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最新映画を自宅で観たいのなら、インターネットで「CAM撮り(CAMMING)」をダウンロードするのが一番手っ取り早い。当然のことながら、完全な複製とまではいかないのだが、最近ではギャンブルサイト(ブックメーカー)「1XBET」のプロモーションコードや広告が散りばめられた「CAM撮り」のリリースが目立つようになった。

この数十年、映画海賊たちは劇場にカメラを持ち込み、最新映画を隠し撮りしてきた。

たとえば80年代はじめには、映画『E.T.』の海賊版が、VHSやベータマックスのテープで世界中に出回った。その画質はひどいものだったが、コンテンツに渇望していた時代だったこともあり、多くの人が低品質なコピーに手を伸ばした。

その状況が激変したのは2000年代はじめごろだ。プロ品質のカメラを手にしたボランティアが登場したことで、「CAM撮り」は芸術作品となった。

いまは亡き「Centropy」や「maVen」などのグループは、最高のCAM撮りを成功させるという野心と、それを未来永劫遺したいという欲求から、高品質な最新タイトルの海賊版を生み出し、ウェブを彩った。だが、2019年現在の「CAM撮り」事情は、それとは全く異なっている。

今日ウェブに出回っているCAM撮りは、見た目にはひどいものばかりで、すべては金のためとばかりに広告が散りばめられている。映画会社は20年ほど前から、リークを防ぐために映像に透かしを入れているが、今日では、海賊版業者がビッグビジネスを宣伝するために映像に広告をかぶせているのだ。

動画に挿入された透かし広告

なかでも目立っているのがギャンブルサイトの「1XBET」で、数十の海賊版映画にそのブランドが刻まれている。

実際、最近注目が集まった「CAM撮り」海賊版のほとんどに、1XBETの広告が表示されている。『アベンジャーズ:エンドゲーム』や『ジョン・ウィック3』から、『ヘルボーイ』『ポケモン探偵ピカチュウ』に至るまで、1XBETの 「スポンサード」 リリースはジャンルお構いなしのなんでもござれだ。

パイレート・ベイよりごく一例

上述の透かし以外にも、1XBETのラベルのついたリリースには、映画本編の中盤にケバケバしいギャンブル広告が挿入されており、視聴者が逃れる術はない。

たとえば、先日リリースされた『シャザム』では、映画が始まって6分にも満たないタイミングで、同ギャンブルサイトのド派手な30秒広告が挿入されている。押し付けがましい広告を避けるために海賊版サイトから映画をダウンロードしているのであれば、1XBETのリリースは適切な選択肢ではない。

『シャザム』の途中ですが広告のお時間です

サイバーセキュリティ企業「Group-IB」の海賊版対策・ブランド保護担当責任者のドミトリー・チュンキン氏は、CAM撮りの透かし広告は、ギャンブルサイトの宣伝には費用対効果の高い方法だ指摘する。

「1XBETはロシアのギャンブル企業で、自社の宣伝にCAM撮りの海賊版を利用しています。この戦略は自社サービスの宣伝としては比較的安上がりなこともあって、手広く行われているようです。CAM撮り1本の生データは300〜400ドル、編集済みであれば600〜700ドルあたりで取引されています」とチュンキン氏はTorrentFreakに語った。

「我々のデータによると、通常、映画を盗撮した人物は、CAM撮りに特化した海賊グループに販売し、そのグループが1XBETなどのギャンブル企業に広告を売りつけています。透かしと広告が差し込まれた海賊版をトレントサイトにアップロードすれば、後は自然にインターネット中に広まっていくというわけです」

過去20年間、海賊の世界では多くの驚くべき出来事が起こってきたが、最近のこの現象は際立って異様だ。

ハリウッド最大級のヒット作の海賊版に、数百万ドル規模のギャンブル企業の広告が掲載されている――などというのは奇妙以外の何物でもない。Group-IBによると、1XBETは2018年以降、主にインドを始めとする英語話者が多い新興国をターゲットにこの手法を展開しているという。

にもかかわらず、こうした海賊版への対策が講じられた形跡は見当たらない。

ハリウッド自身は何の声明も出しておらず、常日頃米国企業の利益保護を訴える米国通商代表部も他国を非難する著作権侵害レポートのなかで不満を訴えているわけでもない。

実に不可解である。さらにオンライン海賊版の被害を声高に訴えてきたイタリアのサッカーリーグ『セリエA』の「インターナショナル・プレゼンティング・パートナー」に、1XBETが名を連ねていることにさらに困惑させられる。

この提携に関する報道では「契約の一部として、1xBetは契約条件でカバーされる地域で放映される全プラットフォーム上で、セリエAの全試合のマッチグラフィックス、オープニング映像、バーチャルゴール上の広告でフィーチャーされる」と伝えられている。

とはいえ、1XBET自身が『スポンサー』として直接にCAM撮りを行わせているという決定的な証拠があるわけではない、という点には注意が必要だ。一部には、過剰なアフィリエイトを利用してやらせているのではないかとの見方もあるが、それでも驚くに値しない。それほどに異例の状況なのだ。

いずれにしても、1XBETには“悪くない”状況なのだろう。

どれほど待望された大作のリリースであっても、あのうるさい透かしと押しつけがましい広告には、海賊連中もうんざりしているようだ。CAM撮りの歴史を振り返っても、盗撮映画の見た目を意図的に悪くするような変更を加えてアップロードされるなどというのは前代未聞だ。

海賊版サイトには、1XBETの「リリース」への不満が溢れている。海賊たちは映画を一早くに手に入れたいと願う一方で、とにかく広告を嫌う。しかし今のところ、広告から逃れるすべはないようだ。

総じて、これまでの海賊界隈の歴史上、類を見ない程の不可解な状況である。問題は、それがいつまで続くかだ。少なくとも、金が回り続ける限りは続いていくのだろう。

1XBET: The Bizarre ‘CAM’ Brand That Movie Pirates Love to Hate – TorrentFreak

Author: Andy / TorrentFreak / CC BY-NC 3.0
Publication Date: May 25, 2019
Translation: heatwave_p2p
Material of Header Image: CchrisS
カテゴリー: CopyrightPiracy