以下の文章は、2025年8月15日付のコリイ・ドクトロウの「Bluesky creates the world’s weirdest, hardest-to-understand binding arbitration clause」という記事を翻訳したものである。
Blueskyを使える日が待ち遠しい。だが、Blueskyに加入するつもりはない。Blueskyの幹部や取締役会のメンバーには面識のある人もおり、信頼も尊敬もしている。しかし、サービスそのものはメタクソ化への耐性が不十分であり、信頼を寄せるには至らないと考えている。
https://pluralistic.net/2024/12/14/fire-exits/#graceful-failure-modes (邦訳)
BlueskyのCEOであるジェイ・グレイバーとは何度か会ったことがあり、講演も数回聞いている。「メタクソ化に強い」ソーシャルメディアを作るという彼女の明確なコミットメントには、大いに感銘を受けた。
https://www.wired.com/story/bluesky-ceo-jay-graber-wont-enshittify-ads
Blueskyの最も革新的でよく練られた機能のいくつかは、メタクソ化への耐性がきわめて高い。たとえば「コンポーザブル・モデレーション」は、ユーザに自分のフィードを並外れた自由度でコントロールする力を与える。これにより、サービスの運営者が広告や金で優遇された投稿のスペースを確保するためにフィードの有益な情報を恣意的に減らすことが難しくなる(Twitterのように、オーナーの独り言や、最後に彼と話したよくわからないファシスト仲間の投稿が優先されるようなこともない)。
https://bsky.social/about/blog/4-13-2023-moderation
さらに、このコンポーザブル・モデレーションとオープンなクライアントAPIの組み合わせにより、Bluesky(企業)はコンテンツのブロックに関する法的義務を遵守しつつ、Blueskyのユーザはそのブロックを回避できる。たとえば、Blueskyにはトルコの権威主義的検閲制度のもとでブロックすべきコンテンツにフラグを付けるラベリングサービスがあり、Blueskyの公式クライアントはデフォルトでそのフラグが付いたコンテンツをトルコのユーザに対してブロックする。しかし、ユーザはそのブロックをオフにすることもできるし、トルコでのブロックフラグを無視する代替クライアントを使うこともできる。
英国の「オンライン安全法」に基づく大規模検閲制度についても同様である。Bluesky(企業)は公式クライアントのユーザに対して年齢確認プロセスを実施する(あらゆる年齢確認がそうであるように、この仕組みも大変に出来が悪い)。だが、別のクライアント(英国政府の制裁を気にしないもの)を選べば、英国のユーザは年齢確認なしでBlueskyのすべてにアクセスできる。
だが、メタクソ化防護の要となる連合(フェデレーション)は、Blueskyにおいて遅れをとってきた。Blueskyの歴史の大半において、Blueskyのユーザにならずにそのサービスに参加することは不可能だった。Blueskyネットワークの最も重要な部分の運用コストが途方もなく高く(年間数千万ドル)、独立した連合サーバを簡単に構築するためのツールも存在しなかったからである。
Bluesky(企業)にアカウントを作らずにBlueskyネットワークに参加する手段がない以上、ユーザはBlueskyの利用規約に従わざるを得ず、Bluesky(企業)によってネットワークへのアクセスを一方的に停止される可能性がある。
Bluesky(企業)の現在の経営陣については、かなり高く評価している。しかしBlueskyには外部投資家――不安を掻き立てるほど愚かで胡散臭い名前のBlockchain Capital――がいる。彼らが一度Blueskyのメタクソ化を思い立てば、善良な人間を取締役会から追い出し、経営陣を解雇し、どこにでもいる企業のソシオパスに入れ替えることができる。
しかも、ユーザがBlueskyの人質になっている――サービス上で大切にしている人間関係を失わずに企業と縁を切る方法がない――という事実は、新しい経営陣がBlueskyユーザをいくらでも苦しめられることを意味する。その苦痛が「企業への憎悪がユーザ同士の絆を上回る」ほどにはならない程度に抑えておけばいい。
対照的に、連合――Bluesky(企業)と縁を切ってもサービスへのアクセスを失わない仕組み――があれば、投資家たちもこう理解するかもしれない。ユーザを締め上げれば、彼らは企業のサーバからいとも簡単に離脱できるのだと。離脱してもサービスへのアクセスは失われない。もちろん、投資家がそれを理解しなかったとしても、問題はない。ユーザは離脱できるのだ――スイッチングコストを一切負担することなく。
