以下の文章は、EDRi(European Digital Rights)に掲載されたPrivacy Internationalの「The Clearview/Ukraine partnership – How surveillance companies exploit war」という記事を翻訳したものである。
Clearview社はウクライナに監視技術を提供すると発表した。イメージ洗浄を目論む監視企業は、人類の悲劇であろうと利用しようとするのだろう。
現在、ロシアがウクライナに仕掛けた非道な戦争の最中の2022年3月14日、ロイター通信は悪名高きオンライン監視企業ClearviewAIが、ウクライナ国防省にサービスを提供したことを報じた。その翌日、ウクライナ副首相兼デジタルトランスフォーメーション担当大臣はTechCrunchのインタビューで、ClearviewAIとのパートナーシップは「現在、ごく初期の開発段階」だと認めた。
オンライン監視企業のClearviewは、インターネット上に公開されているあらゆる写真を収集し、顔認識アルゴリズムにかけ、検索可能なデータベースに保存している。そして、そのデータベースへのアクセスをさまざまなクライアント、とりわけ法執行機関に販売している。法執行機関は、ターゲットとなる被写体の写真をアップロードしてデータベースを検索し、一致する顔と対応するURLを見つけ出すことができる。
このように、本人の認識や同意なしに写真などの個人情報を無差別に収集することは、オンライン・オフラインを問わず、すべての人の権利と自由を脅かす。当局がClearviewのデータベースを使用すれば、監視領域は大幅に拡大されるとともに、悪用のリスクが極めて高くなる。
全く容認できることではない。我々は2021年5月、5カ国で同社の活動に対して異議を申し立てている。すでにClearviewがデータ保護法に違反し、基本的人権の行使を脅かすとの複数の判断がくだされている。
現在までに、カナダ、オーストラリア、イギリス、フランス、最近ではイタリアのデータ保護当局が違反を認定し、Clearviewに対してそれぞれの地域で収集したすべての写真の削除を命じ、イタリアではGDPRの上限である2000万ユーロの罰金まで課されている。また、スウェーデン、カナダ、ベルギーなどの当局は、警察によるClearviewの技術の使用を違法と判断している。
Privacy Internationalは、Clearviewとウクライナのパートナーシップに強い懸念を抱いている。その意図が何であれ、ウクライナ市民が現在きわめて脆弱な状況に置かれているなか、個人データの悪用で批判を浴びているテクノロジーの導入を提案することは、人々の苦痛と絶望を利用する無責任な行為と言わざるをえない。Clearviewのデータ収集は多くの国のプライバシー法に違反していることが判明しており、汚染された絆創膏で傷口を塞ごうとするようなものだ。
顔認識およびオンライン監視のリスクと危険性は広く知られている。戦時下にあって、民間人を兵士と間違えたり、ウクライナ人をロシア兵と間違えてしまえば、取り返しのつかない結果を招くおそれもある。また、ロシア政府がこのパートナーシップを逆手に取って、オンラインページや結果に、自らを利するような情報操作を行っていたとしたらどうなるだろうか。Clearviewはロシアのソーシャルメディアプラットフォーム VKontakteの20億枚の写真をデータベースに登録していると豪語しているが、プーチンによるさまざまなオンライン情報操作が明らかになっていることを考えれば、極めて懸念される。
こうした技術の戦時下での使用については前例がなく、Clearview自身がリスク評価を行ったかどうかも明かされてはいない。平和な時代、平和な地域であっても、彼らのテクノロジーは大いに議論を呼び、前述したように違法だと判断されてもいる。平和で安定した時代に作られた強力なセーフガードでさえ、戦時下の無法と予測不可能性の前には吹き飛んでしまう。そのようなテクノロジーを持ち込むリスクは極めて多いい。Clearviewには正しい振る舞い、つまり申し出の撤回を求めたい。
新型コロナウィルスのパンデミック、そしてウクライナの戦争に至るまで、人類の悲劇はイメージ洗浄を目論む監視起業にとって無縁ではいられないようだ。
ロシアで進む反対意見の弾圧を見れば、大衆監視技術がなぜ民主主義にとって脅威なのか、なぜそのような技術は抑制されなければならないのかがよく分かるだろう。大衆監視インフラが構築されてしまえば、全体主義に対抗することは不可能になるだろう。
本稿はこちらで最初に公開された。
画像クレジット:Max Kukurudziak(Unsplash)
(Contribution by: EDRiメンバー Privacy International)
The Clearview/Ukraine partnership – How surveillance companies exploit war – European Digital Rights (EDRi)
Author: Privacy International / EDRi (CC BY-SA 4.0)
Publication Date: March 18, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Max Kukurudziak
この記事の公開後、ウクライナのミハイロ・フェドロフ・デジタル相は、この技術を戦闘で死亡したロシア兵を特定するために使用していることを明らかにした。