以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Where did the money go?」という記事を翻訳したものである。
米国は3度目のK字型回復――富裕層はさらに豊かになり、それ以外の全員が貧しくなる経済的反動――を歩み続けている。富裕層がこれほどの富を手にしたことはかつてなかった。一方、経済を支えてきた借金頼みの消費はじりじりと細くなりつつある。
これは経済の鉄則でも大いなる歴史の流れでもない。富裕層が他のあらゆる人々から――地方・州・連邦の課税当局、さらには労働者、顧客、取引先、社会全体からも――富を搾り取ることを可能にするルールを、我々自身がつくり上げてきた結果だ。ジャンク手数料から賃金搾取、グリードフレーション(強欲インフレ)まで、政治家たちは不正な者たちに天秤を傾け、労働者から富を吸い上げて寄生虫に貢ぐ仕組みを整えてきた。
こうした詐欺師や山師たちは、我々からさらにひと絞りするための手口を次々と繰り出してくる。「今すぐ買って後払い(Buy Now/Pay Later)」という仕掛けで誘い込み、いざ払えなくなると巨額の手数料を叩きつける。あるいは仮想通貨や「予測市場」を使った証拠金ギャンブルへと誘導する――いずれも、あなたが常にカモで、胴元が常に勝つイカサマのポーカー卓だ。
こうした政府公認の詐欺や山師商法はトランプ政権が発明したものではないが、確かに彼らはそれを一気に加速させた。トランプは支持者を節操なく食い物にしている。$TRUMPコインで含み損を抱えた者なら誰もが知っている。そして彼の周囲を固めるのは、労働者・顧客・政府を騙すことで悪名高い「実業家」たちばかりだ。
トランプが後ろ盾になっているのは、詐欺師や山師だけではない。学生ローンの債務、医療費の未払い、Klarnaの4回目の支払いに失敗して膨れ上がったペナルティなど、借金の取り立て屋たちにも肩入れしている。
つまるところ、今の米国を動かしている産業は2つだ――米国人を借金漬けにする詐欺師の産業と、その借金を絞り取ることで米国人を苦しめる産業。この2つは国家にとって道徳的危機であるだけでなく、経済的危機でもある。なぜなら、両者は根本的に相いれないからだ。
米国人を騙して借金を背負わせるビジネスをしているなら、カモには金が必要だ(それを奪い取るために)。だが、詐欺師に食い物にされた米国人から損失を回収するビジネスをしているなら、その詐欺師自身と利害が衝突する。前の詐欺で積み上がった借金から回収した1ドルは、次の詐欺で失われることのない1ドルだからだ。
この矛盾が生みだしたのが、未曾有の金融危機だった。悪徳銀行家たちは、数年後には借り手が到底返済できない水準に跳ね上がる「つなぎ金利」が設定された持続不可能な住宅ローンを、人々に無理やり組ませた。だが貸し手は痛くもかゆくもなかった。自分たちはあくまで「ローンの組成者」であり、その融資を複雑な金融商品を通じて「投資家」に転売できたからだ。しかしこの2つのグループには解消不能な矛盾があった――融資を作る側が自分たちの詐欺を続けられるのは、融資を回収する側が返済を強く求めない限りにおいてのみだったのだから。
とはいえ、詐欺師と取り立て屋だけが経済を構成しているわけではない。第3のグループがいる。それは「人々が喜んで代価を払う、役に立つものを作りたいと思っている人々」だ。このグループは詐欺師とも取り立て屋とも対立する。彼らの潜在的な顧客が詐欺師に騙され、取り立て屋に破産させられているからだ。
たとえば、合理的な価格でホテルの部屋を貸すビジネスを始めたいとしよう。あなたは誠実な人間なので、サイトに料金をきちんと明示する。だが競合する悪徳業者たちは客を食い物にしたいので、あなたより安い価格を掲示しておき、チェックイン時に隠れた手数料を上乗せして、結局あなたの部屋より高くなる仕組みにしている。
さらに悪いことに、その悪徳業者たちは荒稼ぎしているので、少数の支配的な旅行サイト(そのすべてが2つの巨大プライベートエクイティ系の複合企業に買収されている)に賄賂を贈り、自分たちのホテルをあなたより上位に表示させることができる。彼らとて賄賂は支払いたくはないのだろうが、苦労して稼いだ詐欺の収益の一部を手放してでも、この金のなる木を回し続けようとする。その分は追加の隠れ手数料で補填すればいい。大丈夫だ。 払い戻し不可の前払い予約をキャンセルして、見知らぬ都市で空き部屋を探すヤツなんていやしない。
社会全体の視点から見れば、問題は明白である。経済成長をもたらすのは第3のグループだけなのだ。彼らこそが、顧客を喜ばせ、労働者と株主を豊かにする(新たに)役に立つ製品やサービスを生み出す側であり、豊かになった人々がさらにものを買い、経済の好循環を維持していく。
この化膿した経済ニキビが、ついにAIをきっかけに破裂しようとしている。AIの最も収益性の高い使い途は、あなたが立ち去らない限界まで売り手がいくら請求できる[どれだけ値段を釣り上げられるか]か、あるいは雇い主がいくら低い賃金で済ませられるか[どれだけ賃金を絞れるか]を予測することにあるからだ。
一方、AIに最も積極的な顧客は、従業員の大半を解雇し、その恐怖をチラつかせながら残った従業員の賃金を引き下げることを夢見る経営者たちだ。
https://pluralistic.net/2026/01/05/fisher-price-steering-wheel/#billionaire-solipsism
平均的な米国人がすでに中身を絞り出されたぺちゃんこの歯磨き粉チューブだとすれば、AIはそのチューブを縦に切り裂いて最後の残りカスをかき出すためのハサミだ。
アニル・ダッシュはこう述べている。
素晴らしい医療保険や手厚い福利厚生など、誰もが大好きだったあの諸々は、大手テック企業を経営する人々によって「市場の非効率性」と認定された。言い換えれば、本来彼らに行くべき富があなたのもとに流れ込んでいる、という意味である。
https://www.anildash.com/2026/01/06/500k-tech-workers-laid-off
詐欺師と取り立て屋の経済は、根本的に搾取的だ。プライベートエクイティファンドが企業を買収し、資産を売り払い、特別配当を宣言して収益を懐に入れ、かつて自社で所有していたものを今度は借りなければならないという理由で、その企業が「適正規模化」されたと宣言する――これは企業を終焉へと追い込む行為に他ならない。賃料の急騰か、数四半期の不振があれば、かつて健全だった企業はあっさり倒れる。
https://pluralistic.net/2024/05/23/spineless/#invertebrates
米国を眺めると、「あの金はいったいどこへ消えたのか?」と問わずにはいられない。州立大学の無償教育、充実した公共図書館、公営住宅、公共交通、人員の揃った国立公園や航空管制塔――あの諸々はどこへ行ってしまったのか? なぜ道路のくぼみすら直せないんだ? かつて国土の隅々まで電化を成し遂げた国が、なせ同じ屋根に延びる電線と同じルートで光ファイバーを引けないのか?
