以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Who broke the internet?」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

「インターネットを壊したのは誰か?」は私がホストを務め、共同制作したCBC Understoodの新番組だ。メタクソ化[enshittification]インターネットがどう生まれたのか、そして何より重要な、我々にできることは何かを説明する全4回のシリーズである。今週、その第1話が配信された。

https://www.cbc.ca/listen/cbc-podcasts/1353-the-naked-emperor/episode/16144078-dont-be-evil

このシリーズ――そして実際、私のライフワーク――のテーマはこうだ。インターネットがクソになったのは「歴史の大いなる流れ」のせいでも「ネットワーク効果」「規模の経済」のせいでもない。大メタクソ化は、記憶に新しい時代の、名前のわかる特定の個人の下した、特定の政策判断の結果なのだ。彼らは当時、こうなると警告されていたのに、それを無視してやってのけた。この破壊者たちこそが我々の不幸の張本人だが、今やその大部分は忘れ去られ、上流社会に何食わぬ顔で溶け込んでいる。誰かが熊手を持ち出して掘り起こすことを恐れてさえいない。

「インターネットを壊したのは誰か?」はこの現状を変えたい。だが、このシリーズはメタクソ化の責任を特定の人物に取らせることだけが目的ではない。メタクソ化時代を生んだ政策を理解し、それを解体して新しき良きインターネットを築くことが狙いだ。エコシステムの崩壊、オリガルヒによる支配、ファシズム、ジェノサイドを乗り越え、生き延びるという目的にふさわしいインターネットを。

メタクソ化理論の核心はこうだ。テック企業のボスたちは、エンドユーザとビジネス顧客からより多くの利益を搾り取るために製品とサービスをわざと劣化させた。なぜそんなことをしたのか?できたからだ。20年以上かけて、政策立案者たちは企業が咎められることなくメタクソ化に邁進できる環境を作り上げた。テック企業が競合他社を買収・破壊し、規制当局を籠絡し、テックワーカーの力を削ぎ、IP法を拡張することでテクノロジーを我々を守るのものではなく我々を攻撃するだけのものに変えていく間も、彼らはずっと傍観(時には手助けさえ)した。

かつて制約として機能していた4つの力――競争、規制、労働力、相互運用性――は、メタクソ化の試みを罰するものだった。製品を劣化させようものなら、ユーザ、労働者、サプライヤーは競合他社に逃げるか、規制当局は罰金を科したり刑事告発をするか、代替不可能な労働者はストライキを起こして命令を拒否するか、別のテクノロジストは代替クライアント、広告ブロッカー、スクレイパー、互換パーツ、プラグイン、改造ツールを開発して苦しめられている人との関係を永久に断ち切ってしまうからだ。

だがこうした制約が取り払われていくと、環境はメタクソジェニック(メタクソ化促進的)になる。メタクソ化を罰するどころか、むしろ報酬を与えるようにさえなった。企業内部ではメタクソ屋が社内の派閥争いで勝利を収めていった。Googleでは収益担当幹部が検索担当幹部を打ち負かし、我々が求める答えを得るために何度も検索せざるを得ないよう意図的に検索結果を劣化させ、広告表示の機会を増やした。

https://www.wheresyoured.at/the-men-who-killed-google

メタクソジェニックな環境では、劣化させることで利益をしぼり出す計画を容認する人間が昇進し、有用な製品を作ることに倫理的・職業的責任を感じる労働者や管理者を押しのけるようになる。かつては競争、政府からの処罰、労働者の反乱という自らの最悪の衝動を抑制する「大人の監督」に囲まれていたテック企業のトップ――経営陣[C-suite]――は、最もとんでもないメタクソ化戦略を競い合う熱心なメタクソ屋たちが跋扈する場となった。

「インターネットを壊したのは誰か?」はこれらすべての制約の崩壊を扱うが、その主眼はIP法――具体的には技術的保護手段の回避禁止法――に置かれている。この法律はテクノロジストが我々の所有・使用するテクノロジーをリバースエンジニアリングしたり改変したりすること(いわゆる「相互運用性」や「敵対的相互運用性」)を禁じている。

相互運用性がメタクソ化の物語の中心にあるのは、相互運用性がコンピュータで作られたあらゆるモノの避けられない特性だからだ。コンピュータは何より柔軟である。我々のコンピュータの正式名称は「チューリング完全ユニバーサル・フォン・ノイマン・マシン」だ。つまり、我々のコンピュータはどれも、あらゆる有効なプログラムを実行できる。

