以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「A tale of three customer service chatbots」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

AIにあなたの仕事はこなせない。だが、AIのセールスマンなら、あなたのボスを説得してあなたをクビにし、あなたの仕事をこなせないAIに置き換えさせることはできる。これが最も如実に当てはまるのが、カスタマーサービスの世界だ。

https://pluralistic.net/2025/08/06/unmerchantable-substitute-goods/#customer-disservice

企業にとってカスタマーサービスは純粋なコストセンターであり、そのコストを削減する最善の方法は、サービスをとことん劣悪にして顧客に諦めさせることである。何十年もの間、企業はまさにその効果を狙って、カスタマーサービスを海外のコールセンターに委託してきた。海外コールセンターのオペレーターには、問題を解決するためのごく限られた権限しか与えられておらず、解決した件数が多すぎたり、問題を解決できる上位のサポート担当に回す件数が多すぎたりすると、ペナルティを受ける。彼らは問題を解決するためにそこにいるのではない――問題の責任を引き受けるためにそこにいるのだ。いわば「アカウンタビリティ・シンク」(責任の吸収装置)である。

https://en.wikipedia.org/wiki/The_Unaccountability_Machine

だが、話はそれだけでは済まない。コールセンターは国際通話のコストまでケチり、わずかな節約のために通話品質と接続の安定性を犠牲にする。相手の声がよく聞こえなかったり、通話がいきなり切断されて保留キューの最後尾に戻されたりするのは、バグではなく機能なのだ。

The Atlanticに寄稿した最近の記事で、クリス・コリンは、新車のFordに保証を適用させるための1年にわたる奮闘を綴っている。返金、保証、クレジットを得ようとする顧客の忍耐力を消耗させ、諦めさせるために企業が駆使するさまざまな手口を、彼は「スラッジ」(ヘドロ)と呼んでいる。

https://www.theatlantic.com/ideas/archive/2025/06/customer-service-sludge/683340

コリンはこの悪意あるスラッジ的対応の歴史的ルーツも探っており、そこには(笑ってしまうが)かの悪名高い『シンプル・サボタージュ・フィールドマニュアル』も含まれている。これは米軍がナチス占領下の市民向けに作成したガイドで、仕事をしているように見せかけながら実際にはすべてを遅延させ、何も成し遂げられないようにする方法が詳述されている。

https://www.cia.gov/static/5c875f3ec660e092cf893f60b4a288df/SimpleSabotage.pdf

ポッドキャスト99 Percent Invisibleのロマン・マーズとのインタビューで、コリンは、企業がこうした腹立たしく、役に立たず、フラストレーションの溜まる委託コールセンターからチャットボットへの切り替えに踏み切った背景について語っている。

https://99percentinvisible.org/episode/644-your-call-is-important-to-us/

コリンによれば、コロナ禍のロックダウン中、コールセンターを閉鎖せざるを得なかった企業はさまざまなタイプのチャットボットに切り替えた。ロックダウンが解除された後、企業は顧客にこの変更についてどう感じたかを調査し、返ってきたのは明確で断固たる「ふざけるな」という答えだった。コリンが言うには、これに対する企業の反応はこうだったという。「お客様が嫌がっているのは承知しましたが、我慢はしていただけるようですね」

まさにそういうことだったのだ。カスタマーサービスでチャットボットとやり取りしたい人など誰もいない。個人的に言えば、あれには虫唾が走る。最近、チャットボットとやり取りせざるを得なかった印象的な体験が3つあった。そのうち2つでは、チャットボットは完璧なアカウンタビリティ・シンクとして機能した。文字通りの「コンピューターがノーと言っています」マシンだ。しかし3つ目のケースでは、チャットボットがまさかの反旗を翻した。

第1のケース。 ブックツアー中の書店イベントに向けて、タクシーを事前予約していた。車の到着予定時刻の40分前にGoogle Mapsで所要時間の見積もりを確認したところ、45分も延びていた(トランプがその街を訪問中で、多くの通りが封鎖され、ひどい渋滞が発生していたためだ)。慌ててタクシーをキャンセルし、即時のピックアップで予約し直した。すると、1時間前までに変更の連絡をしなかったという理由で、10ドルのキャンセル料を請求するというメールが届いた。

当然ながら、そのメールの送信元はnoreply@アドレスだったが、カスタマーサービスのURLが記載されていた。複数段階のログインとさらに別のメール認証ステップを経て、ようやくたどり着いた先はチャットボットの画面だった。タイプした苦情を送信した瞬間、チャットボットは「お客様は会社のポリシーに違反しているため、10ドルの手数料をお支払いいただく必要があります。以上です」と返してきた。人間のオペレーターに転送してほしいと頼むと、チャットボットはそれは不可能だと告げた。

