以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Checking in on the state of Amazon’s chickenized reverse-centaurs」という記事を翻訳したものである。
Amazonは、労働における新種の惨劇を発明した――チキン化リバースケンタウロスだ。これは、自腹で労働環境を整備しなければならないにもかかわらず、そこでの自律性は一切認められず(チキン化)、自らの肉体をデジタルシステムの周辺機器として徴用される(リバースケンタウロス1訳注:これまで「逆ケンタウロス」と訳出してきた言葉だが、本稿に限っては語感と字面を優先して「リバースケンタウロス」と訳出する。)労働者のことである。
https://pluralistic.net/2023/04/12/algorithmic-wage-discrimination/#fishers-of-men
「チキン化[Chickenization]」とは労働経済学から生まれた用語で、養鶏産業の過酷な実態に着想を得ている。この業界では、3つの巨大加工企業が市場を分割し、養鶏農家が鶏を売れる先はたった1カ所しかない2訳注:米国の養鶏産業における「トーナメント方式」の契約構造。。こうした加工工場に鶏を売るには、自分の経営に対する全面的なコントロールを相手に明け渡さなければならない。ヒナの購入先も、鶏舎の建て方も、どんな電球をつけていつ点灯・消灯するかも、すべて指定される。どの獣医にかかり、どの薬を投与してよいかも決められる。飼料の種類も与える時間帯も指示される。鶏舎の設計もメンテナンスの業者選定も、すべて加工企業が握っている。唯一教えてもらえないのが、鶏の買取価格だ――それは出荷の段階になって初めて明かされる。しかもその金額は、加工企業が地域全体から収集した農家とその競合他社の経営状況に関する情報に基づいたもので、農家がローンを借り換えてさらに借金を重ね、次の鶏を育てられるギリギリの最低額に設定される。
「チキン化」の本質は、起業家精神という美辞麗句に包まれたリスクの押しつけである。養鶏農家は加工企業のリスクをすべて肩代わりさせられながら、「自分がボスだ」と言い聞かされる。養鶏農家が起業家に似ている唯一の点は、失敗のリスクをすべて自分で負わなければならないということだ――成功による見返りは一切ない。加工企業は農家に知らせることなく、農家の負担で実験を行うことも可能であり、実際にそうしている。一部の農家に飼料や照明、獣医のルーティンを変えさせ、工程からさらなる効率を絞り出せないか試すのだ。うまくいけば利益は加工企業が独り占めし、失敗すれば損失は農家が被る。自分が実験の資金源にされていたことなど、農家には一切知らされない。
AmazonはMechanical Turkサービスを支えるクリックワーカーの「ターカー」のように、多くの「自営業者」の労働条件を厳密に規定するなど、さまざまな取引関係においてチキン化を多用してきた。だが、Amazonの迂回構造と間接的な取引関係のネットワークの中で最もチキン化されているのは、「配送サービスパートナー」(DSP)事業を始めるよう誘い込まれた「起業家」たちだ。
DSPを立ち上げるには、オーナーはまず多額の借金をして複数のバンを購入し、Amazonの厳格な仕様に合わせて装備しなければならない。車内外にセンサーやカメラを設置し、Amazonのロゴを塗装し、棚やその他のインフラもAmazonの細かな仕様どおりに整える。そしてAmazonの意向に沿って労働者を雇い、Amazonの教材で研修を行う。Amazonのプラットフォームに登録して労働者を監視・ランク付けしてもらい、その対価として荷物1個あたり0.10ドル、あるいは0.50ドル、場合によっては0.00ドルが支払われる。金額はすべてAmazonの一存で決まる。
これはかなりチキン化された取り決めだ。では、リバースケンタウロスとはどういうことか。
自動化の理論において「ケンタウロス」とは、何らかの自動化システムの補助を受ける人間のことだ(脆弱な人間の頭脳が、疲れを知らない機械に助けられている)。したがってリバースケンタウロスとは、機械の周辺装置として徴用された人間であり、冷酷で無慈悲な頭部に乗られ、指示され、利用されるだけでなく、消耗させられる人間の身体のことである。