ここで朗報がある。Blueskyは真の連合に向けてめざましい進歩を遂げた。Blueskyのフルスタックの運用コストは、年間数千万ドルから月額わずか数十ドルにまで下がった。
https://whtwnd.com/bnewbold.net/3lo7a2a4qxg2l
これは極めて歓迎すべき進展であり、Blueskyのサービスをメタクソ化から守る上で大きな前進であるし、Bluesky(企業)のメタクソ化耐性にもある程度は寄与する。
だが、Bluesky(企業)にはまだ深刻な課題が残っている。
現状、Blueskyの利用規約はアカウントを作成するすべてのユーザが同意しなければならない非常に問題のあるものだ。とりわけ、Blueskyの利用規約には「拘束力ある仲裁[binding arbitration]」条項が含まれており、Blueskyがユーザにどんな損害を与えようとも訴訟を起こす権利を放棄するよう強制している。これはメタクソ化推進派にとってこの上ない好都合であり、いわばメタクソ化航空専用の滑走路のようなものだ。メタクソ化的ナンセンスを満載した747型機が10分おきに、24時間体制で、Blueskyのユーザの上に着陸できる。いかなる法的帰結も心配する必要がない。
拘束力ある仲裁は、かつては違法だった。確かに、規模や力が同程度の2つの事業体が、裁判ではなく仲裁人に判断を委ねることで紛争を簡素化するのは構わなかった。だが、4万語もの法律用語の洪水を個人の喉に流し込むだけで訴訟の権利を奪うことなど、許されていなかった。拘束力ある仲裁条項という疫病を世に解き放ったのは、アントニン・スカリアの完全なる暴挙であり、その結果、今日では歯科医からソーラーパネル設置業者、ライドシェア企業に至るまで、あらゆる事業者が訴訟権の恒久的な放棄を我々に強要している。たとえその過失や悪意によってあなたが永久に障害を負ったり命を落としたりしても、あなたは裁判を起こす権利を奪われる。
https://brooklynworks.brooklaw.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1443&context=blr
今や拘束力ある仲裁はあらゆるところに蔓延し、企業が完全な法的免責を手にしている。ある女性がディズニー・ワールドでの食事に含まれていたアレルゲンで死亡したとき(アレルゲンは含まれていないと告げられていたにもかかわらず)、ディズニーは遺族の夫に対して訴訟はできないと主張した。理由は、ディズニー+のストリーミングサービスの無料体験に登録する際に、拘束力ある仲裁条項に同意していたからだという。
拘束力ある仲裁はインターネットのあらゆる領域に侵食しており、弁護士に聞けば「安全のために」利用規約に入れるべきだと助言されるほどだ。そうした弁護士は無知か、悪質か、あるいはその両方だが、どこにでもいる。今年の夏には、Mastodonが新しい利用規約(すべてのMastodonインスタンスのデフォルトになるはずだった)を公開しかけたが、そこにも拘束力ある仲裁が含まれていた。弁護士に必要だと言われたからだ。
https://en.chuso.net/mastodon-tos-july-2025.html
Blueskyはこのほど新しい利用規約を発表し、拘束力ある仲裁条項を改善したと主張している。
https://bsky.social/about/support/tos#governing-law
だが、出来上がったものはまったく意味不明で支離滅裂だ。少なくとも十数回は読み返したが――拘束力ある仲裁について10年以上追いかけ、書いてきたにもかかわらず――何を意味しているのかさっぱりわからない。
新しい条項によれば、「Blueskyの詐欺、犯罪的不正行為、または重大な過失が死亡または身体的傷害を引き起こしたとする請求」については仲裁の必要はないという。結構なことに聞こえる。だが同時に、それはBlueskyを訴え得るあらゆる事由を網羅しているようにも思え、では一体何が仲裁の対象になるのかと首をかしげざるを得ない。
さらに、拘束力ある仲裁条項の目的が嫌がらせ訴訟やその脅しを抑止することにあるなら、この条項はその効果を完全に無効化している。嫌がらせ目的の訴訟を起こす者は、「詐欺、犯罪的不正行為、または重大な過失」を理由に訴えていると主張するだけで、Blueskyはまた法廷に引き戻されるのだから。
この条項の目的はただ1つだと推測するしかない――Blueskyに不満を持つ人々を威圧し、法的救済を求めることを躊躇させることだ。この不可解で意味不明な条項が自分のケースに適用されるのかどうか、判断がつかないのだから。
仲裁条項にはほかにも巨大な危険信号がある。たとえば集団訴訟の禁止条項だ。なぜこれが仲裁条項において特に悪質なのかを説明しよう。
仲裁はデフォルトで(a)非公開であり(b)先例拘束力がない。つまり、企業が過失・詐欺・悪意によって大勢の人に損害を与えた場合、被害者は一人一人個別に仲裁人の前に立って自分のケースを証明しなければならないが、他の被害者がどう主張したかを知ることは許されず、仲裁人は完全に同一の案件を同じように判断する義務もない(過去の判断に先例としての拘束力がないためだ)。
