文化庁は、違法ダウンロードの範囲拡大は海賊版対策として有効だと強弁し続けている。

音楽・映像のダウンロード刑事罰化については,平成25年度文化庁委託調査において一定の抑止効果があったことが確認されている一方で,法施行後6年以上が経過した現時点までに,刑事当局による捜査権の濫用,個人のプライバシー侵害など,当初懸念されていたような事例は全く生じていない。(中略)刑事罰化は,予期したとおりの効果を発揮した一方で,特段の副作用は生じておらず,政策として適切なものであったと評価すべきと考えられる。
文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会報告書(案) p.59

改正著作権法の施行状況等に関する調査研究報告書」(平成25年度文化庁委託調査)(URL略)によると,音楽・映像のダウンロード違法化・刑事罰化により,①ファイル共有ソフトで流通するファイル数や違法ダウンロードに利用される可能性のあるストレージサイトの利用等が大きく減少したことや,②アンケート調査によりユーザーの半数程度がダウンロードを控えるようになったことなどが報告されている。
文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会報告書(案) p.49

基本的に、抑止効果が期待できるとする根拠は、この2013年度文化庁委託調査だけである。

この調査は、2012年10月の音楽・映像の違法ダウンロード刑事罰化の効果や影響を検証するもので、①については施行前後1年間のWinny、Shareのノード数調査の推移から、ダウンロード刑事罰化の直後に激減したノード数がその後1年間回復していないこと、またComscoreの「インターネット視聴率のデータ」から、ストレージサイト(サイバーロッカー)の利用者数も同様の傾向が見られること、②については2013年10月19日〜22日に実施したネット調査(N=50000)でそのような回答が得られたことが記されている。

正直なところ、WinnyとかShareとかサイバーロッカーとかいわれても今更感しかないし、6年近くも前の調査で確認された効果が未だに有効であると盲目的に信じられるのもどうなんだろう、という気持ちにしかなれない。

この数年でネット環境もモバイル環境も様変わりし、インターネット接続のためのデバイスもいまやスマホが主役だ(この2013年調査ではインターネット接続の9割超がPC、4割がスマホという回答が得られている)。もはやダウンロード保存が基本なんて時代じゃない。海賊版であれ正規版であれ、ストリーミングのほうが便利な時代になっているのだ。カジュアルに違法ダウンロードするような時代はとっくに過去のものとなっている。

今回の違法ダウンロードの範囲拡大も、(憲法を軽んじて)サイトブロッキングを強行しようとしたものの失敗し、振り上げた拳の降ろしどころがないと格好がつかないというだけのこと。そのサイトブロッキングも元をたどれば漫画村に行き着くわけで、ダウンロードしなくても気軽に読めるからこそ流行ってしまったというのに、違法ダウンロードの範囲を拡大したところで大した効果が期待できないのは火を見るより明らかだ。

もちろん、この調査結果で見られた効果が未だに有効である可能性もないわけではない。だが、たとえそうだとしても、違法ダウンロードの範囲を拡大して新たに抑止効果が生まれることはない。

同アンケート調査の「刑事罰の対象となる行為に対する理解」の項目への回答を見てみよう。

「音楽や映像以外のファイル(イラスト、写真など)をダウンロードする行為は、そのファイルが違法にアップロードされたものであっても、刑事罰の対象とはならない」という選択肢が正しいとした回答者は 13.6%であった。
改正著作権法の施行状況等に関する調査研究報告書 p.78(案)

要するに、違法ダウンロードの刑事罰化を認識している人(全体の82.3%)のうち、86.4%がすでに「違法アップロードされたイラストや写真などのファイルのダウンロード」も刑事罰の対象となると理解していたのである。全国民の7割超がすでに違法化されていると誤解理解している対象を新たに違法化したとして、何の抑止効果が得られるというのだろうか。

最近、政府統計の改ざんが取り沙汰されているが、調査結果の都合のいいつまみ食い程度は大したことないとでも思っているのだろう。

萎縮はない、調べてないから

もう1つ、文化庁が強弁し続けているのは「副作用はない」という点だ。報告書(案)を見る限り、ユーザ団体へのヒアリングの結果、具体的な萎縮の事例は確認されなかった、という点を根拠にしている。

