以下の文章は、2026年3月24日付NiemanLabの「ProPublica’s union authorizes the first U.S. newsroom strike over AI protections」という記事を翻訳したものである。記事の焦点となっているストライキは、まさに今(2026年4月8日)実施されている。
3月20日、米国最大級の非営利報道機関の労働組合であるProPublica Guildの組合員が、圧倒的多数でストライキを承認した。記者、校閲者、ビデオグラファーなど約150名のニュースルーム・スタッフのうち、92%が、ProPublicaが今後数週間以内に契約条件に合意しなければ職場を離れると投票した。
この投票は、2023年8月に組合が承認されて間もなく始まった初の労働協約をめぐる交渉が2年半に及ぶなかで実施された。
交渉における争点の1つが、AIの導入を理由とした従業員の解雇をProPublicaに禁じる条項である。AI問題に加え、組合は組合員の解雇における「正当事由」の要件、レイオフ時に勤続年数の長い従業員を優遇する規定、そして生活費に連動した賃上げも求めている。
今回の投票は、米国の主要報道機関がAIからの保護を理由の1つとしてストライキを承認した初めてのケースとなる。
NewsGuild of New Yorkのスーザン・デカラヴァ会長は、自身の知る限り、NewsGuild-CWAの傘下組織がAI条項をめぐるストライキを計画したり実施した前例はないと認めた(LexisNexis傘下のLaw360の組合が2024年にストライキを経て批准した契約にはAI条項が含まれていたが、そのストライキは医療費の削減を勝ち取るためであり、また交渉中のレイオフに抗議するためのものだった)。
「率直に言って、ProPublicaのニュースルームにおけるAI利用をめぐるこの闘いは、このジャーナリズムの営みの核心にいるのは働く人々であり、それを守るために闘うのも彼らだということを示している」とデカラヴァは述べた。「ProPublicaの経営陣が、我々と同じく人間の手による取材と報道に尽力していると寄付者や読者に示す機会に飛びつかないのは、実に残念で理解に苦しむ」
Nieman Labへの声明で、ProPublicaのチーフ・プロダクト&ブランド・オフィサーであるタイソン・エヴァンスは、同社がAI導入の問題に好奇心と懐疑心を持って臨んでいると語った[訳注:エヴァンスは経営側の人間である]。
「数年に及びうる契約の中で編集上の判断[訳注:AIをどう使うか]を拘束してしまうのは、賢明とは言えない」とエヴァンスは述べた。「守れる保証のない約束を交わすよりも、これらの技術が調査報道や創造的な思考のための余地を増やすのか、それとも減らすのかを模索しているところだ」
ProPublicaは、AI導入を理由とした解雇の禁止に合意せず、代わりに潜在的なレイオフの影響を受ける従業員への「拡充された退職手当パッケージ」を提案している。エヴァンスは「ProPublicaは18年の歴史の中でレイオフを実施したことは一度もなく、今後の変化にも責任を持って対応できると確信している」と強調した。
しかし、ProPublicaのスタッフ記者で組合の交渉委員でもあるマーク・オラルデは、退職手当の増額ではAIによる雇用喪失への組合の懸念を払拭するには不十分だと語る。
「会社と解雇の間に立ちはだかるのが数週間分の退職手当の上乗せ程度なら、会社は簡単にそれを支払える」と彼は言う。「それでは組合員の仕事は守れないし、ジャーナリズムも続けられない」
オラルデによれば、退職手当の提案が不十分に映るのは、経営陣がそれ以外の実効性のあるAIからの保護策も拒否しているからだ。たとえば、AIツールの使用を拒否した組合員が処分を受けないことを保証する文言や、今後AIの具体的なユースケースが出てきた際にその都度交渉を行うという提案も退けられた。経営陣が提示したのは、生成AIの使用と影響に関する「定期的な話し合い」と研修にとどまる。
「職場のツールについて経営陣と話し合うのに、何の障害があるというのか。会議をしてもいいと契約書に書いてもらう必要はない」とオラルデは言う。「これらの会議に欠けているのは、そこで交渉に応じることに経営陣が同意していないという点だ」。
AIからの保護をめぐる対立だけがストライキ承認投票の理由ではない。組合は生活費に見合った賃上げも求めており、オラルデによれば、これは特に開発業務など編集部門以外の組合員にとって切実な問題だという。さらに交渉では、レイオフ時に後から入った者が先に対象となる「ラスト・イン、ファースト・アウト」の枠組みや、従業員の解雇に正当かつ文書化された理由を求める「正当事由」条項も議題に上っている。
「27か月間、我々は合理的であろうと努め、妥協し、運営上の柔軟性として会社が何を必要としているかに耳を傾け、それに応じて自分たちの契約文言を修正してきた」と彼はストライキ承認投票の経緯を説明した。「交渉の場でうまくいかないなら、圧力を強めなければならない」。
ProPublica Guildのストライキ投票は、報道機関の労働協約がジャーナリズムにおけるAI導入をめぐる闘争の場となっている最新の事例にすぎない。2025年9月時点で、米国最大のジャーナリスト労組であるNewsGuild-CWA傘下の組織が交渉した43の労働協約に、何らかの形でAIに言及する条項が盛り込まれている。
