以下の文章は、2025年11月13日付のコリイ・ドクトロウの「For-profit healthcare is the problem, not (just) private equity」という記事を翻訳したものである。
図書館にいるとき、あなたは利用者であって顧客ではない。学校にいるとき、あなたは生徒であって顧客ではない。医療を受けるとき、あなたは患者であって顧客ではない。
財産権は米国の国教であり、市場志向の言葉づかいはその聖なる教理問答だ。しかし、我々が最も大切にしているものは財産ではなく、市場で売買できるものでもない。それを財産と呼ぶことは、その価値を著しく貶めることにほかならない。人間について考えてみよう。殺人は「生命の窃盗」ではないし、誘拐は「子供の窃盗」ではない。
https://www.theguardian.com/technology/2008/feb/21/intellectual.property
市場や財産関係を使って、こうした非市場的な事柄を組織しようとすると、惨劇が待っている。米国のヘルスケアにおけるプライベート・エクイティ(PE)の乗っ取りを見ればいい。PEのボスたちは1兆ドル以上を投じて、医療システムの各部門における地域市場を独占してきた。
https://pluralistic.net/2024/02/28/5000-bats/#charnel-house
PEの常套手段は略奪である。PEが事業を買収すると、その事業を担保に多額の借入を行い(その資金はそのままPE投資家のポケットに入る)、その負債を返済するために、新しいオーナーはひたすら経費を削減し続ける。PE所有の病院には文字通りコウモリが飛び交っている。オーナーが駆除業者への支払いを踏み倒しているからだ。
https://prospect.org/health/2024-02-27-scenes-from-bat-cave-steward-health-florida
言うまでもなく、コウモリだらけの病院にはそれ以外にも問題が山積している。高度な医療機器はすべて故障し、修理されることもない。PEのボスたちが修理会社や請負業者への支払いも踏み倒しているからだ。血液が不足し、生理食塩水が不足し、防護具が不足する。医師や看護師は何週間も、時には何ヶ月も給料を受け取れない。エレベーターは動かず、黒カビが壁を這い上がる。
PEが近隣の透析クリニックを根こそぎ買収すると、新しいオーナーは熟練スタッフを全員解雇し、未訓練の代替要員を雇い入れる。針の滅菌といった贅沢な出費も廃止される。
https://www.thebignewsletter.com/p/the-dirty-business-of-clean-blood
PEが地域の介護施設を買い占めると、そこは屠殺場と化す。PE所有の介護施設は、これまでに少なくとも16万年分の失われた生存年数を奪ってきた。
https://pluralistic.net/2021/02/23/acceptable-losses/#disposable-olds
さらにホスピスがある。人生で最後に受ける医療だ。余命6ヶ月以下と医師に宣告されると、メディケアはホスピスに対して1日あたり243ドルから1,462ドルを支払い、最期のケアを委ねる。上限の料金を受け取るには、ホスピスは多くの条件を満たさなければならない。だが、1日243ドルで済ませている限りは、そのホスピスには事実上何の義務も発生しない――通常の薬も、最期の苦痛を和らげる鎮痛剤すら提供し続ける必要がないのである。
https://prospect.org/health/2023-04-26-born-to-die-hospice-care
ホスピスの開設は驚くほど安い。3,000ドルの申請手数料を払い、書類を記入し(誰もチェックしない)、看板を掲げるだけだ。名目上は医師による監督が必要だが、PEが後ろ盾となったホスピスでは、1人の医師は数十のホスピスを「監督」することで大幅なコスト削減を実現している。
https://auditor.ca.gov/reports/2021-123/index.html#pg34A
この仕組みに患者を誘い込めば、1人あたり最大32,000ドルまで政府に請求でき、その上限に達したら追い出す。余命6ヶ月の患者がなぜ追い出されるまで生き長らえるのか。PE企業が、死にかけていない患者をホスピスに紹介するよう医師に報奨金を支払っているからだ。PEに独占されたヴァンナイズのホスピスでは、入所者の51%が「生存退院」している。
https://pluralistic.net/2023/04/26/death-panels/#what-the-heck-is-going-on-with-CMS
しかし、いったんホスピスに入院すれば、メディケアはその患者が死ぬことを前提とする。だから「生存退院」した患者は、再び医師の診察を受けられるよう制度に復帰するために、煩雑な官僚的手続きに立ち向かわなければならない。
こうした事態がきわめて深刻であることは明白だ。最も貪欲な資本主義的略奪と、最も脆弱な患者が交わるとき何が起きるかを如実に示す事例である。しかし、エル・ロザーミッチがLPE Journalに寄稿しているように、PEモデルのホスピスは、あらゆる営利ホスピスケアがもたらす悲惨な結末の、より極端で目に見えやすいバージョンにすぎない。
https://lpeproject.org/blog/hospice-commodification-and-the-limits-of-antitrust/
PE所有のホスピスの問題は、単なる競争の欠如がもたらす問題ではない。ホスピスのPEロールアップ1訳注:小規模な同業他社を次々と買収・統合し、規模を急拡大させる戦略。に反トラスト法を適用しても、多少の改善にはなるとしても、殺戮は止まらないだろう。かつて米国のホスピスは非営利団体や慈善団体によって運営されていたが、1983年にメディケアのホスピス給付が導入されたことで状況は一変した。今日、米国のホスピスの4分の3は民間運営である。
PEに支援されたホスピスだけではない。営利ホスピスセクター全体が、非営利の代替手段よりも劣っている。営利ホスピスは、より高額でより低品質なケア、そしてより悪い結果を提供しており、全米で最も成績の悪いホスピスなのだ。
その理由は(ロザーミッチが書いているように)「ケアの実際の提供――治癒する、あるいは治癒を試みるという行為――は、純粋な経済取引以上のものとして広く理解されている」からである。つまり、患者は顧客ではない。制度上の義務の序列において、「患者」は顧客よりも上位に位置する。「患者」から「顧客」への転換は、深刻な格下げにほかならない。
ホスピスケアは複雑で、多分野にまたがり、きわめて個別化された実践であり、痛みの治療は「心理的、社会的、感情的、精神的、そして身体的な」多次元にわたる。サービスに対して対価を支払うモデルは、これを不可避的に「それぞれに金銭的価値を付けられる個別のサービスの標準化されたリスト――鎮痛薬、耐久性医療機器、専門看護師の訪問、チャプレンへのアクセス」へと矮小化してしまう。
ロザーミッチが述べるように、PEによるホスピスのロールアップと独占を阻止することには利点があるものの、そうすること自体が、ヘルスケアをビジネスとして扱うべきだ、「ケア提供への企業の関与は不可避で不可逆的な発展である」と暗黙のうちに認めることになる。
ロザーミッチの主張の核心はこうだ。ヘルスケアは商品ではなく、商品として扱えば必ずケアは劣化する。患者はさまざまな種類の惨劇の中から選ぶことを強いられ、医療従事者は患者への義務を果たせない道義的苦痛を負いながら、その患者を顧客として扱わなければならなくなるのである。
Pluralistic: For-profit healthcare is the problem, not (just) private equity (13 Nov 2025) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow
Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: November 13, 2025
Translation: heatwave_p2p
- 1訳注:小規模な同業他社を次々と買収・統合し、規模を急拡大させる戦略。