ミャンマーの抵抗運動は、民主化運動家の処刑によって軍事政権が見せた残虐さにも関わらず、今後も続いていくだろう。すでに市民は命がけで毎日を生きている。適法な抗議活動に参加し続けている人びとはなおさらだ。報道によれば現在、軍は顔認識機能を搭載した中国製の監視カメラを配備し、抑圧的な政権がいつでも誰であっても容易に居場所を特定できるようにしているという。
アグレッシブな監視は、ミャンマーの現実になっている。すでに多くの人が追跡され、政権に楯突いたとして逮捕・殺害されている。通信事業者は傍受監視技術の導入を命じられ、SIMカードやIMEI登録を強化する規制により、政権はいつでも個人の情報を収集し、追跡する権限を拡大している。ここには、生体情報を収集するE-IDシステムも含まれる。監視カメラの配備は、事態をより一層悪化させることになるだろう。
報道によると、中国企業のダーファ・テクノロジー、ファーウェイ・テクノロジーズ、ハイクビジョンが政府に監視カメラを納入しているという。三社の製品は、中国政府による少数民族のジェノサイドや弾圧の疑惑が度々報じられている新疆ウイグル自治区でも使用されていることから、米国は2019年に貿易上の取引制限リストであるエンティティ・リストに三社を追加している。また、国内入札を落札した2社の現地企業、フィスカ・セキュリティ&コミュニケーションとナウンヨー・テクノロジーズは、ミャンマー軍とのつながりが明らかになっている。フィスカのソー・ミン・トゥン会長はミャンマー警察の元副長官で、ナウンヨー・テクノロジーズは軍に定期的に機器を納入している。
政府はしばしば、国家安全保障や治安への懸念を口実に、このような監視プロジェクトを推進する。だが、ミャンマー政府はこれらの技術を悪用して、市民をさらに弾圧することも可能になる。そのリスクは、政府の主張する利益を遥かに上回っている。
抵抗運動を脅かすミャンマーの監視カメラ
すでに軍事政権は、国民登録カードによってミャンマー市民の重要情報を管理している。カードには、写真、氏名、住所が記載されている。顔認識機能を搭載した監視カメラが広範囲に配備されたことで、軍事政権は国民IDと監視カメラの2つの巨大なデータベースを照合できるようになった。この情報を使えば、活動家や抵抗運動の参加者を特定し、標的にすることができる。
差別的標的型監視とは、宗教・民族・人種的マイノリティ、政治的反体制派、その他周縁化されたグループの人権や自由に偏った悪影響を及ぼす監視のことをいう。ミャンマーの活動家や抵抗勢力は常にその標的とされ、オンラインでもオフラインでも、常にハラスメントにさらされている。ミャンマーの監視カメラは、ミャンマー全土に無数の監視の目を光らせることになるだろう。
監視カメラは抵抗運動にどのような影響を及ぼすのか
ミャンマーに対する世界の関心は別の地域(訳注:ウクライナ)の危機によって薄らいでいるが、ミャンマー市民は命の危険にさらされながらも、政権に抗議し、抵抗を続けている。活動家が大規模なデモ行進や集会を組織したり、小規模なフラッシュモブを実施したり、さまざまな抗議が展開されている。また、サイレント・ストライキもしばしば行われ、企業や商店が休業して政権への不支持を示したりもしている。主催者は兵士や警察に見つからないよう、あえて舗装されていない道路を選ぶことも多い。
監視カメラが普及すれば、公共空間全体が弾圧の場となるだろう。政権が抗議者を監視・報復する絶対的な力を手に入れることになるのだ。ミャンマーでも他の地域でも、公共空間でも顔認識技術の使用は人権とは相容れない。
大規模監視との戦い:市民、企業、政府は何をすべきか
ミャンマー市民:プライベートなコミュニケーションの保護など、安全を確保し、コミュニティや愛する人びとを守ることが決定的に重要である。Access Nowは、デジタル・セーフティに関する情報を提供している。支援が必要なときには、ぜひ連絡してほしい。世界中の人権団体がミャンマーへの危険な監視技術の販売・配備への反対運動の準備を進めており、関係企業に関する情報収集はその助けになる。その情報を元に、国際社会は誰が関与しているかを突き止め、ミャンマー以外の法域での訴訟、制裁、貿易制限などさまざまな圧力を用いて、人権侵害を防ぐための行動を起こすことができる。
ミャンマー政府に監視技術を販売する企業:あなた方には、人権を尊重し、自社製品がもたらす潜在的な人権への影響を軽減する義務がある。もしあなたの会社が、大規模および差別的標的型監視を可能にする顔認識/遠隔生体認識技術を備えた監視カメラシステムをミャンマー政府に納入しているのであれば、その関係を断ち切り、不正に取得した生体情報を削除しなければならない。これらの技術は、国際的に罰せられるべき重大な人権侵害を助長するおそれがあり、軍事クーデター指導者への監視技術の販売・供給を制限・管理するために国際機関が課している制限措置(制裁を含む)を遵守すべきである。
世界各国政府:今こそ、公共空間での顔認識技術を始めとする生体監視技術を用いた市民の監視、識別、追跡、分類、尾行の禁止を表明すべきだ。ミャンマー市民の人権を守るために、ミャンマーの監視プロジェクトに関与する企業とあなた方との取引についても、徹底的な監査を実施すべきである。そうすれば、ミャンマーの軍事政権に抵抗する市民に対する人権侵害を支援・助長するのをやめるよう、適法な手段でこれら企業に圧力をかけることができる。ターゲットを絞ったスマートな制裁措置や貿易禁止・制限を通じて、軍事政権に製品を供給する企業に財政的・政治的なハードルを課し、ミャンマー市民との連帯を示すことができるのである。
FAQ on Myanmar CCTV cameras and facial recognition
Author: Golda Benjamin, Dhevy Sivaprakasam and Wai Phyo Myint / Access Now (CC BY 4.0)
Publication Date: August 3, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Saw Wunna