以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「It’s not a crime if we do it with an app」という記事を翻訳したものである。

「アプリでやれば犯罪ではない」――これがテック業界の規制に対する中心的な命題である。アプリでやれば無認可のタクシーも違法ではなくなる。違法なホテルの部屋も、未登録の証券も、賃金泥棒でさえも、すべて違法ではなくなる、と。
インフレーションは今世紀の政治にとって最も重要な課題のひとつである。そのインフレの多くは、アプリを介して行われる違法行為によっても引き起こされている。そして、その犯罪者たちは何の咎めも受けてはいない。あらゆる食品供給が2~5社の巨大企業のカルテルに支配されている。彼らは価格吊り上げを共謀し、それを誇らしげに語り、そして罰を免れている。「効率的な市場」においてこのような価格操作は起こり得ないと新古典派経済学者たちが主張してくれるのだから。
よく知られたカルテルも存在する。たとえばコーク/ペプシのデュオポリー[複占市場]だ。ペプシの経営陣は株主の前で「ペプシの価格決定力」を誇示し、新型コロナウイルスやロシアのウクライナ侵攻がもたらしたインフレ以上に価格を引き上げられたと豪語した。
https://pluralistic.net/2023/03/11/price-over-volume/#pepsi-pricing-power
スーパーマーケットに陳列されるパッケージ商品のほとんどがユニリーバとP&G[Procter & Gamble]のいずれかの製品であることは、よく知られている。両社のCEOは投資家たちを前に、インフレ率を上回る価格引き上げを自慢げに語った。
https://pluralistic.net/2021/11/20/quiet-part-out-loud/#profiteering
だが、すべてのカルテルがこれほどあからさまなわけではない。スーパーの卵売り場には、一見するとさまざまな企業の商品が並んでいるように見える。しかし実際には、Farmhouse Eggs、Sunups、Sunny Meadow、Egg-Land’s Best、Land O’ Lakesなど、棚に並ぶほぼすべての卵のブランドを所有しているのは、カルメイン・フーズただ1社だ。同社はパンデミック後と鳥インフルエンザの流行期に記録的な利益を上げた。CFOのマックス・ボウマンはその要因を「大幅な販売価格の引き上げ」と「インフレ市場圧力への適応力」によるものだと説明している。
https://pluralistic.net/2023/01/23/cant-make-an-omelet/#keep-calm-and-crack-on
しかしカルメインは比較的透明性が高い方だ。他の食品カルテル――とりわけレストラン向け業界のカルテル――は、その実態を把握するのがはるかに難しい。The Lever誌でカーチャ・シュウェンクは、冷凍ポテト市場(フライドポテトやポテトトッツなど)がLamb Weston、JR Simplot、McCain Foods、Cavendish Farmsの4社に支配されている実態を明らかにしている。
https://www.levernews.com/the-rise-of-big-potato
これらの企業は長年にわたって着実に価格を引き上げてきたが、ポストコロナのインフレ期に入ると本格的な価格吊り上げに乗り出した。シュウェンクの取材源の1人に、DCのスポーツバーIvy and Coneyのオーナー、ジョシュ・サルツマンがいる。10年前、サルツマンはフライドポテトを3ドルで提供していた。今は6ドルだが、それでも利益率は下がる一方だ。サルツマンの仕入れ先は限られており、どのサプライヤーもBig Potatoからジャガイモを仕入れている。しかも、ジャガイモの注文は他の供給品との抱き合わせになっているため、サルツマンが他の業者からジャガイモを購入することは事実上できない。
Big Potatoは冷凍ポテト市場の97%を支配している。これほどの規模で市場が寡占化されれば、必然的に業界内の結びつきは強まる。これらの企業の幹部たちは業界団体やロビー団体で顔を合わせ、カルテル内の企業間を転職する。とはいえ、ジャガイモの価格操作は個人的なつながりによって行われているわけではない。彼らはPotatotracという第三者のデータブローカーを通じてそれを実現している。カルテルの各メンバーは、供給コスト、価格設定、販売数値などの機密データをすべてPotatotracに送信する。そしてPotatotracは、そのデータを基に「最適な価格設定」という名の「アドバイス」をカルテルメンバーに提供するのだ。
これはアプリを使った価格操作以外の何物でもない。テーブルを囲んで公然と価格を話し合うわけではないが、これは価格操作そのものだ。さらに驚くべきことに、彼らはそれを認めている。McCainのディレクターは、「上層部」が社内の全員に価格競争を禁じていると述べた。Lamb Westonの幹部は、この仕組みを全員が「行儀よく振る舞っている」状態と表現し、「ジャガイモ業界の歴史上、これほどの高利益率は見たことがない」と喜ぶ。Lamb WestonのCEOは純利益が111%増加した要因を「価格設定のアクション」によるものだと説明している。
Lamb Westonの幹部たちは、自分たちの行為が小規模レストランを倒産に追い込んでいることを十分承知している。そして、この恩恵に浴しているのが、価格上昇を顧客に転嫁できる大手チェーン店、つまり「Chili’sやTexas Roadhouse、Cheesecake Factory」だということも。
これはジャガイモ業界に限った話ではない。Agri Statsというデータブローカーは米国最大手の食肉加工業者と手を組み、食肉価格の操作を行っている。その手口は同じだ。加工業者はBig PotatoがPotatotracに送るのと同じ種類のデータをAgri Statsに送信し、Agri Statsは同様の「推奨価格」を送り返す。これにより、彼らは足並みを揃えて食肉価格を一斉に引き上げることができるのだ。
https://pluralistic.net/2023/10/04/dont-let-your-meat-loaf/#meaty-beaty-big-and-bouncy
多くの食品カテゴリーが食肉やジャガイモと同様に近親交配的だ。「たとえばアーモンドミルク市場の80%近くを4社が支配している。缶詰のツナ市場の83%を3社が支配し、電子レンジ用ポップコーン市場の86%以上を4社が支配している」。
「アプリでやれば価格操作は合法」という手口は、食品業界に限った話ではない。Realpageのようなアプリを使えば、米国の住宅ストックの相当部分を買い占めた大手企業の不動産所有者たちが、家賃引き上げのために共謀することも可能になる。
https://pluralistic.net/2024/02/27/ai-conspiracies/#epistemological-collapse
そしてプライベートエクイティ企業は消防車会社をすべて統合し、トラックの価格を引き上げ、部品とサービスのボトルネックを作り出し、ロサンゼルスを含む全米の自治体から消防設備を奪っている。
https://www.thebignewsletter.com/p/did-a-private-equity-fire-truck-roll
こうした価格操作は、バイデン政権下のFTC反トラスト法執行部門による取り締まりの主要なターゲットとなった。彼らの調査と措置_(は、州の司法長官や民間当事者による反トラスト法訴訟の呼び水となった。問題は2つある。トランプ政権の執行機関がこの方針を引き継ぐかどうか。仮に引き継いだとしても、独占は「効率的」だとするヘリテージ財団の経済学に染まったトランプ派の判事たちが味方をしてくれるかどうかだ。
確かに、インフレには多くの原因がある。しかし、業界がデータブローカーを利用できるほど、あるいは暗黙の共謀が可能なほどに寡占が進めば、戦争、疾病、気候変動などあらゆるインフレ要因が、業界全体での一斉値上げの口実となり、そのショックが去った後も高止まりを維持する機会を与えることになる。
(Image: Cryteria, CC BY 3.0, modified)
Pluralistic: It’s not a crime if we do it with an app (25 Jan 2025) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow
Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: Posted on January 25, 2025
Translation: heatwave_p2p