以下の文章は、NiemanLabの「What will a conservative National Labor Relations Board mean for news unions?」を翻訳したものである。
今週初めのトランプ大統領の人事刷新によって、全米労働関係委員会(NLRB)が混乱に陥っている。メディア業界の労働運動指導者たちは、労働組合の認定申請や法違反の申立てに要する時間がいっそう長引き、ニュースメディアではストライキがより頻繁に行われ、そして長期化するだろうと予想する。
ドナルド・トランプ大統領は月曜日深夜、NLRBのジェニファー・アブルッツォ法律顧問とグウィン・ウィルコックス委員を解任した。これにより、雇用主と労働者の調停役を担う独立政府機関であるNLRBの委員は、5人の定員のうち2人だけとなった(注:ウィルコックスの解任は全国労働関係法に違反しており、ガーディアン紙によると、ウィルコックスは法的措置を検討しているという)。定足数に満たないNLRBは、連邦レベルの事案について判断を下せない状況に追い込まれている。
労働委員会のオブザーバーたちによると、すでに予算不足と人員不足に悩む NLRBが右傾化すれば、同機関はさらに雇用主寄りの姿勢を強め、労働組合の組織化は一層の困難に直面することになるという。ジャーナリズムを含むあらゆる産業の労働者は、連邦法による保護が期待できない以上、自らの権利を守るために立ち上がらざるを得ない状況に置かれている。
そもそもNLRBは何をする機関なのか?
NLRBは大統領が指名し(上院の承認を経て)、連邦労働法を執行する「準司法機関」である。全国労働関係法に基づく労働法違反の審理・判断、労働組合選挙の管理、使用者・労働者・労働組合による不当労働行為(ULP)の調査、そして労使間の紛争調停を行う。
ニュース業界におけるNLRBの具体的な活動例を挙げると――2020年にはNBCUniversalによる従業員の賃上げ撤回を認めず、2021年にはアイダホ・ステーツマン・ニュースギルドの不当労働行為申立てをめぐってマクラッチーがジャーナリストにページビューのノルマを課すことを禁止した。また、2024年にはストライキ中のピッツバーグ・ポスト・ガゼット組合員が労働契約の交渉を試みる中、同社の不当労働行為を止めるための差止命令を求めたことがある。
同機関は全国に26の地方事務所を構え、それぞれの管轄地域で事案を調査している。必要に応じて地方事務所が申立てを行い、行政法審判官が地方公聴会で事案を審理する。当事者は判断を不服として連邦控訴裁判所に上訴でき、裁判所はNLRBの判断を支持するか覆すことができる。ただしNLRBには自らの判断を強制執行する権限はなく、その立場は往々にして与党の政治的意向と連動する傾向にある。
近年、同機関は慢性的な予算不足と人手不足の問題を抱える一方で、着実に増加する業務量に追われている。これにより影響力と信頼性は低下の一途をたどり、NLRBが事案の判断するまでに数か月、時には数年を要することもある。その間、労働者たちは宙ぶらりんの状態に置かれ続ける。
In These Timesで労働組合、労働運動、不平等問題を取材するハミルトン・ノーランは、長年にわたり労働問題を追い続けてきたジャーナリストだ。彼は2015年にゴーカーの記者として、米国初のデジタルニュースメディアの労働組合となるゴーカー・メディアユニオンの組織化委員会に参加した。共和党主導のNLRBの下では、雇用主と対立するニュースルームの労働組合は、政府を公正な審判者として頼ることが難しくなるだろうとノーランは指摘する。
「トランプが労働組合の組織化プロセスを監督する政府機構を破壊しようとしているという意味では、悪い状況だ」とノーランは語る「共和党は労働法の執行と新規労組の認証を、官僚的な手続きでがんじがらめにしようとしている。だが、これも一時的なものにすぎない。労働者の団結を妨げることはできないはずだ。むしろ今こそ、かつてないほど労働組合が必要とされている時代なのだから」