これを回避する手段の1つが大規模仲裁[mass arbitration]である。Uberのドライバーたちがチップを数千万ドル規模で盗まれた際に用いた手法で、他の企業被害者たちも同様の戦術を成功裏に展開してきた。
https://pluralistic.net/2021/06/02/arbitrary-arbitration/#petard
集団訴訟は、膨大な数の人々が比較的少額ずつ被害を受けた場合に、企業の責任を追及できる唯一の手段だ。たとえば被害額が500ドル以下なら、わざわざ弁護士を雇って取り返そうとはしないだろう。Blueskyには3,600万人のユーザがいる。つまり、集団訴訟の禁止のおかげで、Blueskyは全ユーザから約180億ドルを搾り取っても、会社を揺るがすような大規模訴訟を心配する必要がないということになる。
これは断じてサービスのメタクソ化防護とは言えない。
公平を期すなら、仲裁条項の例外規定がこの種の詐欺を抑止する効果を持つかもしれない。ただし、それはその条項が一体何を意味しているのか解読できればの話だ。また公平のために付け加えれば、新しい仲裁条項では仲裁人を3名選任する仕組みになっている。1名はBlueskyが、1名はあなたが、そして3人目は双方の合意で選ぶ。
この仕組みは、許容しがたく不公正なプロセスに一定の公正さをもたらすものだが、それをもって許容可能な水準に達したとは言えない。とりわけ、Blueskyには仲裁申立を大規模仲裁に統合する権利が留保されているのに、潜在的な被害者がBlueskyにとって不利になるような集団を形成することは認められていない。
Blueskyが法的責任から身を守りたいなら、ほんの数年前までどの企業もやっていたことをすればよい。(a)意図的に法律を破らないこと、そして(b)保険に入ること。
この新しい利用規約はまったくのごった煮だ。私ならクリックしてまで同意はしない。
そして幸いなことに、同意する必要がない。なぜなら、Blueskyは永遠に称賛されるべきことに、Blueskyサービスの完全な一級参加者として機能するBlueskyサーバを構築するために必要な技術的コンポーネントを提供しており、そのユーザがこの利用規約に同意する必要はないからだ(ただし残念なことに、すでにBlueskyのユーザである場合は手遅れだ。利用規約には、アカウントを削除しても強制仲裁条項の拘束を受け続けると記されている)。
レガシーなソーシャルメディアは苦境に立たされている。FacebookもTwitterも、もはや成長の余地がないという事実から投資家の目をそらすため、AIの金融劇場で必死にもがいている。パニック売りを食い止めようというわけだ。
新しい連合型の独立したウェブが、いま我々の目の前で誕生しつつある。ActivityPub(Mastodon)とATProto(Bluesky)の上に構築されるこのウェブは、ザッカーマスク的ウェブのメタクソ化の規範に屈する必要はない。この新しいウェブを築く人々が賢明であれば、自分たち(そしてその後継者たち)がメタクソ化の誘惑に負ける能力そのものを制限する、取り消し不能な措置を講じるだろう。「ユリシーズの誓約」、つまり将来の誘惑に屈しないよう、自らをマストに縛り付けるのである。
利用規約に拘束力ある仲裁を盛り込むことは、ユリシーズの誓約の真逆の行為だ。それは、自分自身が――そして投資家たちがサービスレベルの裏切りの時が来たと判断して後任に据えた人間が――気が向けばいつでもメタクソ化を実行できる能力を確実に保持したいということに他ならない。
我々はもっと良いものを要求できる――そして、自前のBlueskyサーバを運用しているなら、実際にそれが可能なのだ。
私のシスアドであるケンが、コロケーション施設で新しいサーバのハードウェアを受け取ったばかりで、これから数週間のうちに私専用のMastodonサーバとBlueskyサーバをセットアップしてくれるという。Blueskyサービスを使えるようになるのが本当に楽しみだ。Blueskyの利用規約にクリックして同意する必要もなければ、将来の経営陣がメタクソ化の策略を試みる際に身をさらす必要もないのだから――なぜなら、まさにその利用規約がそうした行為を許す余地を与えてしまっているのだから。
Pluralistic: Bluesky creates the world’s weirdest, hardest-to-understand binding arbitration clause (15 Aug 2025) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow
Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: August 15, 2025
Translation: heatwave_p2p