以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Understaffing as a form of enshittification」という記事を翻訳したものである。
メタクソ化[enshittification]の根底には、企業が価値を自在に移転できるという条件がある。デジタルツールはこれをかつてないほど容易にした。たとえば、商業的監視データを用いてユーザが受け入れるであろう最高価格や最低賃金を予測し、ユーザごと、セッションごとに価格を変動させるといった具合に。
https://pluralistic.net/2023/02/19/twiddler/
デジタルな「いじくり回し[twiddling]」は、価値を移転するための強力なポンプシステムとして機能する。まずユーザから価値を奪って法人顧客に移転し、次に法人顧客から奪ってユーザに移転し、そして最終的には、すべての価値を株主と経営陣が刈り取る。
いじくり回しが強力なのは、その粒度の細かさにある。最も脆弱な顧客や労働者からはより多くを搾取しつつ、他に乗り換える力を持つ有力なステークホルダーには比較的まともな対応を維持できるからだ。
しかし、デジタル化がいじくり回しを可能にするはるか以前から、顧客や労働者の待遇を悪化させても報いを受けない立場にある企業は、それを当然のように実行してきた。空港の売店で水が1本10ドルで売られている光景を思い浮かべてほしい。エコノミーだろうがファーストクラスだろうが、あれはぼったくりだ。そしてそれを可能にしているのは、TSAの保安検査場である――他の店で買おうにも、膨大な時間がかかって事実上不可能なのだから。
空港の売店は、その場における唯一の選択肢――経済学の用語で言えば「独占者」――だ。企業があなたの欲しいもの(さらに言えば、あなたが必要とするもの)を握っていて、それを他で手に入れるのが困難(あるいは不可能)であれば、あなたから価値を奪い取り、自らの懐に入れることができる。
独占的搾取の最もわかりやすい形態は、価格の上昇と賃金の低下である。ダラーストア[米国版100円ショップ]はこの手口で悪名高い。市場支配力を利用して日用品を極端に小さなパッケージで仕入れ、単位あたりのコスト(たとえば石鹸1オンスあたりの価格)は割高な「ごまかしサイズ」にしつつ、値札そのもの(石鹸1本(小)あたりの価格)は安く見せかける。こうした店舗は食の砂漠に立地している。というより、彼ら自身がそれを作り出す。地域の食料品店を囲い込み、大幅な値引きで真っ当な食料品店を廃業に追い込むのである。同時にそこは仕事の砂漠にもなる。既存の食料品店を潰せば、労働市場の競争も消滅するのだから。つまり、低い賃金で人を雇い、高い価格で売り、途方もない利益を上げることができる。ダラーストアがあちこちに乱立しているのはそのためである。
https://pluralistic.net/2023/03/27/walmarts-jackals/#cheater-sizes
これが最もわかりやすい価値の収奪だが、唯一の手段ではない。企業が顧客や労働者に押しつけることのできるコストは他にもある。CVS[米国最大級の薬局チェーン]を思い浮かべてほしい。調剤薬局の独占企業であるCVSは、「ファーマシー・ベネフィット・マネージャー」と呼ばれる奇怪で実態の見えにくい仲介業者との垂直統合を利用し、独立系薬局を廃業に追い込んでいる。
https://pluralistic.net/2024/09/23/shield-of-boringness/#some-men-rob-you-with-a-fountain-pen (邦訳)
最近CVSの店舗を訪れたことがあるなら、強烈な価値移転を身をもって体験しているはずだ。すなわち人員削減である。CVS(および同カルテルを構成するWalgreensなどの大手チェーン)は広大な店舗を構えながら、フロアにはわずか1人か2人の従業員しか配置していない。通常、レジ係と薬剤師だけである。
そのため、この手の店舗は万引き犯の格好の標的となり、あらゆる商品がケースに施錠されている。何かを買いたければ、たった1人の従業員を探し出してケースの鍵を開けてもらわなければならない。これはCVSが自社の人件費をあなたの時間と交換しているということだ。
さらに会計はセルフレジを強いられる。またしてもCVSの給与台帳に載っている労働者の仕事が、あなたに転嫁される。しかもそのセルフレジは整備不良で頻繁に誤作動を起こす。またしてもあの1人きりの従業員が来てリセット操作するのを待たなければならない。
その間、その従業員は高額な商品と長い待ち時間に辟易した顧客からの、強い不満と罵倒を一身に浴びる。これもまたCVSが株主から別の誰か(この場合は労働者)へと転嫁しているコストにほかならない。