労働統計局の最新データによれば、2024年の米国の組合員数は1430万人、組合加入資格を持つ賃金・給与労働者のわずか9.9%にとどまる。これは2020年の10.8%、2016年の10.7%から緩やかに減少している。しかしニュースギルド・通信労働組合(CWA)のジョン・シュロース会長は、第1期トランプ政権下でメディアの労働組合運動が大きなうねりとなったと指摘する。2017年から2020年の間だけでも、約3,400人のメディア労働者がに加入し、2016年以降では146社から約8,000人が加入した。シュロースは、トランプの二期目にも同様の組織化の波が押し寄せると予想する。
「現在、業界を問わず、労働者たちは自分たちの生活に漂う不安、とりわけ職場の混沌を少しでも和らげようとしている」とシュロースは語る。「だからこそ、これまで以上の規模で労働組合の結成に向かうだろう」
近年、多くのメディア組織が自社のニュースルームで結成された労働組合を自主的に承認している。テキサストリビューン、ポリティコ、アトランティック、グリスト、プロパブリカなどがそうだ。
しかし、1935年の全国労働関係法――労働者の団結権、団体交渉権、そして報復を恐れることなく労働条件の改善を求める権利を保障する連邦法――に対するニュースパブリッシャの抵抗は、その始まりから物語の一部であった。例えば、1937年のAssociated Press v. Labor Boardにおける最高裁判決では、APが1935年にジャーナリストのモリス・ワトソンを組合活動を理由に違法に解雇したと判断し、「新聞発行者は一般法の適用から特別に免除されることはない。他者の権利と自由を侵害する特権を持つものではない」と断じた。西部メディアギルドのマット・ピアース会長によると、このような敵対関係は今日も続いているという。
「我々は1930年代以前の時代に逆戻りしつつある。あの頃は労使関係がはるかに不安定で、ストライキが頻発し、経済活動も混乱の連続だった」とピアースは語る。「ルールは理由があって設けられた。そして今、我々はその理由を学びなおすことになるのかもしれない」
待たされる正義
近年、NLRBの業務量は右肩上がりだ。2023年10月から2024年9月までの1年間で、労働組合選挙の申請は3286件に達した。前年比27%増、2021年の2倍以上にのぼる。不当労働行為の申立ても2万1000件を超え、前年比7%増を記録した。NLRBの事案検索ポータルによれば、現在2万6000件以上の不当労働行為の申立てが未処理のまま積み上がっている。
しかし、NLRBの慢性的な予算不足と人員不足により、労働法を公正かつ迅速に執行する能力が失われていると労働運動指導者たちは指摘する。NLRBは2014年から2023年まで9年間、予算増額が見送られ続けてきた。2024年度の予算は2億9900万ドルで、2025年度は3億2000万ドルへの増額を要求しているものの、NLRBの労働組合自身が「連邦労働法を執行するために必要な資源には程遠い」と認めている。
NLRBの報告書によれば、2023年の労働組合選挙申請から実施までの平均処理時間は37日、申請から結果認証までは56日を要した。不当労働行為の申立てについては、調査から処理(結論)までの平均時間は124.2日(4か月)と前年比50%増となっている。
「まるでNLRBが存在しないかのような状況だ」とピアースは言う。「保守的な委員会であろうとなかろうと、大きな違いはないかもしれない。雇用主寄りのトランプNLRB委員会に却下されるにしても、そもそも申立ての処理自体に途方もない時間がかかっている」
委員会の政治的偏りはともかく、この長い待ち時間は現実に影響を及ぼし、労働者とその生活を危険にさらしている。
「雇用主が従業員に報復しているようなケース、たとえば違法解雇や、交渉なしの給付・賃金の切り下げを断行するような場合には、とりわけ危険だ」とシュロースは指摘する。
