以下の文章は、電子フロンティア財団の「The Movement to Ban Government Use of Face Recognition」という記事を翻訳したものである。
警察や政府当局が顔認識技術を自由に使えるようになれば、我々のプライバシー、表現の自由、情報セキュリティ、そして社会正義への著しい脅威となる。我々の顔は、家にしまっておくこともできなければ、盗まれたIDや漏洩したパスワードのように交換することもできないユニークな識別子だ。顔認識技術は、我々がよく行く場所、付き合う人、そして我々の感情状態を、秘密裏にかつ大規模に監視することを可能にする。
幸いなことに、全米のコミュニティが顔識別技術への反撃を開始している。サンフランシスコが当局による顔認識技術の使用を禁止する最初の条例を可決してからの3年間で、オークランドからボストンまで、少なくとも16の自治体がこの動きに追随した。こうした顔認識技術の禁止条例は、この危険な技術に付随する被害から市民を守るために必要とされているのである。
行政による顔監視を禁止する既存の条例の中で、効果的と思われるものには共通点がある。この技術を広く定義し、条例に違反した場合に地域コミュニティの誰もが法的強制力を行使できる効果的なメカニズムを提供し、不注意による違反で得た情報の利用を制限していることである。
だが、それぞれの条例がどのようにこの目標を達成しているかには、それぞれにニュアンスがある。ここでは、行政による顔認識の利用を禁止する17の自治体について、その特徴を紹介したい。次のラウンドの起草者が、自らのコミュニティを守るための最良の方法を見出す一助となれば幸いである。
以下が17のコミュニティのリストである。
「顔認識」の定義
技術規制に当たっては、どのようなツールやアプリケーションが対象になるのか、あるいは対象外であるかを定義するために、特別な配慮が必要である。この課題を複雑にしているのは、関連技術を十分に広く定義し、新たな機能を適切に捕捉できるようにしなければならない一方で、規制の範囲に含まれるべきでない技術やアプリケーションに不用意に悪影響を及ぼさないようにしなければならないという点である。
行政による顔認識技術の使用の多くの形態は、本質的に市民の自由に重大な脅威をもたらす可能性があり、バイアスをさらに悪化させるおそれもある。今日、最も広く展開されている顔認識技術が、いわゆる「顔照合(face matching)」だ。この技術は、未知の人物の写真を実在の個人に結びつける「顔識別(face identification)」にも使用できる。たとえば、警察は監視カメラで撮影した新規の画像から顔写真を抽出し、既知の顔写真データベース(行政のID写真データベースなど)と比較したりしている。また、ある場所やデバイスにアクセス可能であるかを判断する「顔認証(face verification)」にも利用されている。他にも、顔照合は特定の人物の画像を自動的に収集する「顔クラスタリング」や、物理空間における人物の移動を自動追跡する「顔追跡(face tracking)」などがある。これらはすべてデジタルライツを脅かしうる。
顔認識のもう1つの応用としては、「顔分析(face analysis)」または「顔推論(face inference)」がある。これは顔の特徴から人口統計学的な特性や感情状態などを特定できると主張されている。だが、これらの技術は偏見をさらに助長し、骨相学時代への回帰をもたらすだろう。
行政による顔認識技術の使用を禁止するには、これらすべての脅威に対処できるよう幅をもたせた規制が必要だ。幸いなことに、既存の禁止ルールの大半は、ボストンの規制に倣って、顔監視と顔監視システムを次のように定義している。
「顔監視」とは、個人の顔の物理的特徴に基づき、個人の識別や確認、あるいは個人に関する情報の取得を支援する、自動化ないし半自動化されたプロセスを意味するものとする。
「顔監視システム」とは、顔監視を実行するコンピュータソフトウェアまたはアプリケーションを意味するものとする。
重要なポイントは、これらの定義は顔識別や顔認証だけに限定されず、顔の特徴を利用して情報を収集する他の技術にも適用されることだ。
カリフォルニア州オークランドは、もう1つの強力な例を示している。
「顔認識技術」とは、以下の自動化ないし半自動化されたプロセスを意味する。(A) 個人の顔に基づいて個人の識別・確認を支援する、または(B) 個人の顔、頭部、身体的特徴を識別ないし記録して、個人の感情や関係、表情または位置を推定する。
注目すべきは、顔の特徴のみならず、頭部や身体の特徴も含まれている点である。この定義は、現在のさまざまな生体情報の用途をカバーしており、将来にわたる生体情報の利用の懸念を低減させる。
