以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Europe takes a big step towards a post-dollar world」という記事を翻訳したものである。
あらゆる分散型システムが最終的にプラットフォームへと収斂していくのには理由がある。プラットフォームは、その利用者が自力では解決しがたい現実の問題を解決してくれるからだ。
以前、インディー/アウトサイダー系作家クラッド・キロドニーについて書いたことがある。彼は自らの奇妙で素晴らしい小説を執筆し、編集し、組版し、小冊子として出版したうえで、トロントの街角に立ち、首から「超有名カナダ人作家の本をお買い求めください」という看板を下げて(気分が乗れば、単に「マーガレット・アトウッド」とだけ書いて)売りさばいていた。
https://pluralistic.net/2024/02/19/crad-kilodney-was-an-outlier/#intermediation
クラッドは卓越した作家であり、ある種の異才でもあった。しかし、私が読みたいと思う書き手のほとんどは、自分で本を出版するどころか、「マーガレット・アトウッド」の看板を首から下げて街角に立つなど到底やらない。出版社、編集者、流通業者、書店はいずれも重要な仕事を担っており、書くこと以外のあらゆる出版プロセスを作家の肩から下ろしてくれる存在だ。
これこそがプラットフォームの価値である。一方、プラットフォームの危険性とは、それが強大化するあまり、本来仲介するはずの当事者間の関係を簒奪し、彼らを囲い込んだうえで価値を搾取するようになることである(誰かこのプロセスを表す言葉を作るべきではないだろうか!)。
https://pluralistic.net/2024/11/07/usurpers-helpmeets/#disreintermediation
誰もがプラットフォームを必要としている。作家も、ソーシャルメディアのユーザも、恋人を探している人も。しかも、プラットフォームを必要としているのは個人だけではない。世界もまたプラットフォームを必要としている。たとえば、地球上の200以上の国を高速光ファイバー回線で結ぼうとしたとする。各国からすべての国にケーブルを引くこともできるが(約21,000本のケーブルが必要で、その多くは海底に莫大なコストをかけて敷設しなければならない)、1つの国(できれば大西洋と太平洋の両方に面した国)を選び、すべてのケーブルをそこに集約して相互接続するという手もある。
それが世界の光ファイバーハブたる米国だ。問題は、米国が単なる光ファイバー相互接続のプラットフォームにとどまらず、世界の光ファイバーネットワークの中心という位置を悪用して世界中の通信網を監視・妨害する大国でもあるということだ。
https://en.wikipedia.org/wiki/Edward_Snowden
これは地政学的規模で行われる典型的なメタクソ化の手口である。しかも米国がやってきたのは、これだけではない。
米ドルについて考えてみよう。ドルが世界の商取引において果たす役割は、米国の光ファイバー接続拠点が世界のデータネットワークに果たす役割と同じだ。つまり、表向きは中立的で不可欠な交換の場でありながら、実際には米国が同盟国に対する優位を確保し、敵国を罰するために行使する武器なのである。
https://pluralistic.net/2023/10/10/weaponized-interdependence/#the-other-swifties
世界にはおよそ200の通貨がある。ある国の当事者が別の国の当事者と取引するには、買い手は売り手がすぐに使える通貨を持っていなければならない。だが、すべての通貨間で21,000通りの二国間為替市場を設けるのはコストがかかるうえに煩雑だ。トレーダーはめったに使わない何百もの通貨の準備金を積み上げるか、あるいはタイバーツをアイスランドクローナに、それをブラジルレアルに、さらにコスタリカコロンにと、長くて脆弱で高コスト高リスクの交換の連鎖を構築しなければならなくなる。
第二次世界大戦後の複雑な駆け引きを経て、世界は米ドルを通貨プラットフォームとして採用した。国際的な重要取引の大半は「ドル建て決済[Dollar Clearing]」(原産国にかかわらず商品が米ドルを基準通過として値付けされる仕組み)を用いており、買い手は自国通貨をドルに換えてくれる相手さえ見つければ、食料や石油などの必需品を購入できる。
このシステムには2つの問題がある。第一に、米国はドルを中立的なプラットフォームとして扱ったことが一度もないということだ。米国の指導者たちは、他のドル利用国を犠牲にして(つまり「メタクソ化」によって)、「ドルの支配的地位」を米国の地政学的アジェンダの推進に利用する、巧妙で否認可能な方法を常に見出してきた。第二の問題は、米国のこうした策略がしだいに巧妙さも否認可能性も失いつつあり、ドル利用国に対してドルを武器として用いるための「例外的状況」をあれこれと見つけ出していることである。
https://pluralistic.net/2025/11/26/difficult-multipolarism/#eurostack
米国の破廉恥なドルの武器化は年々悪化してきたが、トランプ政権下では、武器化されたドルが世界の他の国々にとって存亡に関わるリスクとなり、各国は代替手段の模索に奔走している。ノヴェンバー・ケリーが言うように、トランプは自分に有利に仕組まれたポーカーを引き継いだにもかかわらず、プレーをするふり自体が気に食わないとばかりにテーブルをひっくり返してしまったのだ。
https://pluralistic.net/2026/01/26/i-dont-want/#your-greenback-dollar
トランプがグリーンランドの強奪を試みた時点で、ドルのデメリットがメリットをはるかに上回ることは明白となった。先月、欧州中央銀行(ECB)総裁のクリスティーヌ・ラガルドはラジオ番組で、米国の決済デュオポリーであるVisa/Mastercardを回避するため、欧州が独自の決済システムを構築することが「急務」であると公に表明した。
https://davekeating.substack.com/p/can-europe-free-itself-from-visamastercard
