以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Amazon annihilates Alexa privacy settings, turns on continuous, nonconsensual audio uploading」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

Amazonのスタンダードからしても、今回のやり口は究極に悪質だ。3月28日から、すべてのAmazon Echoデバイスは音声のオンデバイス処理を停止し、聞き取ったすべての音声をAmazonのクラウドへと送信する。これまでクラウド処理をオプトアウトしていたユーザに対しても、この変更は強制される。

https://arstechnica.com/gadgets/2025/03/everything-you-say-to-your-echo-will-be-sent-to-amazon-starting-on-march-28

この略奪行為に対して「監視資本家が監視資本主義をするだけさ」と片付け、愚かなイデオロギーの問題(「Amazonが搾取するのは、連中が悪しき思想を持っているからだ」)として冷笑するのは簡単だ。だがそれは間違いである。ここで起きているのは具体的な制裁区選択に根ざした物質的な現象である。この絶対に許し難い行為の物質的基盤を解き明かすことで、我々はどのようにここに至ったのか――そしてどこへ向かうべきかを理解できるのだ。

まずは、Amazonがプライバシーを破壊する口実から見ていこう。彼らは、Alexaが収集する音声をAI処理したがっている。オンデバイスでは計算負荷が高すぎるからだと言う。しかしそこには別の疑問が生まれる。なぜAmazonは現状のEcho(訳注。のオンデバイス処理)に満足している顧客にさえ、何百万ものユーザを激怒させ疎外するリスクを冒してまで、このAI処理を押し付けたいのだろうか。

ビッグテック企業にとってAIは「成長ストーリー」――すでに市場を飽和させてしまった企業がなお成長し続けるというナラティブ――の一部である。Amazonの圧倒的な支配力は筆舌に尽くしがたい。彼らは最大のクラウドプロバイダであり、最重要の小売業者であり、米国世帯の過半数がすでにPrimeに加入している。一見すると理想的な立場に思えるが、実はAmazonは極めて危険な立場に立たされ続けている。

Amazonの株価収益率は途方もなく高く、Targetを始めとする小売業者のおよそ3倍だ。この灼熱の株価収益率を支えているのは、Amazonがこれからも成長し続けるという投資家の信念である。極めて高い株価収益率を持つ企業は、成熟した競合他社に対して圧倒的な優位性を持つ――彼らは現金ではなく株式でものを買うことができるからだ。人材獲得や企業買収にしても、Amazonはその極めて価値の高い成長株でオファーを水増しできる。株式ではなく現金でものを買わなくて済むことは強力な武器だ。なぜなら、現金は稀少で外部由来(顧客などから獲得しなければならない)なのに対し、新たなAmazon株はスプレッドシートにゼロを打ち込むだけで生み出せるからだ。

https://pluralistic.net/2025/03/06/privacy-last/#exceptionally-american

しかし、落とし穴もある。あらゆる成長株はいずれ成長を止める。AmazonがPrimeの米国ユーザベースを倍増させるには、何千万人もの新しいアメリカ人を生産する繁殖プログラムを立ち上げ、彼らを成熟させ、就職させ、そしてPrimeに加入させなければならない。ほぼ定義上、支配的企業は成長企業ではなくなる。その瞬間、将来の成長に対する投資家の信念が崩れ去り、我先に過大評価された株式を精算しようと「売り」ボタンに殺到する――Amazonは常にそのような脅威と隣り合わせなのだ。

ビッグテック企業にとって、成長ストーリーはがん細胞的な無限拡大イデオロギーへの傾倒ではない。それは自社が征服すべき未開の地がまだあるという投資家の信頼を維持するという実用的かつ物質的な現象に過ぎない。

そこに「AI」が登場する。AIをめぐるハイプ[誇大宣伝]はテック企業にとって重要な物質的ニーズを満たす。理解できない支離滅裂な一連の技術をホットなバズワードにまとめることで、テック企業は無限の成長可能性があるかのように投資家を惑わすことができる。

さて、これがこのクソッたれ戦術が満たす物質的ニーズだ。次に、この裏切り行為の技術的側面について検討していこう。

そもそもなぜAmazonは購入後にEchoを改変できるのだろう?つまるところ、Echoを所有しているのはあなただ。それはあなたの財産だ。すべての法学一年生が学ぶ18世紀のサー・ウィリアム・ブラックストーンによる財産権の定義を見てみることにする。

世界の外的事物に対して、一人の人間が主張し行使する、宇宙のほかのいかなる個人の権利をも完全に排除する、唯一かつ専制的な支配権

Echoがあなたの所有物であるなら、どうしてAmazonがそれを壊すことができるのか?我々がそれを可能にする法律を可決してしまったからだ。1998年のデジタルミレニアム著作権法第1201条は、著作物にかけられた「アクセス制御の回避」を重罪としている。

https://pluralistic.net/2024/05/24/record-scratch/#autoenshittification

つまり、Amazonが無線経由であなたのEchoの内蔵をかき回した後、あなたのEchoの内部に入ってソフトウェアを元に戻すツールをあなたに提供することは、誰にも許されないのだ。確かにそれはあなたの所有物だが、それに対する唯一かつ専制的な支配権を行使するには、ファームウェアへのアクセスを制御するデジタルロックを破らなくてはならず、それは初犯でも5年の懲役と50万ドルの罰金が科される重罪なのである。