重要なのは、それぞれの定義が意図した技術とアプリを有効に捕捉する一方で、通常の映画、ビデオ、静止画の撮影等のそこまで懸念されてない行為を不用意に含めていないことである。
使用しない、アウトソースしない
市が地元当局による顔認識技術の導入・使用を独自に禁止するのは極めて重要ではあるものの、それだけでは市民を守ることはできない。顔認識技術によって得られた情報の取得・使用を禁止することも重要だ。そうしなければ、市の職員は第三者に顔認識技術の使用するよう委託できてしまうのである。
ニューヨークやデトロイトなどの大都市の警察は、組織内に顔認識システムやオペレーターチームを設置しているのだろうが、米国内のほとんどの地方警察は、顔認識の照会を州機関やフュージョンセンター、FBIに依頼しているのが現状だ。したがって、顔認識技術そのものを規制しても、そこから得られる情報を放置していては、規制の効果はほとんど期待できないだろう。
バークレーなどの複数の都市で、市議会は顔認識技術から得られた情報へのアクセスや利用を、その情報源に関わらず違法とするという重要な追加措置を講じた。
シティ・マネージャーまたその代理を務める者が、i) 顔認識技術、またはii) 顔認識技術から得られた情報の入手、保持、要求、アクセス、または使用は、本条例の違反となる。
バークレーの条例はさらに、シティマネージャーが誤って顔認識技術から得た情報にアクセスした場合でも、そのデータの使用を認めず、速やかに破棄しなければならないと定めている。また、そうした不注意による情報の取得・使用は記録され、防止措置を策定・実施した上で、市の年次報告書に記載しなければならない。こうした透明性措置により、市民や議員はこうした誤りを認識し、条例を意図的に回避しようとする試みのさまざまパターンを把握することができる。
例外
例外はどんなルールをもダメにすることがある。行政による顔認識技術の使用を禁止する条例の立法・支持者は、許容される用途を分類する上で慎重さが求められる。
第一に、一部の条例では情報公開法(FOIA)に基づく開示に際して、行政記録に含まれる顔にぼかしをかける顔検出技術を認めている。たとえば、行政が保存している警察の暴力行為を撮影したビデオに写り込んだ一般市民のプライバシーを保護しつつ、透明性のある一般公開を確保するために役立つ。顔検出技術は、個人を区別するための顔写真を必要としないため、プライバシー上の懸念は小さい。だが残念なことに、その精度は人種によって異なる。
キング郡の条例は、行政が顔検出技術を使用する際に必要な2つのセーフガードを定めている。「公開する映像について、映像に記録された対象のプライバシーを保護するために……編集する目的でのみ使用できる」としている。また、「顔認識情報を生成。保存することはできない」ともしている。
第二に、自治体がその業務において、フェイスプリントでロック解除する電話や個人用端末の提供を認める条例がある。職員の中には、そうした端末を使用して一般市民の個人情報を収集する者もおり、その情報はセキュアに保管されねばならない。パスワードは強力な保護手段となるが、フェイスロックと同等の利便性があるとは言えない。パスワードだけでは、面倒だからとデバイスロックしない事も考えられる。
第三に、自治体によっては、庁舎の入退館を管理するためにフェイスロックの使用を条例で認めている。メイン州ポートランドの条例には、2つの重要なセーフガードが定められている。入館を許可された人物については、当人のオプトインの同意なしにデータを処理することはできない。それ以外の人物については、いかなるデータも処理することはで認められない。
第四に、警察が特定の犯罪を捜査する際に、他の機関が顔認識によって得た情報の取得・使用を認める条例がいくつかある。EFFは、こうした例外規定に反対である。少なくとも、警察自体がこの技術の使用を禁止されている場合は、他の機関がその代理として顔認識技術を使用することも禁止されなければならない。ボストンはそのルールを定めている。だが、情報の押しつけの問題もある。サンフランシスコ警察は、容疑者不詳の写真などを他の機関に広く流し、その機関の1つが写真を顔認識にかけたことで得られた情報を捜査に使用していた。ニューオリンズの条例ではさらに踏み込んで、この技術によって生成された情報を、市職員が「知っている限り」使用を禁じている。幸いなことに、17の条例のうち12の条例が、そのような使用を例外として認めてはいない。
