以下の文章は、電子フロンティア財団の「UK Politicians Continue to Miss the Point in Latest Social Media Ban Proposal」という記事を翻訳したものである。
英国は、若者のソーシャルメディア利用を禁止する取り組みを推し進めている。今週予定されている貴族院での審議を前に、これまでの経緯とその意味するところを整理しておこう。
前回の採決は何だったのか?
3月9日、庶民院は政府の主要法案である「児童福祉・学校法案」に対して貴族院が提出した修正案を審議した。
貴族院はそれ以前に、「高度に実効性のある年齢確認措置」によって「16歳未満の児童がすべての規制対象ユーザ間サービスのユーザになること、またはユーザであることを防止する」修正案を提出しており、事実上、16歳未満のソーシャルメディア利用を禁じる内容だった。この提案が庶民院に付されると、議員たちは307対173で否決した。
代わりに庶民院が提出した独自の修正案は、国務大臣に対し、「指定インターネットサービスの提供者」に対して、16歳ではなく18歳未満の児童による指定インターネットサービスまたは指定機能へのアクセスを阻止するよう求める規定を導入する権限、および大臣が定めるインターネットサービスへの児童のアクセスを制限する権限を付与するものである。
誰に権限が与えられるのか?
庶民院の提案は、権限を英国議会および通信規制当局のOfcomから、科学・イノベーション・テクノロジー担当大臣(現在はリズ・ケンドール)に移譲する。これにより同大臣は、若者のインターネットアクセスを制限し、何が有害なコンテンツにあたるかを判断できるようになる……ただ自分にその権限があるから、というだけの理由で。この修正案はまた、18歳未満のVPN利用の制限、依存性のある機能へのアクセス制限、デジタル同意年齢の変更についても大臣に権限を与えている。これにより、18歳未満が一定の時間以降にオンラインゲームをプレイすることを禁止するといった措置が可能になる。
なぜ問題なのか?
このプロセスには、チェック機能も説明責任の仕組みも存在しない。大臣は若者が被る具体的な害を示す必要がなく、Ofcomが何年もかけて積み重ねてきた、リスクに基づくオンラインサービスの評価の取り組みを、実質的に無に帰すことになる。しかも現在の英国の状況を考えれば――トランスジェンダーやLGBTQ+コミュニティの保護を拒否し、敵対的で人種差別的な言説を煽っている状況では――大臣がエビデンスに基づき、確立された人権原則に照らして有害であるという理由による判断ではなく、イデオロギー的・道徳的に反対するコンテンツを制限し始める可能性は十分にある。
米国など他の法域の事例からも、若者の保護をかかげた法律が、その定義の曖昧さによってさまざまな対象に拡張されていることは周知の事実である。「未成年者にとって有害な性的コンテンツ」を含むウェブサイトへのアクセスをブロックする法律もあるが、その対象は歴史的には露骨な性的コンテンツを指してきた。ところが一部の州では現在、この用語をさらに広く定義しつつあり、「未成年者にとって有害な性的コンテンツ」が性教育まで包含しうる状況になっている。あるいは、漠然と定義された有害コンテンツの種類を単に列挙する法律もある。いずれの場合においても、この法案は、大臣がLGBTQ+関連コンテンツを18歳未満の年齢制限を口実に隠してしまうことすら可能する。プラットフォームのコンテンツポリシーがすでに及ぼしている影響を踏まえれば、このリスクは特に明白だ。
若者にどのような影響を与えるのか?
インターネットは、若者(そして大人)が情報にアクセスし、コミュニティを探求し、自分自身を見つけるための不可欠なリソースである。おもしろい動画を共有したり、楽しいコンテンツに触れる場であるだけでなく、ソーシャルメディアは若者が対面の世界を超えて社会と関わることを可能にし、家庭内虐待やセクシュアリティに関する情報など、オフラインでは安心してアクセスできないこともある情報を見つける手段にもなっている。ソーシャルメディアの禁止によって人々や情報とのつながりを断ち切ることは、何百万人もの若者を暗く検閲された世界に追いやるに等しい。
各政党はどう投票したのか?
16歳未満のソーシャルメディア利用禁止を最初に推し進めたのは保守党であり、その後同党はキア・スターマー首相が禁止を確約しないことについて「優柔不断で鈍すぎる」と非難している。自由民主党もこれを「不十分だ」と批判した。労働党自体も分裂し、貴族院修正案の採決では107名の労働党議員が棄権した。
オンラインにおける若者の安全は世論を二分するテーマである。政治家たちの本心がどこにあるにせよ、彼らは有権者の支持を得るためにこの問題を利用してきたし、今後も利用し続けるだろう。だからこそ我々は、政治家や規制当局に対し、世論調査での支持率アップという情けない動機によってではなく、あらゆる局面でオンラインに人々のおける権利と自由を守るために行動するよう訴え続けている。
この法案とオンライン安全法との関係は?