こうした労組の中には、編集上のガードレールを契約に直接組み込み、基準を執行するための梃子として活用しているところもある。たとえば、Politicoとその姉妹サイトE&E Newsの従業員を代表するPEN Guildの契約では、「ニュース収集」に使用するAIツールが同媒体の「報道倫理基準」を満たすことが求められている。昨年12月、仲裁人はPoliticoがAIを活用した2つの編集プロダクトを導入した際に同契約に違反したと裁定した。これらのプロダクトには事実誤認の出力やPoliticoのスタイルガイドへの違反があり、訂正や撤回の仕組みも整備されていなかった。
AIによる雇用喪失からニュースルームを守るために契約を活用した労組もある。2024年7月、MashableやCNET、PCMagの従業員を代表するZiff Davis Creators Guildが、生成AIの使用を理由とした組合員の解雇や基本給の削減を禁じる条項を勝ち取った米国初の報道機関の労組となった。同様のレイオフ保護条項は、その後、非営利報道機関のGristやCalMatters、そしてAssociated Pressの編集部門でも獲得されている。
2023年にProPublicaのニュースルームが組合結成を決めた時点では、AIは主要な動機ではなかったとオラルデは言う。だが、その後組合はAI導入のガードレールを交渉の中核に据えるようになった。2024年5月に組合が最初のAI条項案を提示し、以降、スタッフの肖像を使って「デジタル・レプリカ」を作成しないという経営陣の約束を含むいくつかの譲歩を引き出している。
組合はまた、編集制作においてAIがどのように使用されているかについて、読者への透明性も求めてきた。最近、ProPublicaは初めてのAI原則を公開し、報道過程での「重要な」AI使用を読者に開示すること、生成AIツールの出力を公開前に検証することなどを約束した。同社は、AIを「記者のオリジナルの取材、分析、判断に取って代わる」ために使用しないとしている。
オラルデによれば、これらの基準を組合の契約に直接「明文化する」ことは、経営陣がこれまで拒否してきたという。
現在までにProPublicaが生成AIの使用を公表しているのは、主に調査報道においてである。2025年3月の調査では、テッド・クルーズ上院議員がDEI(多様性・公平性・包摂性)推進だと批判した全米科学財団の助成金リストを大規模言語モデル(LLM)を使って精査した。記事の掲載後、ProPublicaは報道過程でのAI活用について、使用したプロンプトの全文を含む詳細なブログ記事を公開している。
「ProPublicaは今すぐAIに突き進んで全面的に舵を切ろうとしているわけではないが、状況は一瞬で変わりうる。OpenAIの資金を受け取ることも予想していなかったが、実際にそうなった」とオラルデは述べた。これは、ProPublicaが昨年発表したLenfest InstituteのAI Collaborative and Fellowshipプログラムへの参加を指している。OpenAIの資金提供を受けたこのプログラムにより、機械学習エンジニア1名が2年間ProPublicaのニュースルームに配置された。
「読者との関係は常に信頼の上に成り立ってきた。ProPublicaの倫理方針は、我々の仕事に隠された意図がないことを明確にしている」とチーフ・ブランド・オフィサーのエヴァンスは語った。
ストライキの実施に踏み切る前に、組合は明日3月25日(水曜日)に交渉のテーブルに戻る予定である。
写真は2026年2月20日、ニューヨーク市のProPublicaオフィス前でピケ練習を行うProPublica Guildの組合員。写真提供:The NewsGuild of New York。
アンドリュー・デックはNieman LabでAIを担当するスタッフライターである。あなたのニュースルームでAIがどのように使われているか、情報提供はメール、Bluesky、またはSignal(+1 203-841-6241)まで。
ProPublica’s union authorizes the first U.S. newsroom strike over AI protections | Nieman Journalism Lab
Author: Andrew Deck / Nieman Journalism Lab (CC BY-NC-SA 3.0 US)
Publication Date: March 24, 2026
Translation: heatwave_p2p
その後の交渉も妥結に至らず、2026年4月8日、ProPublica Guildは24時間のストライキに突入している。米国の報道機関がAI関連の争点を含むストライキを実施するのはこれが初めてとなる。
彼らは我々一般市民にも「デジタル・ピケライン」への参加を求めている。つまり、これから24時間、ProPublicaへのアクセスや記事のクリック、他のプラットフォーム上でのPuroPublicaコンテンツとの関わりを避けてほしい。