第5に、いくつかの条例が、全米児童捜索法の遵守を例外としている。これは不要である。同法はすでに保持している情報を報告することを機関に求めているだけであって、情報の取得や技術の使用を要求しているわけではない。幸いなことに、17の条例のうち13がこれを例外とは認めていない。
執行
行政による顔認識の利用を禁止するだけでは不十分である。執行も必要だ。最良の方法は、市民自らが執行のために訴訟を起こせるようにすることである。これは私訴権と呼ばれるものだ。
訴訟当事者を広く定義することが望ましい。例えばオークランドでは「本条項の違反は損害を構成し、何人も訴訟を起こすことができる」と定めている。顔認識によって損害を受けたと証明できる人にだけ強制力を認めるというのは間違いだ。条例に堂々と違反しているにも関わらず、その被害を受けた人物を特定するのが難しいという場合もある。さらに、行政による顔認識の使用は、公共の場での抗議活動を抑制するなど、コミュニティ全体に害をもたらす。
個人による執行には、あらゆる救済措置が必要になる。裁判所には、市に条例の遵守を命令する権限を与えなければならない。また、顔認識をされた個人には、損害賠償の請求権が与えられなければならない。オークランドの条例ではそのように定められている。原告が勝訴した場合には、適当な弁護士費用が支払われなければならない。これにより、弁護士を雇う余裕のある富裕層だけでなく、あらゆる人が裁判にアクセスできるようになる。サンフランシスコは、すべての合理的な費用を完全に回収できるようにしている。
それ以外の執行手段も必要になる。第一に、ミネアポリスのように、条例に違反して収集された証拠は裁判の証拠から除外されなければならない。第二に、バークレーのように、条例違反を内部告発した職員は保護されなければならない。第三に、ブルックラインのように、違反した職員は懲戒の対象にならなければならな。
その他の禁止事項
行政による顔認識の使用を禁止する条例案の策定にあたっては、顔認識以外の監視技術の使用も禁止すべきかを検討するとよいだろう。多くの技術は極めて危険かつ侵入的であり、行政が使用すべきものではない。
たとえば、EFFは行政による予測的取り締まりに反対している。我々は、ニューオリンズ、オークランド、ピッツバーグ、サンタクルーズの4都市が予測的取り締まりを禁止している。また、オークランドの行政による声紋(voiceprints)の禁止も我々は支持している。
連邦規模での禁止
政府による顔監視技術の使用が言論の自由を妨げ、市民のプライバシーを侵害し、歴史的偏見を増幅していることを理解しているのは、市や群レベルの議員たちだけではない。ドワード・マーキー、ジェフ・バークレー、バーニー・サンダース、エリザベス・ウォーレン、ロン・ワイデンら上院議員や、プラミラ・ジャヤパル、アヤナ・プレスリー、ラシダ・トライブら下院議員は「顔認識及びバイオメトリクス技術モラトリアム法 (S.2052/H.R.3907)」の導入に乗り出している。この法案が可決されれば、移民・関税執行局、麻薬取締局、連邦捜査局、税関国境警備局などの連邦機関が、米国居住者や旅行者を監視するために顔認識を使用することは禁止されることになる。また、顔認識を使用する地方自治体や州政府は一定の連邦資金が減額される。
行動を起こそう
もしあなたが、行政による顔認識の禁止を採択した17都市に住んでいないなら、まずは自分の地域に変化を起こすことから始めるのが一番だ。実は、あなたの地元にも変えようと試みているグループが存在しているかもしれない。我々の「About Face」キャンペーンは、地域のオーガナイザーが議員やコミュニティを教育し、すべての住民が変化のための最初の一歩を踏み出すのを支援している。あなたの地域に電子フロンティア・アライアンスのグループがあるなら、同じ考えを持つ隣人や活動家を見つけ、あなたの取り組みを増幅させるための素晴らしいリソースとなってくれるだろう。もし、あなたの街があなたと隣人を守ってくれているなら(そしてまだ守ってくれていないとしても)、友人や愛する人のために立ち上がり、連邦政府による顔認識の使用を禁止するときが来たことを連邦議員に知らせることはできる。
The Movement to Ban Government Use of Face Recognition | Electronic Frontier Foundation
Author: Nathan Sheard and Adam Schwartz / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: May 5, 2022
Translation: heatwave_p2p
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