そして最後に、CVSは少人数で大型店舗を運営する以上避けられない万引きやその他のセキュリティ問題に対して、公費で賄われている警察に出動を要請する。企業のコストを地元の納税者全体に転嫁しているわけだ。
アメリカン・プロスペクト誌のロビン・カイザー=シャッツラインは「Not Enough Workers For the Job」と題した記事で、過去5年間にわたり米国経済のあらゆるセクターを席巻してきた組織的な人員削減の潮流を検証している。
カイザー=シャッツラインは、日常生活で感じるさまざまな苛立ちの原因をこのビジネス・トレンドに求める。「レジの長蛇の列、散らかったスーパーの通路、組織的窃盗、高騰するホテル代、頻発するフライトのキャンセル、薬局での致命的な調剤ミス、老人ホームでの身体拘束の増加、そしてより広く言えば、仕事に対する目に見えて高まる不満」――これらすべてが人員削減のせいだという。
このリストからもわかるように、人員削減の影響は万人に及ぶ。飛行機のチケットを買う余裕のある人々から、人生の最後の数年間を文字通りベッドに縛りつけられ、あるいは薬漬けで朦朧とさせられて過ごす脆弱な高齢者に至るまで。
人員削減が増加しているという見方を裏づける学術的研究もある。2024年のケネディスクールによる1万4000人の労働者を対象とした調査では、過半数が自分の職場は「常に」あるいは「頻繁に」人手不足だと回答した。Journal of Public Health Management and Practiceに掲載された2023年の研究では、公衆衛生機関が適正な人員を確保するには80%もの増員が必要だという。ニューヨークのMt Sinai病院は2024年、救急部門や腫瘍科、分娩科の人員不足で200万ドルの罰金を科された。別の研究は、老人ホームにおける抗精神病薬による「薬物的身体拘束」の増加を人員不足に帰している。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35926573
深刻な事実はまだ続く。運輸省監察総監によれば、航空管制施設の77%が人員不足であり、ニューヨークの航空管制に至っては適正水準のわずか54%しか人員が配置されていない。テキサス州では、郡刑務所が人員不足のために収容人数を減らさざるを得なくなった(ベッドは足りているが、看守が足りない)。前例のない労働運動の高まりの背景にも人員不足がある。スターバックス、鉄道、その他の現場で労働者が戦闘的になっているのは、人員不足が原因だ。ホワイトカラーのミレニアル世代の83%が、組織の欠員を埋めるために余計な仕事をされられていると回答している。スターバックスの労働組合オーガナイザーが証言するように、職場に適正な人員を配置させるには労働者には組合が必要であり、組合組織率が底を打っている時代に人員削減が蔓延するのは驚くにあたらない。
カイザー=シャッツラインは、ケネディスクールのダニエル・シュナイダーの発言を引用している。シュナイダーは、人員削減を明確なビジネス戦略と位置づける。企業が十分な人員を雇用しないのは、そのほうが利益が上がるからだ。「誰も働きたがらない」からではない(もっとも、このホラ話を繰り返すことで、長蛇の列や劣悪なサービスの責任を、実在の強欲な経営者から架空の怠惰な労働者にすり替えるのには役立つのだろう)。
先陣を切っているのはプライベート・エクイティ[PE]企業だ。同一セクター内の競合企業を次々と「ロールアップ[買収統合]」し、すべての企業で人員を削減する。地域の特定業種の企業をすべて配下に置けば、どれだけ人員を削り落とそうと労働者や顧客に逃げ場はなくなる。これが特に悪質なのは介護施設で、PE企業は劇的に人員を減らし、スタッフと患者の双方を危険にさらしている。
PEは、コミュニティ薬局にしかけた数十年にわたる戦争でほぼ勝利を手にしている。全米の薬局の所有をわずか数本のチェーンに集約し、それらは今や人員削減の代名詞となっている。人のいない幽霊船のような店舗は、買い物がイライラするだけにとどまらず、コミュニティの脅威ともなっている。カイザー=シャッツラインの報告によれば、オハイオ州は2021年、CVSが店舗内の対面式調剤窓口を閉鎖し、薬剤師が1人しかいないため顧客にドライブスルーの利用を強制したとして罰金を科した。
助手もいない孤独な薬剤師は入荷の処理もできず、CVSの薬局の床には開封されていない荷物が散乱していた。患者は処方箋の調剤に1か月以上待たされた。CVSは滞留を処理するための追加人員の雇用を拒否し、勤務中のスタッフは悪化する一方の環境で働き続けた。整備されないエアコンが故障して室内温度は急上昇した。当然のことながら、こうした店舗ではスタッフの離職率が極めて高く、それがさらに業務効率を低下させる。
薬局の人員不足は深刻な調剤ミスを引き起こしている。そうしたミスは全米で急増し、毎年数十万人の米国人の命を奪っている。そのミスはにわかには信じがたい。たとえば、抗うつ薬の代わりに抗がん剤を処方され死亡した女性のケースがある。
