以下の文章は、電子フロンティア財団の「The Dangers of COVID-19 Surveillance Proposals to the Future of Protest」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

現在、政府がCOVID-19危機に対応するために新たに求めている監視権限の多くは、今後何年にもわたって修正第一条の権利を侵害するだろう。カメラ、ドローン、顔識別、熱感知カメラ、位置情報追跡による監視への恐れから人びとは萎縮し、声を上げたり、デモを行ったり、同じ志を持った運動家と関わることをためらうようになる。政府がパンデミックの封じ込めのために導入した監視インフラを、政治的スパイ活動に転用することは極めて容易だ。一方、政府が新たに手に入れた技術や監視権限を終わらせるのはまったく容易ではない。

公衆衛生の緊急事態が収束し、多くの人が安全に外出できるようになったとき、世界はそれまで以上に活発に政治的な議論が行われるようになるかもしれない。世界的不況、選挙キャンペーン、そして社会運動の再活性化により、記録的な数の人びとが声を上げ、公共空間でデモを行い、政府に譲歩を迫ることになるだろう。街頭に出たいという衝動に駆られた人びとは、ここ数年では見たこともないほどの大規模な抗議行動を起こすかもしれない。だが、公衆衛生の名目で採用された新たな監視ツールは、そうした新時代の行進、デモ、ストライキにどのような影響をおよぼすのだろうか。

ウィルスの拡散をトレースするために携帯電話の位置情報の収集・共有を許せば、政権による反体制派の取り締まりに利用される可能性がある。政府とベンダーは、公衆衛生の取り組みにおける位置情報追跡の有効性について、説得力のある説明をできてはいない。実際、GPSデータと基地局の位置情報では、2者が感染リスクのある距離(約1.8m)まで接近していたのかを判定できるほどの精度を持ち合わせておらず、その用途では十分なデータではないのだ。だが、このデータは、公園でのデモに参加したか、工場の前に集合したか、反体制派が集まる地区に移動したかを判定するには十分な精度を持ってはいる。

他にも、ウィルス拡散を防ぐという口実で導入されるべきではない多数の技術が、表現の自由を阻害することになるだろう。強制隔離されている人が食料品を買いに行った際に当局が警告できるとして、ベンダーは政府に顔識別カメラの売り込みをかけている。そのカメラは、政府の政策に反対するデモ隊や情報源と接触するジャーナリストを識別するためにも利用できてしまう。たとえば、悪名高い顔監視企業のClearview AIは、既知の感染者が接触した可能性のある未知の人びとを識別するために、公共空間での顔識別システムの構築を政府と協議している。この提案は数十億のソーシャルメディアの画像とリンクした大規模監視インフラを構築することになるだろう。オンラインに投稿された映像をスキャンすれば、公共空間の人びと、たとえばデモ参加者などが容易に特定可能になる。同様に、公共空間に設置された熱感知カメラは、遠距離の人物の体温を測定するには誤差が大きすぎるため、発熱した人物を発見するには有効な手段とは言えない。だが、警察がこのカメラを用いれば、平和的な集会に暴力的に介入する警察から走って逃げ出す参加者を見つけ出すという用途には適っているのだ。

米国政府が、非常事態に手に入れた監視権限を手放すことはほとんどない。ひとたび緊急時に用いられたツールは、それが取り上げられるまで道具箱の中にしまっておこうとする。世界恐慌の時代に州都に集結したボーナス・アーミーを解散させるために州兵が導入された後も、政府はデモ参加者に催涙ガスを使用する権限を放棄することはなかった。FBIは共産主義の脅威を口実に、公民権運動家や反戦デモ参加者への嫌がらせや監視、妨害行為が大規模かつ秘密裏に、数十年にわたって続けられた。こうした活動が白日のもとにさらされたことで、1970年代なかばにフランク・チャーチ上院議員が、米国の監視活動に関する調査を行うことになったのだが、これこそ今日、我々がこれまで以上に必要としている情報機関に対する強制力を伴う監査である。そして911後の愛国者法によって生み出された大規模な監視装置は、その行き過ぎや法律違反、米国国民に対する大規模なデータ収集が暴露されたあとでさえ、ほとんど変更が加えられることなく運用され続けている。

比較的バランスの取れた技術であっても、COVID-19の封じ込め以外の良心的とはいえない目的に転用される可能性もある。Bluetoothを利用した接近追跡アプリは、2者の携帯電話間の距離からウィルスの潜在的感染をトレースする。これらのアプリはプライバシーに配慮しており、接触した両者の身元を隠しておくこともできる。だが使い方を誤れば、これらのアプリは政治的表現を取り締まるために使われる可能性もある。たとえば、アリスがデモの打ち合わせに参加していたことを警察が把握していて、デモ当日にボブがアリスの近くにいたことが接近アプリからわかれば、警察はボブも打ち合わせに参加していたのではないかと推測できる。接近アプリの中には、識別子や位置情報を収集するものもあり、これらも抗議活動の打ち合わせの参加者を特定・追跡するために使用される可能性がある。

集約化された位置情報追跡のような手段は、個人を特定する情報を収集せず、保存を最小限に抑えることができれば、公衆衛生上の対応を支援しつつ、デモ参加者の追跡のような悪用が困難になるかもしれない。だがその場合でも、デモ活動を調査する意図を持って行われた場合には、集約化された位置情報データを分解し、他のデータと突合することで個々人を特定できる可能性がある。たとえば、警察は公共空間で個々のデモ参加者を選び出し、デモ終了後にそれぞれの自宅や職場まで追跡すれば、個人を特定することができてしまう。

政府がデモや抗議活動、活動家、主催者を監視下に置けば、表現の自由と政治参加が萎縮することになる。研究では、監視されていることを知っている場合、政治的発言や重要な社会問題についての議論に参加する可能性が低くなることがわかっている。また修正第一条は集合的表現を目的とした集会の自由を保護しているが、特定人物と会ったり、団体への参加することで監視下に置かれるのではないかと懸念されるようになれば、この権利や脅かされることになる。突然、ある人物の動き、通信、個人的な関係が政府の見知らぬ人たちに精査されることになるのだ。私たちの社会が難しい政治問題への革新的な解決策を見出すために必死に取り組んでいるまさに今、差し迫った問題について自由に議論することを妨げるような監視の取り組みに対して、私たちは声を大にして批判しなければならない。

EFFは、公衆衛生対策として提案された監視技術をどう評価すべきかについて明確なガイドラインを提供している。効果はあるのか? 侵襲性は高すぎないか? 十分な保護措置は取られているか? 最大の懸念の1つは、現在導入されている新たな権限が不必要に長期化し、ミッション・クリープ〈終了の見通しが経たない状態〉に陥り、他の目的のために転用されるのではないか、ということだ。新たな監視権限、テクノロジー、官民の関係にこれまで以上に警戒しなくてはならない。

The Dangers of COVID-19 Surveillance Proposals to the Future of Protest | Electronic Frontier Foundation

Author: Matthew Guariglia (EFF) / CC BY 3.0 US
Publication Date: April 29, 2020
Translation: heatwave_p2p
Header Image: Lucas Gallone