税金で実施した委託調査では、違法ダウンロード刑事罰化の有効性を事細かに確認する一方で、萎縮に関する調査項目は一切盛り込まず、手弁当でやってる民間団体に「オラ、萎縮のファクト出してみろ。ハイ出ない! 出ねえなら無いってことでいいな」とすごんでいるようにしか見えないのだが、ブロッキングが失敗した代わりに違法ダウンロードの範囲拡大をなんとしても成立させなければならない役人にとっては恥も外聞も気にしてはいられないのだろう。

委託調査の違法ダウンロード刑事罰化後の「実際の行動変容」の項目を見ると、海賊版のダウンロードに関連したサービスの利用のみならず、正規版サービスの利用も減少していることがわかるし(増えたのは「テレビの録画」のみ)、違法とも適法とも判断のつかない音楽や映像のダウンロードも49.1%減少している(減った:16.0%、やめた:33.1%)。萎縮がなかったと胸を張って断言できるような調査結果ではあるまい。

これもまた、インターネットに流通している音楽ファイルや映像ファイルなんて、ほとんどが違法アップロードされたものだ、と強弁することもできるだろうが、ならば状況のまったく異なるテキストやイメージ、プログラムなどにも影響はないはずだという強弁にも当然無理が出てくる(実際、法制基本小委員会の委員からもこの点についての議論が欠落しているとの指摘がある)。

もちろん、大きな萎縮効果が見られなかったのは、実際の摘発がなかったためともいえる。こうした指摘はパブコメでも複数寄せられていたため、文化庁は報告書に以下の反論を加えている。

「実際に摘発されることで萎縮効果が見られるものであり,施行後に萎縮が見られなかったからといって,萎縮はないとするのはあまりに短絡的」といった意見もあるが,少なくとも,現時点における法改正による効果の評価としては,摘発の有無・程度も含めた法執行全体として萎縮があったかで判断すること自体は,不合理ではない。なお,これは,将来に亘って萎縮効果がないと断言しているわけではなく,そのような萎縮効果が生じた場合には,適宜必要な検討・措置を行うべきであることは当然である。(p.60)

「摘発があったら萎縮が起こるかもしれないが、そうなったらその時考える」という程度のエクスキューズで、まさにそうならないように議論する場であるにもかかわらず、その責務を放棄しているとしか思えない。また、このような強引な進め方をしている文化庁に「適宜必要な検討」ができるとも思えない。

では、摘発がなかったのはなぜか。これについて文化庁は以下のように記している。

ダウンロードに係る刑事罰の規定の運用に当たっては,警察の捜査権の濫用やインターネットを利用した行為の不当な制限・萎縮につながらないよう慎重な配慮が求められるものであり,録音・録画に関して刑事罰化を行った際にも,軽微な事案についてまで,積極的に捜査・摘発することはもとより意図されていなかったところである。

現状は,このような立法者意思に沿った形で,刑事当局において慎重な配慮・対応が行われているものと受け止めることはできるが,今回の対象範囲の拡大に当たっても,刑事罰に関しては,なお一層,慎重な配慮・対応を行うことが望まれる。(p.80)

法律には書かれていない隠しコマンドがあって、それを入力しないと摘発はおこなわれない、とでもいうのだろうか。冗談めかして書いてはみたが、法律には明記されていない警察独自の基準に即して摘発の可否を決定するという警察国家的な運用がなされてるということにほかならない。要するに、国民を広く違法状態に置いといて、摘発する基準と対象は警察の判断におまかせしているのである。

では、仮に摘発がおこなわれたとして、文化庁に何ができるのだろうか。こんな報告書を作っておいて、まさか逮捕するとは思わなかった、金輪際摘発するのはやめてくれ、とでもいうのだろうか。いえるはずがない。結局、何か問題が起こったとしても、文化庁はダンマリだし、警察は法に則って摘発したと言うだけだろう。

茶番に次ぐ茶番

もちろん、文化庁の役人もバカではない。ここに書いたようなことは重々承知の上で、バカを演じているだけだ。ブロッキングをゴリ押ししたバカのツケを押しつけられているという感覚だろう。

大した海賊版対策にもならない、副作用も大きいかもしれない。それでも、有効かつ弊害の少ない法律を作ることよりも、上からのお達しに従い、なんとしても違法ダウンロードの範囲拡大を通すというミッションを優先し、こなしているのだろう。我々の感覚とは異なるが、それが彼らなりの公僕としての責務なんだろう。だからこそ、余計に不安を覚えるのだ。

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