以下の文章は、電子フロンティア財団の「Why is it so expensive to repair my devices?」という記事を翻訳したものである。
スマートフォンを落として画面が割れた。新しい端末に買い替えるのでもなければ、高額な修理費用を支払わなければならない。だが、ガラス1枚やボタン1つを交換するだけなのに、なぜこれほどの費用がかかるのだろう。そもそも、修理代がこれほど高額になるのはどうしてなんだろうか?
仕組みを紐解く
端的に言えば、修理そのものがビジネスになっているからだ。部品代や人件費がかかるのは当然としても、AppleやSamsungなどのメーカーは修理を収益源とみなし、利益を上積みする手段として利用している。それゆえ、こうしたメーカーは修理用の部材やマニュアルへのアクセスを制限し、部品の価格も自社で決定している。そうして、ネットワーク加入料を支払った「正規」修理店だけが修理を行えるようにし、個人で修理したり、より安価な修理店を利用する選択肢を封じているのである。
製品メーカーは、製品に組み込まれたソフトウェアを逆手に取り、ユーザ自身が所有する製品をいじろうものなら著作権侵害にあたると主張し、所有権という概念そのものを形骸化させようとしている。一部のメーカーに至っては、ソフトウェアの仕組みを調べることすら違法だと言い切っている。ソフトウェアを使わない40年前のトラクターが品薄になるほどに、事態は深刻化している。
企業側は、独立系の修理店では製品のセキュリティが損なわれるため、自社の対応は消費者保護の観点から正当化されると主張する。しかし、この主張については米国政府やSecuRepairsという独立系の専門家組織が明確に否定している。それでも、こうしたメッセージは人々の不安をあおり、「正規」の修理業者を使うよう誘導することに成功している。このように管理された修理システムのもとでは、部品代と人件費があまりにも高額になり、多くのユーザが修理を諦めて新品を購入を選択させられている。
修理店に持ち込んでも、企業は修理費用をさらに吊り上げる手口を講じている。
- その一つが、部品を単品で販売せずセット販売にのみ限定する戦術だ。これは「パーツペアリング」と呼ばれている。たとえば画面だけを交換したい場合でも、メーカーは画面を単体では提供せず、「ディスプレイアセンブリ」一式分の料金を請求してくる
- パーツペアリングには、あるデバイスの予備部品を別のデバイスの修理に流用できなくするという側面もある。部品を交換すると、デバイスがそれを「非正規」と判断して、その部品の使用を制限するのだ。
変革が必要な理由
この問題は、私たちの生活のあらゆる場面に広がりつつある。スマートフォンやノートパソコンといったガジェットだけの話ではない。自動車や家電製品、ドアロック、そして数え切れないほど多くの製品にソフトウェアが組み込まれ、メーカーが顧客の搾取を目的とした反修理戦術を駆使してきたことで、年を追うごとに製品は修理しにくくなってきている。ソフトウェアには著作権があるため、たとえ製品本体は所有できても、そこに搭載されたソフトウェアの使用権は限定的なライセンスにとどまる。一般に、そのライセンスには製品の改造を制限する条項が含まれている。
いずれ、自動車のボンネットを開けて自分で修理することすらできなくなるだろう。ディーラーに持ち込むか、修理情報と部品の使用権に法外な料金を支払った修理業者に依頼するしかなくなる。トラクターが故障した時も、近所の整備士に見てもらうことはできず、「正規」の修理技術者がやってくるのをただ待つしかなくなる。
メーカーは修理できる者を制限したがっている。それが莫大な追加収入につながるからだ。その結果、私たちは不便を強いられ、高額な修理費用を支払わされ、修理を待つ間や修理費用を貯める間は故障したデバイスを使い続けなければならないのである。
私たちにできること
修理可能なデバイスを見極める
ノートパソコンのひび割れたキーを交換するような簡単な修理なら、自分でやってみるのもいいだろう。大がかりな修理は保証が切れてしまう可能性があるが、その分、デバイスを長く使い続けることができるし、ゴミの削減にもつながり、費用も節約できるはずだ。
新しいデバイスを買う際は、修理のしやすさを考慮して設計された製品を選ぶのもいいだろう。製品レビューで修理のしやすさに言及している記事を探し、購入の判断材料にしよう。
修理する権利について理解を深める
California Public Interest Research Groupによれば、電子機器を修理することで、一般家庭は年間382ドル、国全体では年間496億ドルもの節約が可能だという。
環境への影響も見過ごせない。米国の一般家庭で年間115ポンド、国全体では690万トンもの電子機器が廃棄されている。
その一方で、メーカーの利益率は右肩上がりだ。
- 修理がもたらす家計への恩恵
- 修理したくてもできない現実――携帯電話と家電の修理
- 修理制限に関するFTCの議会報告書「Nixing the Fix」
- カリフォルニア州がデジタルライツの実現へ大きく前進
- ミネソタ州で修理する権利が法制化
議員への働きかけを
より大きな視点では、メーカーに部品や部材の提供を義務付け、パーツペアリングのような慣行を禁止する「修理する権利」法案への支持を表明することができる。2024年現在、カリフォルニア、コロラド、ミネソタ、オレゴン、マサチューセッツなど約12の州でこの権利を保障する法律が成立している。他のほぼすべての州でも同様の法案が審議中であり、地元選出の議員に働きかける余地は十分にある。また、連邦レベルでも近く「修理する権利」法案が提出される見込みだ。
EFFはあなたの味方だ
電子フロンティアザイン団は、購入した製品を自由に使う権利を守るために活動している。我々の活動家たちは、多くの州で「修理する権利」の法制化を実現してきた。修理する権利とは、自動車やDVD、プリンタなど、購入した製品を自由に改造したり、修理したり、他の誰かに修理を依頼したりする権利を指す。我々の弁護士たちは、裁判所を通じて進展してきた数々の事例で専門的な意見を述べてきた。また、技術者たちは、これらのデバイスが抱える問題を解明し、メーカーではなくユーザ自身の利益につながる活用法を提案する取り組みを続けている。
Why Is It So Expensive To Repair My Devices? | Digital Rights Bytes
Author: EFF (CC BY 3.0 US)
Translation: heatwave_p2p