米国憲法によると、著作権は「学術(科学)および有用な技芸の促進」を目的としている。コンテンツの創出をアーティストに促し、奨励することで、公衆はその恩恵に授かることができるというわけだ。しかし、役割は今日でも機能しているのだろうか。テキサスA&M大学の法学教授グリン・ラニー・ジュニアはそうは考えていないようだ。
昨今、著作権侵害が音楽業界を「殺している」という主張をしばしば目にする。大抵は著作権執行や規制強化を求める理由として用いられている主張だ。
そうした主張の根底には、著作権保護を強化すればアーティストの収入が保証されるという考えがある。より多くのお金が集まれば、芸術的な作品への扉がさらに開かれるのだ、と。しかし、それは真実なのだろうか。
テキサスA&M大学の法学教授グリン・ラニー・ジュニアは、その理屈を疑問視してきた一人だ。
1990年代後半、インターネットに海賊版の第一波が広がると、著作権者は保護の強化を求め、その結果、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)が成立した。
ラニー教授は当時、DMCAにより著作権は死ぬと断言した。DMCAは、クリエイター個人の利益ではなく、主に独占的大企業の利益に繋がるものだと彼は考えたのだ。それが芸術と科学の進歩という憲法に定義された著作権の趣旨を殺すことになるだろう、と。
先日、ラニー教授はそのフォローアップ・エッセイを書き、新たに得られた証拠を用いて、かつての自身の予測を検証している。その結果、彼は予測が間違っていたことを認めた。DMCAは海賊版の蔓延を止めるにはほとんど役に立たなかったのだ。しかし、音楽業界の収益が激減する一方で、創造的な作品は未だ潤沢に生み出されている。
ラニー教授は、DMCAに対する当初の批判を撤回してはいないものの、そもそも著作権そのものが実際には公益を促進する役割を果たしていなかったのではないか、と考えている。
著作権が想定する理屈の上では、お金が集まれば集まるほどに、創造的な作品が生み出されることになる。しかし、ラニーがエッセイに記したデータによれば、現実はまったく異なっている。むしろ、お金が集まれば集まるほど、創造的な作品が減ってしまうことが示唆されている。
ラニー教授は、インフレ調整を行った 50年代以降の音楽セールスデータ、2014年にSpotifyで最もストリーミングされた楽曲のデータベースをもとに、興味深いトレンドを明らかにした。高収益を上げていた時期に作られた音楽作品が、ほかの時期よりも好まれていたわけではなかったのだ。
これはラニーの著書『著作権の過剰』に記載された他のデータによっても確認されている。さらに、お金が集まるほど良い音楽が作られるという証拠も見つけることはできなかったという。
「お金が集まれば集まるほど、より多くの、より良い音楽が作られるという証拠は確認されなかった。むしろ、より多くのお金が集まるほど、ヒットソングは減り、低品質な作品が作られることを示す統計的に有意な相関が確認された」とラニー教授は記している。
それはなぜなのか。
ラニー教授の答えは極めてシンプルである。お金を儲けすぎたアーティストは一生懸命働かなくなる、怠けてしまうというのだ。
「こうした見当違いの過剰なインセンティブは、人気のアーティストに過剰にお金をもたらす。過剰なインセンティブがもたらされることにより、著作権はスーパースター・アーティストの仕事を減らしてしまうのだ」という。
つまり、音楽産業にお金が集まるほどに、音楽作品が減ることを意味している。まさに著作権の真の目的である「芸術と科学の振興」に反する結果だ。
しかし、複数の推測に基づく、議論の余地のある考えのようにも思える。たとえば、ビッグスター以外のアーティストを考えてみよう。より多くのお金が集まれば、より多くのアーティストが適切な対価を受け取ることができる。そうすれば、彼らはまともな生活をおくることができ、音楽の制作にもっと時間を割けるようになるだろう。
また、音楽の収益が少なく、海賊版が蔓延しているような時期であっても、トップアーティストは依然として巨万の富を得ている。
しかし教授は、彼が確認したデータを根拠に、自らの考えを確信している。上記に加え、収益の高い時期にはトップアーティストのアルバムリリース数が減少し、厳しい時期にはより多くのヒットアルバムが生まれていることも示されている。
「その結果、1990年代のようなレコード音楽の収益が多い時期には、トップアーティストが生み出すスタジオアルバムは減り、10年未満のキャリアのアーティストがHot 100に登場する回数も少なくなる」とラニーは記している。
「対象的に、収益が少ない時期、たとえば録音著作権が与えられる以前の1960年代、ポストファイル共有時代の2000年代のいずれにおいても、トップアーティストのスタジオアルバムの枚数は増え、Hot 100ヒット曲も増えている」。
とりわけ、この研究において最も多産なアーティストとされるビートルズとテイラー・スウィフトが、それぞれ1964年と2006年に最初のHot 100ヒットを記録したことをデータは示している。いずれも収益が少ない年だ。
間違いなく、音楽業界人には受け入れがたいエッセイだろう。音楽業界の収益と創造的作品の創出との間に、正の線形関係があるとは限らないということなのだから。
「過去50年間の米国レコード業界は、より多くの収益を上げていたからといって、より多くの、より優れた音楽作品を生み出していたわけではない。それは無関係であった。著作権が著作権者の収入を増やすことで公共の利益に繋がるという考えは、少なくともレコード業界においては間違いであるといえる」とラニー教授は指摘する。
「著作権はすでに死んでいる。しかしそれは、DMCAが殺したのではない。公益に資するという目的に適った著作権というものが、そもそも存在していなかった。ただの夢幻であったのだ」
では、DMCAとはいったい何なのだろうか。
皮肉なことに、主要著作権団体は、この「時代遅れの」法律が海賊版対策の足かせになっているという不満をますます募らせている。彼らはむしろ、DMCAのセーフハーバーを障害物とみなし、YouTubeなどのサービスが「海賊版から利益を得る」ことを可能にしていると批判している。
しかしそのYouTubeは、莫大な数のアーティストたちが自ら制作したコンテンツを公開し、広める場として利用されている。創造的な才能を開花させる場であることも証明されており、さらにYouTubeから今日の最大級のスターにまで成長したアーティストもいる。そしてそのなかには、「海賊」であった人たちさえいるのだ。
確かに、我々が今日知る著作権は死んではいない。しかし、それは我々が理解している以上に曖昧さをはらんでもいるのだろう。
‘Copyright’s True Purpose Is Dead, It Never Existed’ – TorrentFreak
Publication Date: July 15, 2018
Translation: heatwave_p2p