DSPが雇うドライバーはリバースケンタウロスだ。Amazonはさまざまな形の自動化を駆使して、これらの労働者を危険で屈辱的かつ持続不可能なペースで働かせている。ノルマを設定・強制するだけでなく、ドライバーの視線の向き、加速・減速の仕方、走行ルートなどを事細かに指図する。こうした命令は車内搭載型および身体装着型の自動化システムによって強制される。労働者を指揮し、罰則を科すこれらのツールを、労働運動アクティビストたちは「電子鞭」と呼ぶ。
https://crackedlabs.org/en/data-work/publications/callcenter
チキン化されたDSPオーナーは、Amazonがリバースケンタウロスの労働者に課す命令を必ず実行しなければならない。AmazonはいかなるDSPも、いつでも、いかなる理由でも――理由がなくても――切ることができるのだ。その場合、「独立起業家」には、Amazonの荷物を配送するためにしか使えない多額のローンが残った車両、車庫や駐車場の長期リース、自動化システムが原因で起きた事故――たとえば歩行者が道路に飛び出した際の急ブレーキをシステムが罰したために生じた事故――に対するドライバーの賠償責任、そして巨額の借金だけが残される。
したがって、AmazonがDSPに労働者の解雇や処分を指示すれば、その労働者は窮地に追い込まれる。Amazonはチキン化とリバースケンタウロス化を融合させ、チキン化リバースケンタウロスという、これまで存在しなかった新種の労働上の惨劇を生み出したのだ。
DAIR Instituteの新しい報告書「Driven Down」において、著者のエイドリアン・ウィリアムズ、アレックス・ハンナ、サンドラ・バルセナスの3名が、DSPドライバーへのインタビューと、ウィリアムズ自身のAmazon配送ドライバーとしての経験をもとに、チキン化リバースケンタウロスの実態を記録している。その状況は芳しくない。
https://www.dair-institute.org/projects/driven-down
「Driven Down」は、チキン化リバースケンタウロスの日常が賃金窃盗、プライバシーの侵害、屈辱、そして業務上の身体的リスクにまみれていることを、ドライバー自身の言葉を交えながら生々しく描写している。被害を受けるのはドライバーだけでなく、彼らが配達する地域のコミュニティも同様だ。
DSPドライバーは複数の自動化システムを操作しなければならず、監視・採点・処分を行うアプリは少なくとも9つに及ぶ。これらのアプリは雇用主支給の携帯電話で動作するはずだが、その電話はしょっちゅう壊れており、勤務中にアプリがすべて稼働していなければドライバーは厳しい処罰を受ける。結果として、ドライバーは日常的にこれらのアプリを自分の携帯電話にインストールし、広範な権限を付与せざるを得ない。こうして、ドライバーの個人の携帯電話が勤務時間の内外を問わず24時間365日、Amazon のためにドライバーを監視する道具と化す。チキン化されているのはDSPオーナーだけではない――自らの電子鞭を自腹で賄っているドライバーもまた、チキン化されているのだ。
まず何よりも、これらのアプリはドライバーにどこへ行き、どう行くかを指示する。ドライバーは1日に数百カ所の配達先に送り出されるが、そのルートはコンピュータが生成したもので、人間による検証や妥当性の確認を経ることなく、交渉の余地なくドライバーに手渡される。周知のとおり、多数の地点を効率的に回るルートの算出は、コンピュータ科学における最も解決困難な問題の1つ、いわゆる「巡回セールスマン問題」である。
https://en.wikipedia.org/wiki/Travelling_salesman_problem
だが実は、巡回セールスマン問題には最適解があった。コンピュータに奇妙で危険な近似ルートを算出させ、それがうまくいかなかったら労働者を叱責し、罰金を科せばいいのだ。ルートが最適化されるわけではないが、最適でないルートのコストをすべて労働者に転嫁できる。