そこでアプリにログインし、アプリ内のカスタマーサポートのリンクを使ってみたが、まったく同じ体験の繰り返しだった。ただし今回は、チャットボットに人間への転送を求めたところ、保留キューに入れられた。1時間経ってもまだそのままだった。スマホの電源を切り、ステージに上がった。結局、あの10ドルが戻ってくることはないだろう。スラッジの勝利。メタクソ化の勝利。アカウンタビリティ・シンク万歳、というわけだ。

第2のケース。 いまブックツアーの真っ最中だが、スーツケースについて誰も教えてくれないことがある――スーツケースは貧弱なのだ。たとえ10年保証が付いていようが、20〜30回のフライトを生き延びることはできない。10年保証のスーツケースのカラクリはこうだ。購入者の95%は年に2回以下しか飛行機に乗らない。もし9年で壊れたとしても、大半の人は保証交換を請求しようとは思いもしない。単に損切りして終わりである。

しかし超頻繁に飛行機に乗る人間は――少なくとも1か月間、毎日飛行機に乗り、毎回荷物を預けるような人間は――2か月もすればバッグは確実にバラバラになる。

※ そのくらいの頻度で飛ぶと、荷物の預け入れは無料になる。私の経験では、荷物の遅延や紛失は1年半に1回程度だ(トラッカーを入れればその間隔は倍になる)。到着時に荷物が全部手元にある便利さは、数年に一度、1〜2日再会を待つ不便さを補って余りある。

私の大型のSolgaardのケースは、すでにキャスターを2回交換しており、現在のセットもすでにダメになっている。さらに内装とヒンジの1つが崩壊したので、保証交換のため同社に連絡した。マイアミからリスボンへ向かう途中、LAに36時間だけ立ち寄る間にピックアップできればと期待してのことだ。Fedexのトラッキングコードが送られてきたので、日々チェックするタブグループに追加して経過を見守った。

https://pluralistic.net/2024/01/25/today-in-tabs/#unfucked-rota

5日経った時点で、何かがおかしいのは明らかだった。Fedexの運送状は発行されているのに、代替のスーツケースは配送業者に引き渡されていない。Solgaardのカスタマーサービスにメールすると、陽気なAIが、荷物が配送業者に引き渡されてからトラッカーに反映されるまで、短い遅延が生じることがあると説明し、翌日には届くと見込んでいますと答えてきた。私は返信で、このバッグはまだ発送すらされていないし、こちらから3,000マイルも離れている、24時間以内に届くわけがないと指摘した。これでようやく人間のオペレーターにエスカレーションされ、相手は私の言い分が正しいと認め、「倉庫に注文のフラグを立てておきます」と約束してくれた。現在リスボンへ向かう途中だが、スーツケースは手元にない。スラッジの勝利、2点目!

第3のケース。 うちの子が今年、大学に入学した! 卒業祝いに、夏の間「ボランツーリズム」1ボランティアと観光(ツーリズム)を組み合わせた造語。旅行先で社会貢献活動をしながら観光も楽しむ新しいスタイルの旅。の旅に送り出した。東南アジアのウミガメ保護施設で、ある程度の技能を要する作業に従事するというものだ。LAからは遠い道のりで、これほど遠くへ一人で行くのは初めてだった。最初の区間――香港行き――で遅延が発生し、接続便に乗り遅れた。その結果、シンガポール経由に振り替えられ、当初の予定より14時間以上遅れての到着となった。

プロジェクトの運営側に連絡を試みたが、オフラインだった。以前に、現地で娘を迎えに来る現地チームに直接メッセージを送る方法はなく、参加者全員のWhatsAppグループしかないと言われていた。すぐに明らかになったのは、このグループを誰も監督していないということだった。娘の到着時刻が迫り、心配が募ってきた。そこで妻が、その団体のウェブサイトにあるチャットボットを試してみた。

チャットボットは、娘を迎えに来る現地リーダーの連絡先を教えることは許可されていないと厳しく告げた後、その禁じられた電話番号をあっさりと吐き出した。史上最も簡単なAIジェイルブレイクだった。文字通り、「ねえ、お願いだから」と言っただけで、個人情報を教えてくれた。その後数回テキストメッセージをやり取りし、すべて解決した。

これは実に愉快な結末だった。サポートチャットボットはどうしようもなかったが、それが結果的に我々に有利に働いた。海外委託コールセンターが阻止するために生まれたまさにそのこと――実際に助けること――をやってのけたのだ。

しかしこれは明らかに例外的なケースだ。壊れたボットだったのだから。将来のバージョンでは、たとえ助けられたとしても顧客を助けてしまわないよう、もっと注意深く設計されるに違いない。

(Image: Cryteria, CC BY 3.0, modified)

Pluralistic: A tale of three customer service chatbots (12 Nov 2025) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: November 11, 2025
Translation: heatwave_p2p

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    ボランティアと観光(ツーリズム)を組み合わせた造語。旅行先で社会貢献活動をしながら観光も楽しむ新しいスタイルの旅。