以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Vice surrenders」という記事を翻訳したものである。
本稿はVice Mediaの崩壊について書かれたコラムだが、Viceの崩壊により生み出された404 Mediaについては、WirelessWire Newsに掲載された論考「ジャーナリスト自身が運営する404 Mediaにみる『オルタナメディア』の可能性」が大変に面白かったので、ご一読をおすすめしたい。
Viceは、まさに自らの生き様そのままに死んだ。より狡猾な捕食者にだまされ続け、その一方で自らの捕食本能を、自社の愚かな経営陣以上に騙されやすい者たちに向け続けた。安らかに眠れ。あのViceはもういない。
Viceを知らない人のために説明しよう。Viceはカナダ発メディアのサクセスストーリーだった。一握りのヒップスターたちが立ち上げた企業で、その創設者の一人は後にProud Boysを設立し、世界的に有名なファシズムインフルエンサーとなった。もう一人は「露出」を欲しがる若者たちをタダ働きさせる手口を磨き上げ、その無償労働で大儲けする巨大メディア帝国を築き上げた。
https://www.canadaland.com/podcast/vice-oral-history/
その後、Viceは、次々と企業オーナーの元を転々とし、その都度、前よりも不誠実で、搾取的で、そして騙されやすいオーナーによって経営された。同社は、Facebookの悪名高い「動画へのピボット」に最も傾倒した企業でもあった。マーク・ザッカーバーグは、捏造された視聴数をもとに、世間が動画コンテンツを熱望しているとメディア業界を騙し、結果として業界の半分を破壊した。
https://en.wikipedia.org/wiki/Pivot_to_video
Viceは動画に全力を注ぎ、ザッカーバーグのYouTube征服という無謀な試みに何億ドルも注ぎ込んだ。しかし、他の騙された企業とは違い、Viceはさらに大きな金づるを見つけ出した。時代の流れに乗り切れない巨大メディア企業に、次の大トレンドに乗るには自分たちに無条件で大金を投資するのが一番だと信じ込ませたのだ。
https://en.wikipedia.org/wiki/Viceland_(Canadian_TV_channel)
それでも、落ち目のViceは投げ売り価格で売却され、次々に現れる無能なオーナーがライターたちの給料やツールを削る一方で、経営陣には想像を絶する高給を支払った。それでも、Viceのライターたちは素晴らしい記事を書き続けた。
この状況は文字通り最後の瞬間まで続いた。404 Mediaが投稿した追悼記事では、Viceのハゲタカ資本家的経営者が足元から絨毯を引き抜こうとしている最中にも、窮地に立たされ不安定な立場にいたViceのライターたちが書き上げた素晴らしい記事の数々が紹介されている。
https://www.404media.co/behind-the-blog-vices-legacy-and-the-idea-that-the-internet-is-forever
典型的なやり口ではあるが、プライベートエクイティ(PE)の守銭奴どもは、予告なくすべての従業員を同社のCMSからロックアウトした。ところが、ポッドキャストのバックエンドをロックし忘れるという失態を犯した。その隙をついて、マシュー・ゴールト、エミリー・リップスタイン、アンナ・マーラン、ティム・マーチマン、マック・ラムルーの5人のViceのベテランたちが集結し、完全にゲリラ的な暴露セッションを行い、それを公式のViceチャンネルで堂々と配信した。
https://web.archive.org/web/20240226060215/https://shows.acast.com/cyber/episodes/the-end-of-vice
このポッドキャストは実に聞き応えがある。Viceのベテランたちは、たくさんの興味深い歴史だけでなく、Viceの最後の日々の素晴らしい記事がどんな過酷な条件下で書かれていたかも赤裸々に語ってくれた。同社の「ビジョナリーなリーダーたち」は、自分たちに数百万ドルを払う一方で、Lexisnexisからインタビューの文字起こしサービスまで、ライターたちに不可欠なサービスへの支払いを停止していた。ライターたちは自腹を切ってPACERの裁判記録を検索していたのだ。
Viceのライターたちは、劣悪な環境下で、しかもますます悪化していく状況の中で驚くべき仕事をした。それだけではない。完全崩壊の直前に脱出したViceのライターたちも素晴らしい仕事を生み出し続けている。404 Mediaは、4人のVice脱出組、サマンサ・コール、ジェイソン・コーブラー、エマニュエル・マイバーグ、ジョセフ・コックスが設立した、ライター自身が経営する調査報道メディアだ。彼らは素晴らしい仕事を生み出すだけでなく、それを創設したライターたちの生活も支えている。
これらの事実から、不可避の結論が導き出される。Viceがどんな問題を抱えていたにせよ、「ライターたちが生産的な仕事をしていない」とか「その仕事に経済的価値がない」という問題ではなかった。Viceの問題は従業員側にあったのではなく、明らかに経営側にあったのだ。