決定的に重要なのは、Amazonが地図データに基づくコンピュータ生成ルートを、ドライバーの証言よりも信頼しているという点だ。たとえば、ドライバーはしばしば「グループストップ」を指示される。バンを停めて複数の住所にまとめて配達するものだ(たとえば集合住宅やオフィスビル内で)。Amazonの地図サービスは、同じ敷地内にある住所同士は近くにあると想定するが、実際には非常に離れている場合がある。ドライバーが離れた住所に配達するためにバンを移動して駐車し直せば、アプリから「無許可の位置変更」として罰せられる。バンを動かさずに全荷物を配達しようとすれば、「時間がかかりすぎ」としてペナルティを受ける。ドライバーが地図の誤りを報告しても修正されず、毎日毎日、違反が積み重なっていく。
ドライバーがノルマを達成できなければ、DSPの荷物1個あたりの報酬は減額される。ドライバーがAmazonのアプリの(不合理で不可能な)命令に完璧に従えたDSPは、配達1個あたり0.50ドルを受け取る。アプリの期待に届かなければ、1個あたりのレートは0.10ドルに下がり、場合によってはゼロになる。
このしくみは、アプリの不興を買うくらいなら危険な行為に手を染めた方がましだと、DSPがドライバーに圧力をかける強力なインセンティブとなる。急ブレーキや急ハンドルにはペナルティが科される一方で、ノルマ未達にもペナルティが科される。その結果、ドライバーはできる限り速く走りつつも、突然の交通上の危険が発生しても急ハンドルや急ブレーキを踏んではならないという、不可能な立場に追い込まれる。馬鹿げた逸話として、あるドライバーがアクセルを離すと減速する回生ブレーキの電気バンに配置替えされた話が紹介されている。アプリはドライバーに、ブレーキペダルではなくアクセルを離して減速するよう期待するが、それではバンのブレーキランプが一切点灯しない。あるドライバーが黄信号で減速したとき、後続のUPSのトラックに激しく追突された。UPSのドライバーは、AmazonのDSPドライバーが信号を突っ切るものと思い込んでいたのだ(そう、ブレーキランプが点かなかったのだから)。
ノルマを達成するには、トイレ休憩もプライベートな衛生管理の時間も許されない。ペットボトルに用を足すだけでも十分ひどいが、生理の処理を、車内の全てがカメラで記録されているバンの荷室に入って済ませるしかないとなれば、事態はさらに深刻だ。
このカメラについて、ドライバーが聞かされる説明は一貫していない。映像は事故やクレームがあったときにだけ確認されると説明されたドライバーもいるが、実際に事故が起きたりクレームが寄せられたりしても、映像を確認されることなく解雇や処分を受けるケースが少なくない。その一方で、クレームも事故もないのに、カメラが録画した内容を理由に罰せられることもある。
Amazonの DSPバンの車内外で起きた出来事の経験的証拠がこれだけ存在しても、ドライバーの雇用上の公正さにはほとんど、あるいはまったく寄与しない。シートベルトセンサーの誤作動が、1回のシフト中に80回以上もドライバーがシートベルトを外したと報告し続けた場合でも、減額された賃金や失われた仕事を取り戻すのは容易ではなかった。居眠りして対向車線にはみ出してきた大型トレーラーを避けるためにハンドルを切ったドライバーにも、ペナルティが科された。このドライバーは、「Mentor」(数あるアプリの1つ)のスコアを850から650に下げられた。Amazonはドライバーに対し、Mentorのスコアが何を意味するのかを明かさないが、多くのドライバー――そしてDSPオーナー――は、満点でなければ処罰か解雇につながると考えている。
満点を取り、それを維持することは不可能な課題だ。なぜなら、Amazonはドライバーに何を期待しているのか明かさず、期待に応えられなかったときだけ罰を与えるからだ。たとえば、配達完了時に荷物の写真を撮ることが求められるが、この写真の基準はきわめて厳しく、しかも開示されない。写真に手や靴や自分の映り込みがあればペナルティ。顧客やペットが写り込んでもペナルティ。家の番号が写ってもペナルティ。玄関マットの上に置かれた靴を撮影することも許されない。ドライバーたちは減点されない写真の撮り方のコツを互いに共有しているが、基準は常に変わり続けている。
