現在、BitTorrentがインターネットに流通させるデータは毎月数ペタバイトに上るが、オンライン・ストリーミングへのシフトが進むなか、その輝きは霞みつつある。スタンフォード大学の卒業生 Feross Aboukhadijehは、WebTorrentによってそのギャップを埋めようとしている。そしてそのWebTorrentは既にNetFlixや他のテック企業、多数のデベロッパーからの関心を集めている。

BitTorrentが2002年に初めて登場した時、それは画期的なテクノロジーだった。

当時、大容量のファイルをインターネットを介して数百万人と共有することは事実上不可能であったが、BitTorrentはそれを非常に効率的にやってのけた。

しかし今日、標準的なBitTorrentクライアントはその輝きのほとんどを失っている。現在でもAからBへとデータを転送する優れた方法ではあるが、ビデオストリーミングサイト/サービスの前にはいささか時代遅れのやり方になってしまった。

だが、その2つを組み合わせたテクノロジーがあるとしたらどうだろう? ブラウザ上でBitTorrentのコアテクノロジーを使用したスムーズかつ瞬時のストリーミング――まさにそれがWebTorrentだ。

WebTorrentはスタンフォード大学の卒業生Feross Aboukhadijehが立ち上げたプロジェクトである。彼は既にそのキャリアの中で数多くの成功を収めており、大学卒業後にはP2Pアシストのコンテンツ・デリバリー・ネットワークであるPeerCDNを設立、2013年末にはそれをYahooに売却している。

その後、FerossはWebTorrentにとりかかった。彼はこれが今日のウェブの仕組みに革命を起こすと確信していた。

「『人びとが動かすウェブサイト』――ビジターによってホストされるウェブサイト――というアイデアは、プロプライエタリ・ソフトウェアに閉じ込めておくにはあまりにも革命的すぎると感じました。そこで、このアイデアをさらに前進させたいと思ったんです」と彼はTFに語る。

「YouTubeのようなビデオサイトを想像してみてください。そしてそこでは、ビジターがサイト・コンテンツのホストを手助けしている。WebTorrentを使ったウェブサイトを使う人が増えれば増えるほど、より高速に、より安定するようになります」

簡単に言うと、WebTorrentはウェブBitTorrentクライアントである。スタンドアロンのアプリケーションを使わなくても、ブラウザを介してユーザ間でファイルを直接共有することができる。しかも、設定もインストールも不要だ。

WebTorrent

WebTorrentは、実質的にあらゆるサイトが膨大なデータを扱えるようになり、ユーザベースをChromeやFirefoxなどの互換ブラウザを使用する数億人にまで拡張できる。

「WebTorrentはウェブ用に作られた初のTorrentクライアントです。すべてウェブ言語であるJavascriptで書かれていますし、ピュア・ピア・ツー・ピア転送にWebRTCを使っています。ブラウザプラグインもエクステンションもインストールも必要ありません」とFerossはTFに語る。

2年をかけてWebTorrentプロジェクトは成熟し、次第に複数の大手テック企業からの関心を引きつつある。

たとえばNetflixは、同社のビデオストリーミングにも使えるかどうかFerossにコンタクトを取った。数カ月前、Netflixは求人のなかでWebTorrentについて明確に述べている。これは同社がP2Pアシスト・デリバリーを真剣に検討していることを表している。

Ferossは、NetFlixなどの企業はWebTorrentによって大きな利益を上げることができるという。現在、ピークタイムにはストリーミングのパフォーマンスは低下するが、WebTorrentでは(アクセスの集中は)問題にはならない。

「もしNetflixがWebTorrentを導入したら、利用者はピークタイムでも高画質のビデオを楽しむことができるでしょう。WebTorrentは、利用者がISPネットワークの外に出ることなく、同じISPの利用者との間でビデオのピースを共有することを可能にします」とFerossは言う。

「たとえISPとNetflixの間のネットワークリンクが飽和しているピークタイムであっても、最高品質を保証できます」と彼は付け加える。

Netflix以外にも、WebTorrentには注目に値する実装が複数存在する。たとえば、このプロジェクトのホームページには、いかに簡単にビデオストリーミングできるかが示されているし、βTorrentは完全なトレント・クライアントUIを提供している。

他には、ブラウザ上でファイル共有するためにWebTorrentを使用するFile.pizzaがある。同じテクノロジーが、PeerCloudWebtorrentapp]のサーバレス・ウェブサイトに用いられている。また、GitTorrentはソース・コントロールを分散化させるために用いている。

上記の例に加えて、Internet Archiveもビデオ配信のためにこのテクノロジーを調査していたり、他の大手テック企業は自社のウェブブラウザにWebTorrentサポートの追加を検討している。

しかし万事順調とはいかず、克服すべきいくつかの課題がある。いまのところ、すべてのブラウザがWebRTCをサポートしているというわけではなく、Internet Exlorerは対応していない。さらに、WebTorrentは、WebRTCではなくUDP/TCPを用いる従来のトレントクライアントと繋がることができない。

BitTorrent – WebTorrent
network

Playbackのようなハイブリット・クライアントは複数あるが、理想的にはWebTorrent自体が標準BitTorrentプロトコルにきちんと統合するべきであろう。これはFerossが目下取り組んでいるところである。

WebTorrentが十分なポテンシャルを秘めていることは明らかだ。今後どのように発展していくのか実に興味深い。Feross次第ではあるが、WebTorrentは未来のウェブにおいて重要な役割を担っているかもしれない。

「WebTorrentがコア・インターネット・インフラになってほしいですね。ウェブサイト上でユーザ同士でファイルを転送する効率的な方法ですし、このプロトコルは今後さらにクリエイティブな使われ方をし続けていくんじゃないかと期待しています」と彼は言う。

“WebTorrent Brings BitTorrent To the Web, Impresses Netflix”

Author: Ernesto(TorrentFreak) / CC BY-NC 3.0
Publication Date: December 13, 2015
Translator: heatwave_p2p