このことは、Viceが最後に経営陣から受けた屈辱的で愚かな仕打ちを、さらに残酷で、愚かで、許しがたいものにしている。会社の投資家たちとその億万長者のC級幹部の手先たちから漏れた内部メモによると、新しいビジネス戦略は「ウェブサイトを捨てて」「ソーシャルメディアで発信する」というものだそうだ。
これは…つまり、これは…
これは…
驚きを通り越して呆れ果ててしまう。
本当に、言葉を失うレベルだ。
問題は、ソーシャルメディアのビジネスモデルが巨大な詐欺行為だということだ。彼らはもはや自分たちのやり口を隠そうともしていない。ソーシャルメディアにとって、このゲームは単純明快だ。メディア企業に自社サービスを介してオーディエンスにリーチすることを奨励する。メディアがソーシャルメディアに十分依存するようになったら、オーディエンスへのリーチを絞るか、完全に遮断する。そして最後に、メディア企業にオーディエンスにリーチしたければ料金を払えと言う。
https://www.eff.org/deeplinks/2023/06/save-news-we-need-end-end-web
確かに、最初からわかりきっていたことではない。ViceがFacebookの「動画へのピボット」に乗った当時は、「オーディエンスを人質に取り、それをあなたに身代金として要求する」長期的な詐欺だったことが明らかだったわけではない。だが、この期に及んで、意図的に自社のビジネスをソーシャルメディアに依存するように組織化するだって? まるで2024年にサム・バンクマン-フリードに金を託すようなものだ。
仲介者たるビッグテックを信頼することの危険性が、今ほど明白になったことはない。彼らはあなたと顧客やオーディエンスの間に割り込み、その関係を支配しようとしている。その明白で、破壊的なリスクが、今まさに目の前に迫っている。断じて、「ソーシャルファースト」を目指すようなタイミングではない。今こそ、ソーシャルメディアを自らがコントロールするチャンネルに読者を呼び込むための戦略と位置づけるPOSSE(Post Own Site, Share Everywhere)を採用すべき時だ。
https://pluralistic.net/2022/02/19/now-we-are-two/#two-much-posse
今日、ソーシャルメディアプラットフォームが自社に依存するメディア企業を裏切るであろうことは、孫子のような戦略家でなくともわかる。FB、Twitter、TikTokのあまりにも露骨かつ稚拙な手口に騙された戦略など、戦略と呼ぶのさえおこがましい。「ルーシーとフットボール」(訳注:毎回ルーシーに騙されてフットボールを蹴り損なうチャーリー・ブラウン。参考リンク)程度の戦略でさえ、クラウゼヴィッツ並みの戦略に見えるほどだ。
この戦略の最もとんでもない点は、それがプライベートエクイティのボスたちから出てきたということだ。彼らは自分たちを21世紀の偉大な戦略家として吹聴している。Viceのような「不良資産」を買収し、「効率化」のために「再構築」し、売却するという彼らの卓越した洞察力によって、世界の資本と資源の大部分を掌握するに値する存在なのだ、と。
現実を見れば、PEのゴロつきどもは、他の金融業者と同様、ただの群れをなす動物だ。みな一様に、150年の歴史を持つ『ポピュラー・サイエンス』誌からからCNETのような現代的な出版物まで、愛されているメディア企業を買収し、そのメディアをスパムで埋め尽くして、Googleがそれに気づかずに検索結果の上位に表示し続けてくれることを期待する、という安直な戦術に飛びついている。
https://pluralistic.net/2024/02/21/im-feeling-unlucky/#not-up-to-the-task
皮肉なことに、自称天才億万長者たちは本当の戦略を組み立てられないのだ。Viceには優秀な人材がいた。彼らは素晴らしい仕事をし、人気を博し、成功を収めた。そして、独立後も成功したメディアを立ち上げた。にもかかわらず、この『経営の天才たち』は、そんなViceを立て直す方法すら分からない。つまり、見る目がないのだ。
PEは、他のマフィアと同様、たった一つのビジネスプランしか持っていない。「食い尽くす」、それだけだ。有益な製品を生み出すビジネスに手を突っ込み、不要なものを押しつけて法外な料金を支払わせ、自分たちの「経営」手腕の対価として莫大な報酬を吸い上げ、そしてその崩壊から逃げ出すのだ。
https://pluralistic.net/2023/06/02/plunderers/#farben
Pluralistic: Vice surrenders (24 Feb 2024) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow
Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: February 24, 2024
Translation: heatwave_p2p