この危機的状況は、すでにコネチカット州で現実のものとなっている。2024年8月、ハースト・コネチカットの記者、カメラマン、編集者、デジタルプロデューサーら100人以上がコネチカット・ニュースギルドを結成した。ハーストが労働組合の自主的な承認を拒否したため、組合は地域のNLRB事務所に選挙実施の申請を行わなければならなかった。本稿執筆時点で、同地域のNLRB事務所は選挙日程すら設定していない。そして労働組合は、選挙結果がNLRBによって認証されるまで、使用者との労働契約交渉の糸口すら掴めずにいる。
コネチカット・ニュースギルドの組織化委員会メンバーであるマーサ・シャナハンによると、組合員から「選挙がいつ行われるのか」という質問が頻繁に寄せられているという。彼女はそれに答えることすらできない。「時間が過ぎれば過ぎるほど、この不確かな答えに人々は疲弊していくだろう」とシャナハンは語る。
「選挙の遅れは、団結を少しずつ蝕んでいく。人々の心が離れていく可能性も、士気が下がっていく可能性も、日に日に高まっている。支持は今なお強く、選挙になれば勝利できると確信している。でも、1週間、1ヶ月と過ぎるごとに、我々の勢いは確実に失われている」
コネチカット・ニュースギルドが労働組合結成を発表してから2週間後、ハースト・コネチカットはデジタルプロデューサーで組合オーガナイザーのエイドリアン・シュコラーを解雇した。組合によると、シュコラーは(職務の一環として)同社のFacebookページにハーストの組合に関する記事を投稿し、「記事には含まれていなかった、労働者の約85%が組合カードに署名したという統計を添えた」という。
「これは明らかな過剰反応で、組合オーガナイザーに対する報復以外の何ものでもない」と組合は反発した。「彼には懲戒処分を受けるような理由も、業績に関する問題もなかった。他の記事であれば、彼は職を失うことはなかっただろう」
ハースト・コネチカットの広報担当者は「労働組合の組織化活動への関与を理由に従業員が解雇されたというのは完全な誤りだ」と声明で反論した。「ハースト新聞社は従業員の組織化と保護された活動に従事する権利を尊重し、支持している。人事に関する決定は、すべての適用法を遵守しながら、純粋にビジネスと業績に関する要因に基づいて行われている」
コネチカット・ニュースギルドは8月19日、ハースト・コネチカットを相手取り不当労働行為の申立てを行った。地域のNLRB事務所がコネチカット・ニュースギルドの選挙と不当労働行為の申立てについて判断を下すが、ハースト・コネチカットが判断を連邦委員会に上訴すれば、さらなる遅延は避けられないとシャナハンは語る。
「政府が法律を執行するまで、我々はいったいどれだけ待たされるのか」とピアースは言う。「(NLRBは)後になって(会社が)違法に解雇したと判断し、未払い賃金の支払いを命じるかもしれない。だがジャーナリズムの世界では、その頃にはとっくに別の都市に移住しているかもしれない。このご時世、新しい仕事を見つけるにはそうするしかない。我々はすでに雇用主たちが思い描いた世界に生きているのだから」
ピッツバーグでは、NLRBの決定はポストガゼット組合に概ね有利なものだったと、ピッツバーグ新聞ギルドのザック・タナー会長は語る(ただし一部には組合指導部への批判もある)。しかし、不当労働行為の申立ての処理の遅れは、労働者と労働運動へのコミットメントを弱体化させうる。
ピッツバーグ・ポストガゼットのジャーナリストたちは2022年10月、印刷、配送、広告部門に続いてストライキに入ることを僅差で可決し、デジタル時代初の新聞ストライキが始まった。2年半近く経った今、これは米国で最も長く続くストライキである。
「ポストガゼットは、NLRBの判断を勝ち取るまでにどれだけ時間がかかるかを知っていたからこそ、法を破る勇気を持てたのだろう」とタナーは語る。「2025年の今になっても、我々は2020年以前に申し立てられた案件の執行命令を待たされている。その間、組合員たちは給与をカットされ、場合によっては保険料が3倍以上に跳ね上がり、法による雇用保護すら失った。このような状況は、我々の闘志を試練にかけ、仕事をいっそうストレスフルにし、端的に言って悪くする」