この柔軟性こそ、コンピュータを「汎用」テクノロジーと呼ぶ所以である。眼科医の網膜分析を手助けする同じコンピュータは、車のアンチロックブレーキシステムだってコントロールできるし、Doomもプレイできる。

メタクソ化はこの柔軟性の上に成り立っている。デジタル製品やサービスがあらゆるユーザに対し、相互作用のたびに異なる価格、検索ランキング、おすすめ、コストを提供できるのは、この柔軟性のおかげだ。

https://pluralistic.net/2023/02/19/twiddler/

テック企業が、ユーザが購入したはずの所有物に無線「アップデート」を送りつけて機能を奪い、それを「アップグレード」と称して、あるいはもっとアコギに月額サブスクリプションとして売りつけることができるのも、この柔軟性ゆえだ。

https://pluralistic.net/2023/10/26/hit-with-a-brick/#graceful-failure

だが、この柔軟性は諸刃の剣である。すべてのコンピュータがあらゆる有効なプログラムを実行できるという事実は、あらゆるメタクソ化アプリやアップデートを元に戻す脱メタクソ化プログラムをインストールできるということでもある。HPプリンターにサードパーティ製インクをリジェクトさせ、1ガロン1万ドルのHP純正色水を買わせるプログラムがあるなら、HPプリンターにわずか数ペニーのサードパーティ製インクを喜んで受け入れさせる別のプログラムも存在する。

https://www.eff.org/deeplinks/2020/11/ink-stained-wretches-battle-soul-digital-freedom-taking-place-inside-your-printer

要するに、10フィートのメタクソ化の壁を見せてくるなら、11フィートの脱メタクソ化はしごを見せてやる、ということだ。

相互運用性は長らく、テクノロジーの中でも最も重要な脱メタクソ化要素だった。相互運用性はテックブロの貪欲さを逆手に取って、物事をより良くするための原動力に変えるものでもあった。Instagramをハックして広告とおすすめを削除し、フォローしている人の投稿だけを表示させようとする人物が、必ずしもあなたの人生を良くしてあげたいという善意に突き動かされる必要はない――Instagramユーザを引き抜いて競合ビジネスを構築したいという欲望であっても、結果的にあなたの人生はより良くなる。

https://www.digitaltrends.com/mobile/the-og-app-instagram-alternative-ad-free

彼らがInstagramユーザの引き抜きに成功したとして、その後Instagramを真似て広告、レコメンド、AIスロップでユーザをうんざりさせ始めたらどうなるか。彼らがザックにした仕打ちを、さらに多くの脱メタクソ化相互運用者から仕掛けられるだけだ。

昔はそういう仕組みだった。テック企業のボスが展開する10フィートのクソの山が、11フィートのはしごを呼び寄せた。これが理想状態における「破壊」である。素早く行動して破壊することに何の問題もない――壊しているのが億万長者のメタクソ屋のモノである限りは。壊されるべきものは壊されなければならない。

ここにIP法の登場する。過去25年以上、IP法は破壊が常に汝のためのもので、決して自分のためのものでないことを保証する形で容赦なく拡張されてきた。「IP」は「支配的企業が手を伸ばして批判者、競合他社、顧客をコントロールできるすべての法律」を意味するようになった。

https://locusmag.com/2020/09/cory-doctorow-ip/

最も有害なIP法は、断トツで「技術的保護手段の回避禁止[anticircumvention]」だ。技術的保護手段の回避禁止の下では、ソフトウェアを含む著作権保護された著作物へのアクセスをコントロールする「デジタルロック」を「破る」ことが違法とされる(デジタルロック自体がソフトウェアなので、あらゆるデジタルロックが自動的にこの保護を受ける)。

これは頭がくらくらするような話で、特にあまりにも不合理でとてつもなく愚かなため、自分が理解を間違えているのではないかと思ってしまうほどだ。まさかそこまで愚かなはずはないと。

しかし、そうなのだ。

この点を理解するには、デジタルロックのない世界で何ができるかを考えてみるといい。プリンターを例に取ろう。HPがインクの価格を上げたら、カートリッジを詰め替えたりサードパーティ製カートリッジを買ったりするかもしれない。当然、これは著作権侵害ではない。インクは著作権保護された著作物ではないからだ。しかしHPがプリンターにデジタルロックを付けて、HPインクのぼったくりを回避したかチェックするようになると、途端にカートリッジの詰め替えが違法行為になる。選んだインクをプリンターに使わせるためにデジタルロックを破らなければならないからだ。

