以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「The Epstein class and collapse porn」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

エプスタイン階級について語るとき、どうしても頭をよぎるのが「経済」だ――ここでいう「経済」とは、一種の神秘的で実体のない浮遊する存在であり、その健康状態や病状が我々全員の運命を左右し、繁栄を望むなら生贄を捧げなければならないとされる、あの「経済」のことである。

「経済」という存在はこのうえなく漠然としているが、その一方で、複雑な数学を用いて経済の動向を測定し、さらにはその進路を変えることができると主張する経済の祈祷師たちが存在する。我々に彼らの手法を理解できる日はおそらく来ないだろうが、少なくともGDPの変動といった1つ2つの指標を追いかけることくらいはできる。GDPとは集約された統計値であり、その内実にはさまざまな推計や定性的判断、あてずっぽうの推測が含まれているのだが、小数点以下3桁まで公表される公式統計というかたちで見せかけの精密さをまとっている。

GDPに対する批判はご山ほどある。GDPが健全だからといって、一般の労働者の暮らし向きが良くなっているとは限らない。家賃が上がればGDPも上がる。賃金が下がってもGDPが上がることすらある(それによって雇い主がより多く支出するようになれば)。GDPは実のところ「経済」の健全性を測る指標ではなく、「経済」のなかでも富裕層(すなわちエプスタイン階級)をより豊かにする部分を測る指標にほかならない。

だが、GDPの壊滅的な暴落から金を儲ける方法があるとしたらどうだろう。富裕層が「数字が上がる」ときだけでなく、「数字が吹っ飛ぶ」ときにも勝者になれるとしたら?

先日公開されたエプスタインのメールの最新バッチには、エプスタインとそのビジネスパートナーである反民主主義活動家にして億万長者のピーター・ティールとの間の、とりわけおぞましいやり取りが含まれている。

https://www.justice.gov/epstein/files/DataSet%209/EFTA00824843.pdf

このメールはBrexit直後の2016年6月26日付で、エプスタインはこう書いている。

部族主義への回帰。グローバリゼーションへの逆流。驚くべき新たな同盟関係。君のオフィスでそう言った通り、ゼロ金利でさえ高すぎるという点では君と僕の意見は一致していた。崩壊に向かうものを見つけるほうが、次のお買い得品を見つけるよりずっと簡単だった

これはナオミ・クラインが「災害資本主義」と呼んだものの完璧な実例である。2008年の金融危機以来、これが常態化してきた。あのとき銀行は公的資金による救済で損失を埋め合せた一方で、住宅ローンの借り手たちは銀行のために「滑走路に泡を撒く」1訳注:”Foam the runway”。2008年の金融危機の際に、政府が金融機関(飛行機)のソフトランディングまでの時間を稼ぐために、金融機関に莫大な資金や特例を惜しみなく提供した(少しでも衝撃を減らすために滑走路に泡を撒いた)ことを指している。米国のエリザベス・ウォーレン上院議員が、困り果てていた住宅ローン保持者を見捨て金融機関救済に奔走していたオバマ政権(特にティモシー・ガイトナー財務長官)を批判した際の発言。べく数百万人単位で立ち退きを迫られた。

https://wallstreetonparade.com/2012/08/how-treasury-secretary-geithner-foamed-the-runways-with-childrens-shattered-lives/

2008年の暴落は、多くの人々の住まい――彼らにとって唯一のまとまった資産――を「不良資産」へと変えた。それをウォール街の投資家たちが投げ売り価格で買い漁り、住宅市場から締め出された人々に貸し出した。その家賃は彼らを永遠に持ち家が買えないほど貧しいままに据え置き、害虫や黒カビがはびこるスラムのような環境に住まわせ続けた。

https://pluralistic.net/2024/10/01/housing-is-a-human-right/

ここで注目すべきは、経済の崩壊がエプスタイン階級の利益になるのは、社会にセーフティネットが存在しない場合に限られるという点だ。もしオバマが銀行ではなく住宅所有者を支援していたなら、差し押さえ危機は起きず、したがって「不良資産」が市場にあふれることもなかったはずだ。

となれば、エプスタイン階級が緊縮財政にも執着するのも当然である。ピーター・マンデルソン(英国労働党の「闇の王子」)はエプスタインの親しい盟友であると同時に、ブレア、ブラウン、スターマーの苛烈な緊縮路線の中心人物でもある。彼は議会の多数派を大規模な不良資産に変換する装置みたいなものだ。

