以下の文章は、電子フロンティア財団の「Data Brokers and True the Vote are the Real Villains of “2000 Mules” Movie」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

映画『2000人の運び屋(2000 Mules)』は、スマートフォンアプリの位置情報を利用して選挙の不正を暴いたと謳った映画だ。この映画の主張は、すでに徹底的に検証され間違いが指摘されているが、この映画は、数千人の位置情報を本人の同意を得たり知らせることすらなく、乱暴かつ侵入的な調査に利用したことについても非難されなければならない。この映画によって、大規模なプライバシー侵害を可能にするいかがわしいデータブローカー業界を阻止する必要性を改めて痛感させられる。

『2000人の運び屋』では、2020年大統領選挙における大規模な不正を証明するとして、True the Vote(TTV)の調査を紹介している。TTVは、投票箱に投票用紙を詰め込むいわゆる「ラバ(mules: 運び屋)」のパターンを発見するために、あるデータブローカーから10兆のジオロケーションデータポイントを購入したという。調査者は、位置情報が収集された数十万人のうち、数千人の人物が非営利団体と投票箱の2地点周辺に物理的に存在していたことを発見し、それこそが「ラバ」であると主張している(実際にデータを購入された人の数はもっと多い可能性がある。TTVのレポートによれば、アトランタの投票箱近辺に存在した50万台以上のスマートフォンからデータを収集したと述べているが、これは取得したデータ全体のほんの一部に過ぎない)。

TTVの不正投票の主張の論理的破綻はさておき、選挙日までの数カ月間に、数十万人の生活に関するこれほどの個人情報を購入できたという事実それ自体が、ゾッとする話だ。だが、それこそがデータブローカーが意図したビジネスモデルなのである。データブローカーは数千ものスマートフォンアプリから位置情報を吸い上げ、大量の極めて暴露的な位置情報をパッケージ化し、購入希望者の販売しているのだ。そして、その顧客はTTVだけではない。米軍連邦政府機関連邦法執行機関はいずれも、位置情報データブローカーの顧客である。また、生殖医療を求める人々の位置情報を販売しているデータブローカーが存在することまで明らかになっている。中絶を求める人や中絶医療を提供する人々を特定・起訴するための新たな証拠として、強硬な中絶反対法案を可決・審議している州に提供されるおそれがある。

データブローカーはしばしば、位置情報は「匿名化」されていると主張するが、そもそも位置情報データは匿名ではない。スマートフォンの位置情報が、その所有者の行動パターン(夜に睡眠をとっている場所や、日中に仕事にでかける場所)を示していれば、その所有者の氏名と住所は簡単に割り出せる。TTVでさえ、レポートの中でその事実を認めている。だが、「TTVは、追跡しているデバイスの所有者の身元を『非マスク化』も『非匿名化』もしない」と主張しているにも関わらず、彼らは(不発に終わった)ジョージア州捜査当局に刑事捜査を促すためにデバイスデータを渡し、同じレポートの中でデバイスIDの一部を編集したリストを公開し、最近では(おそらく位置情報のことを指して)「すべてを公開する」予定であると表明している。さらに、デバイスIDだけでスマートフォンを非匿名化することを目的とした業界も存在している

TTVが取得した位置情報は極めて侵入的であるが、不正確である可能性もある。TTVは、デバイスを「ピンポイント」で特定できると主張し、GPSデータだけで当該人物がどの投票箱に入れたかがわかるとほのめかしている。しかし、スマートフォンのGPSデータは、理想的な条件下でも約5メートル(15フィート)以内の精度しかない。つまり、ある人物がある時間内に特定の物体に実際に触れたかどうかなど真に知りようがないのである。そのような低い精度であっても、この技術は、ある人物が夜にどこで寝て、どの弁護士事務所や病院にかかったか、朝の通勤をやめたかといったことを暴き、危険に晒すには十分な精度を有している。また、販売されている位置情報には、数秒で何キロも移動しているように見える「テレポート」デバイスなど、もっと派手な不正確さがあることも多い。警察が「ジオフェンシング」のような手法でこの種のデータを利用することで、無実の人に誤った容疑をかけることにもつながっている。販売されている位置情報だけで不正投票を証明するなどというのは、実に愚かなことだ。

位置情報を用いて不正の疑惑をかけるのは、この映画が初めてではない。昨年にも、位置情報とアプリ「Grindr」の使用情報を販売データから追跡されたカトリック司祭が解雇されたばかりだ。TTVのプライバシー侵害的な調査は、この種のデータが容易に取得でき、極めて侵入的であり、実在の人物に危害を加えるために使用しうることを示す新たな証拠である。

一般市民の極めてセンシティブな位置情報を容易に購入できるようにするこのビジネスモデルは、一刻も早く止めねばならない。そのためには、モバイルOSの開発者側の予防的措置だけに頼るのではなく、規制も必要だ。だが、あなたのデータがデータブローカーやTTVのような組織に利用されるのを防ぐために、今すぐできることもある。あなたのスマートフォンの広告IDトラッキングを無効にすることだ邦訳記事)。

Data Brokers and True the Vote are the Real Villains of “2000 Mules” Movie | Electronic Frontier Foundation

Author: Will Greenberg / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: May 23, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Thor Alvis