以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「We should ban TikTok(‘s surveillance)」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

米国議会はRESTRICT法を携え、トランプのTiktok戦争を継続し、中国資本のサービスへの禁止措置の制定を提案している。さて、どうやってやろうというのか。そこのところ議会もはっきりはさせていない。実際、インターネット上の何かを禁止するというのは国家的ファイアウォールでもなければ大変に難しそうなのだが。

https://doctorow.medium.com/theyre-still-trying-to-ban-cryptography-33aa668dc602

おそらくはGoogleとAppleのモバイル・デュオポリーに、それぞれのアプリストアからTiktokアプリを削除するよう命令すればいいとでも考えているのだろう。そう、かつて中国政府がやったように。以前、中国がVPNをはじめとするプライバシーツールを禁止した際、彼らはAppleにApp Storeから削除するよう命令し、Appleは黙って受け入れた。

https://pluralistic.net/2022/11/11/foreseeable-consequences/#airdropped

GoogleとAppleは、地球上すべてのモバイルユーザが使用できるソフトウェアを決定する権限を持っている。それが誰かに利用されるというのは、まったくもって予見可能な結末である。第一幕で誰かが暖炉の上に銃を置いたら、第三幕には強力な国家の威を借りた屈強な男がやってきて銃をぶっ放すなんてのはわかりきった筋書きだ。

商業的監視も同様で、すべてのテクノロジー・ユーザからありとあらゆるデータを同意なく集めまくっていたら、突然警察やらスパイやらが訪ねてきて、大規模かつ令状なしの監視プロジェクトの代理人としてあれやこれやと命令してくる、なんてのも当然の帰結である。

皮肉屋なら、商業的監視企業はそれすらも織り込み済みなんだとさえいうかもしれない。監視の官民連携は悪循環に陥っていて、企業は警察やスパイに我々のデータを略奪させ、警察やスパイはプライバシー法によって企業による監視を防がれないようロビイングに勤しんでいる。

https://pluralistic.net/2023/01/25/nationalize-moderna/#hun-sen

そんなわけで、RESTRICT法はとりわけ愚かなプロジェクトなのである。中国が米国人のデータを入手しようと思えば、我々にわざわざTiktokをインストールさせる必要すらない。NSAや地元警察が頼りにする情報を米国のテック企業に提供する多数のデータブローカーのどこからにクレジットカードをポンと出してやれば済むのだ。

米国の巨大テック企業はどれも、少なくともTiktokと同程度にはプライバシーにとって悪しき存在である。あのAppleでさえ、ね。たしかにAppleはFacebookのスパイ行為をワンタップでブロックできるようにした。だが、その「トラッキング」をオプトアウトしても、Facebookが収集していたのとまったく同じデータをApple自身が密かに収集し、自社の広告プロダクトに使用しているのである。

https://pluralistic.net/2022/11/14/luxury-surveillance/#liar-liar

プライバシーを尊重するビッグテック企業など存在しない。Appleがプライバシーの尊重を宣言する偽りの看板で街を埋め尽くすよりずっと以前に、Microsoftは自らをユーザをスパイしないGoogleに代わる企業と位置づけていた。たいへん素晴らしい。Microsoftが数億の人々をスパイしてデータを売っていたことを除けば。

https://pluralistic.net/2020/11/25/the-peoples-amazon/#clippys-revenge

テック企業の監視中毒にはつける薬がない。RESTRICT法を受けてTiktokが出してきた代替案ですら、信じがたいほどに愚かしい。Tiktokは自らをOracleの監督下に置き、Oracleにデータをホストさせ、コードを監査させると提案しているという。そう、Oracle。グレート・ファイアウォール・オブ・チャイナ1.0を構築した企業だ。

https://www.eff.org/deeplinks/2010/01/selling-china-surveillance

もちろん、Tiktokが信頼に値するとは言わない。Apple、Facebook、Google、Microsoftよりも信頼できないのは確かだ。Tiktokは以前、中国にデータを送信しているか否かという質問に嘘をついた。

https://www.buzzfeednews.com/article/emilybakerwhite/tiktok-tapes-us-user-data-china-bytedance-access

たとえ中国にユーザデータを送らないという約束を守ったとしても、その約束は無意味だ。そのデータで作成したベルトルやモデルを中国に送ることができるのだから。むしろその方が、単なるセッション情報のログデータよりも、偽情報キャンペーンや人口規模の推論には遥かに有益なのである。

商業的監視データの有害な処理方法はいくらでもあって、我々から抽出したデータで何をしてよいかをすべて列挙するなど愚行でしかない。そうではなくて、中国企業であろうと米国企業であろうと、企業が我々をスパイすることを禁止すべきなのだ。

企業は、無慈悲なペーパークリップ・マキシマイザーの群体であり、我々を不都合な腸内細菌としか認識せず、執行機能を持たず(「執行部(executives)」も同様)、自主規制もできない。企業が我々に危害を及ぼさないようにするには、我々をスパイすることを違法化し、違反したならば罰を与えなければならない。

https://doctorow.medium.com/small-government-fd5870a9462e

ようするに、Tiktokの問題というのは、楽しいビデオだとか、子どもたちをサウンド/ビデオ・エディターに育てていることではない。Tiktokの問題は、我々をスパイしていることなのだ。Facebookの問題が友人との会話を可能にしていることでもないし、Googleの問題が検索エンジンを運営していることでもないのと同じだ。