あるいは、車について考えてみよう。あなたの車をあなたの整備士に持ち込んだとしても、誰の著作権も侵害しない。あなたの車なのだから誰に修理してもらうかはあなたが決めていいはずだ。ところがすべての自動車メーカーは、整備士があなたの車を修理するのに必要な診断情報を読み取れないようデジタルロックをかけている。整備士があなたのチェックエンジンランプが点灯した理由を知るには、そのエラーをデコードするツールを購入しなければならず、メーカーごとに毎年5桁の出費を強いられる。あなたの車であり、エラーメッセージは著作権保護された著作物ではないのに、独立系整備士の診断を妨げるロックを回避することは技術的保護手段の回避禁止法により犯罪なのだ。

それからアプリストアだ。あなたはゲーム機を買った。スマートフォンを買った。いずれもデバイスはあなたの所有物だ。私が書いたソフトウェアをあなたの端末で動かせるよう販売したとしても、著作権侵害にはならない。それは著作権侵害どころか、著作者が自分の著作権保護された著作物を、自らの所有物でその著作物を楽しむ権利を得る顧客に販売する行為だ。ところがiPhone、Xbox、PlayStation、Switchのデジタルロックはいずれも、メーカーのアプリストア経由で配信されない限り、あなたの端末でソフトウェアを動かすことを妨げる。そこでは支出1ドルにつき30セントが徴収されている。メーカーのアプリストアを通さずソフトウェアをインストールするには端末のデジタルロックを破らねばならず、それは犯罪だ。つまり著作者から著作権保護された著作物を購入することが著作権侵害になってしまうのだ!

これがジェイ・フリーマンの言う「ビジネスモデル不服従罪」である。我々は記憶に新しい時代に、既知の個人によって、あなたが依存する製品・サービスの脱メタクソ化を違法化するという、予見可能で明示的な意図を持つ法律を作った。我々はこのメタクソジェニックな環境を作り、メタクソ化時代が到来したのだ。

ここからが「インターネットを壊したのは誰か?」だ。我々はビル・クリントンのIP責任者だったブルース・リーマンの物語を語る。技術的保護手段の回避禁止は本当にリーマンの発案で、彼はそれを国内法にする計画を持っていた。アル・ゴアがインターネットの非軍事化(「情報スーパーハイウェイ」構想)を監督していた際、リーマンはこのアイデアをインターネットの新たな交通ルールとして彼に売り込んだ。彼はリーマンの提案をとんでもないナンセンスと明確に拒絶した。ゴアの永遠の功績だ。

そこでリーマンはスイスに逃げ込んだ。国連機関の世界知的所有権機関(WIPO)が、インターネット規制のグローバルシステムを構築するための2つの新条約を策定していたからだ。リーマンはWIPOの各国代表団にロビー活動を行い、技術的保護手段の回避禁止を条約に盛り込ませることに――部分的には――成功した。世界各国がジュネーブに送る代表団の大多数はグローバルサウスの貧困国出身で、水、農業、児童保健などの専門家で構成されている。WIPOの国家代表の大半はIPの専門家ではなく、米国系メディア、製薬、テック企業の口の立つロビイスト、そして彼らの息のかかった米国政府代表の格好の餌食になりがちだ。WIPOは実にひどい機関なのである。

しかしそのWIPOでさえ、リーマンの提案はあまりに極端だと見なした。最終的に、WIPO条約に組み込まれた技術的保護手段の回避禁止規則は、リーマンの要求よりもはるかに合理的なものになった。WIPO条約では、署名国はデジタルロックを破る過程で著作権侵害をした場合に著作権侵害を特別に違法とする法律を成立させねばならない。しかしロックを破っても著作権を侵害しない場合(プリンターカートリッジの詰め替え、車の独立整備士への持ち込み、アプリストアを使わないソフトウェア入手など)は問題ない。

リーマンの次の手は、米議会にWIPO条約の義務をはるかに超えるバージョンの技術的保護手段の回避禁止規則を成立させる必要があると説得することだった。この取り組みで、彼は強力で資金豊富なビッグコンテンツ、後にはビッグテックのロビイストと手を組んだ。彼らは議会への圧力を成功させ、1998年にデジタルミレニアム著作権法第1201条を成立させた――著作権とそれが奉仕するとされるクリエイティブワーカーを犠牲にしてデジタルロックを保護する法律だ。