https://www.nytimes.com/2020/01/31/health/pharmacists-medication-errors.html
CVSのようなチェーン薬局の薬剤師は、トイレに行く時間すらなく、勤務中に水分を摂れないのも常体化し、その結果、腎臓結石のリスクが高まっている。あるCVSの薬剤師はテキサス州の規制当局にこう語った。「私にはCVSで働くことが、公衆衛生の危機になっています」
コロナ禍は顧客と労働者から株主へと価値を移転するための格好の口実を提供した。「グリードフレーション」[強欲インフレ]で吊り上げられた今日の高価格は、顧客には「サプライチェーンの混乱」のせいだと説明したにもかかわらず、未だに下がってはいない。もちろん、陰では経営者は株主に値上げを鼻高々に自慢していたのだ。
https://pluralistic.net/2023/03/11/price-over-volume/#pepsi-pricing-power
同様に、人員水準も回復していない。急性疾患の蔓延とソーシャルディスタンスの時代に我々が慣れるしかなかったコロナ禍の最低限のスタッフ体制が、そのまま定着してしまったのだ。カイザー=シャッツラインは、ホテル労働者への取材も行っている。ボストンのヒルトンパークホテルで客室清掃係として働くジャンシー・リャンは、パンデミック後に清掃スタッフが20人も減った職場をこう描写した。「痛みとともに眠り、痛みとともに目覚め、痛みとともに仕事に行きます」。労働統計局によれば、ホテルの人員水準は全米で16%減少している。
一方、価格(と利益)は右肩上がりだ。ホテルは記録的な利益と記録的な役員報酬を計上しているが、その原資は、プールが閉鎖され客室清掃が隔日になった施設から絞り出されたものだ。
労働者は人員削減のコストを、その身体と精神で引き受けている。肉体的な疲弊だけではない。人員不足と直接的に相関する暴言や嫌がらせもある。苛立った客がスーパーの店員や客室乗務員、その他の最前線の労働者に怒りをぶつけるのだ。
ここで私は、人のいない世界という幻想によって膨張しているAIバブルとの関連を見ずにはいられない。
https://pluralistic.net/2026/01/05/fisher-price-steering-wheel/#billionaire-solipsism (邦訳)
何千億ドルものAI投資を指揮するビリオネアの独善家たちは、ボスのアイデアが労働者を介さずに製品やサービスに変換される未来を恍惚として語りたがる。
https://pluralistic.net/2026/03/12/normal-technology/#bubble-exceptionalism
AIがカスタマーサービスを席巻しているのはそのためだ――カスタマーサービスの担当者につながるまでの何時間もの待ち時間は、もとより顧客と労働者から株主へと価値を移転する手段にほかならなかった。企業はコールセンターの人員を増やすことができた。企業はより良い製品やサービスを提供してカスタマーサービスを必要とする人の数を減らすことができた。そのどちらも拒否することで、あなたは殺意に満ちるまで保留音を聞かされ、その後に労働者があなたの怒りを受け止めることを期待される。この全体をAIに置き換えるのは実に理にかなっている――あなたの問題は解決されないが、あなたが怒っても企業はチャットボットに給料を払う必要がないのだから。
https://pluralistic.net/2025/08/06/unmerchantable-substitute-goods/#customer-disservice (邦訳)
「これはAIでやりました」は、「ちゃんとやる気はありません」の同義語になった。
https://pluralistic.net/2026/03/11/modal-dialog-a-palooza/#autoplay-videos (邦訳)
「ちゃんとやる気はありません」は、人員削減狂騒のモットーにふさわしい。今日のAI投資バブルの引き金となった技術的知見はいつ生まれてもおかしくなかった。しかし、それに続く投資の津波が現実のものとなったのは、自社の製品の品質を――そしてその雇用を――気にかけるには「巨大すぎる」企業群が支配する世界があったからだ。
Pluralistic: Understaffing as a form of enshittification (23 Mar 2026) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow
Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: March 22, 2026
Translation: heatwave_p2p