ドライバーの間には、アプリがどのようにスコアを算出しているかをAmazonが教えない理由について、おそらく正しいと思われる信念が広まっている。それは、採点基準がわかればドライバーが基準を逆手にとって対策するのを恐れているから、というものだ。コンテンツモデレーションやスパム対策の世界で広く見られる慣行であり、本来であれば「隠蔽によるセキュリティ」などという考えを即座に退けるはずのセキュリティ専門家が、突如として秘密主義的なセキュリティ対策を擁護し始める現象と同根である。
https://pluralistic.net/2022/08/07/como-is-infosec/
こうした状況は危険で非人間的であるだけでなく、貧困をも招く。この傲慢で説明責任もなく仕組みも不明なアルゴリズムによってランクを下げられたドライバーは、勤務時間を削られるか、完全に解雇される。アプリが設定するノルマは、義務づけられた(無給の)30分の昼食休憩と2回の15分休憩を取れば到底達成できない(ノルマ未達が2回になると自動的に解雇される)。その時間は無給労働に充てられることになる。報告書はこう説明している。
ドライバーの30分の昼食休憩は無給だ。1日8~10時間のシフトで働くフルタイム従業員は、週に4日か5日勤務する。時給20ドルの場合、週4日勤務の従業員は週に2時間分、つまり週40ドルの無給労働が発生し、月に160ドル、年間では約2,000ドルになる。
ドライバーには「宿題」も課される。実際のあるいは想像上の違反に対する改善措置として、視聴を義務づけられた動画やシミュレータ演習だ。これもまた無給の強制労働である。シフト開始時の「スタンドアップ」ミーティングへの出席も求められるが、これもしばしば無給だ。
Amazonは「ドライバーの声に耳を傾ける」姿勢を大々的にアピールしているが、彼らの声が聞き届けられることはない。あるドライバーは、ユダヤ人の自分が配達に来たことに激昂した本物のナチスに銃を突きつけられたと報告したが、その訴えは無視され、暴力的で武装したナチスの顧客にはその後も荷物が届けられ続けた。
ささやかな要望さえ応じてもらえない。あるDSPのドライバーたちは、時間を浪費して遠くのトイレまで歩くとノルマを達成できなくなるので、駐車場に仮設トイレを設置してほしいと懇願した。それは当然のように無視され、50人のドライバーが引き続きトイレ1つを共有している。
だが、これらはいずれも――チキン化のおかげで――Amazonの問題ではない。すべて、Amazonの便利な責任の受け皿[accountability sink]として機能するチキン化されたDSP「起業家」の問題であり、Amazonの命令に寸分違わず従わなければ一瞬で破産させられる存在の問題なのだ。
とはいえ、1つだけ明るい兆しがある。全米労働関係委員会(NLRB)がカリフォルニア州で訴訟を提起し、Amazonをあのバンのハンドルを握るリバースケンタウロスたちの「共同雇用主」と認定するよう求めている。
これはProject 2025の一環としてトランプが骨抜きにしたNLRBの権限の、まさに最後の残滓である。この訴訟に勝てば、ドライバーが連邦法および州法のもとでAmazonを不当労働行為で訴える道が開かれる。そしてカリフォルニア州とニューヨーク州では、その労働法がAmazonにとって格段に厳しいものになったばかりだ。
チキン化リバースケンタウロスとは、労働地獄の新たな領域であり、史上最も利益を上げている企業がさらに数十億ドルを搾り取るために、労働者の生活をより一層劣悪にするという、真に革新的な手法なのである。
(Image: Cryteria, CC BY 3.0, modified)
Pluralistic: Checking in on the state of Amazon’s chickenized reverse-centaurs (23 Oct 2025) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow
Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: October 23, 2025
Translation: heatwave_p2p
- 1訳注:これまで「逆ケンタウロス」と訳出してきた言葉だが、本稿に限っては語感と字面を優先して「リバースケンタウロス」と訳出する。
- 2訳注:米国の養鶏産業における「トーナメント方式」の契約構造。