以下の文章は、2025年10月16日付けのコリイ・ドクトロウの「The AI that we’ll have after AI」という記事を翻訳したものである。
AIバブルが弾けたとき、いったい何が残るのか。投げ売り価格の安いGPU、職を探す腕利きの応用統計学者、そしてすでに目覚ましい成果を上げているオープンソースモデル――これらは最適化を経て、さらに飛躍的に進化するだろう。
https://pluralistic.net/2025/09/27/econopocalypse/#subprime-intelligence
AIバブルは詐欺だ。設備投資に1兆ドル近くをつぎ込みながら、彼ら自身の(大幅に水増しされた不誠実な)数字によれば、業界全体の総売上はわずか年間450億ドルにすぎない。
https://www.wheresyoured.at/the-ai-bubbles-impossible-promises
年間450億ドル(しかも水増しされた数字だということを忘れないでほしい!)では、これまでに投じた数千億ドルを回収するには途方もない時間がかかる。だが、彼らに残された時間は長くない。AIの「基盤モデル」を動かす巨大なGPUは1基あたり6~7桁ドルもするのに、驚くほど短命だ。これらのGPUを購入した企業は耐用年数を5年と主張する(その前提で減価償却している)が、実態は粉飾に近い。現実の稼働サイクルは2〜3年がせいぜいだからだ。
https://blog.citp.princeton.edu/2025/10/15/lifespan-of-ai-chips-the-300-billion-question/
しかもGPUを本当に酷使すれば、わずか54日で焼き切れてしまう。
既存および発表済みの投資を回収するために、AI企業が稼ぎ出さなければならない額は2兆ドルだ。この数字は、Amazon、Google、Microsoft、Apple、Nvidia、Metaの売上高を合算した額を上回る。
しかもその2兆ドルを、GPUが焼き切れる前に稼がなければならない……つまり、2〜3年以内に。
あるいは、たった54日以内に。
AI企業の購買や研究開発支出は、2兆ドルの売上を生み出す製品づくりのためではない。投資家向けのショーを演出し、自分たちがAIに本気であることを示すために金を使っているのだ。GPUを詰め込んだデータセンターの数々は、クジャクの尾羽のようなものと考えればよい。コストのかかるシグナルを発信して自らの力を誇示し、つがい(この場合は投資家)を惹きつけるための、豪華絢爛な装飾なのである。
https://en.wikipedia.org/wiki/Signalling_theory
実際に大金を使うよりも、大金を使っているフリをする方がはるかに安上がりでは? と思われるだろう。もちろんそちらも抜かりはない。Metaは来年のデータセンター投資に720億ドルを費やすと約束した。しかしMetaの年間フリーキャッシュフローは521億ドルだ。OpenAIはデータセンターに年間600億ドルを投じると宣言しているが、これは年間売上127億ドルの5倍にあたる(しかも同社は年間90億ドルの赤字を出している)。The American Prospectのブライアン・マクマホンはこう書いている。「OpenAIは売上の5倍もの支出をどうやって計画しているのか?」
https://prospect.org/power/2025-10-15-nvidia-openai-ai-oracle-chips
バブル崩壊後に、こうした巨大「基盤モデル」のうちいくつが稼働し続けているか、私には分からない。だが、その数がゼロだったとしても驚きはない。
となれば、大きな問いはこうだ――次に何が来るのか? AIバブルは何を残すのか?
何も残さないバブルもある。エンロンが残したのは、終身刑の判決を受ける前にぽっくり逝ったCEOの冷たい亡骸だけだった。WorldComが残したのは、刑務所の中で死ぬまで生き延びたCEOと……そして大量の地中埋設光ファイバーだ。後者は人々がいまだに活用している(私がこのキーストロークをインターネットに送っている回線も、AT&Tが買い取って接続したWorldComの古い光ファイバーだ)。
暗号通貨が残すものもほとんどないだろう。セキュリティ・バイ・デザインを本気で体得した少数のRustプログラマー、確かにそれはある。だが大半は、粗悪なオーストリア経済学と、さらに粗悪なJPEG画像だけだ。
では、AIはどんなバブルなのか。それこそが2兆ドルの問いである。
https://locusmag.com/feature/commentary-cory-doctorow-what-kind-of-bubble-is-ai/
本題に入る前に、はっきりさせておきたいことがある。バブルは常に悪だ。2Gbpsの対称型光ファイバーは確かにありがたいが、それが存在するのは、人並みの尊厳ある老後を送ろうとしただけの一般市民から詐欺師が数十億ドルを盗み取ったからだという事実は恐ろしい。WorldComのCEOバーニー・エバーズは当然の報いを受けた。まだ足りないくらいだ。
AIバブルは1兆ドルを吸い上げようとしており、その資金のすべてがサウジ王族やヘッジファンドの悪党、イーロン・マスクのようなチョロい債権者から来ているわけではない。確定給付年金が「市場連動型年金」に置き換えられ、どの株を買うか賭けに勝たなければ老後の資金が得られない仕組みに追い込まれた労働者の貯蓄からも、多くが流れ込むことになる。
https://pluralistic.net/2020/07/25/derechos-humanos/#are-there-no-poorhouses
こうした人々は壊滅的な打撃を受けるだろう。そして我々の残り全員も。AIバブルの崩壊で損をするのはAI投資家だけではない。S&P 500の30%超が7つのAI企業の株に集中している以上、来たるべき暴落は間違いなく封じ込めに失敗し、経済全体を道連れにする。
