以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Return to office and dying on the job」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

Wells Fargoの従業員、デニーズ・プルドムが、勤務するアリゾナ州テンピのオフィスのデスクで亡くなった。それから4日間、彼女が亡くなっていたことに誰も気づかなかった。皮肉なことに、同社の経営者たちは「対面でのチームワークの大切さ」を理由に、オフィス勤務の義務化を推し進めていた。

8月の出来事だ。現在、Wells Fargo Unitedは彼女の死に関する声明を発表した。その内容は、Wells Fargoが従業員に対して行う冷酷かつ選択的な監視への怒りで満ちている。

https://www.reddit.com/r/WellsFargoUnited/comments/1fnp9fa/please_print_and_take_to_your_managersite_leader/

この組合によると、Wells Fargoの従業員は様々な監視ソフトによって常時監視されているという。キーストロークを数え上げ、マウスの移動距離まで表にするような、細部に及ぶ監視だ。

https://pluralistic.net/2021/02/24/gwb-rumsfeld-monsters/#bossware

Wells Fargoが従業員に送るメッセージははっきりしている。「お前らは信用できない」だ。この方針はオフィス回帰の義務化でさらに強化された。オフィス回帰は「チームワーク、コミュニケーション、同僚との絆を深める機会」として売り込まれることが多い。確かに、人と顔を合わせて過ごす時間が仕事上の関係改善に役立つという考えには一理ある。実際、私も今月初めにEFFの全スタッフ参加の1週間のリトリートに参加したが、対面形式だったからこそ素晴らしい経験になった。

だが、経営者たちが我々をオフィスに呼び戻したいのは、我々と一緒にいるのが楽しいからでも、素晴らしい人材を雇用できて、みんなの仲の良さを見るのが待ちきれないからでもない。ジョン・クイギンが書いているように、オフィス復帰を強制する最大の理由は、従業員を辞めさせたいからだ。

https://www.theguardian.com/commentisfree/2024/sep/26/in-their-plaintive-call-for-a-return-to-the-office-ceos-reveal-how-little-they-are-needed

マスクの取り巻きの一人が、Twitter買収前のプライベートメッセージでこう漏らしている。「刃を研げ、みんな。週2日のオフィス勤務義務化 = 20%の自主退職だ」。

https://techcrunch.com/2022/09/29/elon-musk-texts-discovery-twitter/

我々を監視するもう一つの理由は、彼らが我々を信用していないからだ。「クワイエット・クイッティング(静かな退職)」や「誰も働きたがらない」といったパニックを覚えているだろうか。経営者たちの頭の中では、「少額のコロナ給付金でかろうじて生活する方が、うちで働いて満額の給料をもらうより魅力的なんだ」という猜疑心が渦を巻いている。

すべての告発は自白でもある。上司が「完全かつ常時の監視なしでは良い仕事をすると信用できない」と言うとき、実際には「自分は首になる恐怖がないと、CEOとしての仕事をまっとうできない」と言っているのだ。

https://pluralistic.net/2024/04/19/make-them-afraid/#fear-is-their-mind-killer

Wells Fargo Unitedが指摘するように、デニーズ・プルドムのようなWells Fargoの従業員は、建物に足を踏み入れた瞬間から退社するまで監視されている(時には退社後も監視が続く)。

「Wells Fargoは、リモートの電子技術を使って私たちの一挙手一投足を、キーストロークを監視しています。表向きは生産性を評価するためだと言っていますが、コンピュータのキーストローク数が足りないと判断されれば解雇されるのです」

Arizona Republicの報道によると、プルドムはバッジで出退勤を記録することを義務づけられていた。つまり、Wells Fargoは彼女が4日前に入館したまま退出していないことを把握できたはずなのだ。

https://www.azcentral.com/story/news/local/tempe-breaking/2024/09/23/wells-fargo-employees-union-responds-death-tempe-woman/75352015007

Wells Fargoは、州境を越えてでもオフィスに出勤するよう従業員に求めている。彼らは従業員を集めるための「ハブ都市」を設定した。聞こえは良いかもしれないが、プルドムの場合、テンピのハブで働くチームは彼女ただ一人だった。つまり、自宅を離れ、長距離を移動し、(少なくとも)4日間誰も訪れない建物の片隅で日々を過ごすことを強いられていたのだ。

