以下の文章は、電子フロンティア財団の「Apple’s Self Service Repair Program Must Live Up To Its Promises」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

今週、修理する権利運動に大きく弾みがついた。Appleが「セルフサービス修理」という新たなプログラムを発表したためだ。新たなiPhoneや一部のMacなど限定されたApple製品ではあるが、その修理をApple純正の部品や工具を購入して、自分でできるようにするというプログラムだ。来年初頭の開始が予定されている。このプログラムがうまく実施されれば、修理する権利を支持するすべての人びとに大きな意味を持つことになるだろう。

Apple製品を修理する権利を拡大しようとする運動に長らく抵抗してきたAppleにとって、大きな転換となる。修理の権利を支持する人びとは、この問題に取り組むようAppleに働きかけただけでなく、規制当局や政治家に修理の権利を法律で保護するよう説得してきた。今回のAppleの発表は、修理する権利のアドボカシーがどれほど浸透してきたかを示す一例に過ぎない。この2年間だけでも、アドボカシーはマサチューセッツ州の住民投票での勝利や、バイデン政権による修理する権利支援する大統領令Microsoftのポリシー変更、議会図書館による修理する権利の拡大のための施策をもたらしてきたのだ。

セルフサービス修理プログラムは新たな一歩となる。だが、Appleがこのプログラムを発表した以上、我々は消費者のアクセスと選択肢を真に拡大するために、このプログラムを展開するよう強く求めたい。

Appleにかぎらず、あらゆる修理プログラムは一般の人が利用するには過度に難しすぎたり、費用がかかりすぎたりするような縛りがないことが重要だ。ユーチューバーでプロ修理業者のルイス・ロスマンが指摘するように、Appleは過去にその両方を行ってきた。

Appleの独立系修理プロバイダ・プログラムでは、独立した修理業者がマニュアルや部品を利用できるようにするとしていたものの、初期にはその約束は守られなかった。参加希望者に厳格な秘密保守契約を押し付けたり、部品の入手を困難にしたり、修理依頼に迅速に対応するための部品のストックをできないようにしてきた。

さらにAppleは、独立系修理プロバイダ・プログラムの対象を最終的には一部のデバイス、一部の部品に制限してしまった。セルフサービス修理プログラムでは、同じ過ちを繰り返してはならない。このプログラムはローンチ時点ではiPhone12、13に限定され、その後M1チップを搭載したMacコンピュータにも適用されるとしている。Appleは最も頻繁に修理依頼のある部品をサポートすると言うが、故障するのはその部品だけではない。提供部品リストはどんどん拡大していくべきだ。Appleはこのプログラムを利用しやすくし、高額な交換費用からデバイスの所有者を保護するかたちでの部品提供に努めなければならない。たとえば、携帯電話を落として破損してしまった場合には、ディスプレイ全体ではなく、(訳注:必要最小限の)スクリーンのみを購入できるようにすべきだ。

Appleが過去の過ちを繰り返すことなく、部品、マニュアル、ツールへのアクセスを真に促進するプログラムを展開するよう強く求める。

修理へのアクセスを拡大することは、技術的な知識や自身がない人々の修理を助ける独立系修理プロバイダを支援することにもつながる。Appleは独立系修理プロバイダをもっと支援すべきだ。彼らもAppleの顧客を満足させるという目的のために活動しているのだから。

我々は長年、Repair Coalition、iFixit、U.S. PIRGをはじめとする数多くのアドボケートらとともに、修理する権利を巡る議論を変えるために取り組んできた。我々は、自分のデバイスの修理の選択肢を求める人びとのために、市場が継続的に改善されるようにしなければならない。デバイスを修理する個人の権利を保護し、独立系修理プロバイダを支援し、この権利を保障するための措置を講じるよう多数の企業に働きかけ、自分のデバイスを修理する権利を明確にするための訴訟に勝利し、法律にとって権利を確立しなければならないのである。

今回のAppleの発表は、修理する権利を求める消費者の声に応え、同社のデザインやポリシーを変更するよう求める強い圧力がかかっていることを示している。この調子で、彼らに正しい道を歩んでもらおう。

Apple’s Self Service Repair Program Must Live Up To Its Promises | Electronic Frontier Foundation

Author: Hayley Tsukayama / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: November 18, 2021
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Joel Rohland

iFixitで修理パーツやツールを買いたいけど送料が高くて……という致し方ないハードルはさておき、デバイスメーカーの一方的な都合による不当なハードルが除去されたことは素直に歓迎したい。

Wiredの記事でも指摘されているように、今回のAppleの決定は、反トラスト(独占)をめぐってビッグテックへの風当たりが強くなっていることの証左でもあるのだろう。残念なことに、これまでのAppleの対応を見れば、このプログラムは消費者の「修理する権利」のためではなく、政府やFTC、あるいは世界的な反競争規制の流れの中で決定されたことは明白である。

その意味では、EFFの記事でも指摘されているように、このプログラムを一部のデバイスの一部の部品のみに制限し、「見せかけ」の修理する権利への対応にとどめようとする可能性もないわけではない。