以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「The billionaires aren’t OK」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

ビリオネアたちは、我々を本物の人間だと思っていない。当然だろう。何十億ドルもの富を生み出すために途方もない苦しみを他者に強いておきながら、その搾取事業の犠牲者にわずかでも共感を覚えることなど、できるはずがない。イーロン・マスクが我々のことを「NPC」と呼ぶのも、無理からぬ話である。

https://pluralistic.net/2025/08/18/seeing-like-a-billionaire/#npcs

人間が富と権力を手にするにつれて、目に見えて愚かになっていくことに気づいたことはないだろうか。マスクはイタいオタクから世界屈指の騙されやすい間抜けに成り果てた。純資産が100億ドル増えるたびにIQが5ポイント下がっているようにさえ見える。セルゲイ・ブリンはかつて、反体制派へのサイバー攻撃がソ連時代の幼少期のトラウマを呼び覚まし、一夜にして中国からの事業撤退を決断するような人物だった。

https://www.business-humanrights.org/en/latest-news/brin-drove-google-to-pull-back-in-china

その後引退し、投資ポートフォリオの不労所得でさらに途方もなく裕福になってから復帰し、Googleを率いるようになった。検索品質の急激な低下を招いておきながら、それに対する彼の対応は、社員に週60時間働けと要求することだった。

https://pluralistic.net/2025/08/18/seeing-like-a-billionaire/#npcs

トランプ政権の奇妙に痛快な側面の1つは、ときどき無作為にビリオネアを選んで(たとえばIntelのCEOとか)、数日間にわたって公然と罵倒することだ。たいていの場合、その狙いはその特定のビリオネアをかしずかせることにある。

https://www.cnbc.com/2025/08/11/intel-ceo-trump-lip-bu-tan.html

ときには、彼らに公開の場で屈辱的な行為を強いることすらある――ティム・アップルにカメラの前で独裁者向けの金色のちっぽけな参加賞トロフィーを手づくりさせ、それを卑屈にひざまずきながら自分に献上させたときのように。

https://www.anildash.com/2025/09/09/how-tim-cook-sold-out-steve-jobs

これがなぜ最高のテレビになるかといえば、普段、こうした連中がいかなる批判にもさらされることがないと、誰もが知っているからだ。彼らはゴマすり連中[Sycophancy1訳注:自己の利益のために行う「卑屈なこびへつらい」や「追従(おべっか)」「忖度」を指す言葉。AI分野ではユーザーの誤った意見や好みに過剰に迎合し、真実性よりも同調を優先してしまうAIの過剰迎合を示す言葉として用いられる。]で満たされた泡の中で暮らしている。これこそが彼らをここまで愚かにしている原因である(そしてトランプがあれほどクソバカな理由でもある)。いいか、私だってしょっちゅうバカなことを思いつく。だが痛い目にあって学んだのは、そんな屁みたいな戯言を口から発しようものなら、周囲の人間は「お前はバカだ」と言って恥をかかせてくれるということだ。一方のトランプはどうか。みんなに漂白剤を注射しろだの、ソーラーパネルがウサギを殺しているだの言い出しても、周囲の人間は「天才だ」と褒めそやしてくれるのだ。

https://www.eenews.net/articles/fact-checking-trumps-claims-about-rabbits-caught-in-solar-projects

彼のデスクにはボタンがあり、押せばダイエットコークが運ばれてくる。この男はカメラの前でゴルフの不正を平然とやらかしても、誰にもたしなめられない。こうなると行きつく先は、自分のケツの穴に首を突っ込んで死ぬだけである。

https://www.newsweek.com/donald-trump-golf-cheating-viral-video-2104940

かの道徳哲学者デイヴィッド・セント・ヒュビンズ2訳注:1984年のロックモキュメンタリーコメディ映画『スパイナル・タップ(This Is Spinal Tap)』でマイケル・マッキーンが演じた架空のキャラクターで、架空のヘヴィメタルバンド Spinal Tapのリードボーカル兼ギタリスト。当然ながら道徳哲学者ではない。はこう言った。「『賢い』と『バカ』は紙一重だ」。面白いアイデアを思いつきたければ、突拍子もないアイデアも楽しまなければならない。だが、狂王のロールプレイで、役を降りたらクビになるイエスマン3訳注:原文は”yes-anding”。即興劇(インプロ)の基本ルール「Yes, and」は、相手の提案を受け入れ(Yes)、それを肯定したうえで自分のアイデアを付け加える(and)ことでストーリーを紡いでいくというもの。最近では、提案をまず否定されがちな会議等のビジネス現場改善のために援用されることが多い。の即興パートナーに囲まれた世界に住んでいれば、悪いアイデアが必然的に良いアイデアを飲み込んでいく。

