デジタル時代の「購入」と「所有」のギャップ

TorrentFreak

この時代、デジタルメディアの所有はしばしば幻想とされる。本や映画を購入したとしても、手に入れたファイルには厳しい制限がかけられている。場合によっては、購入したコンテンツが一夜にして消え去ることもある。こうした制限は権利者にコントロールを与える一方で、海賊を育てることにもなる。

デジタル世界はエンターテイメントの購入と消費を容易にした。

映画であれ音楽であれ本であれ、「今すぐ購入」ボタンを押せば、わずか数クリックで手に入る。

現在、数百万の人たちが、アナログメディアのコレクションをデジタルに置き換え、しばしばクラウドに保管している。これは便利なことではあったが、オフラインではアクセスできないという制限もある。

この問題は、アーロン・パーザナウスキーとクリス・ジェイソン・シュルツの論文「私たちは『今すぐ購入』で何を購入しているのか」のなかで詳しく説明されている。

Amazonで本を購入したとしましょう。その本はすぐに自宅に届き、雨の日にでも読もうと本棚にしまっておくことにしました。しかし、翌朝目を覚ますと、その本はしまっておいたはずの場所にない。本が消えてしまったのです。

Amazonのカスタマーサービスは、権利者の要請により回収されたのだとメールで説明しています。彼らは夜更けにあなたの自宅に無人機を送り込み、本を持ち去り、代金を払い戻ししたのです。

そんなことはありえない、と思われるかもしれない。しかし、デジタル世界では現実に起りうるのだ。数年前、Amazonは著作権侵害の申し立てを理由に、購入者のKindle eリーダーから遠隔で電子書籍を削除した。

Amazonの購入者が翌朝目を覚ますと、皮肉にもジョージ・オーウェルの『1984』をはじめ、複数の書籍がもはや彼らのものではなくなっていることに気づいた。まさにSF小説が現実になった。

もちろん、これはAmazonだけの問題ではない。「いますぐ購入」されたオンラインメディアのほとんどに制限がかけられている。この問題は、今週、アンダース・G・ダ・シウバの身に降り掛かった。彼は自身のiTunes Libraryから3本の映画が削除されていることに気づいた。彼が購入したはずの映画だ。

Appleは、この映画はカナダのiTunes Storeでの取扱を終了したため、もう「再ダウンロード」はできないと彼に伝えた。Appleがこのタイトルを配信するライセンスを失ったためだ。

私：おいApple、俺のiTunes Libraryから購入済みの映画3本が消えたぞ。
Apple：そうですか、その映画はもう利用できません。ご購入ありがとうございました。2本の映画がこちらからレンタル可能です。
私：ちょっ…は？？

@tim_cook いつからこうなった？

この件では、クラウドに保管していたコピーが影響を受けることになる。すでにデバイス上にダウンロードしている場合には、問題なく動作するだろう。あまり知られてはいないが、これはAppleの利用規約でカバーされている。

「コンテンツが当社サービスで提供されなくなった場合、コンテンツを再ダウンロードできなくなる可能性があります」と規約にはある。

技術的には理にかなっている。Appleがライセンスをもたなければ、ファイルを配信できない。しかし、こうしたライセンス契約を現代に適したかたちに変えることはできないのだろうか。なぜ適法に購入した人が、無期限で再ダウンロードできないのだろうか。

デジタル世界での「所有」は、アナログの所有とは全く異なるというのが、今日の現実である。映画会社や出版社が購入者の自宅に侵入してBlu-rayや書籍を回収することはできないが、オンラインではそれが可能なのだ。

前述のAmazonの事例のように、ダウンロードされたメディアがデバイスから消え去るということはめったにないが、「デジタル」にはほかにも制限がある。

最新の「パイレーツ・オブ・カビリアン」のBlu-rayディスクを購入すれば、見終わったあとに友人に貸したり、eBayで販売することは自由だ。しかし、デジタル世界ではそのような選択肢は与えられない。購入したものを本当の意味で所有しているわけではないのだ。

そして、上述した論文の指摘に立ち戻る（この論文は以前LA Timesにも取り上げられている）。

研究者は、再販や貸与ができないことが消費者の購入選択にどのような影響を及ぼすかを検討した。彼らは、BitTorrentを使いこなす人々のうち3分の1が、こうした制限のために、AppleやAmazonよりもパイレート・ベイを好む傾向があることに気づいた。

こうした制限が、海賊を育てているのだ。

「我々の調査データに基づけば、貸与や再販、他のデバイスで利用するためのコピーが適法にできない場合、消費者は著作物の適法な市場を選択肢から排除し、違法ダウンロードする傾向が高まる」と研究者は結論づけた。

この論文は今から2年前のものだが、今日もなお重要な指摘であることに変わりはない。すぐにでもこの状況が改善するとは思い難いが、少なくとも、購入したものを所有しているわけではないということを理解しておかなくてはならない。

それは幻想に過ぎない。

You Don’t Really ‘Own’ That Movie You Bought, But Pirates… – TorrentFreak