以下の文章は、NiemanLabの「Let’s fact-check Mark Zuckerberg’s fact-checking announcement」という記事を翻訳したものである。
アレクシオス・マンツァーリスは、コーネル工科大学のセキュリティ・信頼・安全イニシアチブのディレクターである。彼は2015年から2019年まで、ファクトチェック・プロジェクトの世界的な連合体である国際ファクトチェック・ネットワーク(IFCN)の創設ディレクターを務め、Metaのファクトチェック・プログラム(マーク・ザッカーバーグが今週、米国で終了すると発表したプログラム)を監督した。以下の文章は、マンツァーリスのニュースレター『Faked Up』の転載である。購読はこちらから。
つい先日、大学生のイケてる度をランク付けするために生まれたソーシャルネットワークのCEOが、「表現の自由を回復する」として原点回帰を宣言した。
その計画の要点は、Metaの信頼・安全部門をテキサス州に移転すること(実際にはモデレーションスタッフの大半はすでにテキサス州にいるため、これは表面的な発表に過ぎないのかもしれない)、そして女性嫌悪あるいは同性愛嫌悪のコンテンツに、より寛容な姿勢を示すことだ。さらに、有害コンテンツを検出するアルゴリズムの運用も終了する。その結果、より多くのMetaユーザがハラスメントに晒されることになるだろう(詳細はこの5分間の動画を参照)。
しかし、彼の発表の目玉は冒頭に置かれた。次期米国大統領から狙い通りの称賛を引き出せることを知っていたからだ。それは誤情報との戦いを掲げてきた長年のパートナーシップの終了宣言だった。
Metaのファクトチェック・プログラムの仕組みを説明しよう。ファクトチェック団体が専用ツールを通じて、広く拡散された疑わしい情報を精査し、Metaはその対価として報酬を支払う。虚偽と判定された情報は、以降の拡散が制限される。同時に投稿にはファクトチェックのラベルがつけられ、詳しい検証結果へのリンクとともに文脈が提示される。
2016年のスタート時、フェイクニュースの横行に対する批判をかわすための施策だったこのプログラムは、やがて90パートナー130カ国をカバーする巨大プロジェクトへと成長した(情報開示:私は2015年から2019年までファクトチェッカー組織のディレクターを務め、Metaに誤情報との戦いを提言し、このプログラムの形成に深く関わった一人である)。
Facebookは、同社が「非常に責任ある」ソーシャルネットワークであることの証として、この機能を何度も何度も誇ってきた。2021年3月の米国議会証言でも、ザッカーバーグはこのプログラムを「前例のない取り組み」と強調し、書面での提出資料では「業界をリードする」とまで豪語していた。
それは今や過去のものとなった。この件に関するザックの声明を全文引用しよう。
「まず、米国でファクトチェッカー制度を廃止し、XのようなCommunity Notes方式に移行します。2016年のトランプ初当選後、レガシーメディアは『誤情報が民主主義を脅かす』と連日書き立てていました。私たちは、真実の裁定者になることなく、誠実にこの問題に取り組もうとしてきました。ですが、ファクトチェッカーは政治的偏向が強すぎ、特に米国では、信頼を築くどころか破壊してきました。そこで今後数ヶ月かけて、より包括的なCommunity Notesシステムへの移行を進めていきます。」
わずか96語の中に、これほど悪意に満ちた事実の歪曲が詰め込まれていると、どこから手をつけてよいか途方に暮れてしまう。順に見ていくことにしよう。
Metaには、ファクトチェック・プログラムの偏向性を示す8年分のデータがあるはずである。だがザッカーバーグはその証拠を一切示さなかった。代わりに、誤情報への政治的に非対称な介入は、誤情報の政治的に非対称な拡散の結果であり得るという研究を無視することを選んだ。下図の研究が示すように、「虚偽ニュース」の定義を専門家ではなく超党派の一般市民の判断に委ねた場合でさえ、米国の保守派はそうした虚偽ニュースサイトのURLをより頻繁に共有する傾向にあった。
2016年当時、ザッカーバーグの部下たちは、アレックス・ジョーンズのような悪質なプレーヤーに利用されない、独立した検証の仕組みを必死に探していた。その答えが国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)の原則規定だった。完璧ではないにせよ、外部評価者による年次審査など、厳格な透明性要件を備えていた。
この規定は、保守系雑誌のThe Weekly Standardの認証を許可するほどには党派的ではなかった。これには当時、強い異論もあった。Metaの米国のファクトチェック・パートナーには、タッカー・カールソンが立ち上げたDaily Callerの関連組織Check Your Factも含まれている。