だからバブルは悪い。本当に悪い。それでも、そこから回収できるものはある。オープンソースモデル、腕の立つプログラマー、破産処分で二束三文で買い叩かれた安価なGPU。世界経済を焼け野原にすることなく、途方もない量のCO2を排出することなくそれらを生み出せたなら、その方がはるかに良かった。だが、AIバブル崩壊の生産的残滓を無視したところで、経済が復活するわけでも、大気中の炭素が回収されるわけでもない。
オープンソースモデルは極めて重要だ。文字起こし、画像生成、自然言語ベースのデータ変換など、すでに汎用ハードウェア上で目覚ましい成果を上げている。私がいまこの文章を打っているラップトップでも複数のモデルを動かしているが、このマシンにはGPUすら搭載されていない。
しかも、これらのモデルを改善する余地は手の届く範囲にたくさんにある。これらのモデルをフリーソフトウェアとして不可逆的にライセンス供与し世に放った米国のAI企業には、効率を改善するために最適化を施す動機がほとんどなかった。思い出してほしい。彼らはAIに未来があることを「証明」するために金を使っているのだ。
出来の悪いモデル――動かすのにより多数のデータセンターと膨大なエネルギーを必要とするモデル――を出荷すれば、そのモデルが本当に高度なことをやっているのだと投資家を納得させる手段になる(なにしろ、あれだけの計算資源とエネルギーを消費しているのだから!)。これはイーロン・マスクがかつてスタートアップZip2を売り込んでいた頃に投資家に対して使った詐術の拡大版だ。マスクはデモを動かしていた普通のPCを巨大な空洞のケースの中に入れ、台車に載せて会議室に運び込み、自分のコードは「スーパーコンピュータ」で動いていると宣言した。そう、投資家というのは本当にそこまでマヌケなのだ。
控えめな最適化の取り組みでさえ、驚異的な性能向上をもたらしうる。伝説的な中国発オープンソースAIモデルであるDeepSeekは、OpenAIのようなモデルが貪り食うリソースのほんの一部しか消費しない。DeepSeekのローンチはあまりに衝撃的で、リリース当日にNvidiaの株価から5,890億ドルを吹き飛ばした。
こうした中国発オープンソースモデルは山のようにあり、どれもクレイジーな性能を発揮している。中国がAIの最適化に注力しているのは、米国の禁輸措置によって中国のAI企業が最も強力なGPUにアクセスできないからだ。そこで中国のエンジニアたちはコードを徹底的に引き締め、はるかに非力なコンピュータを使いながら米国企業を凌駕している。
バブルが崩壊すると、誰もがこの中国のAI最適化技術者たちと同じ立場に置かれることになる。中国企業が先端GPUを買えないのは禁輸のせいだが、それ以外の誰もが先端GPUを買えなくなるのは、AIバブルの崩壊が一世代にわたって経済を破壊するからだ。
しかし、底にはまだまだ余地がある1訳注:原文は”But there is so much room at the bottom”。おそらく、ファインマンの1959年の講演「There’s Plenty of Room at the Bottom(ボトム[ナノスケール領域]にはまだまだ広大な未知の領域がある)」にかけた言葉だと思われる。本稿の文脈では、上方向(米AI企業のより大規模に、より強力に)とは逆向きの下方向にこそ未開拓のフロンティアがある、というニュアンスだろう。。最適化されたモデルは、本当に安価なハードウェア上でも見事な成果を出せるのだ。
どれくらい安いか? ハードウェアハッカーのピート・ウォーデンが、話しかけると音声で応答するチャットボットをデモしている。そしてこれが動いているのはSynaptics製のSoC(システム・オン・チップ)で、価格は「1桁ドル台前半」だ。
要するに、小型の専用Alexaのようなものなのだが、インターネットには一切接続しない(したがってデータも一切漏洩しない)。ウォーデンのデモでは、このガジェットはボタンサイズの音声アシスタントで、食洗機に組み込むことを想定している。食洗機のマニュアルを代わりに解釈してくれるのだ。皿の汚れが落ちていなかったり、排水口が詰まったりしたら、ボタンを押して、かなり曖昧な言葉で症状を説明すればいい。すると即座にトラブルシューティングの手順を音声で読み上げてくれる。
このプライバシー保護の格安のコンポーネントは、デバイスに音声起動の対話型アシスタント機能を付加しながら、消費電力は電子レンジの時計程度、プロセッサのコストは単三電池のパックより安い。圧倒的にクールだ。
AIバブル崩壊後、この手のAIが大量に出現するだろう――ドットコムバブル崩壊後のウェブがそうだったように。あの時、サンフランシスコには一夜にして無尽蔵のオフィススペース、サーバ、そして職にあぶれたテッキーが溢れかえった。
(Image: Cryteria, CC BY 3.0, modified)
Pluralistic: The AI that we’ll have after AI (16 Oct 2025) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow
Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: October 16, 2025
Translation: heatwave_p2p
- 1訳注:原文は”But there is so much room at the bottom”。おそらく、ファインマンの1959年の講演「There’s Plenty of Room at the Bottom(ボトム[ナノスケール領域]にはまだまだ広大な未知の領域がある)」にかけた言葉だと思われる。本稿の文脈では、上方向(米AI企業のより大規模に、より強力に)とは逆向きの下方向にこそ未開拓のフロンティアがある、というニュアンスだろう。