経営者たちは「私は機会さえあれば怠けるに決まっている」と確信しているからこそ、コストを顧みず従業員にオフィス勤務を強制する。2020年3月、当時米国で最高給のCEOだったCharterのトム・ラトレッジは、全バックオフィススタッフにコールセンターでの対面勤務を義務づけた。これはパンデミック最悪の時期、つまり感染防護具が不足し、感染経路も不明、ワクチンもない時期だった。Charterは通信会社だ。米国中の労働者がリモートワーク用にブロードバンドをアップグレードし、業績は好調だった。それなのにCEOの対応は「リモートワーク禁止」だった。結果、同社のカスタマーサービスセンターは感染爆発の温床と化した。

https://pluralistic.net/2020/03/18/diy-tp/#sociopathy

Wells Fargoが亡くなった従業員を4日間も机に放置したことは、米国で3番目に大きい商業銀行にとして当然のことなのだろう。思い出してほしい、これはWells Fargoなのだ。顧客から盗み、株主を欺くために、底辺の行員に200万件の偽口座を開設させた会社だ。それを告発した従業員を解雇してブラックリストに載せた会社だ。

https://www.npr.org/sections/thetwo-way/2016/09/26/495454165/ex-wells-fargo-employees-sue-allege-they-were-punished-for-not-breaking-law

この詐欺を主導した幹部には1億2500万ドルものボーナスが支払われた。

https://www.nakedcapitalism.com/2016/09/wells-fargo-ceos-teflon-don-act-backfires-at-senate-hearing-i-take-full-responsibility-means-anything-but.html

CEOに至っては2億ドルだ。

https://money.cnn.com/2016/09/21/investing/wells-fargo-fired-workers-retaliation-fake-accounts/index.html

Wells Fargoの悪行は従業員に対するものだけにとどまらない。忘れてはならないが、これらの偽口座は投資家に対する詐欺の一環だった。さらに彼らは、通貨換算で顧客から7600万ドルを巻き上げた。住宅ローンを滞りなく返済していた顧客の家を差し押さえ、所有物を根こそぎ売り払ったこともあった。顧客の署名を偽造して詐欺まがいの口座開設を行うよう行員に圧力をかけておきながら、その詐欺的書類に含まれる仲裁条項を盾に、顧客は訴訟を起こす権利はないとさえ主張した。最終的に被害者への賠償に応じた際も、オプトイン方式を採用することで、盗んだ相手の大多数が二度と金を取り戻せないようにした。

彼らの悪行はまだ終わらない。偽の「住宅保証」で数百万ドルを搾取した。偽のクレジットカード手数料で中小企業から数百万ドルを騙し取った。保険詐欺で80万人の顧客を欺き、違法な差し押さえで2万5000人から車を奪った。2008年以前には、後に爆発的な差し押さえ騒動を引き起こす欺瞞的な住宅ローンの誤売却でトップを走っていた。トランプに巨額融資を行い、見返りに減税してもらった。そして26,000人もの従業員を解雇し、406億ドルの自社株買いを実施した。525件の住宅をローン借り手から不当に奪い、「コンピューターの不具合」のせいにした。

https://pluralistic.net/2021/09/29/jubilance/#too-big-to-jail

これらの事実から、2つのことが明らかになる。まず、犯罪、詐欺、不正について監視されるべきは、Wells Fargoの従業員ではなく、Wells Fargo自身だということ。そして、Wells Fargoの監視システムは従業員を支援するためではなく、ただ恐怖に陥れるためだけに存在しているということだ。Wells Fargo Unitedはこう訴える。

「私たちが求めているのは、懲罰的でなく、さらなるストレスを与えない、改善された安全対策です。解決策は監視の強化ではありません。バックオフィスに閉じ込められるのではなく、互いに支え合える職場環境を作ることこそが必要なのです」

Pluralistic: Return to work and dying on the job (27 Sep 2024) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: September 27,2024
Translation: heatwave_p2p

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