ハワード・ヒューズに制約を与えれば、かっこいい飛行機をたくさん造ってくれるだろう。制約を取り払えば、足にティッシュの箱を履き、爪を伸ばし放題にして、瓶に小便を溜め込むようになる。制約というものはもどかしいが、自分のためにもなる。

ビリオネアたちは、我々から自分自身を隔離することにひたすら執着している。ヨット産業、民間宇宙開発、シーステッド[海上都市]、高級シェルター――彼らの目的はすべて、他者からの制約を逃れることにある。彼らが求めているのは「主権」――つまり、幼児でいられることだ。

https://pocketcasts.com/podcast/lever-time/0b05d150-ba7d-013a-d90c-0acc26574db2/the-grotesque-fruits-of-your-labor-with-evan-osnos/754796e8-7356-4cd0-9979-78005984b7fb

隔離が進むほど、愚かさも加速する。誰も彼らにノーと言わないからだ。セルゲイ・ブリンは、Googleのエンジニアの自社批判を聞かされるタウンホールミーティングに出なくなってから、明らかに頭が悪くなった。ザッカーバーグがマノスフィア系サーファー野郎にリブランドしたのも、全社エンジニアリング会議への出席をやめたのと時期を同じくしている。彼はそれを「自分の時間の有効な使い方ではない」と言った。

この手の連中は揃いも揃って、チャットボットをこよなく愛している。当然だ。チャットボットは完璧な太鼓持ちなのだから。複雑な正規表現を生成させ、試してみて、出てきたエラーメッセージを貼り付ければ、ボットは縮み上がって謝罪する。「まったくおっしゃるとおりです、私は本当に愚かで、あなたは気づいてくださるなんてとても聡明です。波括弧を入れ忘れました。もしもう一度チャンスをいただけるなら、お願いですからもう一度やらせていただけないでしょうか? つまり、代わりに死ねとおっしゃるなら、それでも構いません」

たしかに、AIは本物の存在ではない――だが思い出してほしい、ビリオネアにとっては、ほぼすべての人間が「NPC」なのだ。

つい最近まで、人間とAIの接触はほぼすべて、コンピュータがノーを突きつける儀式的な屈辱だった。いいえ、医師が処方したその薬は出せません、AIがノーと言っています。いいえ、保釈は認められません、AIがノーと言いました。いいえ、お子さんの親権は維持できません、コンピュータがノーと言いました。

消費者向けLLMの台頭によって、ビリオネアの気分がどんなものか、我々全員が味わえるようになった。ウィリアム・ギブスンが言ったように、未来はすでにそこにあった。ただ均等に行き渡っていなかっただけだ。テック界の支配者たちは、IQを下げるための機械を発明した。だが、それがもたらしたのはAI精神病などではない。ビリオネア病だ。

https://pluralistic.net/2025/09/17/automating-gang-stalking-delusion/#paranoid-androids

(Image: Cryteria, CC BY 3.0, modified)

Pluralistic: The billionaires aren’t OK (24 Sep 2025) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: September 24, 2025
Translation: heatwave_p2p

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    訳注:自己の利益のために行う「卑屈なこびへつらい」や「追従(おべっか)」「忖度」を指す言葉。AI分野ではユーザーの誤った意見や好みに過剰に迎合し、真実性よりも同調を優先してしまうAIの過剰迎合を示す言葉として用いられる。
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    訳注:1984年のロックモキュメンタリーコメディ映画『スパイナル・タップ(This Is Spinal Tap)』でマイケル・マッキーンが演じた架空のキャラクターで、架空のヘヴィメタルバンド Spinal Tapのリードボーカル兼ギタリスト。当然ながら道徳哲学者ではない。
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    訳注:原文は”yes-anding”。即興劇(インプロ)の基本ルール「Yes, and」は、相手の提案を受け入れ(Yes)、それを肯定したうえで自分のアイデアを付け加える(and)ことでストーリーを紡いでいくというもの。最近では、提案をまず否定されがちな会議等のビジネス現場改善のために援用されることが多い。