おそらく、彼らはその2つ(訳注:有益な機能と監視)は切り離せないものだと言うだろう。髭を生やした預言者が2枚の石版をもって山から降りてきて、こう曰った。「ラリー、セルゲイよ、汝、ログファイルのローテーションをやめ、データマイニングにより実用的なマーケット・インテリジェンスを得よ」。だが、そいつはナンセンスだ。Googleは何年も監視せずに経営してきたじゃないか。Facebookは自らをMySpaceに代わるプライバシー重視のサービスだと言って、絶対にスパイしないと約束したじゃないか。

https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3247362

我々が愛するプロダクトを作るためには、企業は我々の権利を侵害しなければならないという必然主義的ナラティブは、紛れもなくMr Gotcha(訳注:ニュアンス的には「冷笑系」に近い)の戯言である。「もう社会に参加してるじゃん。おかしいね! 俺って頭いいー」。

https://thenib.com/mister-gotcha/

もちろん、企業はいつだってこのナラティブを押し付けてくる。だからこそ、米国のビッグテックはTiktokの禁止措置を黙々と支持してきた。そしてこの禁止措置は(偶然にも)難攻不落で、腐りかかり、メタクソ化した米国企業のオルガリヒに抗って、Tiktokが橋頭堡を築いた最中に起こっているのである。

米国のテック企業は、商業的監視を禁じ、「私訴権」(これがあれば、規制当局や検事、司法長官を説得せずとも、プライバシー法に違反したテック大手やデータブローカーを提訴できる)を拡大する連邦プライバシー法のような実用的なソリューションをあからさまに嫌っている。

https://www.eff.org/deeplinks/2019/01/you-should-have-right-sue-companies-violate-your-privacy

それどころか、テック企業は厚かましくも自らをプライバシーの擁護者だと位置づけている。少なくとも中国政府が敵である限り、とあるアプリ経由でプライバシー侵害が行われている(そして、ビッグテックのエコシステムを循環させる土壌菌のデータブローカーが槍玉に挙げられない)限り、自分たちはプライバシーの擁護者だと言い張るのだ。ビッグテックのロビー活動というウソツキ村では、プライバシーは独占の賜物であり、独占を破壊してまで得なければならないものではない、とうそぶかれているのだ。

https://www.eff.org/wp/interoperability-and-privacy

とはいえ、すべての議員がRESTRICT法に賛成しているわけではない。AOC(アレクサンドリア・オカシオ=コルテス)は、数千万の米国の若者が愛用するアプリの禁止ではなく、すべての企業に適用される連邦プライバシー法の制定を主張している。

https://www.businessinsider.com/aoc-first-tiktok-congress-ban-without-being-clued-in-2023-3

さて、そのAOCの賛同者をご存知だろうか。ランド・ポール。そう、あのまごうことなきクソ野郎だ。ポールは、何百万人もの若い米国人有権者が愛用するアプリを禁止すれば選挙に不利になると共和党の同志に訴えている。ランド・ファッキン・ポールでさえ理解できるほど、自明な事実なのだ。

https://gizmodo.com/rand-paul-opposes-tiktok-ban-warns-republicans-1850278167

ポールがTiktok禁止令を「一世代の投票を永久に失う国家戦略」と呼ぶのはまったく正しい。民主党はポールの意見に耳を貸すべきだ。なんたって、共和党には逆立ちしたってできっこないんだから。二大政党制にあって、共和党は商工会議所をはじめとするビジネスロビーには逆らえない。だから連邦プライバシー法のような、国民のためになるが大企業には厳しい政策を到底支持できないのだ。

民主党は、自らを「Tiktokを禁止しないが、他のテック企業とともに、不気味な存在であることを許さない党」と位置づける機会を得ている。一方で共和党は、「マーク・ザッカーバーグ、スンダー・ピチャイ、ティム・クックと、あなたの愛するTiktokの劣化パクリによって、どんな楽しみも入念に監視させたい、怒れるテクノフォビア党」と位置づける機会を得ているのだ。

これは単に選挙に有利に働く政策というだけではない。実際に良い政策なのだ。若い有権者たちは、パフォーマンスとしての冷戦2.0のために投票に行くことはないだろうが、自分たちのTiktokを取り上げた奴らにはひどく腹を立てるだろう。

冷戦2.0を心配するのであれば、禁止すべきはTiktokではなく監視なのだ。中国政府は、米国の何でもありの規制なきデータ市場で散財できるだけの米ドルを溜め込んでいる。犯罪者、小悪党、組織、そしてすべての敵対国家も同じだ。

RESTRICT法はクリントン時代を彷彿とさせるゴミ法で、その条項を回避するためのVPNの使用を禁止するおそれすらある。米国には、スパイ行為を防ぐためのグレート・ファイアウォールではなく、プライバシー法が必要とされている。

(Image: Cryteria, CC BY 3.0, modified)

Pluralistic: We should ban TikTok(‘s surveillance) (30 Mar 2023) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: March 30, 2023
Translation: heatwave_p2p