貴族院から提出された児童福祉・学校法案の草案は、ソーシャルメディア上の若者の福祉に関するあらゆる規制が、オンライン安全法[Online Safety Act]の「法的拘束力のある要件として扱われなければならない」と規定していた。一方、庶民院の修正案は、オンライン安全法を改正する新たな条項の挿入から始まる内容となっている。
6年以上にわたり、我々は英国政府にインターネット規制に関するより良い法律の制定を求めてきた。オンライン安全法が成立した後も、Ofcomが同法を施行する過程で、若者を含むインターネット利用者の権利を擁護し続けてきた。これは、市民社会団体、技術者、テック企業、その他の関係者がOfcomのパブリックコメントプロセスに参加し、英国のインターネットユーザの保護を規制当局に訴えてきた、長期にわたる取り組みの成果である。
庶民院の修正案は、これを根底から覆してしまう。テクノロジー担当大臣のリズ・ケンドールは先日、既存のオンライン安全法を超える措置を講じる意思を示し、「(オンライン安全法は)終着点であるはずがなく、保護者たちが依然として深刻な懸念を抱いていることも承知している。だからこそ、私はさらなる行動を取る用意がある」と述べている。しかし、その「さらなる行動」がコンテンツやアクセスに関する恣意的な判断を下す権限を自らに付与し、18歳未満のソーシャルメディア利用を禁止することであるならば、解決するという問題よりもはるかに大きな害をもたらすことになる。
こうした法案を推進しているのは英国だけか?
残念ながら、そうではない。若者のソーシャルメディアアクセスを禁止しようとする動きは、昨年12月にオーストラリアが世界で初めて施行に踏み切って以来、各国で勢いを増している。3月5日にはインドネシアが16歳未満のユーザについてソーシャルメディアおよびその他の「高リスク」オンラインプラットフォームの利用禁止を発表した。その数日後にはブラジルで16歳未満のソーシャルメディアアクセスを制限する新たな措置が施行され、未成年者はアカウントを法定保護者に紐づけることが義務づけられた。スペインやフィリピンなど他の国々も今年に入って16歳未満のソーシャルメディア禁止計画を発表しており、実施に向けた法案が審議中である。
今後どうなる?
児童福祉・学校法案は、庶民院の新たな修正案を審議するため、3月25日に貴族院に差し戻される。法案が法律となるためには、両院が最終案に合意する必要がある。
我々はこうした提案に対して、若者の表現の自由だけでなく、民主主義社会に不可欠な情報の自由な流通を守るためにも声をあげ続ける。オンラインの安全の問題は技術だけで解決できるものではなく、ましてや禁止では解決できない。オンラインにおける若者の安全とプライバシーを守るためには、もっと意図的で丁寧なアプローチがふさわしいのであって、害をもたらすだけの怠慢な戦略が求められているのではない。
我々は英国の政治家たちに対し、安易な道ではなく最善の道を模索し、あらゆる人々をオンライン上の害悪から守るための、より侵襲的でないアプローチを検討するよう求める。
UK Politicians Continue to Miss the Point in Latest Social Media Ban Proposal | Electronic Frontier Foundation
Author: Paige Collings / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: March 24, 2026
Translation: heatwave_p2p
フランスについて触れられていなかったので、ここで少し補足しておこう。
現在フランスでも15歳未満の子供のソーシャルメディア禁止法が審議されている。すでに国民議会(下院)では今年1月に賛成多数で可決し、元老院(上院)でも3月31日に賛成多数で可決した。上院は下院の法案に修正を加えた上で採決したため、両院のすり合わせ協議を行い、立法することになる。
フランスのソーシャルメディア規制はマクロン大統領の肝いりで進められてきたのだが、どうやら彼は、ソーシャルメディアによって「子供たちの脳が破壊されて」おり、ソーシャルメディアのアルゴリズムや無限スクロールが若者の脳を刺激し続け、現実世界の暴力衝動を抑制できなくしていると考えているようだ。つまり、彼はいわゆる「ゲーム脳」や「ポルノ中毒」の亜種を信奉している。
この規制の直接のトリガーとなったのは、2025年6月10日に起こった少年による学校補助員の刺殺事件だった。マクロンはその日のうちに、この事件がソーシャルメディアによって引き起こされた「無意味な暴力の連鎖」であるとして、迅速な15歳未満のSNS規制、およびナイフ等の販売サイトへの年齢確認義務化に向けた強い決意を示した。
だが、その後の報道でも、この少年がソーシャルメディアの影響によって事件を起こしたことは明らかになっておらず(暴力ゲームを好んでいたという程度)、刃物も自宅のキッチンから持ち出したものだった。
少なくとも、マクロンやエリザベート・ボルヌ教育相が当初思い浮かべていた、Netflixの創作ドラマ『アドレセンス』のような事件ではないのだろう。分別のある大人なら、現実の事件と、創作の事件とは区別できそうなものだが。
たとえ勇み足だったとしても、マクロンとしては振りかざした拳を下ろすことができない。モラル・パニックに乗じたショック・ドクトリン的手法によって、子供たちが抱える問題をソーシャルメディアだけのせいにできれば、政府への批判を交わすことができる。さらに、その(見せかけの)解決に類稀なる手腕を見せた自らのリーダーシップを誇示することもできる。
政治的なパフォーマンスとしては素晴らしい。問題が解決しないこと、そして規制によって新たな問題が生じることを除けば。