以下の文章は、2025年8月6日付のコリイ・ドクトロウの「Which jobs can be replaced with AI?」という記事を翻訳したものである。
AIがあなたの仕事をこなせるとは思わない(が、AIのセールスマンがあなたのボスを丸め込んで、あなたの仕事をこなせないAIであなたをクビにさせることは十分ありうると思っている)。とはいえ、AIが完璧に仕事を代替できる職種がある。それはブルシット・ジョブと呼ばれる労働だ。
デヴィッド・グレーバー(RIP)はブルシット・ジョブをいくつかの類型に分類したが、そのすべてがAIで完璧に代替できるわけではない(たとえば、社内の小権力者が自分の権威を誇示するためにはべらせる取り巻きは、人間でなければ意味がない)。しかし、企業がそもそも遂行してほしいと思っていない機能を担う職種がまるごと存在する。カスタマーサービス担当がその典型で、企業は数十年かけてこうした職務を骨抜きにし、そこで働く人々からあらゆる権限と裁量を剥ぎ取ってきた。「うちにはカスタマーサービス部門があります」と言い張るための看板だけが残っているに過ぎない。
こうした労働者をAIに置き換えれば、人件費を削って経費を圧縮できるだけでなく、かつてのコストセンターをプロフィットセンターに転換することすらできる。エア・カナダがカスタマーサービス担当をチャットボットに置き換えた際に発見したのは、まさにそれだった。チャットボットは利用客に誤った案内をして金銭的損害を与えたが、1件の例外――怒り心頭の利用客が8週間にわたってエア・カナダ社内の不服申し立てを粘り強く追及し続け、最終的に規制当局にまで持ち込んだケース――を除き、エア・カナダはその金をそのまま懐に入れることができた。
ここで当然の疑問が浮かぶ。エア・カナダ(や他の企業)は、なぜ欠陥チャットボットと入れ替えても支障がないほど無力なカスタマーサービス担当を放置できるのか?
その答えはメタクソ化[enshittification]にある。メタクソ化という概念に触れた多くの人は、プラットフォームがユーザからビジネス顧客へ、そして最終的に自社へと価値を移転させる三段階のプロセスという症状の記述に目を奪われがちだが、メタクソ化の核心はこの劣化がなぜ起きるかにある。その答えは権力だ。メタクソ化を推し進める企業は、まずメタクソ化衝動を抑制してきた力――競争と規制――を圧倒しなければならない(この2つは同じコインの裏表である。競争を排除すれば、規制の虜への道が開かれる)。
数十年をかけてエア・カナダは競合他社の大半と合併を重ね、カナダにとって構造的に不可欠な存在となった。広大な国土に点在する、航空便のみでアクセス可能な集落を多数抱えるこの国では、規制当局がエア・カナダに打撃となる制裁を科すことは、カナダそのものを脅かすことになりかねない。大きすぎて潰せない、ゆえに大きすぎて罰せない、したがって大きすぎて気にしない[too big to fail, thus too big too jail, thus too big to care]。
こうしてエア・カナダはカスタマーサービス部門を冗談のような存在にまで堕とすことができた。もはやどうでもよくなったのだから、その純粋に飾りでしかないカスタマーサービス担当をチャットボットに置き換えたところで何の違いもなかったわけだ。
海外コールセンターへの業務委託の拡大は、ちょうどウォルマートがAmazonへの道を切り開いたのと同じやり方で、AIによる代替への地ならしとなった。ウォルマートが町の中心部を壊滅させ、コミュニティに貢献していたあらゆる商店を蒸発させてしまったあとで、Amazonで買い物しない理由などあるだろうか? 同じことだ。企業がカスタマーサービス部門を、三穴バインダーの定型文を暗唱し、問題を解決する裁量も能力も与えられない、搾り尽くされた海外コールセンター労働者に置き換えた今、彼らをAIに代えない理由などあるだろうか?
独占企業には、企業が価値を認めていない仕事をしているがゆえに、企業から価値を認められない人々がひしめいている(たとえば大手ソーシャルメディアサービスのモデレーター)。
今週、私はSkyboat Mediaのスタジオで『メタクソ化』の本のオーディオブックを収録している。そこでオーナーのガブリエル・デ・クィアとステファン・ラドニツキに話を聞いた。2人が語ったのは、ディレクター、声優、オーディオエディターをたった1つのソフトウェアで置き換えるAIオーディオブック「ナレーター」がもたらす惨状だ。
AIが完璧な代替品となりうるオーディオブックの一群が存在する――Audibleと、そのメタクソ化のおかげだ。Audibleは組合加入の声優に戦争をしかけ、劣悪な労働条件を受け入れざるをえない未経験の新人に置き換えてきた。その劣悪な条件には「パンチ・アンド・ロール」と呼ばれる慣行も含まれる。これは言い間違えた箇所の修正を、あとでオーディオエディターの指示のもとに再録音(「ピックアップ」)するのではなく、声優自身の判断で、その場で言い直させるやり方だ。Audibleには、ディレクターもエディターも校正者もなしに収録された本が山ほどあり、経験の浅い声優の誤りや言い間違いがそのまま最終製品に残されている1訳注:パンチ・アンド・ロール自体は、経験豊富なナレーターが適切なサポートスタッフのもとで行う分にはプロの技法として確立されているが、問題は、Audibleがこれを「オーディオエディターやディレクター、校正者を雇わない口実」として使っていることにある。低賃金で劣悪な条件を受け入れるしかない経験の浅い新人ナレーターは、オーディオエディターやディレクター、校正者を兼務し、演技と品質管理を同時にこなすよう求められている。。ポピュラーフィクション市場で90%超のシェアを握る独占オーディオブックプラットフォームが生み出すこれらの書籍は、すでに用途に耐えないレベルまで劣化しているのである。俳優をAIに置き換えたとて、違いはほとんどわからない。
AIのテキスト読み上げは、従来のTTS[Text-to-Speech]ツールに比べれば大幅に改善しており、視覚障害者をはじめ恩恵を受ける人は少なくない。しかし、視覚障害者に読み上げボットを売ってビジネスモデルは成り立たせることはできない――少なくとも、AIの学習と運用に注ぎ込まれた数千億ドルは回収できそうにない。
AIのビジネスモデルは、労働者の人件費を丸ごと消し去り、より安価なソフトウェアライセンスに置き換えることに依拠している。(AI投資家の懐にとっては)不幸なことに、ソフトウェアライセンスとたやすく入れ替えられる労働者の大半は、最も低賃金で、最も不安定な立場にある人々であり、その品質はすでに劣化しメタクソ化され、チャットボットに置き換えられても誰も違いに気づかないところまで落ちている。
(Image: Cryteria, CC BY 3.0; KBetik; CC BY-SA 3.0; modified)
Pluralistic: Which jobs can be replaced with AI? (06 Aug 2025) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow
Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: August 6, 2025
Translation: heatwave_p2p
- 1訳注:パンチ・アンド・ロール自体は、経験豊富なナレーターが適切なサポートスタッフのもとで行う分にはプロの技法として確立されているが、問題は、Audibleがこれを「オーディオエディターやディレクター、校正者を雇わない口実」として使っていることにある。低賃金で劣悪な条件を受け入れるしかない経験の浅い新人ナレーターは、オーディオエディターやディレクター、校正者を兼務し、演技と品質管理を同時にこなすよう求められている。