Visa/Mastercardを避けたい理由はいくらでもあるが、まずはコストの問題だ。両社はパンデミック以降、手数料を40%以上値上げしている(言うまでもなく、データベースの更新作業が2020年以降40%高くなったわけではない)。これにより、2つの米国企業が世界経済全体に税を課すことが可能になり、毎年24兆ドル相当の世界の取引からスワイプ手数料やその他の手数料を徴収している。
https://finance.yahoo.com/news/europe-banks-launching-product-break-101215642.html
だが、Visa/Mastercardから離脱すべきもう一つの理由がある。トランプが両社をコントロールしているのだ。トランプは自分の気に入らない個人や機関に対して、決済処理を遮断するよう命じることができる。実際に、ベンヤミン・ネタニヤフに対するジェノサイド逮捕状を発行した国際刑事裁判所(ICC)への報復として、あるいは犯罪的独裁者ジャイール・ボルソナロに不利な判決を下したブラジルの裁判官に対して(トランプはボルソナロ裁判の担当裁判官の暗殺まで示唆した)、すでにこれを実行している。さらに、Visa/Mastercardは米国人以外の間で行われた数十億件(数兆件?)の小売取引の記録を保有しており、トランプ政権の当局者は監視目的で、あるいは$TRUMPコインを最も多く購入した企業への忠誠報酬として米国企業に利益供与するための商業スパイとしてこれにアクセスできる。
ラガルドのラジオ発言から2日後、欧州13カ国が「EuroPA」の結成を発表した。これは米国の決済プロセッサー(およびAlipayなどの中国のプロセッサー)を迂回して、地域全体の取引を可能にする同盟である。
European Business Magazineが指摘するように、EuroPAは欧州の決済ネットワーク構築に向けた一連の試みの最新版である。
16カ国が参加するEuropean Payments Initiative(EPI)が2024年に立ち上げたWeroは、現在ベルギー、フランス、ドイツで4,700万人のユーザと1,100の銀行を擁し、ネットワーク経由で75億ユーロが利用されている。
https://finance.yahoo.com/news/europe-banks-launching-product-break-101215642.html
Weroは電話番号を識別子とするP2P決済システムとしてスタートしたが、昨年末には小売分野にも拡大し、Lidlをはじめとする大手小売業者がWero決済の受け入れを開始した。
先週、WeroはEuroPAとの提携を発表し、新たに1億3,000万人がサービスを利用可能となった。これによりEU全体とノルウェーの72%がカバーされる。2026年には国際P2P決済の展開が始まり、2027年には小売およびeコマース決済も開始される予定だ。
こうした成功は、それに先立つ失敗の数々を踏まえるといっそう注目に値する。たとえば2008年に誕生したMonnetは2012年には消滅してしまった。EPIも設立以来低迷が続いていたが、トランプがグリーンランドを渡さなければEU加盟国に軍事力を行使すると脅したことをきっかけに、ようやく新たな活力を見出した。
EBM誌が書いているように、地域決済プロセッサーの構築に向けた過去の試みは、EU域内の各国決済事業者間の内紛によって頓挫してきた。各事業者が自分の縄張りを頑なに守り、互いに足を引っ張り合ったのだ。その結果、国境を越えた商取引にはVisa/Mastercardが最良の(そして多くの場合唯一の)手段として残った。これがVisa/Mastercardの「ネットワーク効果」を生み出した。多くの欧州人が財布に米国のクレジットカードを入れている以上、欧州の加盟店はそれに対応せざるを得ず、またEU域内の多くの加盟店がVisa/Mastercardに対応している以上、欧州人はそれを財布に入れておかざるを得なかったのである。
ネットワーク効果は厄介だが、克服できないわけではない。EUはこの問題に複数の角度から取り組んでいる。EuroPAだけではなく、デジタルユーロ――中央銀行デジタル通貨(CBDC)――の創設も進めている。これは基本的に、登録した欧州人すべてにユーロ圏の連邦銀行であるECBの口座を与えるものだ。そしてアプリやウェブサイトを使えば、デジタルユーロの利用者同士がECBの台帳を通じて、即座に、手数料ゼロで送金できるようになる。
EBM誌はEuroPAの立ち上げにあたっての致命的な課題を指摘している。低コストで利用できる設計であるがゆえに、Visa/Mastercardが享受しているような莫大な利益を参加銀行にもたらすことができず、EuroPAのインフラへの投資が滞る可能性があるという点だ。
しかし銀行は、多数の人々から少額ずつ収益を得ることには慣れている。しかも、デジタルユーロが「公的オプション」として存在することで、民間セクターのEuroPAシステムにはシステムの継続的改善を促す競争相手がつくことになる。
たしかに、欧州の決済処理はこれまで遅々として進まなかった。しかしそれは、欧州の企業、政府、家計がまだドル――そしてそれに付随する決済事業者――を中立的なプラットフォームとみなし、地政学的な敵対者ではないと取り繕うことができた時代の話である。
過去3年間でEUが実証してきたことが一つあるとすれば、それは巨大で重武装した狂気の帝国からの地政学的脅威が、長年の膠着状態を打破し得るということだ。思い出してほしい。プーチンのウクライナ侵攻とロシア産ガスの喪失は、EUの気候目標を信じがたいほど前進させた。太陽光発電の普及において15年の遅れを抱えていたEUは、わずか数カ月で計画より10年先を行くまでになった。
https://pluralistic.net/2026/02/05/contingency/#this-too-shall-pass
文明史上最も強大なロビー団体の一つである化石燃料ロビーが総力を挙げた攻勢をかけていたにもかかわらず、である。
危機は変革を引き起こす。そして、トランプは危機を引き起している。
Pluralistic: Europe takes a big step towards a post-dollar world (11 Feb 2026) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow
Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: February 11, 2026
Translation: heatwave_p2p