝統的ないし人力の接触トレーシングでは、医療従事者が感染者に聞き取りを行い、感染者の行動や濃厚接触した人物について把握する。その後、医療従事者は感染者の潜在的な接触者にアプローチし、支援を提供したり、自己隔離や検査、治療、(可能であれば)ワクチン接種などを提案したりする。

デジタル接触トレーシング〈Digital contact tracing〉

一部の企業や政府は、スマートフォンのアプリを使用して、公衆衛生従事者による従来の接触トレーシングを補完する実験を行っていて、その多くは暴露の通知に焦点を当てている。つまり、陽性と判定されたユーザに接近した別のユーザに通知し、そのユーザに公衆衛生当局への連絡を促すことを目的としている。この種のアプリは、位置情報追跡接近追跡のいずれかを用いることが多いが、COVID-19対策として有効性を発揮するのは、検査と聞き取りベースの接触追跡が広く行われている状況に限定される。だが、そのような状況でも、さして役に立たない可能性もある。それ以外の懸念事項としては、アプリ/スマートフォンベースのソリューションであるため、スマートフォンの所有率が低く、感染リスクが最も高いグループ(米国では、高齢者、低所得世帯、農村部)を体系的に見落としてしまうことが挙げられる。

位置情報追跡を利用した接触トレーシング

アプリの中には、全アプリ使用者の位置情報(GPSデータを含む)を収集し、同時刻・同地点にいた個人を探索することで、誰と誰が接触したかを特定することを提案するものがある。だが、位置情報追跡はCOVID-19の接触トレーシングには適してはいない。携帯電話のGPSや基地局から得られるデータでは、2者が物理的に接触したかどうか(たとえば2m以内にいたのかどうか)を正確に判断できない。一方、そうしたデータは、自宅や職場、日常生活に関する気密性が高く、個人を識別可能な情報を露わにするには十分に正確である。

近接追跡を利用した接触トレーシング

近接追跡アプリは、2台のスマートフォンがウィルスを感染させるのに十分に接近したかをBluetooth Low Energy(BLE)を利用して判定する。BLEは位置情報ではなく近接性を測定するため、GPSや基地局の位置情報よりもCOVID-19の接触トレーシングに向いている。2人のアプリユーザが互いに接近すると、両者のアプリはBluetooth信号の強度を利用してその近さを推定する。アプリが約1.8m未満の距離に一定時間いたことが推定されると、アプリは識別子を交換する。各アプリは、相手の識別子との遭遇を記録していく。アプリのユーザがCOVID-19の感染を知った場合、他のユーザに感染リスクを知らせることができる。これまでにさまざまな接近トレーシングアプリが提案・構築されてきた。たとえばAppleとGoogleは、開発者がこの種のアプリを構築できるようにするAPIのプランを公表している。

COVID-19 and Technology: Commonly Used Terms | Electronic Frontier Foundation

Author: Gennie Gebhart (EFF) / CC BY 3.0 US
Publication Date: April 30, 2020
Translation: heatwave_p2p
Header Image: John (CC BY-NC-SA 2.0)