スティーブ・バノンも同様で、やはりエプスタインの親しい盟友である。彼は資本家階級を称揚し、規制緩和と公共サービスの廃止を唱える極右の人物たちとの同盟を誇示してやまない。ル・ペン、サルヴィーニ、ファラージュ。そこにエプスタインとティールの「崩壊に向かうものを見つけるほうが……次のお買い得品を見つけるよりずっと簡単だった」という勝ち誇った発言を重ね合わせると、この連中は「数字が上がる」ときよりも、むしろ「数字が吹っ飛ぶ」ときのほうが嬉しいのではないかという気がしてくる。

トランプは誰もが認めるエプスタイン階級の王であり、「経済」を崖から突き落とそうと躍起になっているようにすら見える。彼の関税プログラムは、1890年のマッキンリー関税をモデルにしたものだ。あの関税は1893年恐慌を引き起こし、米国の労働者の4人に1人が失業に追い込まれ、15,000の企業が倒産した(膨大な不良資産の山だ!)。

https://en.wikipedia.org/wiki/Panic_of_1893

さらにトランプの大量強制送還プログラムは、多くの事業者(農場、レストランなど)を倒産に追い込み、さらなる不良資産を大量に生み出すだろう。トランプはICE(移民関税捜査局)に750億ドルを投じる一方で、企業の詐欺行為から米国民を守る司法省反トラスト局やFTC(連邦取引委員会)の予算は実質的に削減されている。司法省の弁護士やFBI捜査官の大半は移民関連の案件(しかも雇用主ではなく労働者を相手にした案件だ!)に従事しており、反トラスト局が米国の企業犯罪すべてと戦うために与えられた予算は、わずか2億7500万ドルに過ぎない。

https://www.organizedmoney.fm/p/white-collar-crime-enforcement-in

トランプがもう一度大規模な経済崩壊を意図的に引き起こそうとしていると言いたいのではない。そうではなく、トランプ連合のなかには「崩壊に向かうもの」を狩り続ける、強力で裕福な勢力が相当数存在し、ひたすら「数字が上がる」ことだけに賭けている他の連合メンバーの動きを妨害すべく暗躍していると考えるべき理由は十分にある、ということだ。

暗号通貨の暴落でさえ、「底値買い」の好機をふんだんに生み出す。暗号通貨そのものの底値買いではない(暗号通貨はゼロに向かっている)。そうではなく、人々がシットコインを担保に借りた現実の金で購入した、あらゆる現実の資産の底値買いである。

エプスタインが島の強姦収容所に誘い込んだ1000人以上の子どもたちは、それぞれに「不良資産」であることが多かった。ジュリー・K・ブラウンがマイアミ・ヘラルド紙で発表したエプスタインに関する先駆的な報道によれば、彼は親が貧しいか、育児放棄をしているか、あるいはその両方に該当する子どもたちを狙って探していた。そうした子どもたちもまた「崩壊に向かうもの」だとみなしていたからだ。

エプスタイン階級が「経済」を破壊することに執心する理由は、文明を破壊するほうが「次のお買い得品を見つけるよりずっと簡単」だということを理解すれば腑に落ちる。彼らは底値買いをしたい。だから底値を自ら作り出している。

彼らは全体の数字が上がる必要などない。自分たちの数字さえ上がればいい。包摂的な経済のほうが社会全体に繁栄をもたらすことを、彼らも承知してはいる。だがそれは犯罪者や捕食者にとっては不都合なのだ。ニューディール政策は、それ以前にも以後にも見られなかったほどの米国経済成長の時代を切り開いた。しかし富裕層はそれを忌み嫌った。なぜなら、繁栄する経済とは「崩壊に向かうもの」を見つけることがますます困難になり、したがって「次のお買い得品を見つける」ことがほぼ不可能になる経済だからだ。

(Image: Gage Skidmore, CC BY-SA 3.0)

Pluralistic: The Epstein class and collapse porn (09 Feb 2026) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: February 9, 2026
Translation: heatwave_p2p

  • 1
    訳注:”Foam the runway”。2008年の金融危機の際に、政府が金融機関(飛行機)のソフトランディングまでの時間を稼ぐために、金融機関に莫大な資金や特例を惜しみなく提供した(少しでも衝撃を減らすために滑走路に泡を撒いた)ことを指している。米国のエリザベス・ウォーレン上院議員が、困り果てていた住宅ローン保持者を見捨て金融機関救済に奔走していたオバマ政権(特にティモシー・ガイトナー財務長官)を批判した際の発言。
カテゴリー: Notes