それは、詐欺師と取り立て屋を中心に制度が組み立てられているからだ。トランプのProject 2025を設計したヘリテージ財団は、ジェイ・ヴァン・アンデルとリッチ・デヴォスによって設立・資金提供された。彼らはアムウェイを運営して数十億ドルを稼いだ人物であり、アムウェイというネズミ講は、彼らの盟友ジェリー・フォードの大統領就任直後に合法化された。
https://pluralistic.net/2025/05/05/free-enterprise-system/#amway-or-the-highway
この国のシステムは、ネズミ講の売り手たちが生み出した組織に軸足を置く連中に乗っ取られ、彼らの手で動かされている。TwitterやFacebookの詐欺広告がトランプに投票したベビーブーマー世代の貯蓄を根こそぎ収奪にしているのに、なぜトランプ政権はそれを問題にしないのか? それは、トランプのイデオロギー的プロジェクトが、比喩でも誇張でもなく、文字通りの詐欺師たちによって創設されたからだ。
お金はそこへ消えたのだ。賢明な人々は今も問い続けている――国が壊滅的な崩壊状態にあり、飢えた国民を抱えるベネズエラから、トランプはどうやって石油を奪うつもりなのか、と。何百億ドルもの新設備に投資しようとする者が、一体どこにいるのか? 資本に費やしたすべての1ドルには、それが盗まれて食料と交換されないよう見張る武装した人間を雇う1ドルが必要になる。
同じ問いは米国にも向けられる。ワイロを文字通り合法化した国で、一体誰が生産的なビジネスに投資したいと思うのか?
https://www.youtube.com/watch?v=VX9Ej0L6rGk
米国の危機は世界にとってのチャンスだ。サイバー戦争、貿易戦争、侵略が入り乱れる混乱の中で、米国はもはや同盟国でも貿易相手国でもなく、脅威そのものとなった。
その脅威を無力化するには、米国のオリガルヒから金(そして権力)を奪わなければならない。その第一歩は、過去25年間にわたって米国の主導で成立した、外国のテック企業が米国のテック製品を改変することを禁じる国際法を変えることだ。
他国の企業が、農家がトラクターを自分で修理できるようにするツール、ゲームパブリッシャーが公式のぼったくりアプリストアを迂回して販売できるツール、販売業者がAmazon税を回避できるツールを作り始めれば、彼らは数十億ドルの収益を得るだけでなく、詐欺ではなく良質な製品を優遇する市場をも創り出せる。
https://pluralistic.net/2026/01/01/39c3/#the-new-coalition
米国の大企業は、(まずは)米国人から、次いで世界中から(米国通商代表部が外国テック企業による防衛的製品の開発を禁じる法律[アクセス制御回避禁止法]を通過させることで)富を奪い取り、兆ドル単位の富を積み上げてきた。我々が挑むべき今後10年のプロジェクトは、その兆ドルを数十億ドルへと転換することだ――米国の欠陥だらけのテクノロジーを脱メタクソ化する企業の利益として、そして米国の詐欺経済から脱出するためにそのツールを使う人々の節約として。
このプログラムの恩恵を受けるのは、外国テック企業への投資家や海外の顧客だけではない。米国人もまたこのテクノロジーの恩恵を受ける。なぜなら、米国人こそが米国の詐欺経済の最初の犠牲者だったからだ。一般の米国人は、アプリ税、Amazon税、ストリーミング税、Apple税、Google税、Microsoft税を払い続けている。こうした企業による収奪に抵抗するデジタルの武器を米国人に与えれば、彼らは必ず納税者一揆を起こすだろう――それは米国人が際立って得意とすることだ。
オリガルヒからの脱出、気候危機からの脱出、経済的絶望からの脱出――これらの目標を達成するには、何かをし、何かを作る必要がある。本物の製品とサービス、本物のインフラとツールが求められる。人々は概して、詐欺よりも本物を望んでいる。
アメリカというポンジスキーム国家は崩壊しつつある。もはやカモが尽きた。
アムウェイのダウンラインとして経済を形成する余裕など、我々にはもうない。そんなものははじめからなかった。
(Image: Cryteria, CC BY 3.0, modified)
Pluralistic: Where did the money go? (08 Jan 2026) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow
Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: January 8, 2026
Translation: heatwave_p2p