以下の文章は、電子フロンティア財団の「Privacy Shouldn’t Clock Out When You Clock In: 2022 in Review」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

EFFは2022年、職場でのテクノロジー問題への取り組みを拡大した。パンデミックの初期に「ボスウェア」(業務用端末上の追跡ソフトウェア)の亡霊が再び現れたことで、我々はこの労働者のプライバシー問題にあらためて取り組むことにした。

それ以降、EFFは労働界と協力し、職場や業務用デバイスにおける監視と、それが従業員に与える影響について、より深く学んできた。とりわけ、規制当局が目を光らせるようになり、政治家が消費者プライバシー法案に労働者のプライバシーを盛り込むようになると、職場特有のプライバシー問題を理解することが重要になってくる。

ボスウェアが従業員に及ぼす影響

ホワイトカラーのリモートワーカーが仕事中にボスウェアの息づかいを感じる一方、雇用者による労働者監視の実態、それが労働者の健康、安全、生活、団体交渉権に及ぼす持続的な影響について、これまで以上に報道されるようになった(123)。リモートワークであっても、こうしたストレスはメンタルヘルスや家族に影響を及ぼす。だが、このような従業員の監視強化は、あらゆる業種に及んでいる。報道では、賃上げ要求への報復として監視を強化された食肉加工工場の従業員や、サービスワーカーデリバリードライバーなど、雇用者の機嫌を損ねたブルーカラー労働者への監視も取り上げられている。たとえ効果がなく、労働者に悪影響があったとしても、労働者の行動を監視し管理する手段を増やそうとする雇用者の欲望はとどまることを知らず、中には労働者の生産性を共有データベース化しようと提案する者さえいる。オランダなど他国の裁判所や機関は、外国人リモートワーカーの人権を侵害した米国企業による侵襲的な監視の強要に対処し始めている。

こうした不合理で無責任な懲罰的テクノロジーから職場の権利を守るためにも団体交渉組合活動がっ必要とされているが、こうした監視は団結権を行使しようとする労働者への違法な報復を可能にしており、団体交渉や組合活動による解決をも遠ざけている。連邦政府の規制当局、ひいては州政府や地方政府は、この事実を持って介入する根拠とすべきである。

職場の監視問題に乗り出す労働省とNLRB

一部の上院議員が労働規制当局に労働者保護のさらなる取り組みを求める一方、労働省と全米労働関係委員会(NLRB)は、複雑かつ絶えず変化するこの問題により積極的に取り組むことを宣言した。司法省と雇用機会均等委員会が先に発表した、一部のAIによる監視が米国障害者法に違反する可能性があるとの報告に続き、労働省も、労働者を監視・判定するAI技術に内在するバイアスに公然と疑問を呈した

NLRBの法務顧問は先日のメモで、規制当局に「違法な電子的監視と自動化された管理手法」から労働者を保護するよう呼びかけた。EFFもこれに同意する。その中で、保護強化のための2つの戦略が提案されている。1つは、組合について職場で発言した労働者への報復を禁じる全国労働関係法第7条のような既存の職場保護を、NLRBが直接または省庁間の協力によって執行すること、もう1つは、時代に即応した新たな労働者保護規則・規制に備えて、絶えず変化するボスウェア環境と現在の規制とのギャップを調査することである。

消費者プライバシー規制に労働者の保護を

職場におけるパワーバランスとインセンティブは、消費者との関係におけるそれらとはまったく異なる。連邦取引委員会(FTC)のプライバシー問題に関するパブリックコメント募集で述べたように、消費者の定義に労働者を含めるべきである。

雇用者が従業員のデータを処理する前に従業員の同意を求める場合、そのような関係性においては同意の枠組みは成り立たない。消費者の文脈であれば、データ収集に「ノー」と言うことは、他社のサービスを利用しなければならないことを意味するかもしれない。だが雇用者に「ノー」と言えば、解雇されるか、生活に深刻な影響がおよぶかもしれない。

企業は、消費者プライバシーの強化が自社利益につながると考えれば、何らかのインセンティブを得ることができる。一方、労働者がプライバシーの問題を提起すれば、雇用者はその労働者をより従順な労働者に置き換えようとするだろう。にもかかわらず、倉庫作業員運転手在宅医療従事者弁護士など、監視に対して声を上げる労働者はますます増えてきている。

FTCに伝えたように、我々はカリフォルニア大学労働センターの2021年「職場でのデータとアルゴルリズム:労働者のテクノロジーの権利のためのケース」報告書で示された原則を概ね支持している。報告書では、労働者の権利に関するいくつかの原則を示している。例えば、労働者のデータは、従業員の仕事のタスクに必要かつ密接に関連する場合にのみ収集されなくてはならない。また、そのデータは収集目的以外には使用してはならない。同様に、特に業績評価や懲戒など、労働条件に重大な影響を与えうる方法でデータが使用される場合には、データ収集の方法と理由について労働者に明確に通知しなくてはならない。実際、ボスウェアの多くは懲罰的で、労働者にペナルティを与えたり、ハードワークを強いることを意図している。このようなストレスは、労働災害やメンタルヘルスに影響を及ぼす。

州法による労働者の権利の保護

我々はまた、カリフォルニア州の労働団体とともに、アッシュ・カルラ州下院議員が提出したA.B.1651を支援した。この法案は、職場における監視についての情報を労働者に提供する重要な一歩を踏み出し、労働者のプライバシーの権利の重要性を知らしめることにつながった。

この問題は、今後数年、ますます深刻化していくだろう。監視し管理しようとする雇用者による違法な試みから労働者の権利を擁護するために、我々は多くのアライと共に協働していくつもりである。

本稿は、「Year in Review」シリーズの一部である。2022年のデジタルライツの戦いに関する他の記事もご覧いただきたい。

Privacy Shouldn’t Clock Out When You Clock In: 2022 in Review | Electronic Frontier Foundation

Author: Hayley Tsukayama and José Efa / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: December 26, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Avi Richards