リーマンはこれは「議会回避」戦術だったと繰り返し公然と説明している。米国がこの極端な技術的保護手段の回避禁止規則を採用すると、米国通商代表部は米国のすべての貿易相手国の議会に同様の法律を押し通すことを米国の最優先課題とした。拒否する国への関税の明示的・暗黙的脅迫の下で(中米のある国の情報大臣は、中米自由貿易協定(CAFTA)の条項として技術的保護手段の回避禁止を受け入れなければ米国への大豆輸出を失うと米国通商代表部に脅されたと私に語った)。

カナダは独自バージョンの技術的保護手段の回避禁止規則の制定に10年以上を要し、これは米国通商代表部と米国産業ロビイストから公然たる怒りを買った。こうした新植民地主義者たちは代理で法律を導入してくれる多くの裏切り者を議会内に見つけたが、そのたびにカナダ国民はインターネット規制の高度に技術的な提案に対してかつて見たことのない大規模な怒りで反応した。例えば、自由党のサム・ブルテ議員はパークデールの有権者から公開会議で規則支持について問い詰められて癇癪を起こし、「ユーザの権利狂信者やEFFメンバーにいじめられるつもりはない」と叫んだ。有権者は芝生に「ユーザの権利狂信者」の看板を立て、彼女を落選させた。

技術的保護手段の回避禁止は米国の優先課題であり続け、彼らは汚れ仕事をしてくれる新しい議会議員を見つけた。スティーブン・ハーパーの保守党が何度も挑戦した。ジム・プレンティスが規則の議会通過に完全に失敗した後、任務は遺産大臣のジェームズ・ムーア(自分を「iPadミニスター」と呼ぶのが好きだった)と、現在は失脚した産業大臣のトニー・クレメントに引き継がれた。クレメントとムーアは提案への反対を和らげるため公開協議(パブリックコメント)を実施しようとした。

これは見事に裏目に出た。6,000人以上のカナダ人がパブコメに個別の、詳細で、個人的な技術的保護手段の回避禁止批判を書き送り、規則が職場や家庭でどう彼らを傷つけるかを説明した。規則を支持する提出書類はわずか53件だった。ムーアはこれら6,130の否定的回答を破棄し、それらを「急進的過激派」の「子供じみた」見解だと公然と避難することで正当化した。

https://pluralistic.net/2024/11/15/radical-extremists/#sex-pest

名前の分かる個人が記憶に新しい時代に政策を作った。彼らはその提案の予見可能な結果について警告されていた。それでも彼らはそれを成立させた――そして誰も彼らに責任を取らせなかった。

今までは。

こうした政策がどこから来たかを思い出す目的は、こうした人々をモンスターとして永遠に記憶させることだけではない。むしろ、メタクソ化の真の歴史、メタクソ化に至った我々の選択を取り戻し、それを支えてきた政策を逆転させ、我々のテクノロジーを脱メタクソ化し、エコシステムの崩壊、オリガルヒ、ファシズム、ジェノサイドの複合危機[polycrisis ]に直面する種のグローバルデジタル神経系という目的にふさわしい新しき良きインターネットを生み出すことだ。

こうしたメタクソ化政策を見直すのにこれほど差し迫った時期はかつてなかった――そしてこれほどの好機も。結局のところ、カナダの技術的保護手段の回避禁止法は米国市場への無関税アクセスのために存在した。だが、その約束は永久に砕け散った。今こそその法律を廃止し、カナダの技術者がカナダ国民に必要なツールを提供することを合法化する時だ。そのツールは米国ビッグテックのいじめっ子から逃れるためのものだ――彼らはジャンクフィーとロックインで我々のポケットをかすめ取り、ソーシャルメディアの囲い込みで我々の社会的、法的、市民的生活を攻撃している。

https://pluralistic.net/2025/01/15/beauty-eh/#its-the-only-war-the-yankees-lost-except-for-vietnam-and-also-the-alamo-and-the-bay-of-ham

「Understood: インターネットを壊したのは誰か」は現在配信中だ。残り3話ある――パート2は月曜日に配信される(そしてこちらも大変に面白い)。どのポッドキャストからでも購読できるし、RSSフィードもある。

https://www.cbc.ca/podcasting/includes/nakedemperor.xml

Pluralistic: Who broke the internet? (08 May 2025) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: May 08, 2025
Translation: heatwave_p2p