Echoはインターネット接続デバイスであり、所有者を敵と見なし、所有者の利益に反してでも製造者による無線経由のアップデートを容易にするよう設計されている。購入後に製造者にデバイスを劣化させる権限を与え、それを元に戻したり防いだりできないようにすることは、ダース・ベイダーMBA[Darth Vader MBA]のシナリオを誘発する。製造者は所有者の抗議に対し「取引条件は変更された。これ以上変更しないよう祈るがいい」と応じるのだ。

https://pluralistic.net/2023/10/26/hit-with-a-brick/#graceful-failure

デバイスやサービスの動作を遠隔かつ一方的に変更する能力は「いじり回し[twiddling]」と呼ばれ、メタクソ化[enshittification]の核心的要素だ。製品やサービスの価格、コスト、検索順位、レコメンド、中核機能をコントロールするノブやダイヤルを「いじり回す」ことで、テック企業は顧客やサプライヤから価値を奪い、企業やその幹部へと移動させる高速の茶番劇を演じる。

https://pluralistic.net/2023/02/19/twiddler/

しかし、これがどうして合法なのか?あなたはEchoを購入し、自宅の音声を遠隔監視することを明示的に無効化する設定をしたのに、今やAmazonは――あなたの許可なく、あなたの明確な意思に反して――あなたの自宅で録音された音声をそのオフィスへと送信しようとしている。これは法律違反ではないのか?

常識的にはそう思えるが、米国の消費者プライバシー法は信じ難いほど時代遅れだ。議会は1988年以来、消費者プライバシー法を可決していない。当時のビデオプライバシー保護法は、レンタルビデオ店の店員があなたの借りたVHSカセットを開示することを禁止した。それが議会が考慮した最後の技術的プライバシーの脅威なのだ。

https://pluralistic.net/2023/12/06/privacy-first/#but-not-just-privacy

このプライバシーの空白は想像を絶する規模の監視によって埋め尽くされた。名前さえ聞いたことのない卑劣なデータブローカーたちが、インターネットを使用する成人の91%について、その人物が誰であるか、何を見ているか、何を読んでいるか、誰と住んでいるか、ソーシャルメディアで誰をフォローしているか、オンラインとオフラインで何を買うか、どこで買うか、いつ買うか、なぜ買うかを詳細に記録したプロファイルを持っていると公然と自慢している。

https://gizmodo.com/data-broker-brags-about-having-highly-detailed-personal-information-on-nearly-all-internet-users-2000575762

第一近似として、ほぼすべてのプライバシー侵害は合法である。集中化した商業監視産業がプライバシー法に反対するロビー活動に数百万ドルを費やしているのは、それに見合うだけの大きな投資価値があるからだ。彼らは処罰されることなくデータを収集することにとって数十億ドルも稼ぎ出している。

規制の虜は独占の機能だ。高度に集中したセクターは「無駄な競争」に晒されずに済み、それゆえ巨額のロビー資金を確保できる。これは非常に効果的だ。一握りの企業に支配されたセクターは容易に共通の交渉方針に合意でき、政府に対して統一された声で語ることができるからだ。

https://pluralistic.net/2022/06/05/regulatory-capture/

カーター政権に始まり、バイデン政権を除くすべての後続政権を通じて加速しながら、アメリカは「消費者福祉」反トラスト理論という露骨な独占推進政策を採用してきた。40年後、我々の経済は独占にまみれてしまった。

https://pluralistic.net/2024/01/17/monopolies-produce-billionaires/#inequality-corruption-climate-poverty-sweatshops

このEchoプライバシー大虐殺のあらゆる側面が、この政策選択によって生み出された。AIに関する「成長株」のストーリー、いじり回し、DMCA 1201、ダース・ベイダーMBA、法的プライバシー保護の終焉。これらはイデオロギーではなく物質的な現象だ。それらは極めて少数の人々を極めて豊かにするために存在している。

あなたのEchoはあなたの所有物であり、あなたはそれに対価を支払った。あなたは製品に金を払ったが、それでもなお、あなた自身が製品なのだ。

https://pluralistic.net/2022/11/14/luxury-surveillance/#liar-liar

さて、Amazonは、あなたのEchoがそのデータセンターに送信する録音は、AIサーバで処理された直後に削除されると主張している。Amazonはこのような約束を以前にもしていたが、それらは嘘だった。Amazonは最終的に、その従業員と様々な海外の請負業者が秘密裏に何百万もの録音を与えられ、それを聴いてメモを取っていたことを認めざるを得なかった。

https://archive.is/TD90k

さらに時には、Amazonはこれらの録音をインターネット上のランダムな人々に送りつけていた。

https://www.washingtonpost.com/technology/2018/12/20/amazon-alexa-user-receives-audio-recordings-stranger-through-human-error

一度騙されたら……以下略1訳注:Fool me once, shame on you. Fool me twice, shame on me.(騙されたのが一度目なら、騙した奴が悪い。二度も騙されたのなら、私が悪い)。いずれ、AIに供給するために収集した録音もまた保持され、従業員、請負業者、そして場合によってはインターネット上のランダムな人々に聴かれていることをAmazonが認める日が来るのだろう。キンタマ*を賭けてやってもいい。

*私のではない。

(Image: Stock Catalog/https://www.quotecatalog.com, Sam Howzit; CC BY 2.0; modified)

Pluralistic: Amazon annihilates Alexa privacy settings, turns on continuous, nonconsensual audio uploading (15 Mar 2025) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: March 15, 2025
Translation: heatwave_p2p