増加するストライキとストライキ中のパブリッシング
一部ニュースメディアの労働組合は、もはや政府の介入を待つ余裕も意志も失いつつある。代わりに彼らが選択するのは、職場放棄、ピケッティング、SNSを通じた世論喚起、スローダウン、ストライキといった、より直接的な集団行動だ。
2022年以降、ニュースギルドCWAの労働組合によるストライキは93件を数え、2024年だけでも36件が発生している。選挙前日には、ニューヨークタイムズ・テックギルドが2年を超える交渉の末に8日間のストライキに突入した。NYTテックギルドはストライキ基金の残金から11万4000ドルをピッツバーグ・ポストガゼット組合のストライキ基金に寄付することで連帯を示した。
9月、Law360の組合は、従業員の解雇と従業員の解雇と、契約に違反する形での保険プランの変更を受けてストライキに踏み切った。2024年2月には、オールデン・グローバル・キャピタル傘下のトリビューン・パブリッシングの従業員200人以上が、低賃金と退職給付廃止の脅威に抗議して24時間の職場放棄を行った。
しかし、ジャーナリストが仕事を止めると、すべての人が苦しむとシュロースは語る。ニュースが途絶えれば、読者は十分な情報を得られなくなる。この問題に対処するため、ピッツバーグの組合は独自メディア、「ピッツバーグ・ユニオン・プログレス(Pittsburgh Union Progress)」を立ち上げ、ジャーナリストたちは従来の担当分野の取材を継続しながら、ポストガゼットとの争議に関する最新情報も発信できるようになった。ユニオン・プログレスは、この労使紛争が解決された暁には自らの使命を終えることを明言している。同様の試みは他でも広がりを見せ、Law360はOutlaw360というストライキ時のニュースレターを創刊し、ビジネスインサイダー組合も2023年の1週間のストライキ中にビジネスアウトサイダーで独自の記事を配信した。
「そもそも、こうした長期の業務停止が生じること自体おかしい」とピアースは語る。「ジャーナリストたちは、NLRBがもはや助けにならないことに気づいている。この腐ったニュース企業から何かを勝ち取りたいなら、ピケラインに立って自分たちで戦うしかない」
シュロース、ノーラン、ピアースは、特にストライキのような集団行動が法的手段よりも有効で、現在の状況にあっては、おそらく頻発することになるという点で意見が一致している。
「より多くの労働者たちが労働力の提供を拒否するようになるだろう。ジャーナリストたちは、すでに十分すぎるほど打ちのめされ、攻撃にさらされてきた」とシュロースは語る。「彼らは雇用主から、我々の民主主義を取材し、権力の責任を追及するよう求められているのに、同時に雇用主から公正な賃金、まともな家族休暇、退職金を奪われている。そんなことがあってはならない」
写真:2024年8月、ストライキ中のピッツバーグ・ポスト・ガゼットのフォトジャーナリスト、エミリー・マシューズが、全米労働関係委員会がストライキ参加者を職場に戻す仮処分を申請した直後にスピーチしている。(ピッツバーグ・ユニオン・プログレスのアレクサンドラ・ウィムリー撮影)
ハナア・タミーズはNieman Labのスタッフライター。連絡はメール(hanaa@niemanlab.org)、Twitter DM(@HanaaTameez)、Signal(@hanaatameez.01)まで。
What will a conservative National Labor Relations Board mean for news unions? | Nieman Journalism Lab
Author: Hanaa’ Tameez / Neiman Lab (CC BY-NC-SA 3.0 US)
Publication Date: Jan. 30, 2025
Translation: heatwave_p2p