欧州議会は9月、欧州全体のクリエイティビティ、表現・研究・共有の自由に悪影響をおよぼす著作権法の大幅改正案を可決した。現在、議会と(加盟国政府によって構成される)理事会は非公開の交渉を進めており、今後数カ月に渡って指令案条文の調整を行い、来年再び欧州議会で投票が行われることになっている。
第11条:現実の問題に対する間違った解決策
議論を呼んでいる主な規定は、新たに「報道出版者の権利」(リンク税とも呼ばれる)を創設する第11条である。これは、ニュースアグリゲータが報道コンテンツをインデックスしたり、リンクとスニペットを掲載しようとした場合、インターネットで利用するための許諾を得るか、使用料を支払わなくてはならないとする規定である。議会と理事会は、不要かつ逆効果でしかない「出版社の権利」をすでに承認している。
議会が可決した第11条の条文案では、加盟国は報道機関が「情報社会サービス提供者による報道出版物のデジタル利用から公正かつ適切な対価を得ることができるよう」新たな権利を創設することを定めている。
しかし、第11条は質の高いジャーナリズムを支援するための施策とはなりえず、ニュース配信における競争とイノベーションをさらに停滞させるものとなるだろう。過去にもスペインやドイツは同様のルールを導入したが、出版社の収益に貢献するどころか、出版されたコンテンツの(アクセスや収益の面で)可視性が減少したとされる。まさにその意図と逆の結果がもたらされたのである。まさに先週、中小企業連合が、トリローグの交渉担当官に、第11条が採択された場合の悪影響への懸念を書面で提出している。
巻き添え被害:CCで共有したい人びと
リンク税はビジネス上の問題を抱えているのみならず、オープンライセンスなどにより、余計な制限をつけずに作品を共有したいクリエイターの意図を損ねることにもなる。クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの条件にかかわらず対価を支払わなければならないとなれば、CCライセンサーは特に被害を受けることになる。これは決して拡大解釈などではない。先週、IGELは以下のように記している。
「議会の提案は、報道出版社がそのウェブサイトへのリンクを表示する検索エンジン事業者から経済的補償を受けられなくてはならないと明確にしている。しかし加盟国は、この目的を達成する最も有効な方法として、パブリッシャが報酬権を放棄できなくすることを考えついた。請求額だけは交渉の余地を残しているが、その要否の判断はさせないというわけだ」
以前にも述べたように、このような権利は「クリエイティブ・コモンズ・ライセンスを採用して自由かつオープンな共有を望むパブリッシャと直接的に競合する。CCを採用するパブリッシャに放棄できない報酬請求権を押し付ければ、クリエイティブ・コモンズそのもの、そしてその精神が侵され、パブリッシャのビジネスの自由や彼らの望むようなコンテンツの共有が否定されることになる」。
著者がクリエイティブ・コモンズ・ライセンスを自身の作品に適用すると、世界中の市民に特定の条件で作品を利用できるロイヤルティ・フリーのライセンスを与えることができる。ライセンスのテキストには、「可能なかぎり、許諾者は、ライセンスされた権利の行使について、直接か、または任意のもしくは放棄可能な法定のもしくは強制的なライセンスに関する仕組みに基づく集中管理団体を介するかを問わず、あなたからライセンス料を得るいかなる権利も放棄します」と明記されている。
たとえば、スペインのニュースサイト「eldiario.es」は、クリエイティブ・コモンズ 表示 – 継承 ライセンスのもとで、全てのコンテンツを無料でインターネットに公開している。それにより、彼らは世界中の市民に特定の条件下で記事を使用する無償のライセンスを与えていることになる。ほかにもLa Stampa、20 Minutos、openDemocracyなどのCCライセンスを採用する欧州ニュースパブリッシャは、この新たな規制により排除される怖れがある。これらの媒体は、記事を自由に共有してもらうためにクリエイティブ・コモンズ・ライセンスを採用しているのであって、リンクやスニペットを表示するアグリゲータや検索エンジンから使用料を徴収することを望んでいるわけではない。第11条が放棄できない権利を定めた場合、CCを採用するニュースパブリッシャはライセンスと法的要件との矛盾を抱えることになり、CCを放棄しなくてはならなくなるのだろうか?
私たちは、著者には自らの作品の使用に対価を求める権利があるのと同様に、共有を選択する権利もあると固く信じている。EU著作権指令は、ほとんど、あるいはまったく制限をかけない共有を選択する著者を尊重した解決策を見出さなくてはならない。
私たちは何をすべきか
第11条は削除されなくてはならない。パブリッシャはすでにコンテンツの著作権から十分な利益を上げており、その権利を保護ないし濫用するための新たな独占的権利は不要である。新たな報道出版社の権利が、ジャーナリズムの質の向上や、コンテンツの多様性、デジタル単一市場の成長に資するものでないことは明らかだ。それどころか、情報アクセスや、プラットフォーム/テクノロジーを活用したパブリッシャの情報共有、収益性にも影響を及ぼすことになる。
何年もの間、学者や市民団体は、新たに報道出版社の権利を創設しなくても、質の高いジャーナリズムや報道出版社の持続可能性を実現する簡便かつ効果的な方法を主張してきた。このアプローチは、欧州議会法務委員会(JURI)のコモディニ元報告者が議会で提案したもので、出版社が権利者であることを前提とし、彼らの「ライセンスの締結や、措置・手続き・救済の申立」を簡便化するというものであった。
議会が独自に実施した調査でも、このアプローチが推奨されている。この枠組みは、悪影響が想定される新たな権利を導入しなくても、知財権執行に関する指令2004/48/ECに基づくコンテンツ保護のための法的枠組みを確立している。
たとえ第11条の導入が不可避であったとしても、オープンライセンスを採用した作品やパブリックドメイン作品への保護を含む理事会案が優先されるべきである。たとえば、以前の理事会案には以下のような条項が含まれている。「作品その他コンテンツが非独占的ライセンスに基づく報道出版に組み込まれている場合、この権利は […] 許諾が与えられた作品、または保護が失効した作品の使用を禁止するために行使されてはならない」。さらに、議会案では保護期間が5年間としているのに対し、理事会案は1年間のみとしている。
これまでのところ、EU著作権指令案の方向性は、オープンインターネット、表現の自由、ユーザの権利、デジタルの公益性を犠牲にして、力を持った著作権者だけを利するために、インターネットの管理を強化する不穏な道筋を描いている。現在の交渉において、議会と理事会は、クリエイティブ・コモンズのライセンサーや世界中に作品を共有したいと考える人びとを失望させ、罰してはならない。こうした著者やクリエイターは、ほかの誰かのために、意図的にクリエイティブ・コモンズを選択しているのである。コモンズへの貢献は、尊重され、保護されなくてはならない。
EU’s proposed link tax would [still] harm Creative Commons licensors – Creative Commons
Publication Date: November 7, 2018
Translation: heatwave_p2p
Material of Header Image: Timothy Vollmer (CC BY 2.0)