これらの事実を、ザッカーバーグはよく知っている。2019年の別の議会公聴会で、アレクサンドリア・オカシオ=コルテスがCheck Your Factについて追及した際、彼は「IFCNはファクトチェッカーの資格について厳格な基準を持っている」と答えている。
ザッカーバーグは、もう一つの重要な事実に触れなかった。ファクトチェッカーがフラグを付けるコンテンツの大部分は、政治的な発言ではない。ファクトチェック対象の大部分は、彼を90万ドルの時計を身につける大富豪に押し上げた、Metaプラットフォームが量産する質の低いスパムやクリックベイトである。
Metaの米国のファクトチェック・パートナーの一つ、PolitiFactは、このプログラムで虚偽認定した情報をすべて一箇所に集約している。そのうち100件以上を分析したところ、次のような結果が得られた。社会保障の削減やトランプの弾劾といった、政治的にセンシティブな投稿はわずか21%。ミッチ・マコーネルの健康状態やカシュ・パテルがFBIを「ゲイ」と呼んだといった政治絡みのスパムが同じく21%。そして最大の45%は、出場停止処分を受けたNFLの審判やニセのタイタニック号など、完全な政治とは無関係なものだった(選挙期間中でさえ、ラベルづけされた投稿は、投票不正に関する投稿と、トランプはSNLが嫌いやメラニア・トランプがカマラ・ハリスを支持したといったスパムのデマが同程度だった)。
このプログラムの終了を「表現の自由の擁護」として正当化するザッカーバーグの姿勢は、そもそもファクトチェックのラベルは投稿の削除ではなかったことを考えれば、いっそう腹ただしく思える。Metaは(当然ながら)、投稿の拡散を抑えつつもユーザのアクセスは妨げない文脈的な介入としてファクトチェックを位置づけていた。私は憲法の専門家ではないが、これはルイス・ブランダイス判事の「誤った主張には『さらなる言論』で対抗せよ」という理念に沿うものだったはずだ。
完璧なプログラムだったとは言わない。ファクトチェッカーもある程度の誤判定は犯してきた。Metaの透明性レポートによれば、EUでのエラー率は約3%程度だった。これは他の拡散制限措置のエラー率と比べれば、驚くほど低い数字である。
たしかに、契約を終了する権利はMetaにはある。だが、このような形でのファクトチェッカー排除は、ポリシー的判断ではなく政治的な動きにすぎない。
そして、これもMetaらしい話だが、あくまで米国の政治の文脈での判断だ。2016年、Facebookは国内のステークホルダーから批判を浴びた後にファクトチェック・プログラムを立ち上げた。それ以前にフィリピンから警告され続けていたが、それはずっと無視されてきた。今日、米国以外のMetaのファクトチェック・パートナーたちは、このプログラムが世界的に終了するのかどうか、推測するしかない状況に置かれている。EUでは、デジタルサービス法の第34条および35条の要件があるので、MetaはEUでのパートナーシップについては維持するか、段階的に縮小していくのかもしれない。
そして、「検閲的な」ファクトチェッカーに代わるザッカーバーグの提案について。
格闘技でやっつけると豪語した相手のプラットフォームの機能を丸ごと真似るとCEOが宣言することなど、そうそうあることではない。
仮に、ザッカーバーグが本気で、偏りのない、言論の自由を重視した誤情報対策のためのクラウドソーシングに取り組もうとしていると仮定しよう。
だとすれば、彼はまず、Community Notesのユーザは党派性に左右され、政治的な敵対者を過剰にチェックする傾向があるとする研究に目を通すべきだろう。また、Xでは作成されたCommunity Notesの90%が表示されないという事実も知っておく必要がある。
私自身、ザッカーバーグが重篤な中年の危機に陥る遥か以前から、クラウドソーシング型のファクトチェック・プロジェクトを破綻させてきた人間である。だからといって、ユーザ主導のファクトチェックに原理的に反対しているわけではない(来週のニュースレターでこのテーマについて詳しく掘り下げる予定だ)。ただし、クラウドソーシング・プロジェクトの質は、参加者のインセンティブ構造にかかっている。そのインセンティブが啓発的なものになると期待できる要素は、Metaの歴史を振り返る限り皆無である。
Let’s fact-check Mark Zuckerberg’s fact-checking announcement | Nieman Journalism Lab
Author: Alexios Mantzarlis / Neiman Lab (CC BY-NC-SA 3.0 US)
Publication Date: Jan. 8, 2025
Translation: heatwave_p2p