TorrentFreak

YouTubeは消費者・クリエイターの双方に恩恵をもたらす巨大プラットフォームだ。少なくとも、そのルールに従順でいる限りにおいては。今週、クリエイターに大きな障害が発生したことで、そのオルタナティブである『自由な(free-libre)』ソフトウェア PeerTubeに注目が集まった。

火曜、我々は世界中の多数のYouTubeチャンネルが動画をブロックされたことをお伝えした。その中には、MIT OpenCourseWareやBlender財団のアカウントが含まれていた。

表示されたエラーメッセージは、通常、著作権上の問題がある場合に表示されるものだ。しかし、今回のケースは新たなライセンス契約が関係していたこともあり、複雑になった。

すでにいくつかの有名チャンネルは復旧されているが、まだ問題が改善していないチャンネルもある。たとえば、TorrentFreakに状況を報告してくれたHuman Beatboxは、本稿執筆時点でも復旧していない。

YouTubeは「技術的問題」が発生し、エンジニアが解決にあたっているとだけ説明した。しかし、多くのチャンネルで、ほぼ1週間以上に渡って動画にアクセスできない状態が続いている……。

何が原因であれ、極めて大規模な「間違い」だ。

おそらくYouTubeは意図的にこれらのチャンネルを『検閲』しようとしたわけではないだろう。しかしこの一件は、クリエイターが単一のサービスに完全に依存してしまうことの弊害を表している。そのようなサービスにおいて、クリエイターたちは自らの作品を完全にコントロールすることはできない。それが間違っていようが、そうでなかろうが、サービス側の都合で削除できてしまうのだ。

幸い、クリエイターがコントローラビリティを取り戻すための選択肢は存在している。その1つがPeerTubeだ。

今週はじめ、YouTubeにすべての動画をブロックされたBlender財団は、このオルタナティブを試してみることにした。それから数時間のうちに、Blenderは自らがコントローラビリティを持つストリーミングサイトを構築した。

これを受けて、TorrentFreakは、PeerTubeとは何なのか、何を提供しているのかを詳しく見てみることにした。

Blender testing PeerTube

簡単に言えば、PeerTubeは誰にでも自分のストリーミングサイトを設置することを可能にする。独立して設置することもできるが、ほかのPeerTubeインスタンスとリンク、あるいはフェデレーション(連合)して、より幅広いリーチを集めることもできる。いずれのインスタンスもP2Pストリーミングをサポートする。

PeerTubeは昨年ローンチされたばかりだ。フランスの小さな非営利団体「Framasoft」が運営していることもあり、これまで英語圏にはそれほど知られていなかった。しかし、Blender財団の一件は、それ自体は不幸なことであるのだが、PeerTubeには光明であったのかもしれない。

「Blenderの事例は、私たちが掲げる『外部プラットフォームからの自主独立』という目標をまさに体現しました。ビデオとアテンションを中央集権化すれば、支配権を握ることができる。私たちのアプローチはそれとは真逆のものです」とFramasoftのPouhiouはTFに語る。

PeerTubeにはWebTorrentが組み込まれている。つまり、ビデオがバイラルすれば、視聴者が自らの帯域で貢献してくれることで、より利便性が高まることになる。

PeerTubeは他のインスタンスとの「連合(フェデレーション)」に、ActivityPubプロトコルを用いている。これは人気ソーシャルネットワークソフトのMastdonでも採用されているプロトコルだ。連合により、ビデオライブラリを拡張できるが、あくまでもオプションである。

「連合はガバナンスの多様性を可能にします。それぞれのPeerTubeインスタンスのホストは、独自のルール、設定、モデレーション方針などを決定できます」とPouhiouは言う。

Embedding a PeerTube video

PeerTubeは、クリエイターが自分のコンテンツをコントロールできるようにするという理念に根ざしている。これは広い意味での検閲を回避するとともに、何日にも渡ってビデオをブロックされてしまう「問題」を解決してくれるだろう。

さらにこの精神は、開発者に完全に自由かつオープンなソフトウェアを開発するよう促している。

「私たちにとって、ウェブを自分の手に取り戻すということなんです。よく冗談でジョン・レノンが『パワー・トゥ・ザ・ピープル』なら、PeerTubeは『ソフトウェア・トゥ・ザ・ピープル』だなんて言っています」

「それこそがPeerTubeが自由な(Free-Libre)ソフトウェアでなくてはならない理由です。たとえコードを『閉じる』ことができなくても、とてつもない力を与えてくれることになるのですから」

もちろん、PeerTubeのようなオルタナティブは多くの欠点を抱えている。1つはコストだ。たとえWebTorrentを利用したとしても、かなりの帯域コストを必要とするし、ホスティングや技術的なスキルも求められる。決して思うがままに運用できるわけではない。

また、PeerTubeは、お金を稼げる(収益化できる)魔法のボタンがあるわけでもないし、広くオーディエンスにリーチするための術も考えなくてはならない。外部のサービスに「ロックイン」されているクリエイターには難題だ。

しかし、BlenderやMIT OpenSourceWare のような、自前のサイトを設置する著名な非営利団体・機関であれば、PeerTubeを採用する意味は十分にある。

少なくとも、外部のプラットフォームに依存している限り、突然すべてのコンテンツが消されるかもしれないという不安から逃れることはできないのだから。

PeerTubeの詳細については、公式サイトをご覧いただきたい。同社は先日、継続的な開発のためのクラウドファンディングを開始しており、本稿執筆時点ですでに2万ユーロを突破している。

PeerTube: A ‘Censorship’ Resistent YouTube Alternative – TorrentFreak

Author: Ernesto / TorrentFreak / CC BY-NC 3.0
Publication Date: June 23, 2018
Translation: heatwave_p2p